ひろしま 翁

2005年08月18日
【店舗数:199】【そば食:358】
広島県広島市中区

せいろ、伯楽星純米吟醸

たつ吉

「もち月」でのんきにお酒を三合も飲んでいる間に、時間はどんどんと流れていった。飲食店の昼間営業時間、特に蕎麦屋の場合は結構短い。14時から15時くらいには閉店してしまう。あわてて、二軒目の「たつ吉」に向かった。

この「たつ吉」、2000年2月・・・まだ蕎麦喰い人種コーナーが立ち上がって黎明期の頃・・・に訪れた事がある。関西風のつゆで面食らった記憶が今でも鮮明に残っている。本格的な蕎麦を食べさせるお店としては、広島では先駆者に位置するお店に今回再度訪れ、その味は一体どうなのか、再確認するつもりだった。

がらがら。「頼もう」

「あっ、すいません麺切れなのでもう終わりになりました」

店内では、家族一同で食事をしているご主人がいた。ありゃー、もう営業終了でしたか。がっくり。たつ吉、不戦敗。

「敗け」、かい。

まあ、勝ち負け勝負ではないものの、再確認するチャンスを失ってしまうとは・・・つくづく惜しい。

ウェストプラザ

その点、これから訪れる「ひろしま翁」は安心だ。昼から夜まで、中休みなしの営業スタイルをとっている。うわ、翁らしくないねぇ。広島のど真ん中中のど真ん中、これ以上ないくらいの中心街にお店を構えた以上は「お昼の3時間だけ営業」なんていうぜいたくは許されないのだろう。

ひろしま翁は、2005年5月にオープンしたばかりの新店だ。「翁」の名前の通り、高橋邦弘名人のお弟子さんが営むお店ということになる。高橋名人が広島に移り住んでからというもの、いつになったら広島市街に「翁」ができるんだという待望論が一部であったが、ようやくそれが実現化したということになる。

しかし、その立地条件を聞いて誰もがぶったまげたはずだ。広島の中心地、紙屋町交差点から直線距離で100m足らず。本通り商店街と紙屋町交差点の中間に位置するビルの地下一階だというではないか。地代なんて相当なものだろうし、いくら「翁」ブランドとはいえ広島では蕎麦屋はまだまだマイナーな存在。成り立つんだろうか?と人ごとながら心配になってしまう。

聞くと、入居しているビルは「ウェストプラザ」というらしい。はて、そんなビルあったかいな。地元民である母親に聞いても、「さあ?」と首をひねる。最近できたビルっぽい。さては、ビルの不動産屋が「人気テナント」として翁を誘致したな?

ウェストプラザ入り口

ウェストプラザの入り口には、大きく「ひろしま翁」の看板が出ていた。もう15時近いというのに、けなげにも「営業中」の字が。ありがたいねえ。昼下がり、そごうやデオデオに買い物にきたついでに翁で一献飲って蕎麦を手繰って帰る事ができるなんて。

営業時間は11:30-19:30。

広島翁看板

さすがに「高橋名人」の名を全面に押し出している。高橋名人の写真も飾られている。

蕎麦のパネル

お店へは、あまり広くない階段を使って地下一階に下りることになる。エレベーターでも可。いずれにしても、お店へのアプローチとしてはあまり目立たない作りだ。お店側もそれに気づいているのだろう、階段の壁には蕎麦の花や蕎麦畑の写真パネルが飾られてあり、蕎麦屋の存在をアピールしていた。

ちなみにこのビルのすぐ隣の地下には、シャレオという地下街が形成されている。「オシャレ」をひっくり返して「シャレオ」という、何とも木っ恥ずかしいネーミングなのはさておき、ここのシャレオとなぜ地下で接続しなかったのか、というのが気になるところだ。

何でも、地下でつなげようとすると相当なお金がかかってしまうことが判明したため、地下街からお店に入れるようにするのは断念したらしい。

カウンター席もある

お店に入ってみた。

ほほー、なるほどぉ。一見蕎麦屋というよりもラーメン屋な感じの店内だった。厨房を眺める形でカウンター席が並んでいる。そして、横にずらーっと長いテーブルに席があり、小さいながらもお座敷もある。新しいお店なので非常にきれい・・・なんだが、蕎麦屋としての色気が全く無いのは惜しいところ。時間の経過とともに、味が出てくるのだろうか?

厨房内には、店主の他に女性店員さんと、修行中と思われる若いお兄ちゃんの合計3名。ラーメン屋形式のカウンターになっているので、厨房のほぼ隅から隅まで見渡せるのが面白い。

時間も時間なだけに、客席はがらがら。途中、一人のお客さんがやってきた程度だった。

広島翁お品書き

お品書きを見る。

!!

翁にあるまじき品数。これは、既に三合のお酒を飲んでぼんやりしている頭をも目覚めさせる驚きだった。

山梨の「元祖」翁は、「ざる」と「田舎」しか用意していなかった。その他の翁系蕎麦屋も、大抵似たようなものだ。しかし、このお店はその禁欲的状況を是としなかったのか、えらく色気を振りまいているのであった。

温かい蕎麦があるし、鴨せいろもある。あっ、天せいろもあるぞ。天ぷら、厨房で揚げるのか。

まぁ、広島じゃ「蕎麦だけじゃおなかいっぱいにならない」と思う人が多いわけで、種物の蕎麦を用意しないと客が来ないという事情を勘案したのだろう。超一等地での営業ということもあるし、客単価を高くしたいというお店の思惑もあるだろうし。それにしても驚いたなあ、翁で天ぷらとは。他にも、鴨柳川風とか玉子焼、焼きみそ、板わさなんて一品メニューもある。へぇー。

実は、この日の朝家を出る際、僕は母親にこう言っていた。

「ひろしま翁はねぇ、場合によっちゃ行かないかもしれない。三軒目になるし、おなかいっぱいになってるはずだから。だいたい、翁ってどこでも安定したクオリティの蕎麦を出すし、器もほぼ統一がとれていて、『安心感がありすぎ』なんだよね。まぁ、あえて今回無理に食べなくても、いつも通りのおいしい蕎麦だからいいや、って気になるんだよ」

と。

違うじゃん。ひろしま翁、全然違うじゃん。うわ、無知がなせる虚言だな。蕎麦だけ食べて帰るつもりだったのだが、急きょ予定変更、お酒と玉子焼を注文してみることにした。うぃー、今日4杯目ですわ。

[後注:翁と名乗るお店でも、酒肴を充実させているお店は他にもあります。狭山翁などは天ぷらも扱っています。当時は、そういう事を知らなかったので激しく興奮してました。]

清酒

全然違うじゃん。

おやおやおやー、ここでも「一般的な(と僕が思いこんでいる)翁仕様」とは異なるフォーマットだった。お酒が出て来た時点で、その違いに愕然。

四季桜

ちなみに、こちらが「通常の翁仕様」(写真は安曇野翁)。

フラスコのような徳利、細身のグラス。

そして、お蕎麦を食べる前からお盆が卓上に並べられるというルールだ。酒のあてとして、しゃもじで炙った蕎麦味噌が供される。

それが、このひろしま翁の場合、ガラスの徳利であるのはいつも通りなのだが、形状が全然違うし、グラスなんてどっぷりとしている。そして、あては若竹煮。お盆は無しで、テーブルの上に直乗せ。

そんな「間違い探しクイズ」みたいな細かい点の指摘をしたってしょーがないのだが、「翁とはこういうもんだ」と思いこんでいた自分の認識とギャップがあったので相当に興奮してしまった次第。こいうときはお酒がついつい進んでしまい、またもういっぱいお酒をお代わり・・・

さすがにそんなことはしなかったが。

玉子焼

玉子焼。735円。

厨房の様子を見ていると、玉子焼きは女性店員さんが作っていた。一品料理は女性店員に任せ、ご主人は蕎麦に専念しているのかもしれない。

蕎麦屋って、料理の全ては店主が作るものだという先入観があったのでちょっとこれは意外だった。ただ、よく考えてみれば別に店主以外が料理を作ったって何らおかしくないわけで、一体どうしてこの先入観が培われたのか不思議だ。

できたての玉子焼きはうまいのぅ。あちちち、と食べた後は冷酒をきゅっと傾けるのがこれまたたまらないのぅ。でもこれで735円はちと高いのぅ。

せいろ

さあ、せいろをいただこうじゃないか。おっと、これで735円か。玉子焼と同じ値段というのに何か理不尽を感じるのだが、まあいいや。大抵どこの蕎麦屋で玉子焼きを頼んでも、これくらいはするもんだ。

蕎麦アップ

ずるずる。

うーん?蕎麦としてはおいしいと思う。しかし、「翁」という店名が持つ重圧をはねのけられているかというと、そうではないと思う。どうしてもこのお店の看板を背負ってしまうと、高橋邦弘その人の味が比較対象となってしまう。そうなると、なかなか「うまいッ!」と手放しで褒められない。

何しろ、食べる側はあの「翁」の味を期待してきているわけだから。

辛汁も、まだ何かが足りないようだ。「達磨」で提供されているような、とげが全くない、恐ろしくまろやかな味わいではない。ややとげがある辛さだ。

今のところは、「がんばれ!」としか言いようがないかな。今後に期待。