もち月

2005年08月18日
【店舗数:198】【そば食:357】
広島県広島市中区

酒肴五点盛り、もりそば大盛り、竹鶴、三井の寿・育てもと、升酒

広島蕎麦屋巡り2軒目。

何でも、若い女性がご主人を務める蕎麦屋が話題を呼んでいるいう。その名を「餅つき」といい、名物は餅入りの「力そば」で

おい、営業妨害で訴えられるぞ。

・・・こういうのを「うそつき」という。

何だかきれいにまとめようとしているようだが、まあ冗談はさておき。

そのお店はもち月、という名前らしい。場所は銀山町電停からやや入ったところ、ということで広島市街中心地ながらもちょっと微妙な位置関係だ。繁華街から近いとはいえ、商業地と住宅地が混在した、地方都市ならではの町構成になっている一角だ。こんなところに新進気鋭の蕎麦屋があるとは、ちょっと意外だ。

いや、「あしゃぎ」の例もあるように、蕎麦屋ってのは神出鬼没だ。どこから出現したって驚いてはいけない。そういえば、「はっぴ」「たつ吉」など、広島の蕎麦屋の名店はいずれも微妙な位置に立地している。おそらく、繁華街にお店を設けるとコスト高になることを敬遠したのだろう。

さてこのもち月だが、「若い女主人が切り盛りしている」というところで特に注目を集めているらしい。もちろん肝心の蕎麦がおいしくないと問題外だが、蕎麦がおいしい上に若い女性が!という意外性が話題性を増長しているのは事実だろう。振り返ってみれば、確かに女性が厨房を取り仕切る蕎麦屋って、あまり記憶がない。おかでん自身の経験では小淵沢の「月舎亭」と黒姫の「若月」くらいだろうか。たぶん、ご主人からすれば「女性である」という切り口でこのお店を語られる事にはうんざりしているだろうが、どうしてもまず耳目が集まってしまうのはその要素に尽きる。

実際、僕自身「美味い蕎麦が食べられれば、それでいい」と頭では思っていても、「女性が打つ蕎麦ってどんな感じなんだろう」「女性ならではの店づくりとか、料理の体裁なんだろうか」と考えてしまった。蕎麦のような渋い食べ物は、美味い・まずいが重要なのは当然として、店構えとかサイドストーリーとか、そういう周辺系の演出も重要だ。今回、その「周辺系演出」という点においては完璧だ。

もち月外観

8月16日僕は東京から新幹線で広島入りを果たした。この日の夜、「ますゐ詣で」イベントが予定されていたので夕方の広島到着だった。若干時間に余裕を持たせての来広だったのは、ますゐに向かう前にうわさの「もち月」を食べておこう、という腹づもりだったからだ。このお店は、中休みを挟んで夜の部も営業している。

広島駅から歩いて20分足らず。事前に調べておいた住所近辺に到着。

・・・迷った。道に迷った。それらしきお店が全然見つからない。

「おっかしいなあ、地理感はいいはずなんだけど最近衰えたかなあ」

と首をひねりながら、あたりをうろうろする。昔は、地図を一回ぱっと見れば十分だったんだけどな。

・・・待て。まさか、あの建物か?

周囲をぐるっと回って、二周目に入ったところで気が付いた。それは、何の変哲もないビルだが・・・

気になる階段

近づいてみると、「お茶といけばな懐石料理教室」と書かれた看板が掲げられていた。いや、これじゃない。

・・・と思ったが、この教室は3階にあるらしい。

あれ?では、目の前に見える二階の入り口は何のお店?

恐る恐る階段を登って確認してみる。

生粉打ちおそば

あー、やっぱり。趣のある木の引き戸の隣に、「生粉打ちおそば」とかかれた看板が立てかけられていた。ここがうわさの「もち月」だった。うわ、わかりにくい。住所を知っていても通り過ぎてしまうくらいの、地味さ加減。

で?何でこんなに地味なんですか、とイヤな予感がしたのだが。

入り口に夏期休暇のお知らせが張ってあった。

おっと、そういうことか。

・・・しょうがない、また出直してこよう。

今日はのれんが下がっている

2日後。またやってまいりましたもち月に。

お酒の品そろえが良いといううわさを聞いていたので、今日は昼酒を飲る気十分だ。そのため、お昼どきはちょっとだけ外して、13時頃に店の前に到着。

おっ!前回と違って、階段下のところに「生粉打ちおそば」の看板がお引っ越ししてるぞ。メニューボードも掲げられている。なるほど、これだったら少しは蕎麦屋ここにあり、っていう感じがしてきた。ほんのわずか、だけど。

入り口を見上げると、ちゃんと「もち月」と書かれた暖簾がかかっていた。うん、今日は営業しとるな。それにしても、相変わらず地味だなあ。まあ、派手な蕎麦屋っていうのもどうかとは思うが。

営業やってるぞおい

どうやらこのお店のお勧めは、「辛味おろし蕎麦」と「天ぷらざる蕎麦」らしい。

もち月のお品書き

お品書きがこちら。結構な品そろえだぞ、こりゃぁ。

写真上半分がそばのメニュー。右が冷たい蕎麦、左が暖かい蕎麦。ここまでは普通だが、下半分右が酒肴メニューとなっているのが驚きだ。しかも、「コース料理」なんてものまである。やるなぁ。そして、下半分左は飲み物一覧。清酒だけでも11種類用意していた。

居酒屋並ですな、これは。

今日訪問したのはお昼だったからまだ自制が利くが、夜だったらぐいぐいお酒を飲んじゃいそう。そんな品そろえだ。それにしてもよくもこれだけメニュー化したもんだ。ご主人の手間や、在庫リスクを考えるとなかなかここまではそろえられないものだが、よくぞやったり。

もち月店内

店内に入る。がらがら、と引き戸を引いたら、すぐにそこが店内ではなく、シケイン状に通路が曲がっていた。あみだくじのように移動しながら、二番目ののれんをくぐったら、そこが店内。扉の開閉があっても、店内まで外の雑踏が漏れ入ってこないような気遣いだろう。

引き戸がカラカラと音を立てた時点で、おばちゃんの「いらっしゃいませー」という声が聞こえてきた。非常にレスポンスが早くて気持ちいい。そして、遅れる事1-2秒後に、若い女性の声で「いらっしゃいませー」。後から聞こえた声が、厨房にいるご主人のものだった。

この声のハーモニーが、何だか意外性があってちょっと面白かった。普通、飲食店において若い女性というのは接客係を務めている事が多い。だから、真っ先に「いらっしゃいませー」と声をかけ、その後に歳を取った店員が後追いするのが普通だ。それが、このお店の場合逆転している。そうか、お店で一番若い人が厨房の中にいるご主人だもんな。

お店は、建物の新しさと異なり、なんともレトロなつくりだった。明かり取り用の窓は高いところに小さめに切ってあり、店はやや暗めに調光してある。それが、何か安心してくつろげるような空間を作り上げているから面白い。「あしゃぎ」のように、開放的で天井が高いお店というのも気持ちよいが、こういう洞窟的な作りというのも気持ちいいんだな、と思った。

客席内は一人のおばちゃんが接客を全て行っていた。厨房内には、例の女性主人と、2名の助手のおばちゃんがいた。このお店の規模にしては、えらく厨房の人数が多い気がする。瞬間最大風速的に混雑するお昼時だけは増員しているのかもしれない。厨房内の人は全員バンダナ・・・じゃなくて、ずきんを頭に巻いていた。うーむ、和風で良いですな。厨房で忙しく働くご主人の様子をうかがってみたが、非常にきりりと引き締まった顔で、好印象だった。さすがに蕎麦屋という一国一城の主になると、顔つきもビシッと決まるもんだなあ、と僕は早速お酒を飲みながらたるんだ顔で、考えた。

竹鶴 純米無ろ過生原酒

お酒は広島県竹原市のお酒「竹鶴 純米無ろ過生原酒」を注文した。「ほー、竹鶴っていったらニッカウヰスキーのピュアモルトの名前じゃないか。それが清酒とは面白いなあ」と感心したので注文してみた。

出てきたお酒は、琥珀色をした12年ものの・・・

なわけはなく、もちろん透明な清酒。後でわかったのだが、ニッカの創業者である竹鶴政孝の実家が、まさに竹原の竹鶴酒造だったというわけだ。驚いた。造り酒屋のせがれがウィスキー屋になるなんて。

調査ついでに、トリビア的知識を一つ。「ニッカウヰスキー」という会社名になる前は、「大日本果汁」という会社名だった。20へえくらいかな。

ここのお酒は、既に注がれた状態でテーブルに運ばれてきた。升がお酒グラスから溢れるのを今か今かと待ちかまえているのだが、残念ながらこぼれる気配なし。お行儀良く、グラスの中にお酒は収まっていた。

「やっぱりお酒は目の前で一升瓶から注いで貰わなくちゃ、楽しみがないよなー」

なんて思うが、アンタそれだったら居酒屋に行け。

一升瓶を開栓するとき、えらく豪快に「すぽん!」という音がする。隠れ家のような店内にその音が響き渡るので、一瞬どきっとする。何事かと思ったら、酸化しないように瓶内の空気を抜いていたのだった。お酒を注ぎ終わると、店員さんはまた空気抜き付きの栓を装着し、シュコシュコと空気を抜いていた。ほー、なかなか拘るなあ。

酒肴の豊富な品ぞろいに、頭に血が上ってしまったわたくし。手元にあるメニュー以外にも、なんと店内には黒板があって「本日のおすすめ」料理が10品近くも書き込まれている。何だそりゃー。まさに居酒屋状態だ。優柔不断な性格故に、目移りしてかなわない。

しかも、メニューには「うるめいわしの刺身」なんて書いてあるし。生ものまで出すんスか、このお店。これには相当びっくりしてしまった。「蕎麦屋の酒肴とは、蕎麦の種としても使えるものを転用するのが基本」なんていうのは現代蕎麦屋において随分と様変わりしているのは理解していたが、まさか日替わり黒板メニューがあったり、刺身があるとはねぇ。

これは想像にすぎないが、ご主人はお蕎麦といお店のキーコンセプトを軸にしながら、いろいろ「おいしそうなもの」「ぜひこれは食べて貰いたいもの」を見つけては客に出しているのだろう。こういう切り口も、有りだなあ。ただ、このありさまだと夜の営業は完全に居酒屋モードだろうな。締めに蕎麦食べる、というお店だ。チェーン店の「そじ坊」がお昼は純粋なる蕎麦屋、夜は蕎麦も食べられる居酒屋という二毛作営業をやっているが、このお店の場合昼も夜も居酒屋的に楽しめるお店、といえる。

とはいっても、ここで酒宴をおっぱじめてわぁわぁやる、というのは何だかダンディではない気がする。ここは、すっとお酒を飲み、ずずずっと蕎麦を手繰って店を後にしたいところだ。・・・とはいっても、肝心のおかでん、既にお酒の魔の手が。

酒肴五点盛り900円

酒肴メニューのなかに、「酒肴五点盛り900円」という優柔不断な人にぜひお勧めな料理があったので、注文してみた。五点も盛り合わさっていれば、お子さまランチ的にお店の酒肴を味わえて良い。・・・それでも、このお店が取り扱っている全酒肴の1/8も網羅できていないんだけど。

待つことしばし、なにやら厨房のカウンタから大きなお皿が出てきた。フグ刺が敷き詰められるような大皿だ。何事かと思ったら、おや、同心円を描くように五点盛り合わせがちょこんと並べられていた。上から時計回りに、れんこんが入った練り物(名称不明)、板わさ、昆布、大葉で味噌をくるんだもの、そして真ん中が壷漬け。板わさのわさびは普通のものなのに対し、れんこん料理の方はゆず こしょうが用意されている気の配りようだ。

大葉と味噌の味わい

味噌を大葉でくるんだもの?一体なんだ?想像ができないので、がぶりとかみついてみた。

おお、説明どおりだ。当たり前だが。甘い八丁味噌ベースの味噌が中に詰まっていた。なるほどぅ、味噌の甘みと、大葉の苦みがなかなか楽しい一品だ。

これはお酒が進む。いかん、お昼時だというのに。そもそも、この後「たつ吉」>「ひろしま翁」と2軒、ハシゴしないといけないのに。

お酒は二杯目に突入。

うるめいわしの刺身

さすが酒肴五点盛りだ、お酒が進んでかなわんわい、と苦笑いしながら料理と清酒のダンスを楽しんでいたところ、

「五点盛り、もう一品ありますから」

と随分と遅いタイミングになって店員さんが告げにきた。え?でもお皿の上に乗っているやつですでに5品ありますが。・・・壷漬けはカウント外だったのかなあ?それともサービス?

と思ってたら、うわ、最後になってすごいのがでてきたぞ。うるめいわしの刺身。黒板に書かれていたメニューだ。

困るなあ、今頃になって出てこられても。こっちはお酒の配分ってものがだねぇ、なんてニコニコしながら「あ、すいませーん、お酒のお代わりを」

あろうことか、お昼から三杯目のお酒をオーダーしてしまった。

いやだって、アンタ見てくださいよ。お刺身だけじゃなくって、海苔までついてきたんですもの。この海苔だけでお酒いっぱいいけますぜ。ってことは何ですか、さらにもういっぱい追加で頼んでくれというお店からのエール?

いや、それは考えすぎだ。自分の都合の良いように解釈曲げすぎ。いい加減にしろ。

うん、ちょっと悪ふざけがすぎた。大丈夫、酔っぱらってるなりに正気に戻った。それにしても何だか不思議だ。大皿が出てからこのお刺身が出るまで、結構な間があった。ひょっとしたら僕の飲みっぷりの良さに、お店側が特別に一品サービスしたんだろうか?真相はわからない。

このお店は、厨房に人が大勢いるわりにはオペレーションがやや遅めだった。手際が悪いのかと思ったが、そうじゃなくて手間暇かかる料理を出しているからだ、ということに気が付いた。このお刺身だって、軽く酢で締めてある。一手間かかってるのであった。よくやるなあ。

で、この締めたいわしを、半信半疑で海苔でくるんで食べてみたら・・・おおおっ、これはおいしい。そうかぁ、青魚と海苔って案外合うんだな、初めて知った。蕎麦屋で魚の食べ方を学ぶとは思ってもいなかった。これは良い哉良い哉。うれしくなってしまい、小さく机をパタパタと叩いて喜びを表現。

おっと先回りして言っておくぞ、これ以上のお酒追加注文は駄目だ。いいな?

へーい。

ざるそば大盛り

締めとしてざるそば大盛りを注文。

酔っぱらっていたので歯止めがきかなかった、というのが大盛りを頼んでしまった真相ではあるのだが、「これだけの酒肴、店の雰囲気を成し遂げるご主人のことだ、蕎麦がまずいはずがない」という確証があった。

650円+大盛り300円増し。

出てきたお蕎麦は、300円増しの名前にはじないように結構な量が盛られていた。へぎそばのような盛りつけ方をされている蕎麦だが、真ん中には無秩序にこんもりと盛り上がった蕎麦の山ができていた。この山分が大盛りということなのだろう。

では、早速。ずるずる。うーむ、蕎麦の香りが漂う。翁のような洗練された貴族的蕎麦香ではなく、かといって田舎蕎麦特有の泥臭い感じではない中間くらい。うん、おいしいです。生粉打ちとは思えないのどごしとなめらかさだ。つゆはちゃんと関東風であり、やや辛目の味付け。酔っていたせいもあり、あっという間に平らげてしまった。

そば湯

食後、そば湯が出てきたのだがこれが一風変わっていた。湯飲みのような器にそば湯が入って、出てきたのだ。そして、その横には辛汁が入った徳利が。こんな光景、見たことがない。普通、蕎麦を食べるのに使った猪口にそば湯を継ぎ足していただくものだ。

そば湯は、わざわざ飲む用にそば粉を溶かし込んだと思われる濃度に仕上がっていた。「何だか知らんが蕎麦には定番のおまけ」という位置づけから、「食後のお茶と同格」レベルにまで格上げさせたということか。だから、湯飲みに入れられてでてくる。おかわりができないのは惜しいが、こういうオペレーションも面白くて良いと思った。

最後、精算時に「おいしかったです」と告げたら、接客担当の店員さんがわざわざ厨房の店主に「おいしかったそうですよ」と伝えた。厨房から、店主がにっこりとほほえんでこっちに会釈してくれたのだが、こちらとしてはお酒を3杯も飲んでろれつが怪しい状態。こんな酔っぱらいが蕎麦食って何だか申し訳ない、という気持ちになってしまった。「すいません酒肴がおいしかったのでついついお酒飲み過ぎちゃいました」というお詫びをしつつ、退店。外は、カッとまぶしい炎天下の8月だった。あっ、そうだった、まだお昼過ぎだったっけ。

ちょっと今回は初訪問の割にやんちゃしすぎてしまった。教訓だな、「五点盛り」みたいな「少量をちょっとずつ、何種類も」的な料理は杯をついつい重ねてしまう。このお店は、酒肴が良すぎて「ボスキャラ」にたどり着く前にゲームオーバーになりかねない。注意が必要だ。冬、帰省した際にもまた訪れてみたい。今度は夜に訪問して、酒肴と戦う酔客の様子をウォッチしてみるか。