2010年09月18日
【店舗数:253】【そば食:449】
長野県伊那市内の萱
行者そば、鴨の鍬焼き、そばがき団子
アワレみ隊の企画として、伊那市にある「小黒川渓谷キャンプ場」で2泊3日のキャンプを行った。
三連休初日ということもあって、高速道路はものすごい渋滞。中央道は相模湖ICを先頭に40km渋滞って、一体何の愉快なマスゲームなんだと呆れる。おかでんはその渋滞を嫌って新聞配達か牛乳配達か、というくらいの早立ちで現地入り。一緒にキャンプをするアワレみ隊隊員2名は14時になってようやくの現地入りとなった。
テントやらタープをセットしたら、さてお昼ご飯ですね、となる。ただ、この時点で食材買い出しは一切やっていないので、今から自炊するわけにはいかない。
しかしなんたる利便性の高さか、この「小黒川渓谷キャンプ場」のごく近くに、「梅庵」という蕎麦店があるのだった。梅庵は長野県内の蕎麦ガイド本だと必ず紹介される、ちょっとした有名店。現に、今回同行しているアワレみ隊のしぶちょおも何度かこのお店に訪れたことがあるそうだ。彼は「鴨がうまい、鴨が」と、ひたすら「鴨」を連呼する。蕎麦そのものがうまいのかどうかは言及せず、鴨を絶賛。それはポジティブなサインなのかネガティブなのか、どっちだ?
いずれにせよ、キャンプ場から最も近い飲食店であることから、何の迷いもなくこのお店で昼食をとることにした。ガイド本の写真を見ると、きしめんか?と思わせる幅広麺が圧倒的インパクト。こういう麺をわさわさと、もぐもぐと食べるのも楽しいものだ。蕎麦はずるずるッと落語的に手繰るだけがうまさじゃあない。「噛むうまさ」ってのも最近再認識しているところ。
伊那界隈は蕎麦畑が広がり、9月18日時点ではどこも白い花が満開。昨年の長野は大不作だったと聞くので、今年は順調に蕎麦が生育していて一安心と。伊那谷は、頭を垂れまくって今や収穫を待つだけの稲と、蕎麦の花と、飼料用トウモロコシの栽培で埋め尽くされていた。
長野の蕎麦の産地といえばいくつか有名なところがあるが、「伊那」というのは知らなかった。でも、いたるところに蕎麦畑があることから、今後名産地として名を馳せるようになると思う。
蕎麦畑は田んぼのすぐ隣にあることが多いので、恐らく減反した休耕地で蕎麦を栽培しているのだろう。
あ、ちょっと待った。蕎麦の畑で、赤い花が咲いているところが結構あるぞ。
蕎麦の花というのは「白」というのが相場だが、このあたりの蕎麦は赤い花を咲かせる品種も栽培している。「高嶺ルビー」というらしい。つい最近その存在を知ったばかりなのだが、実物をお目にかかれてちょっと幸せ。赤花ソバには白花と比べて味が素晴らしいとか、香りが良い、といったメリットがあるかどうかは知らない。でも珍しいのは事実だから、これはちょっとした伊那名物にできると思う。もっとガンガンPRしてもよいと思う。
・・・で、その赤い花が咲く蕎麦畑の前にあるのが、梅庵。渓谷沿いのキャンプ場近くの立地だけあって、呆れるくらい辺鄙だ。一軒家ではないのだが、目抜き通りとなる広域農道から見ると脇道のさらに脇道にあるお店。「今日は梅庵で蕎麦(または鴨?)食うぞ!」と意気込んで、地図も周到にスタンバイしていないと絶対に訪れっこない店だ。蕎麦屋ってこういう隠遁生活的立地で営業している店は多いが、いまだに「なんでこんなところで生計が成り立つんだろう?」と不思議になることが多い。ガイド本で紹介されるまでは客よりも山にいるイノシシや猿の方が訪問する数が多かったんじゃあるまいか。
実際問題、この店のほど近くで、ニホンザルの群れが道路を横切っているのを見たし、ツキノワグマもいた。野生のクマなんて見たのは初めてだ。そんな場所。クマはすぐに逃げたが、猿は「こらーッ」とボスザルに思いっきり威嚇されちまったい。
畑で蕎麦の花が咲いているのは大変にきれいで結構なんだが、それって「新蕎麦はまだもうちょっと先ですよん」ということを意味する。つまり、鮮度が命な蕎麦という食べ物においては、一年を通じてもっとも味が落ちる時期でもある。蕎麦の花を愛でつつ地場産の風味高い蕎麦をいただく、なんてのは物理的に無理だ。ちょっと残念ではある。
道路にお店が面しているわけではない。お店を防御するかのように、納屋があって、道路からはお店が営業しているのかどうかさえわからない。
納屋の脇を通ると、そこには母屋となる建物があり、玄関に暖簾が下がっている。これは「お店」ではなく、「自宅兼お店」ですな。
このお店の過去は知らないのだが、いきなりぽっと出の職人さんがここで開業したって、一冬超す前にギブアップしてただろう。きっと、もっと都会で名を挙げた後、ここに移転したと思うんだが、どうだろう。
玄関入って正面が厨房になっていて、右手、縁側沿いにある畳部屋が客席。八畳敷きの部屋が二部屋だったか三部屋連なっていた。合宿の雑魚寝に最適!・・・いやいや、ここは蕎麦屋ですから。
窓は開放されていて、とても心地よい。既に9月中旬とはいえ、東京ではまだ30度を超える暑さだったが、さすが長野の山間部。空調いらずだ。何しろ、部屋の片隅には常設で灯油ストーブが設置されているくらいで、冬の厳しさが伺える。
で、この開放的な庭から猿に襲われたりして。やばい。猿といえばカニと合戦をするものだが、この地では人間がバトル対象になり得る。
このお店のお品書きはちょっと面白い。蕎麦屋の定番といえば、「もり」「ざる」などが先頭を切るものだが、いきなりここは「行者そば」という言葉が出てくる。ええと、行者にんにく入りの蕎麦スか?そんな馬鹿な。行者にんにくを入れた瞬間に蕎麦の香りなんて彼方へと消え去るわい。
ええと、どうやらいわゆる高遠そば、すなわち大根の絞り汁で食べるのが「行者そば」らしい。歴史をひもとくと、役小角だかなんとかいう修験道の行者さんがこの地でうんぬんかんぬんあって(←面倒なので調べていない)、そこから名前をあやかったとか。
で、ガイド本などでよく見かける「きしめん風極太麺」が行者そばと田舎そば、普通のをお望みならば、と細打ちのノーマル麺としてもりそば、かけそばといった布陣。ちなみにこのお店は全品蕎麦粉十割。
ここの店主は職人気質の強面風なので、「つるつるッと二八の蕎麦食べたかったんだがなぁ」なんて口走った日にゃ、「でてけーッ」とか言われるかもしれん。
そんなご主人の意気込み十分。卓上には「そば一枚の楽しみ方」という紙が置いてあった。本来、こういうのは押しつけがましくて嫌味なものだが、なんだか木訥としていて楽しい内容だった。
始めは、何もつけずに食べてみる。そばの味がよく分かる
つぎに、塩少々で食べる-うまい
いや、美味いかどうかは僕が決めるから。早い!早いよご主人!
つゆを少々つけて食べる。つゆの味もよく分かる
まあ、そりゃそうだわな。
つゆに大根おろしを好みの量取り入れおろしそばとして食べる-絶品
待てー。絶品認定、勝手にしちゃったんですか。
というわけで、このお店のレポート終了。だって、うまいし、絶品なんだもの。店がいうから間違いない。以上。
・・・
他にも、「隠れた名品」とか「ふるさとの味「滋味である」という絶賛の言葉が並ぶ。これを「自画自賛」と呼ぶのはたやすいが、嫌味のない素直な書き方なので、むしろ好感した。こういう味はなかなかマネができるもんじゃない。
というわけで、僕は絶品だけ食べたいので、いきなりつゆに大根おろしをいれて食べようと思います。・・・あれ?駄目?段階を踏めって?へえぃ。
このお店では、最初にお弟子さん?とおぼしき若い店員さんから「お茶にしますか、それとも水にしますか?」と聞かれる。こういう選択肢があるのがちょっと面白い。一般的には、子供には水、オトナにはお茶となるものだが。子供の心を忘れないわれわれアワレみ隊は、思わず「水!」と答えてしまったが、さすがに40歳が見えてきた歳の分際で何をいうか。後でお茶も持ってきてもらった。
ところで「お茶にしますか、水にしますか?それとも、オ・レ?」と色目を使ってきたらどうしようとどきどきした奴は一人たりともいなかった。いかんな、想像力の欠如だ。
お茶はポットに入っているのかと思っていたが、これは単なるお湯。急須がわざわざ用意されていて、そこには煎った蕎麦の実が。これでそば茶を楽しみなされ、ということだった。作り置きしていないのは拘りなのだろうか。
そういえば、さんざん蕎麦に対しては香りがどうのとか偉そうな事を言ってる割には、そば茶の善し悪しについては考えた事が無かったな。良いそば茶とか悪いそば茶ってのはあるのだろうか?一度飲み比べをしてみたくなった。そば茶のイメージって、「香ばしさエンジン全開!」だもんなぁ。それ以上は考えた事、なかった。
まず最初にやってきたのは、鴨の鍬焼き。840円。鴨といえば冬の食べ物のイメージがあるが、夏でも取り扱いがあった。しかし、その一方で「そばがきは冬しかやっていないんですよー」と店員さんは言うから面白い。
今は夏です、ということを強調するかのように、夏野菜が添えられていてにぎやかだ。やあ、お祭りのようだ。冬になると添え物の野菜も変化していくのだろう。鴨料理なのに、ネギがないというのはさりげなくチャレンジャブルな設定と言える。定番中の定番だからな、鴨葱って。
んで、このお店の鴨をうわごとか親の遺言かのように言い続けていたしぶちょお、「本当は俺一人で独占したかったんだよ、この鴨。三人でわけるのはもったいない。何で君らでも頼まないのか」とエキサイト。たかが鴨でこれだけ人々をアツくさせる、そんな鴨なのであった。
実際ご相伴にあずからせてもらうと、確かに目を見張る旨さなんだわ、これ。どこ産の肉なんだか、冷凍なのか生なのかもわからないが、むちむちしてやたら美味い。何で?
今まで食べていた鴨って、もっと堅かったイメージがあるので、これはびっくりしたですよ。なるほど、しぶちょおが「鴨、カモーン」というだじゃれを連呼していたわけだ。ネギしょってこなくてもいいから、鴨カモーン。
あと、やっぱり焼き鳥風の醤油たれは美味いやねー。これ、日本人が誇ってよいソースだわ。フレンチとかの鴨よりもこっちの方が美味い!と今日この瞬間は思ったぜ。
教訓:鴨は夏場でも美味いものは美味い。
鴨を食べ終わって、各自の額に鴨脂が浮かんだ頃を見計らって蕎麦登場。このお店では、コース料理よろしく、食べるペースにあわせて料理を準備する気の配り方をしている様子。
写真上が「行者そば」1,000円。写真下が「田舎そば(大盛り)」1,380円。
最初、「あれ?本当にこれで良いのか?」とおかでんともう一方とで目を合わせてしまったくらいだ。というのも、行者そばとは大根の絞り汁で頂くものだと認識していたからだ。「行者そば」と店員さんから紹介されたお盆には、普通のつゆらしきものが猪口に入っている。
「えーと」
とお互いを見比べてみたら、なにやら微妙に違う。大盛りの方は徳利があり、つゆは酒杯のような器に入れるようなっているのに対し、ノーマルの方は猪口だけ。薬味は一緒。んー。
ものはためし、と猪口に入っているつゆを一口飲んでみた。
「あ、これ大根おろしの味がする」
よくメニューを読み解くと、大根絞り汁「を、加えたつゆ」で頂く蕎麦が行者そばだった。道理で。店員さんを疑ってごめんよぅ。
「でもよ、薬味としてたっぷり大根おろしがあるわけで、これをつゆに入れちゃうと結局行者そばも田舎そばも大差ないような」
きっと違いはあるはずだが、表面的には違いが分からなかった。でも、両方は同じ値段なので、そのときの気分にあわせてご注文をどうぞー。なお、行者そばの方は味がさっぱり、きりりとしていて大変おかでんの口にあった。
太打ち十割麺のアップ。これはもう、「きしめん」とか「ひもかわ」のレベルだ。これだけ幅広の麺を提供する蕎麦店は全国探してもほとんどないと思う。やあ、この蕎麦を見ると無性に噺家のように音を立ててすすり上げたくなるな。チャレンジングスピリット、ってやつですよ。
ずぞぞぞ
失敗。予想以上に摩擦抵抗が高く、くちびるの上をするすると蕎麦が通ってくれない。やはりこれはわさわさと口に入れ、噛め!ひたすら噛め!という類の食べ物だ。
噛む。一回や二回の咀嚼じゃ、とてもじゃないが喉や胃袋さんがにっこりご満足するサイズにはならない。何度でも、噛め。明日の勝利のために噛め!
こういうコンセプトの蕎麦、大好き。ただ、いかんせん時期が悪すぎた。多分あと2カ月もすれば、噛むたびにうっとおしいくらい蕎麦の風味が飛び出せドカン、といった蕎麦が供されるのだろう。しかし今回に関して言えば、蕎麦の風味がずいぶんと弱かった。あまり蕎麦蕎麦していない太麺を噛み噛みするのはあまり楽しい作業ではない。それだったら、細麺の方がのどごしが楽しめて好きだ。
そんなわけで、9月18日時点のウィナーは細打ち十割のもりそばでございました。
行者そばが太いのは、細打ち技術がないからじゃないぞ?その気になれば細くも打てるんだぜ?・・・といわんばかりに、細麺でございました。この店の潔さだな。太いか細いか。中間?そんなものはねぇ!
「鴨肉って反則なんだよな。美味いから。無駄に、強烈に、美味いから。反則技。だから僕、鴨南蛮ってあんまり好きじゃないんだよ。鴨が美味すぎて蕎麦が埋没する。鴨に嫉妬」
おかでんが自分の太麺を箸でいじくりながら語る。
「でも、こういう太麺で鴨南蛮作ったら、鴨の旨さに対抗できると思うんだ。これで新蕎麦が導入されてみ?すげえ美味いと思うんだよな。きっと最強の組み合わせだと思う」
そう語ってる傍らで、しぶちょおは自分の麺を先ほどの鴨の鍬焼き皿の上へ。待て、一体何のショーが始まるっていうんです?
「鴨エキスを十分に吸ったたれで蕎麦を食う」
なるほど!その手があったか!
「これがあるから、最初から大盛りを頼んでたんよ」
これは目から鱗、舌からも鱗粉ですな。新発想だ。三人、たれに蕎麦をからめながら食べる。
「うん、うまいうまい」
もはや蕎麦の風味なんてのはどうでもよくなってしまっているが、それでも美味いもんは美味い。多分これをうどんでやってみてもこうは美味くはないと思う。蕎麦独特の素っ気なさ、ぼそぼそさがあってこその味わいだ。そうかー、蕎麦の楽しみ方はまだまだいろいろあるんだなぁ。
だめ押しでしぶちょおは、食後のそば湯タイムにおいてもフィーチャリング鴨。
そば湯に大根おろしをはじめとする薬味を入れ、最後の味付けは鴨のたれ。おおおう、お上品な「シメのそば湯」がこってり濃厚な、胃袋にバツンとインパクトをあたえる「料理」になったぞ。これはすばらしい。
最後のお口直しとして、そば団子(500円)。まるでにぎり寿司のような外観だった。実際、にぎり寿司のような手さばきで作ったものだろう。見たことがない料理なので、このお店オリジナルかもしれない。
このお店、面白い!しかし、場所がそうとうすごいところなので、何度も通えるかどうか。鴨シーズンになると確実に路面は凍結するし、さてさて、次回いつ訪問できることやら。次は、芳醇な太打ち蕎麦をわっさーと口いっぱいにほおばりながら、鴨を満喫したいものだ。あ、あとできれば誰かドライバーは別の方に任せて、僕はお酒を・・・。
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