吟八亭 やざ和

2010年10月23日
【店舗数:261】【そば食:458】
東京都葛飾区亀有

せいろそば

吟八亭やざ和

この日は、「柴又七福神めぐり」をやるつもりだった。

映画「男はつらいよ」でおなじみの柴又帝釈天を中心に、7つのお寺にそれぞれ祀られている七福神を巡拝するというものだ。おかでんが大好きなスタンプラリーの要素あり。

そして、その企画にあわせて、蕎麦店2軒もまわろうという腹づもり。一軒は亀有にある「吟八亭やざ和」、そしてもう一軒は「日曜庵」。日曜庵はその名から伺えるように、週末しかやっていないお店。わっぱに蕎麦が入れられているお弁当然とした風体はとてもおいしそうに見えた。

しかし、朝からドタバタしてしまい、結局活動開始できたのは昼下がり。これでは七福神をお参りしている間にお寺の門が閉まってしまいかねない。それはあまりに中途半端かつ消化不良なので、七福神巡りおよび日曜庵行きはやめた。その代わりに、吟八亭やざ和には行くことにした。

吟八亭やざ和。その名前は以前からよく聞いていた。大抵、蕎麦屋を紹介する本には登場しているし、dancyuのようなグルメ雑誌に紹介されることも多い。

dancyuは良い雑誌ではある。しかし、その美味そうな料理写真につられてお店にいくと、結構な出費を要求されるので困る。やっぱり、グルメ雑誌に取り上げられる店ともなると、見目麗しく、その分がお値段にばっちり反映されてしまっている。気をつけないと。

もちろん高い店はけしからんとは思わないが、人間知らなくて良い快楽ってのがある。麻薬を知らなくて全く困らない人生を送っているのと同じで、「とてもおいしいお店(ただし値段が高い)」のは知らなくても、いや、むしろ知らない方がハッピーかもしれんと思うようになった。

話を戻すと、そんな雑誌などに紹介されているお店だからこそ、「お高いんでしょう?雰囲気重視で、中身と値段が微妙に釣り合っていないんでしょう?」という先入観をこの「吟八亭やざ和」に対しては持っていた。特に、昨日「蕎香」に行ったばかりで、廉価な蕎麦と酒、というのを体得したのでなおさらだ。

幸いなことに、この後数時間後にこのサイトの読者の方と合ってお好み焼きを食べるオフ会を企画していた。すなわち、蕎麦店で本腰据えて飲み食いはしないよ、ということになる。蕎麦一枚手繰っておしまい。これだったら傷口はあまり広がらない。・・・よし、それだったら行こう。そういう「結構後ろ向きな動機」で吟八亭やざ和に向かったのだった。

店内

亀有駅から徒歩5分ほどのところにあるお店は、独特な作りをしていた。ビル一棟が個人所有なのだろうか。一階は駐車場と打ち場だけになっていて、お店は二階にある。一階のエントランス部分はビルの壁がなく、そのかわりに木の板を並べて壁代わりにしている。不思議なセンスだ。

二階も、そのすべてがお店ではなく、半分をこれまたエントランスにしてしまっている。よっぽどお店を広くしたくなかったかのような間仕切り。

店内は一階の壁同様木材がふんだんに使われており、ここのご主人は材木問屋の出身なのかと疑うばかりだ。木が主張しすぎてくどさをやや感じるが、何か意味があってのことなのだろう。

そば

このあと2時間半後に控えているオフ会に備えて、食事はほどほどに。というわけで、お品書き先頭に書かれている「せいろそば」一択。850円。

んー、やっぱり蕎麦店って、蕎麦を手繰るだけだったらそれほど高くないんだよな。しかし、お酒を頼んだり、酒肴をいくつか見繕うと急にお値段が跳ね上がる。今更当たり前の話だが、居酒屋感覚で使っちゃいけない。ほら、お品書きをずずずぃと後ろまでめくっていくと、「ビール700円」とか「冷酒1,100円」、「板わさ800円」・・・なんてのが並んでいるぞ。これ、おかでんの通常モードで頼むとあっという間に5,000円近くのお支払いになるな。やばいやばい。

お品書きの酒肴欄には、「酒のつきあい」という表題がつけられていた。なんだか優しい、ほんのりする名付けでほほえんでしまった。「つきあい酒」と順番を入れ替えると全然意味合いが変わるので注意。

「でも、お高いんでしょう?」のお店の、せいろそば850円。底のざるが透けて見えるほどちみっとしか盛られていないもんだと勝手に思い込んでいたが、いやいやどうして、手繰っても手繰っても減らないボリューム感でござんしたよ。これはうれしい誤算。実際に量が多めだったということもあるが、蕎麦猪口が湯飲み茶碗、しかも仏壇に供えるような小さなものだったのも量が多く感じた一因。小さな猪口で蕎麦を食べようとすると、箸ですくう蕎麦の量がどうしても減る。そのせいで、蕎麦を少しずつ、ずるずるっと頂くことになるのだった。これはとても良いと思った。「蕎麦はつゆにどっぷり浸けたい」派の人にとっては困るだろうけど。

肝心の蕎麦だが、これが美味いんだ、もう。香りは若干弱い気がしたが、蕎麦の味がするわするわ。お店によっては土臭い味を醸す蕎麦が出てくることがあるが、ここはそういうものではない。蕎麦、という穀物の味がする。当たり前のようで、案外これが難しい。蕎麦は弾力があり、若干ムチムチしている。むぐむぐ噛んでいると味が口の中に広がり、とてもおいしい。

辛汁は始めにチーンと金属音がするかのように辛さが立ち、遅れて甘みがわーんと広がり、尾をひく。辛さと甘さのピークが時間差でやってくるのでちょっと面白い。ただ、甘みが後にひきずるので、蕎麦の後味とかぶるかもしれない。つゆの浸けすぎ注意。

そば湯

食べ終わる頃合いを見計らって湯桶が届けられたのだが、中をあけてびっくり。なんじゃこりゃ。これまでに見たことがないほど白濁した蕎麦湯だった。

紙粘土か?これ。

最近、「蕎麦のゆで湯」を提供するのではなく、わざわざ更科粉をお湯で溶いて、ポタージュ状にした蕎麦湯を提供する店が増えた。ポタージュ感を楽しむための蕎麦湯であるから、濃い方が当然ありがたい。とはいえ、砂糖水じゃあるまいし、お湯に蕎麦粉をどんどん入れてもそう簡単に溶けてはくれない。ダマになってしまうのがオチだ。案外この「ポタージュ状蕎麦湯」というのは面倒なものだ。そんな「ダマができるかもしれないチキンレース」を乗り越えて、ここまで濃厚にしまくった蕎麦湯は尊敬に値する。見たこと無いぞ、こんな濃厚なのは。

頂いてみると、うはあ、ほっこりするなあ。とろり、ではない。「どろり」に近い粘土。じゃなかった、粘度。病み上がりで食が細い人にぜひこれを与えたいと思ってしまったくらいだ。お子様の離乳食にも最適・・・かな?とにかく、うまい。あまりに濃厚なので、辛汁を少々入れたくらいでは味が変わらない。ちょっと入れすぎじゃないか、というくらいまで辛汁を注いで、ちょうど良いくらいだ。

蕎麦湯よければすべてよし。そう思いますよ、ホント。

もちろん、「さらっとした蕎麦湯の方が好き」という人はたくさんいるわけであり、そういう人からしたら「濃厚人造蕎麦湯」は大衆迎合的であり味覚音痴の好みだと総括されそうだ。でも、美味いんだから仕方がない。蕎麦湯をペットボトルに詰めて、お土産で売ってくれないかなあ。でも一度冷めたら蕎麦粉が凝固するので駄目か。

揚げそば

お土産といえば、「揚げそば」が300円で売られていたので買ってみた。

てっきり、蕎香で出てきたような「蕎麦を揚げたも」なのかと思っていたが、渡されたのは「蕎麦切りになる前の、生地の段階のものを小さく刻んで揚げたもの」だった。これはこれで美味いかもしれん。家で食べよう。

このお店、他にもいろいろ試してみたいお品書きがあってとても気になる。

太打ちと細打ちの蕎麦を合い盛りにした「夫婦そば」とか、「湯だまりそば」とか。でもそれらは全部1,200円とか1,300円するので、なかなかよいお値段ではある。また機会があったら訪れたいお店だ。財布と相談しながら。

お会計を済ませてお店を出たら、そこにご主人がいて石臼を挽いていた。何ぃ?このお店、自家製粉は手挽きでやっていたのか。凄いな。ごりごり、ごりごり。機械による石臼製粉と違ってスピードが非常に遅い。一人前の蕎麦粉をひねり出すだけでも相当体力と時間がかかりそうだ。このご主人は超人か。

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