2011年05月28日
【店舗数:274】【そば食:475】
埼玉県秩父市野坂町
せいろ
9年間乗ってきた車を手放す事になり、今はそのカウントダウン中。維持費が払えなくなったわけではないのだが、なんだか「現状とは違う事をやりてぇ」と思った結果、車をぶん投げてみようと思いついたのだった。
そんなわけで、今後は車が必要になったらレンタカー。不要不急な場所へは足を向けることはなくなるだろう。
うわー、いざ「車の放棄」を決めるとやるんじゃなかった感がひしひしと。いつも車で通っていたラーメン屋とかショッピングモールとか行けなくなるじゃん。
・・・なるほど、車があると無駄金をたくさん使っているんだな、と今、自分のこの発言で実感。
それはともかく、車使って蕎麦食べ歩きというのも今後できなくなるので、今のうちに気になるお店には行っておかなくちゃ。まさか、「蕎麦食べたいのでレンタカーを借ります。24時間で借りて保険料込みで7,000円です」なんてのにイエッサーとそう簡単に承諾できるもんか。
そんなわけで車を手放すまで1カ月のカウントダウンが始まったこの日、埼玉県秩父市を目指した。ハチロク相手に正丸峠で吐くまでバトルしてやろう、というわけではない(頭文字D)。今回は秩父界隈の蕎麦屋数軒を吐くまで・・・いや、吐いたら駄目だろ・・・食べ歩こうと考えている。
その一軒目は、「こいけ」。
蕎麦屋密集地帯である秩父において、代表格といえるお店だ。杉浦日向子とソ連著「ソバ屋で憩う」を始めとし、さまざまなメディアに露出している。そのせいもあって、連日大盛況だ。おかでんとしても一度は暖簾をくぐりたい、と思ってはいたのだが、店の前を通るたびにその思いは断念してきた。なぜって、店の外に連なる大行列だもの。蕎麦屋で行列すか。すげーな。
行列ができる蕎麦屋というのは、神田まつややかんだやぶそばなどおかでんにも経験はある。しかし、秩父という比較的山奥の町にある、何の変哲もない建物の蕎麦屋に行列というのは一種異様。それ故に、「行列作ってまで食べるこたぁない。パス」となってしまうのだった。
今回は行列に巻き込まれないように、11時の開店と同時に入店することにした。10時57分頃にお店に到着したら、既に暖簾が下がって営業中。店内には天ぷら蕎麦を食べているご夫婦が既にいたことから、定刻11時より結構前にお店を開けているようだ。
それにしても素っ気ないお店だ。民家を改装しました、暖簾ぶら下げておけば蕎麦屋っぽくなるでしょ?という感じ。店の片隅には古いペプシのブリキ看板なんかが張ってあり、一体この店は何なんだと思ってしまう。これが行列ができる繁盛店とは、外観からは全く感じられない。
でも蕎麦屋ってこういう世界なんだよなあ。普通じゃ気づかないような秘密めいたところにあったり、地味な建物外観だったり。パチンコ屋の対極は何?という問いに対しては、「蕎麦屋」と答えるといいかもしれない。
外観が民家なので、店に入ると玄関があって靴を脱いで・・・なんてなっているんじゃあるまいか、と思ったが、さすがにそこまで徹底した民家ではない。中はたたきにテーブル席4つ、そして小あがりがあって、取り囲むように10席。
なるほど、これだと行列ができやすいわけだ。まさかテーブル席を相席にするわけにはいかないので、おかでんみたいな一人客がテーブルに座ると何かと気まずい。とはいえ、この日はおかでんが蕎麦手繰って退店するまでお客さんが新たに出現しなかったので、ゆっくりと気楽に蕎麦を楽しむことができた。
店は適度な古さがとても良い雰囲気。あんまり古民家すぎると重苦しい雰囲気になってしまうのだが、これくらいの年期の入り方が一番落ち着く気がする。
古いお店とはいえ、店頭には電動石臼機が置いてあり、自家製粉をやっている。自家製粉が普及しはじめたのはものの20年程度だと思うが、すっかりおいしいお店のトレードマークになってしまっている。逆に「蕎麦粉は製粉業者にお任せだけど、美味い蕎麦出してるよ!」というお店はどれだけあるのだろう。
カウンターがあり、その向こうが厨房になっている。厨房が別部屋になっている一般的な蕎麦屋スタイルではない。
そこで職人さんがもくもくと働いているが、手元が見えないので何をやっているのかは不明。こういう光景を見ると、音として「じゅわーっ」「トントントン」なんていう中華料理的な音を想像してしまうのだが、ここはあくまでも蕎麦屋。音がほとんどしないのだった。そうかー、蕎麦屋の厨房って静かなんだな。
あっ、わかった、天ぷらを注文したら少しはカラカラと油の音がしていたはずだ。この光景に似合った音、ということで天せいろを頼んでおけば良かったかな。頼んだのは単なる「せいろ」なんだよなあ。これだと、ざるで蕎麦をすくい上げ、水切りをする際の「ざっ、ざっ」という音くらいしか、しない。
お品書きは各テーブルに置いていない。このカウンターの上に張り出してあるので、それを見て注文することになる。近視の方、眼鏡をお忘れ無く。
おかでんは前述のとおり、「せいろ」を注文。850円。「田舎そば(850円)」とどっちにしようか悩んだけど、まずは基本のせいろを食べないとなぁ、ということで。
後で気がついたが、「三色もり」というのがあった。1,700円。これは、せいろを三食食べられる回数券で・・・はなく、「せいろ」「田舎」「変りそば」の三種類を一度に楽しめるというものだった。しまったぁ、こっちにすれば良かった。
ちなみにこの日の変りそばは「けし切り」。うわ、それ食べた事ないです。食べてみたかったな。
初めて訪れたお店の場合、お品書きを見た際情報量が非常にたくさんあるので、見落としとか検討不足というのがどうしても出てしまう。また、おかでん自身「まあ、とりあえずもりそば(せいろそば)を頼んでおけばイイんでしょ?」と考えているので、その他のお得情報を見落としてしまう。いかんね。今後はどんなにせかされても、10分くらいはお品書きとにらめっこするよう努力しなくちゃいかんかもしれん。
このお店には当然「おさけ」も置いてある。メニューには「おさけ」としか書かれていないが、実際には銘酒が何種類も用意されているとのこと。この適度に古びたお店で清酒を飲んだらさぞや快適なことだろう。ぼーっと斜め45度くらいを見上げ、時折思い出したように徳利をかたむける。いいね、それ。
客が少ない今は、本当に店内が静か。こういう時こそ、昼酒を楽しむにはうってつけなんだが。電車で訪れた方、ドライバーが別にいる方、どうぞお試しを。
せいろ、やってきましたよ。
せいろに入っていないのにせいろとはこれいかに。
蕎麦屋って不思議だよね、「もり」「せいろ」「ざる」が同一のものを指す事がある。全日本蕎麦屋連合会(?)みたいな組織が、名称統一しましょうなんてやらないんだろうか。やらないでしょうね、やるだけ面倒だもの。すいません妄想っした。
こういう蕎麦の場合、「ざる」と形容するのが一番しっくりくるのだが・・・というか、「ざる」以外ありえないと思うんだが、なぜか蕎麦業界において「ざる」とは上に刻み海苔が載っているものを指す事が多く、紛らわしい。
味はさすがに名店と言われるだけある。一口すすって、「ああこりゃ美味いや」という感想。華やかな香りではなく、やや重たい。味も同じく重たい。重たいというと語弊があるが、どっしりとした感じ。その低音域を奏でる蕎麦のメロディがお店のレトロな雰囲気と相まって美味いのだった。
ちょっと意外だった。今まで、美味い蕎麦ってのはパーンと華やかに、派手に香るものであると思っていたのだが、しっとりとした風味で美味さを紡ぐという蕎麦もあったのか。
つゆも蕎麦同様どっしり濃厚。甘さと辛さが同時に喉の奥にやってくるのはバランスを調整したたまものだろう。濃厚なつゆ故に、甘さか辛さ、どっちかが先走るとくどい味になるが、このお店のものはそういう事がない。おいしかった。
次この店を訪れる事はあるかなあ・・・。もしあるなら、三色もりを頼んでみたいものだ。もしくは、田舎と変りそばをそれぞれ注文。・・・ああ、忘れてた。お酒も!
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