郷土のそば処 紺屋

2011年05月28日
【店舗数:276】【そば食:477】
埼玉県秩父市大滝

もりそば

国道沿いの紺屋の看板

秩父の奥地、以前は荒川村と呼ばれていた地域は「山奥のどん詰まり」だ。今でこそ、国道140号線雁坂トンネルが開通したので山梨県の塩山市とつながっているが、それまでは奥地という印象が強かった。この雁坂トンネルが貫通するまでは、国道140号線は登山道を行く、いわゆる「階段国道」だった。そんな場所。

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そういう山奥に、「紺屋(こうや)」という蕎麦屋があると聞いた。金、土、日の3日だけ営業しており、月曜から木曜までは農業をやっているという。「兼業農家」というのはよくあるが、蕎麦屋との兼業という農家はなかなかいないと思う。でも、場所が場所だけに平日に蕎麦屋ののれんをぶら下げても客はこないだろう。土地柄に応じた仕事のスタイルが、そこにはある。

だから興味を持った、というわけではないが、このお店に行ってみようと思った。

トンネルが開通するまではさびしい通りだった国道140号線だが、今ではある程度の車の往来がある。そんな道路に面して「おそば」「そば処」の看板発見。どうやらあれが目印らしい。

看板は出ているけど、お店の気配はなし。お店はここから狭い路地に入っていった先にあるらしく、姿が確認できない。うわ、すごくハードル高いぞこのお店。少なくとも、ドライブ中に「おなかすいたねえ」「あっ、あそこに『おそば』って看板があるよ!蕎麦食べていこうよ」とふらっと立ち寄るのは難しい。そういう時って、お店の外観を見たりして、自分たちの胃袋を満たすのに足りるお店かどうか、という審判を下すのがふつうだが、この「紺屋」の場合、お店そのものが見えないからだ。

「これは・・・僕みたいにガイド本片手にやってくる蕎麦好き客くらいしか入れない難易度だぞ」

いったん車から降りて、この看板群を撮影しながらつくづく思う。

紺屋外観

車一台が通るのがやっとの道を、案内看板に従って左へ左へと曲がっていくと、そこにあったのは古民家だった。立派な建物だが、おおよそ蕎麦屋には見えない。水車でもあってぐるんぐるん回っていたら「いかにも蕎麦屋」っぽいんだけど(おかでんはそういう民芸調蕎麦屋は好きではないが)。
ええと、これがお店・・・でいいんだよな?

駐車場と思しき広場には、客のものと思われる車は一台も停まっておらず。大丈夫か、おい。土曜日のお昼だぞ。

紺屋のお店に入るまで

紺屋のれん

 恐る恐る建物に取り付いてみる。何も遠慮することはないのだけど、ついつい足元の砂利を踏む際の音が遠慮気味になる。何か気まずいことがあったらこっそり逃げちゃおう、という後ろ向きな発想。
そんな状態で進んでいると、おお、蕎麦屋っぽくなってきた。「おそば」ののぼりと、白いのれん。のれんには「築120年の民家 郷土のそば処 紺屋」と書いてあった。ほへー、これ、120年ものだったのか。懐かしいな、そのころはよく兄貴と自分たちの将来について語りあったものだ。・・・え?120年?違う違う、まだアンタ生まれてないだろ。1800年代末にたてられた建物だってば。うちのばあちゃんでもまだ生まれてないわ。

紺屋店内

店ののれんをくぐると、店内にはご主人が一人だけいた。土間の一部をカウンターで仕切って厨房にしているらしい。ええと、客席は靴を脱いで建物の奥かな。

紺屋お品書き1

紺屋お品書き2

靴を脱ごうとしたら、ご主人から

「こちらがお品書き。どれにするか選んで。」

と言われた。ちょっとぶっきらぼうな言い方。態度が悪い、というわけではなく、素朴なんだと理解した。

ええと、どうすりゃいいかな。

「3種類しかないから。まあ、当店ではもりそばですがね」

はあそうですか。「づり揚げうどん」が気になったので、それを頼もうかと思ったんだけど息をのみこんでよかった。ここで「づり揚げ!」なんて言ったら気まずい空気が流れそう。

「もちろんもりそばですよ」

と答えようとしたら、

「注文が決まったらこのノートに書いて。うちは一人でやっているので、セルフサービスなんで」

と言われた。あ、ああ、そうですか。わかりました。

指差された先にノートがあり、そこには名前、注文名、個数、備考欄があった。備考欄には何を書くのだろう、と気になったので、「うんこ」とか書いてやろうかと思ったが、絶対に店から追い出されるのでやめた。

「もりそば、1枚お願いします」

ここは快活に、はっきりと大きな声で注文。もそもそしているとご主人に喝を入れられそうな緊張感。

(実際はそこまで緊迫していないのだが、客ゼロで静寂、古民家、慣れないオペレーションということでおかでんが勝手に緊張しているのだった)

「注文書いたら、ここから蕎麦猪口を選んで」

トレイに蕎麦猪口がずらりと並んでいて、そのどれもが絵柄が違うものだ。ええと、どうしたもんかな。ええい、なんだかわからんから一番手前のを選ぼう。

「蕎麦猪口を選んだら、そこのお盆に載せて。あと、箸を取って」

カウンターの上に箸入れがあった。さすがに箸が色とりどりということはなかったが、「男性用」「女性用」に分かれている。ここは迷わず女性用を・・・いや、ご主人が怖すぎてそんなことはできん。男性用を素直に選ぶ。

「ほうじ茶があるので、湯呑みに注いで」

もうご主人の言いなりなんである。結局セルフサービスといってもご主人におんぶにだっこだった。

「でき上がったら声かけるから、席で待ってて」

はいもう、待ちますとも。ええ。

湯呑みに入れたほうじ茶、これは蕎麦ができ上がるまでに飲んでよいものだろうか、それともこれも箸や蕎麦猪口を載せたお盆に載せて放置すべきなのかどうか、少し悩む。でもさすがにお盆に載せるってのはないだろう、と思い直し、お茶を持って奥の客席へ。

紺屋客席

屏風

窓の外

客席は当然客がおらず、おかでん一人だけ。これはこれで落ち着かないものだ。誰かがいてくれればずいぶん空気が和むのだけど。築120年の古民家の重たさが、不安感を煽る。あと、写真だと絞りの関係で明るく見えるが、実際の人の目ではずいぶんと薄暗く見える。障子をあければそこはすぐ外なので明るいのだけど、ご主人に「誰が障子をあけて良いと言いましたか?」なんて怒られたら怖い。・・・と、勝手な被害妄想。
いやもう、冒頭の手取り足取りな指示ですっかりおかでん委縮。というか、委縮している自分、というのをわざと楽しんでいる。

もりそば

静かな環境の中、なんだか落ち着かない雰囲気で待っていたら、厨房の方から「どうぞー」と声がかかった。どうやらでき上がりは取りにいかないといけないらしい。
受け取ったお盆は写真の通り。

セルフサービス、というけど結果的にはお盆の上にいろいろ載っている。自分で載せたものよりもご主人が載せたものの方が多く、果たしてどこまでセルフサービスの意味があったのか気になる。まあ、お盆の上げ下げは客任せだし、注文伝票(=ノート)の記述も客任せだし、ご主人にとって楽になっているといえば楽になっているのだろう。

蕎麦アップ

蕎麦はやや柔らか目。そのためか、優しくふんわりと蕎麦が香る。

甘みが結構強く、奥歯のあたりから唾液がにじみ出てくるのがわかる。

つゆはしょう油強めで辛い。

わさびが生わさびではなく、粉わさびだったのは残念ではあったが、おかでんが蕎麦を食べる際にはわさびを使わないのでこれはどっちでもいいや。

おいしい蕎麦だと思ったが、なにしろ店の雰囲気が独特で、そっちに五感を持っていかれてしまった。一人でやっている蕎麦屋なので省力化を図るのは当然だけど、まさかこんな山奥の蕎麦屋で「セルフですから」と言われるとは思っていなかっただけに、びっくりしまくりだった。

このお店の流儀はわかった。二回目の訪問が実現すれば、もっと余裕をもって食べることができると思う。このお店のメニューは3種類しかなく、「もりそば(冷)」「なめこそば(温)」「づり揚げうどん(温)」だ。次はぜひづり揚げうどんを食べてみたい。

づり揚げうどんの解説(お品書きから転載)

熱々のゆで立てを食べるとからだの芯まであたたまります。寒さの厳しい秩父の郷土食です。ネギ、ゆず、かつお節等の薬味に醤油をお好みに入れて召し上がってください。でき上がるまで二十分程かかります。

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