2012年11月10日
【店舗数:311】【そば食:532】
東京都台東区上野
せいろそば、御酒


池の端藪蕎麦の近くに、地味な蕎麦屋があるというのは知っていた。通りがかった際に、店頭のお品書きが目に留まったからだ。あ、ここにも蕎麦屋があるんだな・・・とその時は思っただけで、素通りしてしまった。さすがに、どんな店だか素性が知れないお店にぷらっと入るほどの度胸は持ち合わせていないからだ。
後に、そのお店が「蓮玉庵」という古くから続く名店であることを知る。創業安政6年、江戸時代から続く老舗。えー、そうだったんだ。「怪しい店」くらいにしか思っていなかったおかでん、まだまだ未熟者だ。
そんなわけで、仕切り直しでこのお店に行ってみる事にした。ここは閉店が早いので、平日会社帰りに立ち寄るのはちょっと難しい。週末に時間をこしらえて、いざ蓮玉庵へ。
あらためてお店を見てみると、こりゃ確かに地味だわ。通りすがりでぷらっと入る気にならなかった自分の判断には納得がいく。もともと蕎麦屋とか寿司屋というのは、外観が地味な業種ではある。とはいえ、このお店の看板はあんまりだ。達筆すぎるのかどうかはわからないが、これで「蓮玉庵」と読ませるのはちょっとしんどいし、それ以前に字がとても小さい。入口に「そば」とかかれた白い暖簾がぶら下がっているのがせめてもの救いだ。

店頭に展示されているお品書きは非常にシンプルだ。店内に入れば、もっといろいろな料理が記述されたお品書きがあるのだろう、と思っていたら、店内のものも全く一緒だった。面白い!最近取り扱う料理が多種多様化している蕎麦屋が多いけど、こういうズバッと絞り込んだ潔いお店もたまにはいいもんだ。
なにしろ、「冷たいそば」のジャンルは「せいろそば」と「天せいろそば」の二つしかない。田舎だの生粉打ちだの、そんなややこしいものは一切置いていない。かっこいいね、このシンプルさ。
最近、蕎麦屋において、お品書きを眺めながら「どれ頼もうかなあ・・・」と長考してしまうことが結構あったのだが、このお店なら悩む必要は無い。よし、今日はスパッと飲み食いして、さっとお店を後にしよう。たまには長っ尻でないおかでんもお見せしなければ。

お店の外がレトロな作りではあったが、店内はすっきりきれいな内装になっていた。天井はアーチ状になっていて、照明もそのカーブに沿って据え付けられている。壁面には蕎麦猪口ギャラリーになっていて、まるで水槽のお魚を見るかのようにガラスの中に蕎麦猪口が並んでいる。
客席は4人がけの席が7卓で、混雑時に一人で訪れるのはちょっと気が引ける。カウンター席や二人掛けの席はこのお店にはない。今回訪れた時間帯はお客さんが少なくて、よかった。

御酒(630円)を頼む。「おさけ」と読むのかと思ったら、正解は「ごしゅ」だった。「お燗をつけますか」と聞かれたので、お願いする。
さて、おつまみはどうしよう。このお店におけるおつまみとは、「板わさ」「月見いも」「やきのり」「つくね」「玉子焼き」の5種類だけなのだが、どうしようかな。
でもここはいったん落ち着こう。御酒と一緒に、蕎麦味噌などのちょっとしたアイテムがついてくる可能性がある。それで酒肴は十分という可能性がある。まずは御酒が届いてから判断しようじゃないか。
・・・ということで、お燗された御酒、届きました。おっと、案の定お店からのサービスでお通しが付いてきた。なんだろう、これ。
食べてみたが、何だかさっぱりわからなかった。頭の中に「?」の文字がくるくると回る。おいしいし、未知なる味というわけではないんだけど、わからない。むむ。次回訪問時までの課題にしておこう。
お通しがあるので、おつまみの注文はやめにしておいた。さっと食べてさっと出よう。
店内はゆったりとした時が流れている。老夫婦が、向かい合わせで座らずに横並びで座って仲むつまじくしているのを見るとこっちまでほっこりしてくる。また、お客さんが「玉子とじそばください」と頼んだら、店員さんが厨房に向かって「とじ一丁!」と伝える、その言い方がまた楽しい。

そういえば卓の真ん中に鍋敷きがある。なんだろう、これ。結構使い込まれた感があるのだが、このお店に鍋メニューってあったっけ?鍋焼きうどんとか。


お酒を早々に切り上げ、お蕎麦をいただくことにする。店員さんに「せいろそばください」と頼むと、厨房に威勢良く「いちまーい!」と注文が通されていた。ああ、なんかいいな、こういうのって。老舗の味だな。最近できたお店じゃ、絶対に真似しないであろう所作だ。
しばらくして届けられたせいろそば、630円。このお店、老舗ということもあってか、蕎麦に限らず全てにおいてお値段は廉価。これがうれしい。最近、蕎麦もつまみも結構お高いお店に出入りしているので、こういうお店にたまに行き当たるとほっとする。
量は若干少なめ。エッジが立った蕎麦で、やや固め。手繰ると香りがふわんと口から鼻に抜けていい感じだ。蕎麦独特の甘みも感じられ、後にひく。そういえば「新そば」の張り紙が店頭に貼ってあったな。いい季節になったもんだよ。
うん、630円だから味はそこそこ、なんてもんじゃないよこれは。十分すぎるくらいおいしい。このお値段でこの味を提供しているお店に拍手。

蕎麦を食べ終わるタイミングで、やかんがやってきた。・・・えっ、やかん?
赤銅色をした巨大な、無駄に巨大なやかんがデン、と卓の上に置かれた。なるほどー、このための鍋敷きだったのか。それにしてもなんで湯桶じゃなくてやかんなんだろう。これでしこたま蕎麦湯を飲め、というお店からの愛情だろうか。
とはいっても、つゆは蕎麦猪口に入っているっきり。このお店は、徳利から猪口につゆを自分で注ぐタイプではない。というわけで、蕎麦湯が楽しめるのは実質いっぱいだけ。やっぱりこのやかん、デカすぎるぞ。
まあ、でかいことはいいことだ。「おっとっと」と言いながら蕎麦湯を猪口に注ぎ、たっぷりと蕎麦湯をいただいたのだった。
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