2018年04月17日
【店舗数420】【そば食:696】
栃木県鹿沼市茂呂
ニラそば
鬱屈とした日々を過ごしていたのだけど、気晴らしと言えば寝逃げをするか甘い物を食べるくらいしか思い当たらない。コストコに行っては、キロ単位のケーキなんぞを買ってきてムシャムシャ食べていたら、たった4カ月で8キロも太ってしまった。
いい加減隔週でコストコに行き、一人暮らしにはオーバースペックなスナックや甘い物、肉や乳製品を買っているのにウンザリしてきた。そして体重を考えてもそろそろヤバい状況だ。
気晴らしにメシを食べるのはいい。そこまでは許すとして、もうちょっとジャンクではない、健康なものか興味深いものを食べたほうがいい。そう気持ちが切り替わったのは、4月も半ばになってからのことだった。
特にアイディアがあったわけじゃないけれど、何かないかな・・・と記憶をたどっていたら、栃木県鹿沼市のことを思い出した。
鹿沼市。日光と宇都宮の間にある自治体なのだけど、この界隈では「ニラそば」なるものが食されているというのだ。
ニラ?
あの香味野菜のニラ?
中華そば、すなわちラーメンの間違いではないかと最初思ったが、本当に「ニラ蕎麦」なのだという。しかも、一軒二軒だけでやっているイロモノ料理ではなく、結構地元に根付いている料理のようだ。
いやちょっと信じられないんですけれども。
蕎麦に薬味のネギを組み合わせるのでさえ、「蕎麦の風味がわからなくなる」と敬遠することもあるというのに、ネギよりももっともっと癖の強いニラが蕎麦とマリアージュするだなんて。いや、マリアージュできるのか?家庭内別居みたいな形になるのではないか?
面白い題材、見つけた。
鹿沼市のニラそば店を食べ歩いてみることにした。
この日一軒目は、東北道鹿沼インターからほど近いところにある「蕎花」というお店。
ニラなんて蕎麦と混ぜたら、蕎麦の風味もへったくれもないでしょうに、と未だに半信半疑だ。だから、蕎麦といっても雑な袋麺なんかだと思っていたのだけど、とんでもない!ちゃんとれっきとした石臼挽きの手打ち蕎麦だ。
えー。
これまでいろいろな蕎麦を食べてきたけど、食べる前から困惑しているのは今回が最大かもしれない。
最近の僕は、現地についてのワクワク感を楽しみたいので事前情報収集をほとんどやっていない。なので、「ニラそば」なる料理がどのようなものかも、知らないに等しい。ただ、お店の住所と営業時間だけを頼りにここにたどり着いている。
駐車場脇には、「ニラそば」と染め抜かれたのぼりがはためいていた。おお、やっぱり本当にニラそばは実在したのか。「鹿沼名物」とまで書いてある。
その脇には「自家製粉」ののぼりも。
かなり品質には拘っているお店だ、ということだ。それでもニラ、のっけちゃいますか。いやもう、全く想像が付かない。
11時開店のお店なのだけど、11時7分にして既に結構な車の数。繁盛しているお店だ。
うおお。
「当店は蕎麦専門店です うどん・ごはん類はありませんのでご了承下さい 店主」
という看板が出ているぅぅぅ。
こんな潔いお店、久々に見たぜ。広い駐車場があるロードサイドお店なのだし、うどんもやってます天丼もあります、なんならラーメンだってあります・・・くらいの幅広さはあるのだと思っていた。しかし意外なことに蕎麦まっしぐらだった。
繰り返すけど、それでニラそば。面白いねえ。ニラ+蕎麦の組み合わせって、決してイロモノじゃないんだろうな。れっきとした、真面目な料理ということなのだろう。認識が改まった。
そんなお店に、背筋をシャンとしながら入店。
お品書きを拝見する。
どういう並び順になっているのか、とか字の大きさとかで、このお店における「ニラそば」の位置づけというのがわかるはずだ。なので、まるで産業スパイのように全ページを撮影してしまった。ちょっと下品だ。
そんな目の前に、堂々たる風体で「天盛りそばのニラそば」が1,580円でお出迎え。写真入りで紹介されているということは、当店自慢の一品、ということで間違いあるまい。
さっぱり食べたい向きは「ニラそば」で、しっかり食べたい向きは「ぶた汁そば」なのだろうか。
このお店、うどんやご飯類を排除するほど蕎麦に徹底しているけど、フットワークはものすごく軽い。
「冷やしピリ辛汁そば」といった風変わりなものもあるし、「肉みそサラダそば」なんてものもある。
冷やしピリ辛汁そばは、肉みそ、きゅうり、ラー油、ミニトマト、白ごま、天かす、レタスが入った汁に蕎麦をつけて食べる「つけ麺」スタイルの食べ物らしい。かなり斬新だが、これは鹿沼名物ではなく蕎花オリジナルメニューのようだ。
なお、辛いのが苦手な人用に、那須御養卵付き(+100円)のものもある。この生卵を入れるとマイルドになるらしいが、生卵に蕎麦ってすごいな。すき焼きを食べてるみたいだ。
ごく普通のニラそばの位置づけはというと、「もりそば、ざるそば」という冷たいそばの二大巨頭の次に並ぶ三番手だった。さすがにもりそばパイセンを差し置いてお品書きの先頭に登場するわけにはいかなかったか。
面白いのは、「温かいそば」のジャンルには「ニラそば」がないということだ。
かけそばの上にニラが載っている、というのはものすごくイメージがしやすい蕎麦料理なのだけど、ない。すぐに思いつくメニューなので、絶対に試作はしているはずだけど不採用・・・ってことは、あんまり美味しくなかったのかもしれない。えー、ニラを卵とじにしてつゆに浮かべる、というのでも駄目っすかねぇ?
単品メニューに「レバニラ」なんぞがあったら随分楽しいんだけど、さすがにそれはなかった。
ロードサイド店ということもあってか、江戸前の蕎麦屋のようにちょいとした小粋なつまみはない。そのかわり「豆腐ハンバーグ」なんてのがしれっとあるのだからこのお店は個性的だ。酒の肴にするにしても、蕎麦のサイドメニューにするにしても、豆腐ハンバーグというのはちょっと馴染みが薄い。
ニラそば、770円。
自家製粉石臼挽き手打ち蕎麦で、さらにニラも入っていてこの値段は安いと思う。
ボリュームはしっかり。
そして、蕎麦とニラとが和えてあり、混ざっている。いやー、初めて見たわ、これ。
群馬県の方には、大根の千切りを蕎麦に混ぜるという「大根蕎麦」があるけれど、そのニラ版とでもいおうか。いや、「ニラ版」って安易にいうけどもな、蕎麦とニラって全然見た目も製法も違うぞ。そうやすやすと混ぜてしまっていいのかね?
感心しながら食べてみる。
もちろん、箸でたぐると蕎麦とニラが一緒になる。それをつるつるッと、いただく。
おー。
ニラだ。そして、蕎麦だ。
何か、「蕎麦の邪魔をしないような、風味に乏しいニラが使われている」とか、「蕎麦が挽きぐるみで、野趣あふれる強い風味でニラに負けない」という展開を想像していたのだけど、全然違う。
結果的にこうやって混ぜられているけど、お互いがお互いに気を遣っている気配が全くない。本当に、「なんだか混ぜられちゃいました」という感じのものだ。
ニラはしっかりとニラニラしている。香りもそうだけど、くたっとしつつもシャキッとしている、ニラ独特の食感は健在。やっぱり、これまでの蕎麦の常識から考えると、合わさるべきではない組み合わせだ。
でも、不思議とうまいんだ、これが。
「蕎麦はのどごしが命よ」といいつつ、ほとんど噛まずに飲むのを信条にしている人だったら不満だろう。なぜなら、この蕎麦はよく噛む必要がある。でも、噛んでいると蕎麦の深みと、ニラの青臭さが混じっていい味わいになるんだなこれが。
「ニラ蕎麦みたいなイロモノは、安い袋麺でも使っているんじゃないか?」と最初は思っていたけど、安物麺だとこれは無理だ。しっかりとしたうまい麺だからこそ、ニラと混ぜてもグチャグチャにはならない。なるほど、本格蕎麦店ならではの実力を見せつける料理だ、これは。
これなら、「一度食べたらもういいや」とは言わない。また食べたくなる味だった。
鹿沼のニラそば。これは本当に面白い文化だ。
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