2019年03月30日
【店舗数:435】【そば食:717】
東京都品川区北品川
ざる、田舎
天王洲アイルで開催されているマルシェに知りあいが出店していたので、その激励に訪れた。
御徒町の和菓子店「うさぎや」で買ったどら焼きを差し入れ、ちょっと話をしたのちに会場を後にする。会場で何かご飯を食べていってもよかったのだけど、知りあいと「じゃ!頑張ってください!」とあいさつをしてその場の勢いで会場を後にして、「あれっ、ご飯を食べていなかった」ということに気が付き、時すでに遅し。
「お店の営業の邪魔にならないように、タンタンターン!とテンポよく、ご挨拶して差し入れしてちょっと雑談してさようなら」
って小気味よくやったら、自分の昼飯を食いそびれたという。
今更、会場には戻れない。
この後、またモノレールに乗って浜松町、というのはどうにも冴えない。せっかくだから、てくてく歩いて御殿山にある現代アートの美術館、「原美術館」に行くことにした。お日柄が良いことだし、その足で白金高輪にある「ブーランジェリー・セイジアサクラ」で絶品のバケットを買って帰ろう。
・・・と、思いつつ御殿山に向けてくてく歩いていると、目の前に「しながわ翁」を発見した。ああそうだ、このお店、いつかは訪れようと思っていて、いまだに行けていないお店だった。
しながわ翁。その名の通り、「翁」の系譜を汲むお店だ。翁の名を冠したお店で、まずかった試しがない。だから、ここもきっとおいしいはずだ。
なんで過去10年以上、いやもっとそれ以上、このお店を訪れていなかったのかというと、「北品川」という微妙な場所にあるということと、近くに「ラーメン二郎品川店」があるからだ。
「よっしゃ今日はガッツリ行くぞ、品川界隈で」となると、どうしても二郎になる。で、もしこのお店がお休みだったり、長蛇の列で空振りした場合でも、「しょうがないから蕎麦でも食うか」とはならない。なにしろ、頭の中はコッテコテの脂のことでいっぱいだ。今更するするっと蕎麦を手繰ろうだなんて、コペルニクス的パラダイムシフトだ。
・・・というわけで。
今日はいよいよ、ようやくこのお店を訪問することにした。
なにせ、お昼ご飯は食べなくてもいいかな、と思っていたくらいだ。ついさっき、「ラーメン二郎品川店」の前を素通りしたくらいで、心はとても清らか。今このメンタルと体調なら、翁で蕎麦を手繰ってもよいだろう。
・・・導入部分がなげーよ。ここまで葛藤して、ようやく暖簾をくぐるのかよ。
翁、といえば非常にシンプルなお品書きの印象がある。
しかしこのお店は、品数が豊富。鴨南蛮なんてあるし、酒のつまみになるような一品もそこそこある。
実際、客席を見渡すと、読書をしながら一人で昼酒を飲っているおにーさんやおじさんがちらほらいた。ああ、昔の僕はああいう感じで、週末の昼酒を蕎麦屋で楽しんでいたな、と懐かしく見守る。
男である僕が、店内にいる別の男、しかも単身者を微笑みつつ眺めている構図。なんなんだこれは。
もりそばには「ざる」と「田舎」の二種類がある、というのは翁の定番。1枚、800円。
「あいもり」みたいな、二種類を同時に出す料理名は存在しないけれど、おかわりをすることを見越して「蕎麦の追加は580円」という価格設定になっているのが嬉しい。この場合、つゆと薬味は付かず、シンプルに蕎麦だけがやってくる。
もちろんおかわり前提でこういう設定があるわけだけど、もし「一枚目の蕎麦から、つゆも薬味もいらん!麺だけほしい!」という人がいたら、580円で提供してもらえるのだろうか?お店の人、かなり困惑すると思うけど。
奥からご主人が出てきて、
「お客さんすいません、当店では蕎麦と同じくらいつゆも大事にしております。最初の一枚はつゆもあわせてお楽しみいただけないでしょうか?」
と厳かに宣告されそうな気がする。
もりそばの「ざる」。
蕎麦屋によっては、「刻み海苔がかかっているのが『ざる』で、のりがないのが『もり』」としているお店がある。だから「もりそばのざる」というのは一瞬混乱する名付けだ。
そしてこちらが「田舎」。
どちらも喉越しよく、なめらかにざるの上から箸を使って口腔内、食道、そして胃袋へと滑り落ちていく。絹のようなスムーズさだ。
あまりにスムーズすぎて、そのまま肛門から出てきてしまうのではないか。そう思わせるくらい、ストレスなく入っていく。ああ、うまいなあ。
最近、こういうキリリと引き締まった、シンプルかつエレガントな蕎麦を食べる機会が減っている。なので、改めて背筋がシャンとした。
やっぱり蕎麦ってうまいな。もう少し、蕎麦を食べる頻度を上げていきたい。
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