温度差20度なやつら
日 時:2006年(平成18年) 04月08日~09日
場 所:奥蓼科温泉郷 渋御殿湯、高遠城
参 加:おかでん、しぶちょお (以上2名)
3月は恐るべき事に休みが一日も取れなかった。平日も、退社時刻が連日早朝4時、5時・・・。これは新手の拷問なのですか、と思わず上司に聞きたくなるような地獄の日々となった。しかも悔しいことに、そういう激務な会社であることを経験則で知り尽くしているタクシーが、深夜になればなるほど待ち行列を作って我が社員を待ちかまえとる。1時間おきに待機タクシーの行列数をチェックしてみたら、朝4時過ぎくらいが一番行列が長かった。もう夜明けだぞ、諦めて帰宅せえ、と思うが、諦めないところを見ると乗車する社員が後を絶たないのだろう。かくいう自分もその一人。
これで週末骨休めできればまだ良いんだけど、「じゃあ土曜日は13時出社ね」と上司から言われて「わーい、朝寝ができる」なんてついつい喜んでいるありさまで、結局休みがない、っていうことに後になって気づく。休めねぇ。
4月に入って、ようやく週末くらいは休めるようになった。さて、どうしよう。
ここで、これまでの疲れをベッドの上で癒すか、それともどこかの温泉で癒すか。土曜日の朝になってしぶちょおにそんなことを相談したら、「奥蓼科温泉郷にある『渋御殿湯』、今晩泊まれるなら泊まりたいなあ」なんて話を持ちかけられた。今日の今日じゃ、予約なんて取れんでしょうに、と思って「まあ、予約次第だねぇ」なんて適当に相づちを打っていたのだが、しばらくしてしぶちょおからコールバックがあって、「予約取れました。」だそうで。
大慌てで旅行の準備に取りかかる。こりゃいかん、もう時間は朝の10時を回ってる。早くしないと、「宿についたら既に真っ暗、すぐに食事でお風呂は夜10時までデース、でほとんど入れず、翌朝疲れが取れないまま帰宅」なんていう最悪なパターンになりかねない。早急に行動開始しないと。
しぶちょおと相談の結果、今回はしぶちょおのアワレみカーではなく、おかでんの車で行くことにした。14時半に茅野駅で合流する約束とし、各自出陣の準備に取りかかった。
ちなみにひびさんはなにか所要があって不参加だそうだ。
2006年04月08日(土) 1日目

車で首都高C1を走ると、ちょうど千鳥が淵あたりで渋滞になっていた。もともとこのあたりは渋滞しやすい場所とはいえ、時間的に考えて不思議だ。なぜだろう、と思って外を見たら・・・
ああ、桜が満開だ!
東京はもう春なんだなあ・・・。
最近、仕事漬けで季節の移ろいを全く感じていなかったので、驚きとともにちょっと癒される瞬間だった。
・・・あ、違う。「季節の移ろい」は感じてた。早朝、タクシーで帰宅するとき、何時頃に夜が明けるかっていうのは体感してたぞ。トホホ。同じ時間に帰宅していても、空の明るさが違うんだよね・・・日が経つに連れて、どんどん空が明るくなってくる。
いかんいかん、こんなことを考えながら運転していたら、「このまま死んじゃってもいいかな」なんて皇居のお堀に車ごとダイブしちゃったりしかねん。今日はリラーックスの日だ。骨の髄までくつろごうじゃないか。どーせ、旅行からもどったらまたすぐ激務に戻らなくちゃいかんのだ。せめて、この二日間だけは。

茅野でしぶちょおを拾い、奥蓼科温泉郷に向かう道を進む。まだ開発されていない未開の大地が広がり、八ヶ岳山麓にもこんなところがあるのか!と驚かされる。ビーナスライン経由で白樺湖に向かうルートが観光地化、別荘地化されていることを考えると大違いだ。この道は、いわば「温泉郷専用道」みたいなものだ。
と、思ったら。
あともう少しで到着するぞ、というところで道路がアイスバーンに変わっていた。びっくり。おい、つい数時間前僕は桜を見たばっかりだぞ。
慌てて車から外に出てみる。あ、確かに寒い・・・。東京と比べて、20度くらい気温が低いかもしれない、これだと。

「渋御殿湯 900m先」
という看板が恨めしい。あともう少しだったのにー。
試しにこの先の道がどうなっているか偵察に行ってみたが、どう考えてもノーマルタイヤだと行ってはいけない方向に車が突撃をかましそうな予感。

「あと900mのためにこれかよー」
と愚痴りながら、チェーンをまく。チェーンを持参しておいて良かった。もしコレがなかったら、900m手前のここに車を投棄して、歩いていかなくちゃならないところだった。そんなことやったら、「路上に不審な無人車両発見。山菜取りで道に迷ったか、自殺を図った人の車か?」なんて通報されかねん。
ちなみに、しぶちょおと合流する前、茅野近くのカー用品店でバッテリは新しいものに交換しておいた。寒さ対策はとりあえずちゃんとやっておいたんだけどな、まさかアイスバーンとは。

900mなのであっという間だ。
ほら、もう到着。渋御殿湯。「御殿」という名前がついているから、きらびやかな外装でお出迎え、なんて期待しちゃいかん。こういう山奥にそういう違和感ありまくりな建物があったら、そっちの方が気持ち悪い。

「天下の霊湯 渋御殿湯」
なんて古めかしい看板がわれわれを出迎えてくれた。
要するにアレですか、夜になったら金縛りにあうとか、白衣の女性が恨めしそうに立っているとかそういうことですか。
いや、それは考えすぎだが、霊験あらたかだということなんだろう。ぜひその霊験にわれわれも授かろうではないか。「あら不思議、風呂から上がってみたら、会社の仕事が全部片づいて暇になっちゃいました」っていう効能、ないですかねえ。無理っすかそうですか。

ここで舗装道はお終い。ここから先は登山道になっていて、八ヶ岳縦走ルートに向かっている。八ヶ岳登山の起点・終点としても使われている宿というわけだ。
「湯みち街道」っていう名前がついているんだな。確かに、途中には奥蓼科温泉郷の温泉宿以外何も無かったので、この名前は納得だ。
それにしてもその下に描かれている絵はなんだ。「霊」か!?
よく読むと、「終点」と書かれている。あ、ここで湯みち街道は終わりですよ、という意味でしたか。それにしてもこの人間みたいな幽霊みたいなのは何だ?

おっと。
道ばたに十一面観音様が祀られていた。
「渋温泉三十三番」なんて書いてあるところを見ると、どうやら八十八カ所巡りのように巡礼用に祀ってあるのだろう。
昔、まだこうやって車で来ることができなかった頃は、徒歩でここまでやってきた人もいるだろう。中には重い病気を患って、治癒を願って湯治に来た人もいたことだろう。そういう人たちが、ここにたどり着くまでの間に、道ばたの仏様に祈願しながら一歩一歩、歩んできたということか。
それを考えると、ちょっとしんみりとした気持ちに・・・なるどころか、「寒い寒い、早く風呂に入ろう」
人間って、刹那的な生き物です、はい。

御殿です。
御殿という割には大変に俗っぽい宿に見えるけど、いやいや天下の霊湯ですからね、しぶちょおも大興奮大推薦「ぜひここには行ってみたかった」と鼻息を荒くする場所なのだから期待大だ。

通された部屋はこちら。
妙に暖かいのと、懐かしい臭いがすると思ったら灯油ストーブが赤々と灯っていた。こたつもある。
「これはくつろげそうだ!」
何だか、アットホームな感じでうれしくなってしまう。
これで、一泊二食付8,400円だから安い。(暖房費を別に取られたかどうか、ちょっと記憶は定かではない)

ごあんない、と書かれた紙をなんとなく見てみる。
最初の文言で仰天。
御食事は玄関の西側食堂でおねがいします
夕食は5時~6時・朝食は7時~8時の間に食堂の方にお願いします
ちょ、ちょっと待て。夕食は17時から、だって?おい、もう既に4時半くらいになっちゃってるんですけど。
しぶちょおが「なるほど!」と叫ぶ。「いや、予約を入れた時に、17時までに宿につくようにしてください、って言われてたんだよ。それって、こういう意味だったのか」
早いなあ、17時夕食っすかそうっすか。
「でも、よくわからんのが、これは18時までの1時間で食べ終われよ、という意味なのか、17時から18時までの間に食堂に来いよ、ということなのか?」
「さあねえ?」
「まあいいか、間をとって17時半くらいに食堂に行きゃいいだろ。ダメなら30分でバババっと食べるし、イイならゆっくり食事させてもらうし」
「おかでんビール飲めなくなるんじゃないか?」
「いやもう、30分で飲めと言われたらそりゃもうそれにあわせて飲みますよ。ビール大ジョッキをぐいっとひと飲みしちゃうのと一緒」
「そんなもんかね」
「とりあえず時間がない、あと1時間でまずは一風呂浴びようではないか」

外は何とも寒い光景だ。
だいたい、標高が高いことはわかってはいたが、桜が咲いているこの季節で部屋にストーブとこたつは意表を突かれた。
これは温泉で暖まりがいがあるってぇもんだ。

見よ。
手ぬぐいも、「天下の霊湯 渋御殿湯」と染め抜かれているぞ。
やっぱり、来週会社に出てみると仕事がうそのように片づいていて・・・
いかん、また妄想が出てきた。交感神経を静めて、副交感神経を活性化させないと。とにかく風呂だ、風呂。

「なんだこりゃあ」
腹帯を見ると、そこにまで「天下の霊湯」の字が。
「面倒なんだよね、この字が正面に来るように場所をあわせないといけないから」
うんしょ、うんしょと微妙に位置をずらしつつ、ちょうどへそのところにこの文字が並ぶようにする。

ここは、宿泊者のみ利用可能な「東の湯」と、日帰り入浴者も利用が可能な「西の湯」の二カ所の風呂場があるんだという。
しぶちょお曰く、「素晴らしいのは東の湯だ。床下湧出だぞ」という。それは楽しみだ。
お風呂の入口には、「長野県温泉協会では安全で安心して利用できる温泉を提供します。」なんて目立つ張り紙がしてある。
5つの項目があり、「源泉の引湯(供給)方法」「給湯方式」「加水の有無」「加温の有無」「入浴剤・殺菌剤の有無」について調査結果が書かれている。非常に親切だ。やはり、白骨温泉のハップ使用が大問題になり、田中県知事が激怒したということもあったので信頼回復に努めているのだろう。とても良い試みだと思う。
天然のままではないですよ、という項目については、ちゃんとその理由が記載されているのも親切。たとえば、「加温しています(源泉温度が低いため)」みたいに。

お湯の勉強もしたことだし、さて早速お風呂に入りましょう。
手前の扉が女湯、奥が男湯。
ちなみに泉質は「硫黄泉」。

脱衣場まで撮影せんでもよかろうに、と思うのだが、ついつい。
「しめた!誰もいないぞ!」
しぶちょおとおかでんで温泉に行った時、浴室の扉を開けたときに大抵気にするのは「人がいるかいないか」だ。チカンか、俺ら。

これが「東の湯」の男湯。
床面は張り替えたばかりらしく、まだ木材があたらしい。
3つの湯船があって、どれもそれほど大きくはない。この3つ、なにがどう違うのだろう?

脱衣所に簡単な説明があった。
右から左に向けて順番に、
渋御殿湯 源泉 泉湯26度
渋長寿湯 源泉 浴槽底部より湧出 泉温31度
渋御殿湯 加温42度
となっている。26度!これは、この外が雪の中入るには相当シビレる温度だ。よっぽど覚悟決めないと・・・。まずは十分に暖まってからだな。
ここには二つの源泉があるわけで、長寿湯が床下湧出ということになっている。残念ながら女湯のほうは床下湧出ではないそうで、男湯直下のみからしか源泉が湧かなかったらしい。それにしても、この長寿湯も31度かぁ。体温、奪われるぞ、これ。
唯一の救いは、御殿湯を加温した42度の湯船があるということ。どうもここにお世話になる時間が長そうな気がする。

天井を見上げると、立派な柱。
古くて良いつくりの建物だ。
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