登場人物(2名)
おかでん:新車調達で有頂天気味の人。
おかでん兄:体調が悪くても、連れさらわれてしまう人。
2002年06月30日(日)
祝!おかでんマイカー取得!
ディーラー発注から納車待ち3カ月。しびれを切らしすぎて、感覚が麻痺してきた頃になってようやく車がやってきた。発注後1カ月は「こういうところに行こう、ああいうオプションを車につけよう」なんて小学生の修学旅行直前みたいにワクワク感が高かった。しかし、2カ月目に入るといい加減ワクワクするネタが品切れになってきてしまい、トーンダウン。3カ月目に入ることには、いっこうに納車日を連絡してこないディーラーに対する不安感と、「このまま車が来ないままってのも、維持費がかからなくていいのかもしれない」と遂に否定的な見解まで出てくる始末。
で、結局、納車日が判明したのは前日の夕方になってから。これでは、あらためてワクワク感を高ぶらせようにもあまりにも時間が無かった。結局、自分が思い描いていた「高鳴る胸を押さえつつ車のキーを受け取る」というシチュエーションとはほど遠い状態での納車となっちまった。とほほ。しかも、夜9時過ぎだったので、何か訳ありの盗難品の引き渡しをこっそりやってるようなありさまで。
まあ、出だしはこのように躓いてしまったが、車をゲットしてから必ずやっておこうと思っていた計画がいくつかあった。
拉致だ。
車を購入するという話は、今まで会社の同僚にしかしゃべっていなかった。家族にも、アワレみ隊のメンバーにさえも教えていない。おしゃべりの僕がここまで黙っているのは、血反吐を吐くほどの苦労だった。何度しゃべりそうになったことか刑事さん!酒を飲んだ勢いで、兄貴に「よし、酔った勢いで僕の秘密をこれからしゃべってやるぞ。その代わり兄貴も自分の持っている秘密ネタをバラしてくれ」と言った事も何度あることやら。しかし・・・肝心の兄貴が、バラすような秘密をもつようなドキドキ人生を歩んでいなかったらしく、バーター不成立で会話は成立しなかったのだが。
とまあ、そんな苦労をして内緒にしていたのだ、いきなり車をバーンと見せつけ、あッと目をひんむいて動揺している間に拉致してみたい。そんな些細な願望をついに叶える時来たり!
まずは予行演習ということで、納車の翌日に同じ社員寮に棲む友人を拉致した。最初は、「近くにいい蕎麦屋があるんだよ、食べに行こうぜ」と誘い出し、友人が「で?どうやっていくの?歩いていけるの?」というコトバを言った瞬間に「これで行くんだよッ」と隣の駐車場の柵をよじ登り、車に駆け込んで運転席へ。「あれっ、あれれっ」という驚きの顔を尻目に、エンジンをどぅるるるるる。完璧すぎるタイミングだった。慌てて助手席に乗り込んできた友人に「それでは、これから車で40分かかる蕎麦屋にあなたを拉致します」。
誤算だったのは、「おかでんだったら車を買いかねん」と友人が踏んでいた事だった。だから、実際に車を見ても「ああ、遂にやりやがったか」程度の驚きであり、「げげぇっ」という感じではなかった。くそ、最近の若い者は喜怒哀楽が少ないからいかん。
さて、気をとりなおして翌日。今度は兄貴を筑波山に拉致することにした。朝、兄貴宅近辺まで転がしていって、おもむろにTEL。おっ、繋がった、兄貴はいるぞ。
おかでん 「あー、今近くにいるんだけどね、ちょっと遊びに出ない?」
兄 「今体調崩してて・・・」(なんだって!?しまった、それはまた誤算だ!)
兄 「まあ、そんなに遅くならない程度だったらいいよ」(助かった・・・)
結局、最寄り駅の前で待ち合わせをする事になった。さあこれからが大変だ、兄貴が駅に向かって歩いているところを路上で拉致しなければならないのだが、兄貴宅前の路上は道幅が狭く路駐が不可。となると、ひたすら回転寿司のごとくそこらへんをぐるぐると回りながら、兄貴がやってきたところを車に押し込めないといけない。あんまりのんびりしていたら、すれ違いになって拉致失敗になるので気が抜けない。
何回転か、一方通行の細道をくるりくるりと回っているうちに兄貴を発見。ちょうど駅に向かっているところ・・・だったのだが、なにやらポケットに手をやって、忘れ物に気づいたらしい。目の前でくるりと反転して家に帰り始めるではないか。
いかん。それではいかん。真っ正面からやってくる車。何気なく運転席をひょいと見ると、そこには見知った弟の顔が・・・「やあ」。こういうシチュエーションこそ、驚愕させるにふさわしい。しかし、車に背を向けられてしまうとは予想外だった。
出直しをすればよかったのだが、ついつい動揺してしまいクラクションを鳴らしてしまった。えっ、と振り返る兄貴。運転席に目がいかない。いよっ、と手を挙げて合図をしてやると、ようやく気づいた。一瞬ぎょっとした顔をする。そうだ、その目だ。その目つきが最高に僕をエクスタシーにしてくれるのだよ。
だが、敵は案外冷静で、僕の顔を見て、もう一度車を見て、ナンバープレートを見て、ふーん、という顔をして平常の顔に戻ってしまった。で、「ここは車とめられないから、とりあえず家の隣の駐車場に車突っ込んでおいてくれ、忘れ物取ってくるから」。
うーむ、つまらん。ナンバープレートを見て、レンタカーではない車に乗っている事は理解できたらしいが、「じゃあ、この車は何だ!?という疑念以上に「早くハンカチ取ってこなくちゃ」という方に脳神経の大半を消費してしまっていたらしい。
兄貴がハンカチを持ってきて車に乗り込んだときには既に数分が過ぎ、その間にいろいろと考える時間を与えてしまった。
兄 「で?どうしたんだ、この車」
おかでん 「あー、なんというつまらない質問。単に自分の疑問を解消しようとするだけの、味もそっけもない質問ではないか。デリカシーのかけらもないぞ、こら」
兄 「え?じゃ、なんて聞けば良かったんだよ」
おかでん 「うわあ、何だよこの車!まさか買ったとかいうんじゃないだろうな、聞いてないよ!買うんだったらまず相談してくれればよかったのに冷たいよなあ!なんて自分一人で興奮してるような奴を、一発」
兄 「うーん、そこまで興奮するような事でもないし」
おかでん 「がっくし」
兄 「で?どこに行くつもりなの?」
おかでん 「筑波山にあなたを拉致します。筑波山に登ります」
兄 「筑波山~?・・・ああ、そうか、車があると筑波山でも気軽にいけるのか。まあ、筑波山だったらいいや」
おかでん 「これまた淡泊な対応ですなあ」

筑波山到着。この山は、男体山と女体山の二つのピークを持つ双耳峰であり、男体山にはケーブルカー、女体山にはロープウェーが設置されていていずれも山頂直下まで観光客を引き上げることができるようになっている。われわれは、筑波山神社がある男体山麓にやってきた。

おかでん 「やあ、立派な山門だ。筑波山神社」
兄 「肝心のケーブルカー乗り場はどこだ?」
おかでん 「ええと?山門をくぐった先にあるみたい」
兄 「境内の中にケーブルカー乗り場があるのか!呆れた」
おかでん 「なあに、階段とか坂道と一緒だよ、ケーブルカーだけ別の扱いにする必要はない。別に穢れているわけでもないし」
兄 「ううむ、確かにそうなのだが・・・」
おかでん 「ところで、飯食うところないのかな?いい加減お昼ご飯食べたいんですけど」
兄 「うーん・・・イマイチそうなお店しかないなあ」
おかでん 「がまの油って食べられるかな?売店で売ってるけど」
兄 「食ってみるか?」
おかでん 「やめときます」

兄 「それにしてもだ、ケーブルカー駅の名前がそのまんまだな」
おかでん 「宮脇駅、確かに。神社の脇にあるんだからそのまんまだ」
往復1,020円。
兄 「おっ、結構高いぞ?」
おかでん 「そんなもんだって。楽させてもらうと思えばこんなもの安い安い。・・・と、何の罪悪感も持たずにさらりと言ってしまうようになってしまったんだな俺、とちょっと感慨深いです今」
兄 「ケーブルカーに乗らないと1時間半ちょっとの登山か。うーん、面倒だなあ」
嗚呼、このありさまを堕落と呼ぶべきなのでしょうか。それとも、社会人として金銭的余裕ができてきたんだね、良かったね、と喜ぶべきなんでしょうか。

おかでん 「結局ご飯食べられなかった」
兄 「山頂駅付近に茶屋があるから、そこに期待か」
おかでん 「山物価になっている可能性大だけどなあ、まあしゃあない」
兄 「おお、ケーブルカーは京成電鉄なんだな?」
おかでん 「あら、本当だ。しまった、パスネット使えたんじゃないか?」※注:使えません

ケーブルカーという乗り物は、普通まっすぐに登ったり降りたりする乗り物だ。しかし、この路線は「く」の字型に曲がったルートを走っていくということで大変珍しいらしい。
おかでん 「よし、ならば珍しいというカーブ部分を激写するのだ」
・・・と待ちかまえていたのだが。
おかでん 「だーっ、ちょうど線路が曲がっているところが、上下線のすれ違い部分になっているじゃないか!これだと全然曲がっていて当たり前!写真に撮っても全然珍しくない!」
一人地団駄踏む。
ケーブルカーから、すぐ脇を通る登山道であえぎあえぎ登っているオッチャンオバチャンの姿が見えた。こっちは、プライドを捨てて文明の利器を使わせてもらっている立場。彼らに顔向けできない・・・頑張れ・・・とは全く思うことはなく、「ああ大変ですねえ、こんな蒸し暑い時によく山なんて登りますねえ」なんて身勝手な事を思ったりする。

筑波山頂駅。ケーブルカーに乗っている時から、すーっと辺りの視界が奪われていった。下車してみると、そこはもうすっかりと霧の世界。
これが冷気を伴って霧が辺りを支配していれば、まだ何となく別世界って感じで心地よいのだが、季節が季節。湿度100%のミストサウナへようこそ、という状態になっていた。
ううむ、暑くはないのだが、相当不愉快。

写真を撮るだけ無駄、というような霧。
なんも見えません。
恐らく、このフェンスの向こうは晴れていれば絶景なのだろうが・・・今は、「白」。 以上。

おかでん 「当たり前の事だが、山の上の店でわれわれのニーズを満たしてくれる飯屋など存在しなかったな」
兄 「半分解ってはいたんだけど・・・」
おかでん 「しゃーない、ダンゴ食って小腹を満たして、下山後にがっつりと美味なるものを食べようじゃないか」
兄 「了解」
ってことで、焼きダンゴ300円也を食べる。もごもごもご。
おかでん 「もがもが。とてもじゃないが、これから山に登ろうっていう時に食う食べ物じゃあないな」
兄 「ねちゃついて、喉が渇くな」
おかでん 「でもまあ、既に山には登ってしまったという説もあるけど。わはは。労せずここまで登ってきてしまった。いやあ、なんか相変わらず罪悪感だけはチクチクと」
兄 「『ここまで』ったって、せいぜい標高差でいったら600m程度だろ?気にすることはないよ、どうせここまで車道が走ってれば、車で上がってくるだけの事だし」
おかでん 「まあな、富士山を今時1合目から登る人がいたらそれはそれで尊敬するけど、実際は5合目まで車道があるから、そこから登頂開始だもんな」

おかでん 「それにしても手ぶらで登山とは」
兄 「登山ではないだろう、これは」
おかでん 「ハイキング」
兄 「それも違うような。単なる観光地に来たって感じ」
おかでん 「そりゃそうだよなあ、山頂駅から徒歩15分で男体山山頂ときたもんだ。ほれ、山頂らしきもの発見だ」
筑波山神社奥の院のほこら。ここが筑波山男体山の山頂になる。われわれの足だと、山頂駅から徒歩10分。

おかでん 「とりあえずガッツポーズで記念撮影」
兄 「ガッツポーズするほどの事でもないけどな」
おかでん 「うむ、確かに。もっといえば何をどう記念してるんだかさっぱりわからんけど、まあそれはそれで」
兄 「霧で何も見えませんな」
おかでん 「ここまで登頂の達成感が無い山っつーのも珍しいな。百名山一座登頂完了、ちーん・・・という充実感のかけらもありゃしない」
兄 「ロープウェーのせいか?」
おかでん 「いや、それは言いっこなしということで。ビール持ってこなかったからかな?」
兄 「結局そこに行き着くのか」

山頂直下にあった、気象庁だか郵政省だかの通信基地。廃墟の面もちで、霧に包まれていることもあって非常に不気味だった。
おかでん 「今、建物の中からうめき声が聞こえてこなかった?」
兄 「うそつけ。あんまりしゃれにならんぞ、この外観だと」

気力体力があれば、もう一方の山頂である女体山にも登ろうと思っていたのだが・・・
おかでん 「霧。」
兄 「なんも見えないなあ、やめとくか?」
おかでん 「やめておこう。それより下山して飯食った方が正解だな。渋滞する前にさっさと帰ってしまうかね」
・・・ってなわけで、これにて登山終了。

おかでん 「で?どうして昼食がカレーになってしまうんだろうな」
兄 「昼飯食べよう、食べようって言い出してからすでに4時間近く経過してるのにな」
おかでん 「カレーは別にいいよ、カレーに罪はない。で、何でファミレスのCoCo’sで飯を食ってるのか、ということだ」
兄 「筑波市街、CoCo’sばっかりだったもんなあ」
おかでん 「ここの住民、CoCo’sでしか外食をしないのか?あんまりにもCoCo’sを見かけるので、ついつい入ってしまったではないか」
兄 「結局今回は旅情も満足感も何もない旅だった、ということか」
おかでん 「うーん、拉致企画としてはもっともらしいオチだったような気もするけど」
兄 「おや、今気づいたが、今日はビールを全く飲んでないな?」
おかでん 「あ!車の運転やると、ビールが飲めないんだな!?ちくしょう、『へべれけ紀行』の名折れではないか、これでは」
兄 「おいおい、何やってる?何でメニューに手を伸ばしてる?」
おかでん 「冗談だって。でも家に帰ったら飲むぞ!今日は飲まずにはおれん!」
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