第八弾:そして伝説へ

ますゐ全メニュー制覇プロジェクト(その11)

アワレみ隊がますゐ詣でを開始させるようになって、既に10年以上が過ぎていた。
ますゐ二階のお座敷席はアワレみ隊の第二の故郷となり、
われわれはそこで食べ、飲み、そして散財していった・・・・・・・。

西暦2003(ツーダブルオースリー)、
アワレみ隊は「ますゐ全メニュー制覇プロジェクト」を名乗り、
ますゐのメニューを完全に食べ尽くす戦いを挑んだ。

この3年あまりの戦いで、アワレみ隊は「牛肉さしみ」のみを残して全てを制覇するに至らしめた。
しかし、牛肉さしみだけのために1年以上の足止めをくらい、人々は、ますゐの奥深さに恐怖した・・・・・・。

過去7回の訪問中、一度たりともたどり着くことができなかった「最後の秘境」。それが、「牛肉さしみ」。

われわれは、牛肉さしみのためにどれだけ足踏みをしたことか。過去の文献を紐解いてみたら、古くは第二回開催、すなわち2003年夏の時に既に牛肉さしみをオーダーしていることがわかった。もちろん、この時は食べることがかなわず。それからというものは、ほぼ毎回注文しては断られるというお約束ギャグのような展開を続けるはめになった。本来なら、第五弾で終わるはずだったのに、そこから先延々と引っ張る引っ張る。

「夏は入荷しない」という事が判明したのは随分後の話だし、「盆と正月は肉の仕入れがないから牛肉さしみは提供できない」ということが判ったのも最近の話だ。牛肉さしみを予約していたのに、「店に無いもんは無い」と当日おばちゃんに開き直られたこともあった。こういう事実が明らかになる度、「してやられた」感を強く感じるわけだが、そこは伝統と格式・・・あ、格式はあまり感じないけど、歴史のある「ますゐ」。「うはぁ、僕らの想像の上を行くなあ」とアハハハと苦笑いをするのであった。何をやられても「ほぅ、そう来たか!」と感心して、許せちゃう。それが僕らにおけるますゐの位置づけだ。

とはいっても、いつまでもまったりと「牛肉さしみ残り一品だけ残ってます」というわけにもいくまい。いい加減、きりがない。とはいっても、広島からははるか彼方に住むおかでんのこと、盆と正月以外に広島なんて行く機会が無い。その他メンバーだって同様だ。とはいっても、「夏は牛肉さしみは無し」「年末年始は肉の仕入れが無いので牛肉さしみは提供できない」という制約がある限り、無限ループだ。これではクリアの目処が立たない。

というわけで、えいやっと強引に2月25日、ますゐ詣でを設定してみた。半ばやけくそだ。ちょうど、15,000マイルあったので無料で広島まで往復できたという背景もあった。

ここで食べられなかったら、もう諦めよう。広島にいるメンバーに後を託そう、と考えていた。いい加減牛肉さしみ480円也のためだけに広島入りするのは無理だ。

そんな悲壮な覚悟のもと、今回は開催が発表された。

ただ、懸念されることがあった。

当日に肉の入荷が無いと、牛肉さしみは食べられないという。新鮮な肉である必要があるため、ますゐでは厳格なルールを設定しているようだ。おいちょっと待て、ひょっとして土日にますゐを訪れる限り、牛肉さしみには一生ありつけない、なんていう事はないだろうな?

やばい。それは、激しくやばい。

急に不安になってきた。大丈夫かな?いや、ダメだ、こういう不安って見事的中するんだよな。

今回は、参加メンバーがそれほど大がかりになる予定ではなかったため、席の予約を入れる必要は無かった。しかし、牛肉さしみについては強くお店側にPRしておかないと、こりゃ絶対食べられないに決まってる。牛肉さしみの予約ができないことは判っているが、それでも「僕たち食べたいです!」という事は店員さんに事前情報として提供しておかないと。

電話してみる。

「ちょっと待っててくださいね」

といわれ、電話口の向こうでなにやら相談している声が聞こえる。しばらくして、

「当日になってみないとあるかどうかわからないんですよ」

といういつもの回答。

「土日だったら入荷が無いから食べられない、ということはないんですか?」

と今回最も気になる質問をしてみた。土日に訪問しても絶対に食べられないぞ、という話になってしまえばもうお手上げだ。

「さあ、ちょっとわからないですけど」

という、曖昧な返事。くっそうますゐめ、僕らを煙に巻いてきたな!?何度その作戦に翻弄されてきたことか。

「お取り置き、ってできないんですか?」

諦めずに畳みかけてみる。

「新鮮なものを自信を持ってお出ししているので、お取り置きはできないんです」

うーん、やっぱりそうだよな。「新鮮じゃなくてもいいんですけど」と言いたいところだけど、「ますゐが自信をもってお出ししている」ものを冒涜してはいかん。ここは謹んで、その「新鮮なもの」が出てくるのを待つしかあるまい。

不安だ。

たまらなく不安だ。

何だか既に敗色濃厚な気がする。こんな逆風の中、「ええ今日は入荷してますよ」なんていう神の声が聞こえる気がまったくしない。その光景を想像することすら、できない。やっぱ今回もダメかなあ。広島地元民じゃないと、ありつけないのかなあ。

とはいっても、「不戦敗」を選ぶわけにはいかない。なるようになるさ。前日夜からきっちり食事量を減らし、ますゐでの体重増に備えつつ広島入り。さあ、最終決戦になるのか、否か。

羽田空港から空路広島入りを果たす。途中、南アルプス上空を通過時に激しく機体が揺れ、「ああ、牛肉さしみを食えないまま僕は死ぬのか」とよからぬ事を考えてしまった。もし、この時遺書を書いていたら、「さらば、肉さし。」と一言だけ書いていたかもしれない。何とも侘びしい人生だなあ、それだと。おかでん32歳、牛肉さしみを前にして、生命の華を散らす。

しかし、過去数年に及ぶ「全メニュー制覇」の執念が飛行機を軽やかに飛翔させ、定刻通り広島空港に到着した。バスにのって、一路ますゐへ。

・・・ホント、「一路ますゐへ」なんだよなあ。前回もそうだったが、今回も広島バスセンターに到着したらそのままますゐ行きだ。最近、広島へは「実家に帰省する」ためなんだか「ますゐに行くため」なんだか真剣にわからなくなってきた。

集合時間の10分ほど前に現地到着。すると、なにやら精肉部のガラス窓から店内をのぞき込んでいる怪しい男の姿がある。誰だろう、と思ったらこれが参加メンバーの一人、ばばろあ。

「何みてるんだ?」

「いやー、売っとらんのぅ、牛さし」

「何?この後食べられないかもしれないから、保険で肉屋から刺身を仕入れよう、ってか?」

「肉屋で仕入れたものをお店にも出すんじゃろ?ここで扱っていないということは、今日無いかもしれんで」

早くも不安が。うーむ。

しかし今日は、店内にいつも売り切れになっている「ますゐ特製焼豚」が山積みになっていた。おっとラッキー、これも番外編として食べておかなくちゃ。「ますゐ特製」と書いてある以上は、絶対に入手せねば。

ますゐソース

それから、今回のますゐ企画に際して、サバゲーでお世話になっている軍曹殿から「ぜひますゐソースを調達してくるように」とミッションが与えられていたので、ますゐソースを調達。お店の人から「どれくらいの量にしますか?」と聞かれて、とまどってしまう。いや、どれだけっていわれても・・・。

「ええと、どんな単位になるんですか?」

「一合とか、二合とか」

ますますわからん。とりあえず2合頂くことにした。大は小を兼ねる。・・・でも、このソースって賞味期限が1週間も無いんだよな。後になって考えたが、軍曹殿も2合ももらっちゃって、使い切る事ができるんだろうか。ま、後の祭りだが。

熱いソースが容器に注がれているので、容器がすでに変形しつつある。発ガン性物質が溶け出しませんように。

ますゐの値札

「これ持っていってくださいね」

と、お支払いの際に渡されたのが、なぜか値札シール。

「??」

レシートがわりか?と思ったが、よく見ると「このラベル10,000円で300円サービスいたします。保冷温度10℃以下」と書かれている。なるほど、このラベルは10℃以下で保存しなくちゃいけないのか、と全然ピントのずれたところで感心する。

ちなみに、ますゐ特製焼豚は100g250円。バラ肉とあともう一種類、なんだったか忘れたが二種類から選べる。僕が購入したのは650円のバラ肉。おっ、ということは、ますゐソースは2合で530円という事だな。

大仏様来訪

この日、参加者は6名の予定だった。

550: 名前:おかでん投稿日:2006/02/22(水) 00:11
では、しうめえ、ばばろあ、ぜうじ、リポビタンD、ゴルファー、おかでんの6名で予約を入れておきます。

という事だったが、定刻に集合したのはしうめえ、ばばろあ、リポビタンD、おかでんの4名だった。このほかに、BBSには

551: 名前:しぶちょお投稿日:2006/02/22(水) 00:19
もし、僕がその場にいたら笑ってやってください。

と、名古屋のしぶちょおから「犯行予告」が来ていたが、さすがに名古屋から(わざわざ車で)来るはずもなく、集合場所には姿を見せなかった。当たり前だ。

土曜日13時。店内はほどよく満席に近い状態。遅刻する人は後から合流するだろうし、ということでわれわれはいつも通り2階のお座敷席に向かった。下駄箱で靴を脱いで、店員さんの誘導でお座敷に通されるまでは、「どこでやるのだろう」というわくわく感が常にある。以前は、「隔離部屋」とわれわれが呼称していた一番奥の部屋が定位置だったのだが、最近は特に法則性がなくなりつつある。

おや、店員さんが「こちらです」と呼び寄せるお座敷の入り口には、「おかでん様(実際は僕の本名)」と書かれた短冊が張り付けてあるぞ。これは親切なサービスだ。遅刻してきた人はこれで迷う事がない。

がらり。ふすまを開けて中に入る。

!!!

中に、既に人がいた。しかも二人。これが、しぶちょおとひびさん。アンタらわざわざこれだけのために名古屋から来たんか!

びっくりしすぎて、「笑ってやる」どころか言葉を失ってしまった。

彼は常に行動は車だ。新幹線で広島にやってきました、なんてことは絶対にない。すなわち、牛肉さしみだけのために延々と車をドライブしてきたというわけだ。いやはや、そのガッツには驚嘆の声を禁じえない。こりゃー、何が何でも牛肉さしみを食べないと。

「ETCの深夜割引を使いたかったので、夜中の2時に名古屋を出発した。」

んだそうで。ぜひその言葉を録音してますゐの店員さんに聞かせてあげたい。これだけの熱心な信者がいるんですよ、と。

もちろん、その後に「だから今日は牛肉さしみをなんとか・・・」と懇願モードになるわけだが。

そんな中、遅れていたぜうじ氏とゴルファー氏もほどなく合流。ぜうじ氏は「今日がファイナルになるかもしれない」ということで気合い入りまくりで、東急ハンズで買ったと思われる大仏マスクを着用してお座敷になだれ込んできた。地元民である彼だが、やはり今日という日のために特別なおめかしをしているわけだ。遠くの人も、近くの人も。全ての人が、「全メニュー制覇」の瞬間を待ちわびていた。

ラガーのグラス

テーブルには、既に寿き焼き用の鉄鍋がセットされ、ご丁寧にも割下までがスタンバイされていた。これは毎度の事だが、お座敷席を予約するとデフォルトでこういう準備がなされることになる。それだけ、ますゐでの宴席は寿き焼きを食す人が多いということだ。

「しかし、僕たちは牛肉さしみさえ食べられればそれでいい」

とつぶやくが、その牛肉さしみがあるかどうかわからんのだからなんとも心もとない。

テーブル上に、一つの発見があった。

「あれ?」

グラスが新しくなっていたのだった。ぴかぴかした新しいビールグラスで、キリンラガーのロゴが目立つ。このお店、生ビールはアサヒスーパードライ、瓶ビールはキリンラガーとアサヒが併存、と群雄割拠の様相を呈しているのだが、グラス一新でラガーのインパクトを強めようという算段か。

恐らく、生ビールを導入しませんか?とアサヒの営業担当者が言葉巧みにますゐにプレゼンテーションしたのだろう。それをみすみす見過ごしてしまったキリンとしては大失態だったわけだが、グラス提供などを通じて、いずれは生ビールの座も我が社に!なんて考えているかもしれん。

過去の写真を参照していて気が付いたのだが、ますゐのお座敷において、「グラスがセットされている」ようになったのは2003年後半からのようだ。それまでは、湯呑み茶碗とお茶が入ったヤカンがテーブルにセットされていた。「お茶を飲む」のがますゐの基本姿勢だったようだ。

くす玉スタンバイ

おかでんが鞄の中から取りだしたのは、「発音クス玉/感動の響き」。

2004年12月に執行されたますゐ詣での際に東急ハンズで購入したものだ。あのときは、全メニュー制覇できると思ったんだけどなあ・・・。そのまま、ずるずると時間が経過すること1年と2カ月。その間、ますゐ詣では2回。でも、まだクス玉が感動の響きをとどろかせることはなかった。

「おかげで何だか箱が汚れちゃって」

何かガムみたいな粘性の汚れが箱に付着していて、触るとベタベタする。ああ、年期を感じさせるのぅ。

そこまで、エンディングを先送りさせてきた張本人・・・じゃなくて、張本肉・・・うーん、なんだか「はりもとにく」って読めてイヤな感じだ・・・が、「牛肉さしみ」なんである。480円という値段の分際で、偉そうなんである。

店員さんがやってきたので、

「とりあえず生ビールと、ウーロン茶ペットボトルで。あ、あと注文を書きたいので、紙と鉛筆もください」

という定番のオーダーをかます。

その言葉に割って入るように、しぶちょおが

「あの、すいません、今日は牛肉さしみありますかねえ?」

と口を挟んできた。

「さあ、厨房に聞いてみますね」

と若い店員さんは首をひねりながら引き下がっていった。

「おいしぶちょお、アンタそのものずばり核心を突く事をいきなり聞くなあ」

「そりゃそうだろ、今日はそれを食べにきたんだから」

「いやそうだけど、小心者の僕はあの段階では聞けなかったよ。もう少し落ち着いてからかな、なんて思っていたくらいで」

よくわからないチキンハートっぷりだ。でも、実際そんな気持ちになったのだからしょうがない。何とでも言え。

「うわー、どうなんだろどうなんだろ。何だか敗色濃厚な気配なのは当日を迎える前から判っていたんだけど」

「店としては、全メニュー制覇されない方がいいからな。厨房で『アワレみ隊が来るなら牛さしみは無しだ』なんて事前に指示が飛んでいたりして」

「ははは」

笑いも、どこか乾燥気味だ。さあ、店員さんが戻ってきたぞ。緊張の一瞬。

室内が静まりかえる。
「すいません、今日は無いんですよ」

あー。

やっぱり、というかなんというか。

あの幻の牛肉さしみは、今日も姿を現すことはなかった。ホンマにメニュー自体が存在するんか、と疑惑の目を向けてしまうが、実際に今回メンバーとして参加しているぜうじ氏が「牛肉さしみを食べた」ときっぱりと証言する以上、実際に存在するのは間違いなさそうだ。

つくづく運がないのぅ、わしら。

「何とかならないんですか?土下座しろと言われたら、土下座しますから」

プライドを捨て、牛肉さしみのためにとんでもない事を口走ってしまう。それだけ、こっちも必死だ。

「いや、土下座されても」

まあ、そりゃそうだ。土下座して牛肉さしみが出てくるんだったら、一日5回跪いてお祈りをしているイスラム教徒は毎日が牛肉さしみ三昧だ。

「すいません、傾向と対策を知りたいんですけど、やっぱり土曜日って牛肉さしみって無いんですか?新鮮な肉が入荷しないとダメだって聞いたんですけど」

「さあ・・・そこまではちょっと」

接客担当の店員さんでは、厨房内の事情まではよくわからないようだ。傾向と対策すら把握できないとなると、僕らは今後どうしたらよいのか?

しつこくヒアリングしようとしていた僕だったが、それを遮る形でしぶちょおが店員に尋ねた。

「上特特寿き焼き、今日はありますか?」

しぶちょおは頭の切り替えがスムーズだったようだ。ダメならダメで、ならばメニュー外の上物を食べる事で憂さ晴らしをしようという事にしたらしい。

「確認しますね。ちなみに何人分になさいますか?」

「ええと・・・」

一瞬、全員がお互いの顔色をうかがってしまった。頭の中が牛肉さしみ一色だったので、とてもじゃないけどすぐに寿き焼きに思いを馳せる事ができなかったからだ。しかも相手は一人前2,800円という結構なお値段。即答できる額ではない。

とはいっても、目標をロストしてしまったわれわれとしては、上特特という極上の美味でも食べないと気が収まらないのも事実。おずおずと「僕も」「オレも」と手をあげていき、最終的には全員が上特特を注文することになった。

上特特寿き焼き

「なんかねえ、いまいち気持ちがスッと上特特に行かないんだよな」

ぼやきながら待っていたら、店員さんが肉を持ってきた。

おおおおお。

さっきまでのぼやきはどこへやら、このサシが入った肉を見ると、誰しもがどよめいてしまう。見事な肉だ。

しかし、これで4人前なのだから切ない。肉一片が大きいとはいえ、一人二切れ換算だ。2,800円だからといって、盛りが良いということは全くない。「良い物を、少しだけ」だ。

「これを牛肉さしみにして食べちゃえばいいじゃん。生で」

誰しもが思う事をばばろあが口にする。

「すいません、これ牛肉さしみの代わりに生で食べてもいいですかね?」

聞いてもしょうがないことを、あえて店員さんに聞いてみる。

「いや、それはちょっと」

そりゃそうだ。

仏様が四つ足動物を食う

なぜかぜうじ氏が興奮のあまり大仏マスクをかぶりはじめたので、記念撮影をすることにした。

「あっ、店員さんちょっと待ってくださいね、調理するのは写真を撮ってからで」
「はあ」

鍋に肉を投入しようとしていた店員さん、なんのこっちゃわからん状況に呆気にとられている模様。

端から見ると、ますゐの情報を知った一見さんがオフでやってきました!待望のますゐ!うわぁ、うれしいなあっていう光景に見えるかもしれない。でもわしら、ますゐに何十回と通っていることかわからない。それでも、毎回こうやって新鮮な喜びと感動を味わっているのだから、ありがとうますゐ。そしてごちそうさま。

「待て大仏。お前仏教なら四つ足動物食べちゃいかんのじゃないんか」
「あれ?」
「まあ、既にお酒を飲んでいるわけで・・・お酒が『般若湯』なら、この寿き焼きはさしずめ『般若肉』か」
「相変わらず肉じゃん!」

ぜうじ氏、大仏のままだと肉を食いそびれる事に気づき、慌ててマスクを脱いでいた。

寿き焼きの職人技を見る

店員さんが慣れた手つきで肉を投入する。

じぅ。

ああ、ええ音よのぅ。

携帯の着信音にしたいくらい、いい音だ。女性トイレ用擬音装置「音姫」のサウンドにしたいくらいだ。

・・・ちょっと言い過ぎたかもしれない。

しかし、一同このシズル感たっぷりな音に、うっとりと耳を澄ませるのであった。

ねぎが一杯の鉄鍋

肉、豆腐、玉ねぎ、青ネギ。青ネギは細めのもので、このあたりが広島っぽい。関東風のすき焼きではないことがよくわかる。

あと、上特特の場合「おまけの一品」があるので、今回は「白菜」をセレクトした。

肉を見たときの興奮が一段落してくると、ふつふつと沸いてくるのが「ああ今回も牛肉さしみはダメだったか」という気持ちだ。落胆、というのは特にない。どうやっても解けないパズルを前に腕組みをしている気分だ。

「もうダメだな、これは。広島の人間に任せるしかない。これ以上、牛肉さしみに振り回されるのは僕はもう無理だ」

僕の口からついて出た言葉は、事実上のギブアップ宣言だった。

「広島の人間で、カメラ持ってますゐに行ってくれ。で、牛肉さしみを食べる事ができたら、その写真を送ってくれ。全メニュー制覇企画のメンバーが牛肉さしみを食べたって事で、この企画はもういいだろ。もう、盆と正月以外で広島を訪れるなんてことは当分ないだろうから・・・。」

寿き焼きを早く食べよう

「肉が煮えたで。早よぅ食わんと、肉がかとぅなるで」

せっかく深刻な話をしていたのに、みんなはそれどころじゃないんである。こらー。

「それにしても、どうすりゃいいんだろうか?こうやって団体で訪れているから、正体バレて注文できないなんてことはないか?」
「だったら、バラバラに店を訪れて、牛肉さしみを注文してみるか?」
「確率論で、10人バラバラに訪れたら一人くらい食べることができるかもしれない」
「確率論、なのか」
「ロシアンルーレットみたいなもんだ」

寿き焼きに驚愕するおかでん

おしゃべりはそこまでにして、上特特を頂く。

「寿き焼き食べちゃうと、他のメニューをがっつり食べるって気がしなくなるんだよなあ。何だか、これだけで満足しちゃって」

前回がまさにそうだった。

「では、その満足度高い肉を頂きましょう」

肉を鍋からすくい上げる瞬間の写真。

「相変わらずおかでんはカメラ向けられるとわざとらしいなあ」

という陰口が聞こえる。

確かに、写真を改めて見ると、一体何にそんなに面食らっているのかさっぱりわからない。牛肉だと思っていたら、実は鶏肉だった!なんていう顔ではないか。

自己顕示欲の塊みたいな印象になるので、あまり自分の写真を並べたくはないのだが、ご参考までに。

上特特寿き焼きを食べたら、こんな顔になりますというサンプル。使用前、使用後みたいなもんだ。

左から順に、「うれしそうにむしゃぶりつくの図」「肉の甘みと旨みに幸せを感じているの図」「ごっくん、と飲み込んで恍惚の表情を浮かべているの図」

ぜひ皆様もお試しください。大なり小なり、似たような顔になるはずです。

しぶちょおはご飯を満喫

お酒を飲まないしぶちょおと、仕事中抜け出して参加したゴルファー氏はご飯を食べていた。

これまた、たまらなく旨そうな光景だ。

顔から、幸せがにじみ出ている。

この顔なら、写真の首から下を隠して、「さて今何をやっているのでしょう?」と質問をされても「上特特寿き焼きを食べているところ!」と即答できそうな気がする。きっと気がするだけだとは思うが。

牛肉たたき

牛肉さしみトリビュートということで、牛たたきを頼んでみた。

んー、牛たたきはちゃんとスタンバイしてるんだよなあ。牛肉さしみがダメで、これはOKなんだから不思議だ。

「あのですね」

おばちゃん店員を呼び止める。

「この焼けた外側の肉を取り除いて、生っぽい中だけを食べて『牛肉さしみ』って名乗ってもいいですかね」
「いやーそれは。牛肉さしみは当店では自信をもってお出ししているものなので」

一体どんな解答を期待していたんだ、自分は。ますゐオリジナルブランドのお酒を飲んでいたせいもあって、ちょっと酔っぱらってきたようだ。

「えーいやけ酒よ」

といいつつくいくい飲んでいたので、結構回りが早い。

先ほどとは違う店員さんだったので、「あの、念のため聞いてみますが、牛肉さしみって今日ありますか?」と、先ほどと全く同じ質問をしてみた。まさか店員さんによって回答が違うとは思えないが、念のためだ。

しばらくして、店員さんが戻ってきた。

「やっぱり無いそうです」

そりゃそうだ。妙に納得。

ベーコンエッグ

目標感が定まらなくなった僕は、牛たたきの他にベーコンエッグを頼んでいた。他の人たちがサービストンカツなどを注文しているというのに、自分だけ妙なオーダーだ。

いざ料理が並んでみて気がついた。

「あっ、自分のオーダーした品物、どれもますゐソースがかかっていない!」

今回は、牛肉さしみはおろか、ますゐソースすら堪能できない羽目に。何しにますゐに来たんですかあなたは。

サービストンカツ

寿き焼きを食べ終わったので、ぞくぞくと一品料理が運ばれてきた。

サービストンカツは、さすがに定番中の定番だけあって、大半のメンバーが注文していた。お座敷席で注文した場合の特権として、既にカツが切られている状態でサーブされる。ナイフとフォークを使わなくて良いという配慮だ。

ハンバーグステーキ

こちらはハンバーグステーキ。

ぷっくりとラグビーボールのようにふくれあがっている。もう少し丸いと、巨大ミートボールのようになってしまう。

はっ、今気がついた。

ミートボールにますゐソースをかけたら、おいしいかもしれん。普通は、甘酢あんかけだけど・・・。今度ぜひトライしてみたい。もし成功したなら、お子さまのお弁当の中に、ぜひ!

赤だし

赤だし。

しぶい。しぶすぎます。

でも、お店で唯一のスープものなので、「ご飯を食べるときは汁ものが無くちゃ」という人にとっては必需品だ。

数年前までは、この赤だしすらレギュラーメニュー上には存在しなかった。あくまでも「洋食屋」でありたかったのかもしれない。

酢の物

「時価」である酢の物は今回も健在。見ると、きゅうりと海老だった。以前頼んだ時と同じ構成。

しかし、なぜこれが時価なのかが相変わらずよくわからない。魚介類メニューについては肉屋であるますゐとしては価格コントロールできない、ということなのだろう。

ミニサラダ

全メニュー制覇の対象ではないが、ミニサラダが前回訪問時に発見された新メニューだった。250円。忘れないように、ちゃんと注文。

「ミニ」というわりにはしっかりとしたボリューム感だ。一人前としては十分な量といえる。

「キュウリにこういう小細工をするあたり、ますゐらしくないというか、なんというか」

ゴルファー氏が笑いながら言う。確かにその通りだ。

このメニューを頂いたことにより、いよいよ残されたメニューは「牛肉さしみ」だけとなった。でもやっぱり食べられないんですよね、これが・・・。