溶けるのが正義【嬉野温泉とろとろ温泉湯どうふガーデン】

湯どうふガーデン

湯豆腐を食べ歩こう。

「うわあ!お店がたくさんありすぎて、どれを食べていいのかわからないよ!」

ということはない。なにせ、5店舗だから。

そして、5店舗のチケットを一括で受け取っているので、5店舗全部食べ歩きが当たり前だ。僕だけが意地汚いわけではない。失敬な、「誰が意地汚い」だ?

お店ごとのバラ売りチケットは売っていなかったと思う。なので、小食の人は仲間と助け合って、ちょっとずつ食べるといい。あ、そういえば回りを見渡すと、女性客が多い。湯どうふという食べ物は、女性受けがよいのだろう。豆乳!大豆イソフラボン!ということか。

男はどうした?植物性蛋白質なんてつまらん、男は黙ってホエイプロテイン(乳由来の蛋白質)だ!とでも考えているというのか。

「あ、男性もいるな」と思ったら、大抵カップルだった。なんだなんだ、この空間。男性一人の僕は、桶を小脇に抱えつつちょっとロンリー感を覚えた。

気を取り直して、和多屋別荘、というお店をまずは訪問。

湯どうふガーデン

目に付くのは、大きな木枠と、ステンレス製の仕切り。漢字の「田」みたいになっている。

おでん屋さんにありそうな鍋だけど、これが嬉野温泉自慢の湯どうふ調理器だ。

仕切りがあるのは、豆腐を投入するタイミングを分けたいからだろう。大鍋でごちゃ混ぜに茹でると、殆どトロけていない豆腐をお客さんに振る舞ったり、逆にドロドロに溶けて原型を留めていない豆腐になってしまう。

既に今日一日の豆腐が溶け出して、お湯が真っ白になっている。これ、最初の頃は透明な温泉水だった筈なのに。このビジュアルだけで、「おお、さすが嬉野温泉!」というインパクトがある。

このままずっと豆腐を補充し続け、煮続けたら一体どこまでドロドロになるのだろう?温泉水から湯葉が作れるかもしれん。

いや、さすがに「豆腐から一旦溶けたもの」が再凝固するとは思えないので、湯葉にはならないか。

湯どうふガーデン

湯どうふ1軒目。

「薬味はお入れしてよろしいでしょうか?」と確認され、おっ!?と思った。これは、5店舗すべてのお店で確認された。

どうやら、「薬味なしで、豆腐のストレートな味を楽しむ」というやり方もあるらしい。それは通っぽくてかっこいいな。僕が蕎麦を食べる時に、「まずはつゆに一切浸さずに蕎麦をすする」というようなものか。

ちょっと悩んだけど、「はい」と答えた。ツウな食べ方もいいけど、今日はまず標準的な食べ方に徹してみたい。

軽く煮崩れた豆腐は、イベントのタイトルどおりとろとろだ。しゅるっと胃に入る。つゆもまた、うまい。風邪を引いているときにこれを食べたい、と思った。しかし風邪を引いたなら、おとなしく炭水化物のおかゆを食べた方が消化に良いのかもしれないけど。

でも、こうやって「おかゆ」と対比できてしまうのが、嬉野温泉の「湯豆腐」だ。胃に流し込まれた時点で、体に栄養が行き渡る気がする。

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「茶心の宿 和楽園」。

宿も豆腐を作っているのか!と感心させられた。自家製豆腐を振る舞う宿。さすが嬉野。あと、「茶心」というキーワードを使っているのも、嬉野ならではだ。

嬉野、といえば湯豆腐と温泉ばかりではない。お茶の産地でもあるのだから。

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茶心の宿、というだけあって、薬味にお茶を少々振りかけるという特徴がある。

タイミングの問題もあるのだろうけど、1軒目よりもこちらの方がとろけ具合が強い。

「ポテトサラダのジャガイモの舌触り」に人それぞれ好みがあるように、「嬉野温泉の湯どうふ」も、とろけ方に人の好みが分かれそうだ。だからこそ、こういう「お店ごとの食べ比べ」ができるのは嬉しいし、楽しい。

豆腐そのものの味も各店舗違うし、「この味だったら、これくらいとろけた方が、きっとうまい」という「味と食感のベストポジション」ってのがきっと人それぞれにあるはずだ。

湯どうふガーデン

全部のお店に、同じ「湯豆腐製造機」が置いてあった。「製造機」といっても、温泉を適温で茹でているところに豆腐を投入するだけだ。時折、水タンクに入った温泉を、追加で注ぎ込んでいた。

豆腐は、ひっきりなしに補充されている。なにげに大変だ。煮すぎたら溶けるし、かといってお客さんが来てから調理ヨーイドンでは遅すぎる。

そして、崩れる寸前のエロい豆腐は、女性以上に丁寧な取り扱いが必要だ。雑に扱うと、すぐに崩れる。なので、精密機械でも扱うように、店員さんはそーっとお玉で豆腐をすくい上げていた。

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福田とうふ店。

お客さんがいっぱい。

「豆腐を鍋からすくって、薬味をふりかけるだけでしょ?なんで手際が悪いの?」

と思うことなかれ。それだけ、豆腐を鍋からすくいあげるのが大変なのですよ。行列の長さ、イコール、豆腐をそろりそろりと丁寧に扱っている証拠。

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人によって、提供される豆腐のサイズもとろけ具合もまちまちだ。

「あっ、僕の豆腐、さっきの人のよりも小さい」なんて、ケツの穴の小さいことを考えてはダメだ。こういうばらつきも、楽しみに変えるのが「煮溶ける」湯豆腐の特徴なんだから。

そんな自分を恥じつつ、熱々の豆腐を頬張る。うん、3杯目になっても飽きがこないうまさだ。

とはいえ、豆腐の味はあっさりで、たれは醤油ベースだ。豆腐よりも醤油の味の勝ち、というお店も中にはあった。たれは敢えて少なめにしてもらって食べる、というのが食べ比べる上では正解だったと思う。

湯どうふガーデン

藤川豆腐店。

湯どうふガーデン

前売りチケットは、1日ずつ、「昼の部(3時間)」と「夜の部(3時間)」に分けられている。つまり、4日間の会期で、合計8種類のチケットが売られていることになる。

なんでここまでチケットを細分化するんだろう?好きなときに来場させても良いのに?と思ったが、なるほど納得だ。なにせ売り物は湯豆腐。一度にどかーっとお客さんが来られても、豆腐が煮崩れるのが間に合わない。豆腐のご機嫌が最優先のイベントなので、ご機嫌に溶けてくれるくらいの時間的余裕がなくては。

「折角来たけど、全然溶けてなかったよ。お湯が白かったくらいで」なんてことをお客さんに言われてしまったら、大失態だ。溶けさせてナンボ!溶けなけりゃ、単なる湯豆腐!なのだから。

その点、この日はうまく回っていたと思う。

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このめの里。

湯どうふガーデン

奇をてらって、「うちは豆腐の上に肉味噌をかけるぞ!」とか「磯風味のふりかけをかけました」というお店は一軒もない。どのお店も、愚直なまでにストレートな豆腐で、湯豆腐で、そして薬味だ。

じゃあ、食べていて味に飽きてくるのか、というと、それが全くないのだから面白い。1軒食べると、すぐまた次の湯豆腐が食べたくなる。そんな不思議な魅力が、この嬉野温泉の湯豆腐にはある。

なお、湯豆腐の器は、毎回桶に入れている。入れなくても食べられるし、むしろ桶に入れないほうが楽なのだけど、折角貰ったものだから有効活用しなくちゃ。

湯どうふガーデン

5店舗の湯豆腐を食べ終わり、満足して会場を後にした。いやあ、湯豆腐はうまいな。

改めて、湯豆腐目当てで嬉野温泉に行ってみてもいいな、と思ったくらいだ。

周りにいる女性客は、「お豆腐だけでお腹いっぱいになっちゃったね」と友達同士で話し合っているが、僕はちょっとだけ微妙。えーと、どうしようか。改めて夕ご飯を食べるにしては、そこまで空腹でもないし。煩悩に悶々としながら、品川をあとにした。

さて、木桶の有効活用法を考えなくちゃ。これから先、しばらくは「うれしの」と焼き印が押された木桶が家のどこかに置かれることになる。

(この項おわり)

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コメント

コメント一覧 (2件)

  • amariftさん>
    ちょっと広告等に埋没してわかりにくいですが、記事の続きへのリンクがちゃんとあります。

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