浅草鷲神社の酉の市に行く

酉(とり)の市。

ご当地性があるのかどうか詳しくないのだが、僕は東京に住むまでその存在を知らなかった。埼玉県に住んでいたときでさえ、知らなかったくらいだ。

そもそも首都圏にはイベントが多すぎだ。伝統的なお祭りから、最近作られたイベント、その他大小さまざまの手段で人間のアドレナリンを放出させようとあちこちで何かが行われている。なので、どこぞの神社でお祭りがありますよ、と言われてもよっぽどご近所でもない限り「ふーん」と右から左に聞き流してしまう。

たとえば、「江戸三大祭り」と呼ばれる規模の大きなお祭りが東京にはある。でも、僕はとっさにその3つを答えることができない。単に無知だから、というより東京のイベントの多さに埋もれてしまうからだ。

あと、たとえ覚えていたとしても、そういうお祭りに行くととんでもない人出になるのは目に見えている。スタジアムだとかコンサートホールの混雑なら、整然と人が動くからさほど苦にはならない。でも、街中で行われるイベントの場合、人が右へ左へとランダムに移動するため、混沌とする。僕にとってはあまり気持ちの良い空間ではない。

そんなわけで、これまで一度も三大祭りを見に行ったことはないし、そもそも三大祭りがなんなのか覚えてもいない。てっきり、鳥越神社のお祭りが入っていると思ったら違った。三大祭りは「富岡八幡宮」「日枝神社」「神田明神」なんだそうで。

そんな僕でも、浅草鷲(おおとり)神社の酉の市にはここ最近毎年訪れている。

昼間は車が通る道路の両脇に屋台がひしめき、不夜城として営業している様は壮観。なにせ、酉の市当日は24時間営業だ。

そして、そんな屋台が並ぶ道は、神社が面している大通り(国際通り)とは平行・水平ではない、ぐにゃっと曲がった形になっっている。すぐ裏手が江戸時代の遊郭だった吉原エリアということもあって、町の作りがそのあたり一帯だけ向きがズレているからだ。そういう道の不思議さも相まって、面白い。

酉の市は、毎年11月の「酉の日」に開催される。暦の並びによって、11月中に2回酉の市が立つ年があれば、3回酉の市が立つ年もある。

「福をかき寄せる」という意味で、美しく派手に飾り立てた熊手を境内にずらりと並ぶ熊手屋さんの屋台で買い求める、というのがこのお祭りのメインだ。はじめは小さな熊手から始めて、翌年はそれよりも大きな熊手に買い替える、というのが縁起が良いんだそうだ。

なお、小さな熊手でも結構なお値段がする。数百円で買えるなんてものはなく、おそらく万単位になるので(値札は店頭に出ていない。店員さんに聞かないといけない)最初の一歩を踏み出しづらい縁起ものだと思う。

あと、最近のマンションは「下駄箱」や「床の間」がない。なので、熊手を買っても置く場所を設けるのは難しい。なので個人で買うというより、中小企業のオフィスの片隅に祀られていることが多い印象だ。

今年は、鷲神社の境内に入るのは控えた。というのも、身内の不幸があってまもなく、まだ喪中だからだ。ケガレを神社に持ち込むわけにはいかないので、神社周辺の屋台だけを見て回る。

屋台、という文化は独特だ。

「イベントにおけるキッチンカー」だとか、「ブース」はエスニック料理やご当地料理といったトリッキーな料理を提供することが多い。一方、縁日屋台というのは昭和な雰囲気を漂わせる外観とメニューを維持している。

しかし、時代が止まったかのように進化がないのかというと、いにしえの雰囲気を残しつつ進化が続いているのがとても面白い。ドラスティックな進化、奇抜なメニューというのは少ないけれど、「ほう?」という驚きはところどころに混じってくるので、縁日巡りは楽しいものだ。

たとえば、ここ最近はLED照明、しかも相当明るいやつを使うお店が増えたため、目がチカチカする。LEDの光は目に突き刺さる。

あと、キャラクターものを扱うお店はたいていあって、鬼滅の刃グッズを扱う屋台が2022年は引き続き存在しつつも、SPYxFAMILYの屋台があたのも印象的だ。集英社、版権ビジネスを頑張ってるんだな。なお、「チェンソーマン」のグッズを売るお店はなかった。ちょっと屋台で売るには難しいコンテンツだったか。

どういう料理を扱うお店が多いのか、から人気度合いを測ることは意味があるのかないのかわからない。

おそらく、こういうのは元締めとなる組織があって、どのジャンルのどういったお店をどこに配置するのか、うまいこと差配することをやっているはずだ。ご自由に出店してください、なわけがない。

とはいえ、ざっと見ていて言えることは、「ベビーカステラのお店がやけに多いな」ということだった。そして、そのベビーカステラ屋さんの前にはどこも列ができていた。大人気だ。

値段が手頃なこと、混雑した場所でも食べやすいことが好まれている理由だと思う。この酉の市、ゆっくり食事ができる場所などどこにもない。殺伐とした人混みが延々と続く。なので、箸を使って食べるものよりも、手づかみできるものの方が気が楽だ。

ちなみに、屋台の王道ともいえるたこやき屋台は少なかった印象。

韓国料理であるチャプチェを売る屋台がある、というのもちょっとおもしろい。屋台食べ歩きを考えているとき、うかつにこれを食べるとお腹いっぱいになってしまいゲームオーバーとなるので注意が必要だ。ただ、「ほぼ麺ばっかり」の焼きそば屋台よりも野菜が多く、お得感がある。

マンションや民家が並ぶ道路沿いがこの写真のように屋台だらけ、人だらけに。これが酉の市の日は早朝から夜中まで続くのだから大変だ。「自分ちの眼の前でお祭りをやっている!」と楽しく思えれば良いのだけど、人が多すぎて外出がおっくうになるだろう。車を出し入れするなんて到底無理だし。

屋台はあれこれあるので、食べ歩きをしてみたくなる。でも、この情報量の多さ、お店の行列、人口密度の高さを前に気持ちが萎える。ざっと見て回っていると、それだけで終わってしまうので、「あ、これは食べてみたい」と思えるお店があったら、後先考えずにそのお店の行列に並んだ方がいい。即断即決できないと、もう面倒くさくなる。

コロナでしばらく人が密集する経験をしてこなかった日本人たちなので、このお祭りのように人が多い場所に慣れていない。なので、人の多さに苛立っている人、通りすがりに肩がぶつかって険悪な雰囲気になる人々、そういうシーンがあちこちで見られた。

実際僕だって、大勢いる人を華麗にかき分けながら前にすすむことに随分ストレスを感じた。

写真は「牛スジネギ焼き」のお店。ネギ焼き(ネギが具のお好み焼き)を焼いた上に目玉焼きが乗っていて、パック詰めをする際に大鍋の牛スジ煮込み(といっても、こんにゃく率が高い)をかけてくれるというもの。ちょっとめずらしい料理で面白いので写真を撮った。このお店では過去に何度か食べたことがある。

(2022.11.04)

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