2月の我が家は、立て続けに来客がある一ヶ月だった。お客さんが来てくれることはとても嬉しいので、これからもどんどん来て欲しい。わざわざ我が家に来てもらうからには、「来てよかった」と思ってもらえるような環境作りを心がけていくつもりだ。
知人・友人が来宅した際、コーヒーが苦手ではない人ならばコーヒーを振る舞うことにしている。いしが僕の淹れたコーヒーをとても気に入っていて、来客にも振る舞いたいと言うからだ。
自宅で豆の焙煎をやっているんですよ、と言うと大抵驚かれる。そりゃそうだ、仮に驚かなかったとしても、社交辞令として驚いてみせなきゃいけないポイントだ。
「すごいですねー」と言われる僕も、「まあ、これくらいしか楽しみがないんで」などと変な謙遜発言を返し、この話題はそれで終わる。
コーヒーというのは、あれこれこだわっているのをひけらかすと、随分鼻に付く。なので、ほどほどにしておく必要があると僕は思っている。自家焙煎もそう。「すごいですねー」と言われて浮かれてべらべらうんちくを喋ってはいかん。
とはいえ、シロウト自家焙煎という趣味はお客様をもてなすのには厳しいものだ。だって、プロが焙煎した豆のほうがうまいに決まっていて、僕が焙煎したものは味が落ちる場合が多いからだ。来客に、「我が家の自家焙煎コーヒーです」といって振る舞う一杯は、絶品か?と問われると若干怪しい。
客にとっては、テーブルの上にだされた一杯のカップのコーヒーにすぎない。自家焙煎だろうがなんだろうが、関係のない話だ。
だったら、もっとコーヒーに演出を加えてからお客さんに提供したい。僕はそう思うようになった。
具体的には、コーヒーのハンドドリップだ。生豆を自家焙煎し、飲む直前に粉を挽き、そして焙煎した僕自らがお客さんの前でハンドドリップする。余計な解説はいらない。その姿をお客さんに見てもらうだけで、何かしらの迫力を感じ取ってもらえるだろう。うんちくや自慢話をするよりも遥かに迫力がある。
これまでも来客時にはハンドドリップをやることが多かった。しかし、一度にたくさんのコーヒーをドリップしたいので、V60ドリッパーで一度に5人前を淹れていた。
コーヒーのハンドドリップ経験がある人ならわかると思うが、ドリップは淹れる量が増えれば増えるだけ難しくなる。ブルーボトルコーヒーなどのお店で、オーダーが立て込んでも一度に二杯三杯分をまとめてドリップしないのは、味がブレるからだ。
一度に5人前のコーヒーを安定的にドリップする、というのはかなり難しい。少なくとも僕は未だに満足いく淹れ方ができていない。
そうなると、我が家にあるコーヒーメーカー、「珈琲王」でドリップしたほうがマシじゃないか、ということになってくる。つまり、ハンドドリップの否定だ。これは悲しい。
そんなわけで、今年に入ってからはカップごとにコーヒーを淹れる方式に切り替えた。夫婦ふたりで飲むなら、カップ2つに、ドリッパー2つだ。
自家焙煎もそうだけど、どんどん自分にとって不便なほう、不便なほうへと邁進しているのは我ながら不思議だ。コーヒーメーカーでコーヒーを淹れればいいじゃん、の一言で済むことをそうはさせない。
しかし、不都合があった。ドリッパーは我が家にあったものを寄せ集めただけなので、1つはハリオのV60、もう1つはカリタのものだからだ。ハリオは1つ穴のドリッパーで、カリタは3つ穴のドリッパー。なので、コーヒーが抽出されるスピードが全然違う。「右のドリッパーにお湯を注いで、次に左のドリッパーにおなじだけお湯を注いで」と交互均等にお湯を注いでいると、ハリオのほうがお湯不足になる。なので、ギクシャクした淹れ方になって、結局どっちのカップのコーヒーもいまいちな味になった。
そこでいよいよ物欲発動。新しいドリッパーを買い足した。
プラスチック製のドリッパーはどのメーカーのものを買ってもせいぜい500円程度のものなので、高くはない。しかし、ドリッパーをキッチンの片隅に山積みにしておくわけにはいかないので、本当にこのドリッパーを買ってよいのか、相当悩んだ。
買ったドリッパーは、HARIOのペガサスドリッパーというものだ。なにそれ。聞いたことがなかった。
HARIOといえば、円錐形フィルターで1つ穴ドリッパーの「V60」が圧倒的知名度を持つ。というか、1つ穴ドリッパーしかやっていない会社だと思っていた。しかし実際はいろいろ意欲的な新作を出していて、このペガサスドリッパーもその一つだ。
ペガサスドリッパーは台形フィルターを使うという点でカリタ、メリタと同じ。しかし、カリタが3つ穴、メリタが1つ穴のドリッパーなのに対し、このペガサスドリッパーは2つ穴という特長がある。ややこしいなぁ、もう。
他にも細かい違いがあるのだけど、マニアックになってくるので割愛。
ちなみに、HARIOは1つ穴・円錐ドリッパーだけどこんな商品も出している。
V60ドリッパーの派生形で、コーヒーをドリップする際に必須とされる「蒸らし」の工程が不要、というものだ。最初にじゃばーっとお湯を注ぎきってしまって良いという。これも気になる。これも欲しい。でも、「買ってもいい?」とパートナーにお伺いを立てるのはちょっと面倒なので、様子見。
ペガサスドリッパーが我が家に導入されてみて、結果は上々だった。これまでのハンドドリップよりもコーヒーのクオリティが確実に上がった。
V60ドリッパーは、滴下するスピードを調整することができる自由度の高さがある。しかしそれはドリップする人の技術にかかってくるので、スピードが早すぎると味が薄いし、遅いとえぐいコーヒーになる。その点このペガサスドリッパーで淹れたコーヒーは、V60よりも味はしっかりめ、かといってカリタで淹れたコーヒーよりはスッキリとした感じに仕上がった。・・・と僕は感じた。つまり、とても良い塩梅のコーヒーが仕上がった、というわけだ。これはいい!
あと、この際だからコーヒーを淹れるのに要する時間とお湯の量をきっちり計ろうぜ、という事を決心した。一般的にコーヒー1杯は120ml~150mlと言われているが、実際にマグカップで飲んだりする際はその1.5倍くらいの量をカップに注ぐことが多い。そのため、一体どれだけのお湯を注いでいるのか、豆は何グラムが適量なのかが全然わかっておらず、毎回目分量になっていた。これはよくない。
ということで導入したのが、ドリッパースタンド。
目についた中で一番安いものを選んだけど、これが家に届いたときはちょっと感慨深かったなぁ。いよいよ来たか、と思ったからだ。欲しいと思ってはいたけれど、台所の邪魔になるからという理由で購入を躊躇していたものだからだ。
ドリッパースタンドというのは、カップとドリッパーの間に隙間を作るものだ。なんでこんなものが必要なのかというと、最大の理由は「今、カップにどれだけのコーヒーが滴下されたのか」を目視できるからだ。
写真は、ドリッパースタンドの上にペガサスドリッパーをセットした図。マグカップとドリッパーの間には、数センチの隙間ができた。
そしてマグカップの下にはキッチンスケールが置いてある。こうすることで、今マグカップ内に何mlのコーヒーが滴下されたのかを正確に知ることができる。
もし、カップの上に直接ドリッパーを置き、それをキッチンスケールで計量したらどうなるだろうか?計測できるのは、「ケトルから注いだお湯の量」だ。そのお湯は、コーヒーの粉やフィルターがある程度吸収するので、カップに注がれたコーヒーの量そのものではない。
このドリッパースタンドが導入されたこと、さらにはドリッパーを同じものに揃えたことでコーヒーの味が確実に上がったし、味のブレがようやく減った。とても良い買い物をした。
また、コーヒーがドリッパーからマグカップにポタポタと注がれていく様子を観察できるのがいい。満足感が高い。これまでだと、その様子が殆ど見えなかった。カップとドリッパーとの間に隙間ができたおかげで、音も匂いも伝わってくるので、ドリップしがいがある。
来客がこのドリップを見たら、感心するだろう。自家焙煎だけでなく、こんなドリップもやってるのか!と。
コーヒースケールも、数年ぶりに日の目を見て嬉しそうだ。このacaiaのコーヒースケールは相当高価なシロモノで、今となったら家族を説得して買うのは無理だ。
買った当時は、タブレットと連動させて、プロのドリップ手法を模倣するための練習ツールとして活用していた。しかし、どうもbluetoothの接続に難があり、タブレットと繋がらないことが多かった。さらに、acaiaがアプリの提供をやめてしまったので、今では昔のような練習はできなくなった。
今回コーヒースケールを復活させたのは、デジタル表示の画面左側にドリップ経過時間、右側に現在の重さを表示させることができるからだ。コーヒーを3分きっかりで淹れ終え、しかも狙った分量をドリッパーから落とし切るスピード調整ができるのでとても便利だ。キッチンタイマーとキッチンスケールを並べてやっても同じことは可能だけど、目線が右へ左へと泳いでしまうのでわちゃわちゃする。このacaiaのコーヒースケールのように、1か所をじっと見ているだけでドリップのコントロールができる、というのはとても快適だった。
(2024.03.03)
コメント
コメント一覧 (2件)
拘ってますね。私はまったく自己流です。
オーディオやカメラ等は沼で有名ですが、コーヒーも危険ですね(笑
ドリッパーはコレ使っててhttps://www.makuake.com/project/shindo8/
ポットはグースネックにしてるくらいです。
今は飲むのが私一人なので、豆は100gを2種類常備するに留めています。
ティータさん>
コーヒーは味を決める上で数多くの変数があって、その変数をどう組み合わせるかで味が変わって、そして味の好みは人それぞれなので正解がない、というのが複雑です。
そしてさらに、ドリッパーやサーバー、カップにいたるまで趣味の世界の要素が入ってくるからややこしい。
ティータさんがお使いのドリッパー、面白いですね。ステンレス製ということでインダストリアルな雰囲気が出ている。こういうのも家に一つあると楽しい。