東京都港区、東京タワーからほど近いエリアが広範囲に再開発され、「麻布台ヒルズ」という名前で街開きが行われたのが2023年11月。
デベロッパーの森ビルが30年近い年月をかけて土地の購入、都市計画の策定を行ってきた肝いりの不動産だ。
土地の取りまとめに時間を要することを見越して、確保できた土地には森ビル社員向けの社員寮を作ってそこの住まわせていたという逸話は今後も語り継がれていくだろう。
森ビルといえば、古くからの港区の大地主さんでもともとチートな存在なのだと思っていたが、実際はとんでもなく時間をかけて土地を買い集めていたりする。
それにしても、つい数年前に虎ノ門ヒルズを開業させたというのに、それから間もなく今度はすぐ近くに麻布台ヒルズだ。森ビルの資金力とプロジェクトマネジメント力は本当にすごい。
ちなみに虎ノ門ヒルズは地下鉄日比谷線の新駅を新たに作ったし、今回できた麻布台ヒルズは日比谷線神谷町駅と直結させた。地下通路を地下鉄駅に繋げるのはとんでもなく建築コストがかかるのだが、そういうのを平然とやってのけているのも、すごいことだ。
麻布台ヒルズは8.1haからなる巨大な土地に、4つのモールとオフィスとレジデンスが入る高層ビル、そして広い公開緑地からなる。
そのうち特に目玉となるのが高さ330メートルで2024年時点で日本最高の高さ・325メートルとなる森JPタワーだ。森ビルは、土地の取得にものすごい時間とコストを払ったうっぷんを晴らすかのように、アホみたいに高いビルを建てる傾向がある。六本木ヒルズも、「やりすぎだろ!」という太さと高さのビルを建てて東京の景観を一変させてしまったし、虎ノ門ヒルズもそうだった。そして今回の森JPタワーは、すぐちかくの東京タワーの眺望を堂々と妨げる、とても残念なビルとなった。
旅行先などで「あっ、富士山が見える!」という眺望があったら、誰しも嬉しくなる。それと同じで、東京のあちこちで「東京タワーが見える光景」というのは人々から愛されてきた。でも、そういうセンチメンタリズムは森ビルには通用しないらしい。そりゃそうだ、事業総予算は6,000億円近いんだぞ。センチメンタリズムじゃ一円も儲からない。
東京タワーの高さは333メートル。森JPタワーのほうが少し低いのだけど、先端がとんがんったタワーVS箱型のビルでは、圧倒的に箱型ビル(森JPタワー)、しかも濃い青色の外観のほうが見た目のインパクトがある。結局、東京タワーが見劣りするようになってしまった。
レインボーブリッジ方面から東京タワーを見ると、東京タワーのバックにこの森JPタワーがそびえている位置関係となり、「なんだあれは?」と二度見してしまう。
そんな超高層タワー、一体何に使うんだ?と思うが、上層階はレジデンスになっている。つまり、超富裕層向けの住居エリアだ。「最上階は夜景を見下ろせる展望レストラン。記念日にぜひ」みたいな発想は所詮庶民のものだ。日本でもっとも高いビルの上層階は、金持ちだけが味わえる、特別な空間となる。すげえ。
レジデンスを運営するのは「アマン東京」で、その詳細は庶民にはよくわからない。テレビ東京の経済番組「ワールドビジネスサテライト」の取材でも、詳細が殆ど明らかにされていなかった。地上波テレビの経済番組を見る程度の働きアリ諸君には無縁だというわけだ。
噂によると、一部屋が最低でも20億、最高で200億円オーバーなのだという。でもこの噂も、誰が流したかわからない情報だし、不動産情報が掲示されるレインズにこの手の物件情報が載ることは今も今後もないだろう。だから、マジ富裕層の人だけしかわからない世界だ。
200億円と聞いて、「すげえな、さすが富裕層向けだな」とは思ったが、まあそんなものかなという印象だった。そりゃ世界レベルの金持ちはそれくらいの家に住んでもおかしくないよな、と。でも、アマン東京のサイトに載っていた、ラウンジの写真を見て心底震えた。
https://www.aman.com/ja-jp/residences/aman-residences-tokyo
ホテルのロビーだとしてもこういう空間があったらビビるが、これが「自宅」の一部だぞ?共用スペースとはいえ、やべえ。
何でこの写真が僕をビビらせるのだろう?と思ったら、ビルなのに天井がこんなに高いことに対して、恐れおののいているという自己分析結果となった。金持ちの家は天井が高い。たぶんこれは真理だと思う。
しかも、そんな空間から東京タワーを「見下ろしている」状態。なんなんだこの世界は。これは(いまのところ)オンリーワンの価値提案だし、それに200億円出す金持ちがいてもおかしく・・・ないのか?いや、わからん、金持ちになったことがないので。
アマン東京は森JPタワーの54階から64階に位置しているが、その下はオフィスフロアになっている。
そして、33階と34階が「ヒルズハウス麻布台」と呼ばれるスペースになっていて、展望台的な空間が広がっている。
とはいっても、ヒルズハウス麻布台は観光客向けのスペースではなく、イベント用の場所として作られたものだ。企業の新商品・新サービス発表会などを絶景の展望をバックに開催したりすることを想定している。このため、一般人がズカズカと中にはいることはできず、33階に行くにはセキュリティーゲートを突破しなければいけない。
・・・と思っていたのだけど、開業した2023年11月から2024年4月17日までの間、特別にこの33階・34階スカイロビーが一般公開されていることをつい先日知った。
今後、「東京タワーを見下ろす展望台」なんて一生入る機会がないと思う。おそらく、この空間で開催されるイベントやショーは相当イケてる、金を掛けたものばかりだろう。場所柄、一般人がドドドっと押し寄せるような企画はやらないはずなので、メディア関係や一部富裕層向けの空間になるのだろう。だったら、今この機会に行っておきたい。
早くもこの年にして、「冥土の土産」という言葉が脳裏をよぎった。それくらい、この空間に足を踏み入れる機会はなさそうだし。
麻布台ヒルズがある界隈は地形が複雑で、アップダウンが激しい。クラシックコンサートの聖地・サントリーホールがあるアークヒルズあたりまで、まるで迷路のように谷や丘がある。
この麻布台ヒルズはそんな地形を活かしたエリアとしてごっそり再開発されているのだが、そのために導線が複雑で道に迷う人が続出するはずだ。
地下鉄神谷町駅から、「セントラルウォーク」と呼ばれる目抜き道路が麻布台ヒルズの地下を通っている。大人しくそこを歩いていればさほど混乱しないとは思うが、つい色気を出してこのエリアの建物をあれこれ散策しはじめると、途端にややこしくなる。自分が地上にいると思ったら地下に潜ってしまったり、地下にいるのに吹き抜けで上から地上の明かりが注ぎ込んでいたり。
僕は、今回1回の訪問ではこの施設の全貌が全然わからなかった。完璧に状況把握しないと気がすまない性格なので、麻布台ヒルズを後にするときはとても気持ちが悪かった。妻子同伴だと隅々まで探検するわけにはいかないので、また日を改めてこのダンジョンを探検してみようと思う。
それくらい、何がどうなってるのかよくわからない場所だ。
麻布台ヒルズの低層棟である「ガーデンプラザ」は麻布台ヒルズの玄関口に当たる場所で、そこには「なんだこれは?」とぎょっとするような曲線で形作られたビルが建っている。イギリスのヘザウィックスタジオが手掛けたもので、物差しとペンで設計図面を書く時代が終えんしたことをシロウトの僕でさえ実感させてくれる。
こんなぐにゃっとしたデザイン、手書きでは当然無理だ。
こういうグニャグニャ建築は、中国や中東諸国が好むと思っていたのだけど、日本にも建ってくれて嬉しい。ビルを建てる際に効率を重視すると、単なる箱型になってしまう。金があるからこそ、歌舞いたデザインが採用できる。奇抜な建物は、見るものに勇気を与えてくれる。日本はまだまだ捨てたものじゃないぞ、と。
どこまでがヘザウィックスタジオの手によるものなのかはわからないが、このエリア全体のいたるところが曲線だらけだ。なので見ていてフワフワした感覚になってきて、どうも落ち着かない。とにかくお金がものすごくかかっていることは間違いない。
森JPタワーの33階に行こうと思って歩いていても、まともに看板が出ていない。
観光客向けの展望台ではないからだ。教える必要はない、ということなのだろう。
なので、ちょっと途方にくれてしまった。
今後は一般人が立ち入れない場所になるのだから、フラッパーゲートの先に直通エレベーターがあるはずだ・・・と推測しながら、オフィス用のエレベーターホールに向かう。
ああ、発見。とても地味に、その入口は門戸を開いていた。
「Hills House AZABUDAI」と書かれた小さな黒い看板が、目印。
JPタワーのオフィスフロアに入居する企業名が表示されていた。最近はこういうのも液晶ディスプレイを使うのだな。
IT系、コンサル系が中心のように見える。
さぞや賃料がお高いんでしょう・・・?と思ってゲスの根性で調べてみたら、だいたい坪単価23,000円程度らしい。200億円レジデンスがあるビルにしては安く感じてしまう。
このビルは東京タワーを眺めながら仕事ができるという点で気分が良いとは思う。しかし、最寄りの神谷町駅からは地下道経由で濡れずにたどり着けるとはいえ、結構時間がかかる。そして出張が多い人にとっては、JRの駅からは遠いので若干不便かもしれない。
とはいえ、六本木をはじめとし、東京都のど真ん中に有名企業はいっぱいある。東京駅や品川駅に近くなくても企業活動にとって全然平気なのだろう。
エレベーターに乗って33階のスカイロビーを目指す。
直通エレベーターなので、行き先ボタンが33階とB1階の2つしかない。
33階に到着。
33階と34階は一部が吹き抜けになっている。
33階にはイベントなどが開ける「スカイロビー」と、レストランがある。
フロアマップを見ると、驚くべきことにこの33階にはエレベーターが32基も停まるようになっている。地下1階からここまでの直通エレベーターが8基あったことでさえビビったのに、他に24基もエレベーターがあるなんて。
これとは別に、上層階のレジデンスに行くエレベーターもあるのだから、このビルはエレベーターだらけだ。
(つづく)
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