これまで登山で愛用してきた、ブラックダイヤモンド製「ディスタンスカーボンFLZ」が1年ぶり2度目の修理工場送りだ。
登山の際に加入している保険の、「携行品損害保証」で修理費の一部は補填される見込みだが、そうはいっても保険には免責補償額が設定されている。修理費の全額がチャラになるわけではない。修理費はせいぜい数千円なので、免責費を差し引いたら、「一応保険金は下りるけど、微々たる額」となる。面倒な手続きをすることになる僕の人件費にも満たない。
とはいえ、登山用品を破損・出費が発生することに対する家族への言い訳として、「ちゃんと保険が出る!」と言い張る。そのために、保険は申請するつもりだ。保険会社の方々、お手間を取らせてすまん。
一方で、次の山は徒手空拳で山に登るのか?という問題がでてきた。
そもそもポールを使って登るなんて軟弱、という考えが昔の僕にはあったし、昔っから山を登っていた人というのはそういう考えの人がいまだにいる。
だから、いっそのこと今回はポールなしで登ってみよう、という考えもあった。
しかし一方で、未だ膝の痛みが完治しておらず、山を無事に登り降りできるかどうかの不安が残る。なにしろ今回の山は利尻山だ。北海道の離島にそびえる山で、「富士」の名前のとおりグイグイ登って、そのあとグイグイ下る登山道だ。しかも海にほど近い海抜から歩き始め、山のてっぺんまで登る。体調面の不安はできるだけ払拭しておきたい。
ということで、ディスタンスカーボンFLZを修理に出している間、新しいトレッキングポールを買った。今回の利尻山は新しいポールで登山だ。
LEKIの「マカルーFXカーボンAS」。
LEKIといえば、スキーのポールでお馴染みすぎる有名なメーカーだが、登山用のポールでもド定番のメーカーとなる。ただしお値段は高いので、おいそれと手を出すのがはばかられる。
本当は現在修理中のものと同じ商品を買い足すことを予定していた。2セット合計4本のポールがあれば、今回のような故障が発生しても換えがきくからだ。
しかし、そこまでしてしまうと、「ディスタンスカーボンFLZ」にどっぷりはまってしまい、今後このポールを使い続ける腹をくくることになる。本当にそこまでして良いのだろうか?と不安になってきた。
そこで類似商品をあれこれ調べた結果、LEKIの「マカルーFXカーボンAS」だった。
トレッキングポールを購入する際、「カーボンにするか、アルミにするか」「伸縮機能を持たせるか、なしか」「使わないときの折りたたみ方法はどうするか」など、いくつか検討すべき要素がある。ただ、実物を手にせずネットでえいやっとポチるのが毎度のパターンの僕は、どうしても「機能全部入り」に近いものを選んでしまう。
正確に言うと、ケチくさいので「全部入り」の1ランク下くらいを買う。
で、選ばれたのがこれ、「マカルーFXカーボンAS」。
届いたポールを見た瞬間、「うわ、でかい!」と思った。対比するまでもなく、ディスタンスカーボンFLZよりも太い。
そして、明らかに重い。
スペックはディスタンスカーボンFLZが2本で352グラム、今回買ったマカルーFXカーボンASは534グラム。1本あたり90グラムくらい重たくなっている。
「たかだか1本90グラム、2本で180グラムだなんて」と思って買ったのだけど、この差はデカかった。露骨に重たく感じる。
いや、ディスタンスカーボンFLZが変態的に軽いんだ、なにしろ、ストラップ部分さえも軽量化を図るためにメッシュ生地を使っている徹底ぶりだ。それと比較すると他の大抵の商品は重たい。たとえ比較対象の商品がカーボン製だったとしても。
上の青いポールがブラックダイヤモンド製「ディスタンスカーボンFLZ」、下の黒いポールがLEKI製「マカルーFXカーボンAS」。
見比べると、その差は歴然。ゴツさがまるで違う。これでポールを伸ばしたときの長さはほぼ一緒なのだから、いかにディスタンスカーボンが細くて軽いかがわかると思う。
なお、単純に重量比較をするのは不公平といえば不公平だ。マカルーのほうは、「AS」、すなわちアンチショック機能が備わっている。バスケットのすぐ上にあるゴムの筒のような部分がそれで、ここでポールを地面に突いたときの衝撃をある程度吸収する。その分重量が増える。
ただしこの機構は大して重たくなく、ASが搭載されていないタイプだと2本で508グラム。やっぱりディスタンスカーボンFLZと比べて150グラム以上重たい。
LEKIのポールは太いし、重い。しかも折りたたんだとき、3つに分解されたパーツがヌンチャクのようにバラバラに動いて邪魔だ。ブラックダイヤモンドのポールと比べて洗練されていないな、という印象を最初は持った。
しかし、実戦投入してみてLEKIのポールの良い点にあれこれ気づくことが多かった。
最初「えー?」と思った太さだが、これはポールを突いた時の安定感にとても大きく貢献してくれた。ブラックダイヤモンドだと、地面にポールを突くと「カツーン」と跳ね返される衝撃があって、手に負担がくる。そんな大げさな、と思うかもしれないが、この衝撃を何時間も腕で受け止め続けると、案外腕も疲労してしまうものだ。それがLEKIのポールだと少なかった。
もちろん、アンチショック機構が付いているから、という理由もある。しかし、アンチショックがあまり効かない、土や草の上でも、ポールが地面に弾き返される感覚は少なかった。
僕がディスタンスカーボンFLZを使っていて一番違和感を感じていたのが、この「カツーン」感だったので、それが解消されたのは嬉しいことだった。
「カツーン」だけではない。ポールを突いたとき、ポールに体重をかけたときの安定感が良かった。ディスタンスカーボンFLZの場合、「うっかりすると折れてしまうのではないか?」という不安を感じながらの利用だったので大違いだ。
マカルーFXカーボンASは、「カーボン」と銘打っているものの、強度を高めるために一部のパーツにアルミを使っているそうだ。一見、「カーボンをケチったのかな」と思ってしまいがちだが、強度があるポールは正義だ。カーボンとアルミのハイブリッドは僕にとって安定感と安心感があった。
カーボンは硬い。自動車レースのF1で、車のモノコックに使われるくらいだ。で、その硬いことをいいことに、薄型軽量を図るというのがカーボンの使い道だ。ディスタンスカーボンFLZはまさにそのカーボンの申し子なのだが、硬い素材を使って薄くした分、結果的に壊れるときは壊れるという状態だ。なので、「カーボンは高級素材!硬い!だから安心!」とは言い切れない。むしろアルミで薄くない・軽くないポールを作ったほうが頑丈で安心、ということも有り得る。
アンチショックについては、舗装道路を歩いているときに効果を感じた。気持ちよくポールを突いて、自らの歩みをサポートして加速してくれる。長い林道歩きが行程内に含まれている山歩きだと、アンチショック付きのポールのほうが絶対に良いと思った。一方で、山の中で歩く限りでは今回は違いがよくわからなかった。
マカルーFXカーボンASが素晴らしい、という趣旨のことを中心に書いているが、やっぱりディスタンスカーボンFLZの方がいいなあ、という点もいっぱいある。
1つ目はなによりも重さだ。やっぱり軽いって、正義だ。登り道でポールを前に突き出す際、「あ、やっぱり重いな」と感じる。ディスタンスカーボンFLZのときはヒョイヒョイと気軽にポールが前に出ていたのに、わずかにもたついた動きになる。軽いポールを知っているからこその違和感なので、贅沢病ではあるが2本で500グラムオーバーのポールは今の僕には重たく感じた。
また、このポールの重たさと太さは、「ちょっとポールを小脇に抱えて両手をフリーにしたい」という時に邪魔だった。カメラを手にするとき、行動食を取り出したいとき、岩場をよじ登る際に手を使いたいとき。ポールがちょっと邪魔なので脇に挟みたい、というシチュエーションはよくある。そのとき、小型軽量のディスタンスカーボンFLZと比べて取り回しが面倒な印象を持った。
2つ目はストラップの材質。なんでか手の皮膚に張り付くような材質で、心地よく感じなかったし、着脱する際にストラップがぐるぐるに絡まったり、手にひっかかって外れにくかったりした。
今回、LEKIのポールを使ってみてつくづく思ったのだが、山中でやたらと写真を撮る僕にとって、カメラとポールというのは手を奪い合う仲が悪い存在だ。自由なタイミングでカメラを使いたいなら、ポールはない方がいい。でもポールがあったほうが山歩きはラクなので、ポールは使いたい。となると、いかにサッとカメラとポールを切り替えられるか、その俊敏性が大事だ。
気軽さという点ではブラックダイヤモンド、安定感という点ではLEKI。どちらも甲乙つけがたい。今後、どちらかが壊れるまでは2種類のポールが我が家にある状態になる。なので、これから向かう山の性質に応じて、2種類のポールを使い分けようと思う。
奥武蔵などの低山ハイクは車道歩きが多いので、アンチショック機能があるLEKI。そこそこの標高の山はブラックダイヤモンドでサクサクと。標高が高くなって森林限界突破、岩稜帯を歩く時間がそれなりに長いなら、またLEKIを選ぶ・・・というのはどうだろうか。今後、あれこれ試してみたい。
(2024.08.31)
コメント
コメント一覧 (2件)
こちらのこの記事、おそらくとてつもなく優れた製品レビューだと思う。山登りに真剣に取り組み、その手助けをしてくれる良質なギアを求めている方々にとって誠に有益な情報だろう。
私なんかは登山を「なんでわざわざそんなしんどそうなことを…」とか思っちゃうタイプなんで、その素晴らしさはようわかりませんが、この記事を必要とする人はたくさんいるんじゃないですかね。そういう人たちのもとに届くこと願ってます。"バズりますように!”(アクセス解析して結果を編集後記にでも伝えてもらえると嬉しいです)
商品レビューといえば、マンフロットだかピークデザインだかのカメラホルダーはどうなりました?こちらもレビューとかあれば是非。期待しています。
最後に一言だけ「山で死ぬなよ」
zennさん>
旅行記にしろ、料理を食べた話にしろ、僕が若かった頃の「一体どんな体験ができるんだろう?」というワクワク感、ヒリヒリ感、損したらどうしよう感ってのを最近はあまり感じなくなってきました。
一方で、お買い物となると未だに「しまった、想定していたものと違った!」という悔しい思いや困惑を今でもまざまざと感じます。そんなわけで、最近のこのサイトでは商品を買ったレビュー記事が増えています。
広告収入で稼ごうとしている他のサイトと違い、僕は良い意味でも悪い意味でも心が動かされた商品を紹介しています。なので、褒めてみたりけなしてみたり自由自在です。さすがに一方的にけなす内容の商品は、僕にとってもミスチョイスで黒歴史なので、滅多に記事にはしませんが。(そういうものを文章にしてwebに公開するのは、メーカーに対して迷惑だなとも思いますし)