出羽路(01)

2000年02月18日
【店舗数:030】【そば食:053】
東京都千代田区霞が関

大板そば

山形蕎麦。

最近、JR東日本が『そば街道』と盛んに山形の蕎麦をPRし、どさくさに紛れて山形新幹線に乗って売上をのばしちゃおう、あわよくば駅構内のキオスクでお土産の乾麺でも買ってもらって、もうけちゃおうという「どさくさ-ちゃおう戦法」を展開している、アレだ。

そもそもそば街道とは何か。

「絹の道(シルクロード)」が、はるか中国からローマまで絹を運んだ道だとすると、「そば街道」は遠く江戸までそばを運んだ道なのだろうか。

素通りしてるやん。

現に、農林水産省の統計データを調べてみると、山形の蕎麦作付面積はそれほど多くない。近隣の福島、岩手、秋田がいずれも県別生産高ベスト10に輝くのに、山形だけ、ランクインしていない。

観光っすか?観光目的っすか?やっぱりお金っすか?

それを言っちゃあお仕舞いよぉ、と思ってあれこれ山形蕎麦について調べていたら・・・あらら、冗談のつもりだったのに、本当に平成7年に村山市の商工観光課が観光客誘致のために使い始めたキャッチコピーだという事が判明。

しかしこれには素直に感心させられた。だって、たった数年でここまでこの言葉が定着してしまったんだから。

しかも、よくよく調べてみると、この「そば街道」っていうのは村山市にあるたった12軒のそば屋を結んだ道の事を指しているではないか。

たった12軒のそば屋がここまで知名度を持つのか。

たった12軒のそば屋のために、JR東日本が大々的に宣伝をしているのか。恐るべし、山形蕎麦。

でも、てっきり山形県全体の蕎麦屋を呼称して「そば街道」なのかと思いこんでました。12軒のそば屋だけが「そば街道」とは知りませんでした。

・・・なんでぇ、やっぱあんまり知られてないじゃん。

まあ、観光目的かどうかはともかくとして、山形の蕎麦は実際美味いというのはよく耳にすることだ。山形といえば芋煮でありラ・フランスであり玉こんにゃくだ、と思っていては激しく後悔するらしい。

山形に行ったら蕎麦を食え、と。

何しろ、山形ではあまりに蕎麦の威力が強いために、ラーメンに天かすが入っていたり、かまぼこが入っていたり、果てにはエビフリャーがどかんどかんと中華麺の上で海老反っていたりするらしい。恐るべし、山形蕎麦。

日本の国民食とまで言われるラーメンを文化侵略し、そして融合する。アメリカの占領政策と一緒だ。山形で米国文化の一端を垣間見る事ができるので、最近は社会見学で他県からの来訪者が多いらしい。うそです。
ツッコミが入る前に、即座に否定しておく。

本題に入ろう。

東京都は虎ノ門に、そんな山形蕎麦を食べさせてくれる店があるらしい。その名も「出羽路」

江戸前蕎麦の本場にわざわざ山形の蕎麦で殴り込みをかけるとは潔い。盛岡名物のわんこそばでさえ、都内では食べられる場所がほとんど無い(おかでんが把握しているのは東急東横線沿線にある1軒だけ)というのに、東京のど真ん中に山形そばとは。これは行ってみるしかあるまい。そば街道の終着点は、やはり花のお江戸だったということか!?

新橋の「竹泉」の横を通って虎ノ門に向かう。途中、「あれ?おかでんさんじゃないですか」と話しかける通行人が居るので誰かと思ったら、仕事上つきあいのあるメーカーのSさんだった。

「いや、出羽路っていう蕎麦屋に行こうと思ってまして」
「ああ、知ってますよ、あそこは美味いですよ。じゃ一緒に行きましょうか」

なんて事になって、連れて行ってもらうことになった。

着いた先は、山形県の観光物産紹介コーナーみたいな所だった。山形名産のラ・フランスやサクランボやら何やら、お土産屋みたいになっている。どうやら山形県が観光誘致のために、東京にアンテナショップを作ったものらしい。そんな雑然とした活気の奥にさりげなくあるのが、出羽路。こんなところに蕎麦屋があるとは。

出羽路外観

Sさんいわく、ここは相当おいしいので、昼過ぎになると行列ができてしまうらしい。さりげない外観をしていながら、なかなか侮れないではないか。ますます期待してしまう。

しかも、入口の自動食券機で食券を買って入店しなくちゃならんあたりがさりげなさに拍車をかけているではないか。駅の立ち食い蕎麦屋のちょっと豪華版みたいだ・・・って言ったら、店の人に怒られるか。

「ここはせっかくですから大板そばを食べるべきです!」

とSさんがやけにきっぱりと断言する。山形なのに大分とはこれいかに、とボケようかと思ったが、仕事上でつきあいのある方(しかも年齢が10歳以上も上)なのでやめておいた。

課長、こういうちょっとした気遣いがビジネスマンとして重要なんですよね。そうですよね。

山形の名物蕎麦は、「イタそば」という。

これは、ミートソースで蕎麦をあえた物で、ちょっとパルメザンチーズをかけて食べるとこれまた美味で、ッて誰か止めてくださいこのボケ。

正確に言うと「板そば」で、要するに「へぎ」に蕎麦が入っているわけですな。ざるに盛れば、たとえ山形蕎麦だってもりそば。へぎに盛れば、「板そば」。

で、Sさんのお薦めのままに「大板そば」を食べることにした。「板そば」の大盛り版らしい。

あっ、でも大板そばって1,400円もするんですか!すいません、ご馳走になります・・・。

Sさんが、自腹を切っている癖にやけにうれしそうな顔をして大板そばをプッシュしているので怪しいと思ったら、出てきた蕎麦は

大板そば

・・・でかい。

さすが「大」板そばという名前がついているだけある。通常の江戸前蕎麦の3人前はあるんじゃないか、これ。一瞬、[さくら]でやらかした「自棄そば」を思い出してしまった。

べ、別に今日はやけくそでもなんでもないんですけどー。

さあこれだけの量があったら、タイムトライアルだ。ちんたら食べていたら、端からどんどん麺同士がくっついてべろんべろんに伸びてしまう。このボリュームでそんな事になったら、どうやって食べればいいんかわからん。それ、せっかくご馳走してくれたSさんには悪いが、脇目も振らず食うべし、食うべし。

激しくウマー。

見た目の武骨さ、口当たりの武骨さがそのまま味と香りになったという感じ。荒々しいまでに蕎麦が自己主張してらっしゃる。えいもう敬語使って誉めてやれ。

もう何て形容していいのやら、そうだ、NHK教育の理科番組見たことがある、「分子に熱を加えると分子同士が激しく振動し・・・」というシーンのアニメーションって感じ。例えがヘンか?俺。
でも、そんな感じでびしばしどかんと蕎麦襲来。カミカゼ吹くまで勝ち目はねえッス、って感じ
こ、これはいい!

蕎麦インパクトは翁も十分に驚かされたけど、あちらを「優秀生徒を選抜しました」という中国のスポーツ選手にたとえるなら、こっちは「うちはもともと誰でも強いんじゃい」というアフリカのスポーツ選手って感じ。例えがやっぱりヘンですか?俺。

おかげで結構なボリュームにもかかわらず、最後までおいしく食べることができたのは幸せの極みだった。でも、やっぱり麺がのびるのは盛者必衰の掟通りであり、最後は麺を箸でほぐしつつ食べる事になってしまった。これはまあ仕方がない事だけど。

あんな「ド」が付くビジネス街に、こんな美味い蕎麦を食べさせてお店があると知っただけで、何か楽しくなってくる。まだまだ日本は捨てたモンじゃないな、って。とかいいつつ、ちょっと場所が場所だけに二度目訪れる事があるかどうか・・・。いい思い出になってしまいそうな気配。

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