むすび むさし どんぐり村 豊平店

2000年08月18日
【店舗数:051】【そば食:112】
広島県山県郡豊平町

ざるそば、山賊むすび、蕎麦アイス

実家に帰省しても、特にやることがない。しかし、すぐに東京にとんぼ返りしたら、母親が悲しむので、一週間ちかくは滞在するようにしている。暇だ。

暇だからといって、「車ちょっと借りるね」なんて言って実家の車を持ち出そうとしたら、やれ交通事故が危ないだとかなんだとか、やめときなさいだとか、いろいろ言われて面倒なので身動きが付かない。良い親とは、時にして子供からするとうっとおしい時もある。こうなると、実家で大人しく本でも読んでいるしかない。

そんな中、お許しが出て車を運転する機会があったので、広島の山中にある豊平町に行ってみる事にした。豊平町は、西日本で蕎麦の生産量が一番多い地だという。そんなこと、広島に長年住んでいても全然知らなかったのだが、注目を集めたのは山梨の蕎麦屋の名店「翁」主人、高橋邦弘氏が 近々豊平に移り住む予定だからだった。高橋氏が、行列店「翁」を引き払って広島の山奥に移転する、という話が勃発して、世の人々はようやく「TOYOHIRA」という地名を認識した。 なにしろ、広島県人だって「そんな町あったっけ?」というレベルの、田舎町だ。

著名人をヘッドハントするのは、何も経営の世界だけじゃない、といういい例だ。一人、その筋では知られた人を引っ張ってくるだけで、大いに町が盛り上がる。高橋邦弘というビッグネームが移り住んだだけで、「豊平町」が蕎麦好きの間だけとはいえ 、全国的知名度を持つようになり、さらに「西日本一の蕎麦の産地」と認識され、「蕎麦で町おこし」ができる。

車を運転しながら、わくわくする自分が居た。一体どんなところなのだろう。戸隠のような場所になっていれば、楽しい。山間部に、いきなり忽然と立ち並ぶ蕎麦屋。それぞれの蕎麦屋が、自慢の蕎麦で集客を競う。広島っぽくないけど、蕎麦のワンダーランドが広島にあったって良いじゃないか。

豊平は、本当に田舎だった。うわぁ、本当にすごいところだ。主要幹線道が町内にはないため、一度も立ち入ったことがない土地だ。だから、改めて驚いてしまった。こんなところに、蕎麦屋があるのか?飲食店を構えても、ビジネスとして成り立つとは思えない。道ばたの畑では、白い花が満開だった。蕎麦の花だ。おお、さすがは蕎麦の名産地だ。とてもきれいだ。

「いちめんのそばのはな いちめんのそばのはな」

と山村暮鳥の詩をパクった言葉が口をつく。しかし、その割には「一面」ではないような気がする。「西日本最大」というのは、案外レベルが低いのかも知れない。それとも、車道がないような、もっと険しい山のなかにそば畑が広がっているのか もしれない?

どこにどんな蕎麦屋があるのか、さっぱりわからない。道の駅豊平、というところが「どんぐり村」と呼ばれていて、蕎麦屋があるという。とりあえずそこに向かってみた。

どんぐり村は、豊平町の財力と英知を集結したような複合施設となっていた。道の駅の物産館をはじめとし、体育館、運動場、テニスコート、ゲートボール場、会議ができる宿泊施設などなど。 いやぁ奮発しましたなぁ、と、駐車場に降り立ったとき、360度ぐるりと周囲を見渡してしまった。

敷地の隅には、「どんぐり庵」という建物があり、蕎麦打ち体験もできるようだ。あいにく、この日はお休みの日だったので入口は固く閉ざされていた。

お食事はどこでできるか、というと、どんぐり村の中でもひときわ目立つ古い民家だった。実在した建物を移設したのか、民芸調に作ったのかは不明。なかなか悪くないのだが、店の入口を見てギクリとしてしまった。

「むさし」という文字が、そこには書かれていたからだ。

むさし、といえば、広島ローカルの飲食店チェーン。広島県民だったら、知らぬ人はいないお店だろう。頻繁に、広島のTVでCMを放送している。わ、わざわざ「蕎麦の名産地:豊平」に来ておきながら、むさしの支店で蕎麦っすか・・・。

がっくり。

むさしには大変申し訳ないが、激しくがっくりしてしまった。

あのですね、お願いです、経営母体がどこでも構いません、ウマけりゃいいんですから。でもですね、「むさし」っていう表記は外してもらえませんかねえ。こっちは、せっかく豊平まで遠出してきたんですよ。「さあ、お蕎麦食べるぞ!蕎麦の産地だもんね!」と気合いが入ったときに、広島市内でよく見かけるお店のロゴを見ちゃうと、何のために豊平まで来たのワシ、っていう感じなんですよ。

気分は既に逃げ腰。逃げられるお店が、豊平に他にあるならば、問答無用で退却しただろう。しかし、ここは豊平、偉大なる田舎町。他にどこに蕎麦屋があるのか、わからない。一人だけでの訪問なら、ウロウロしながらでも蕎麦屋を探し当てる覚悟だが、隣には一緒についてきた母親がいる。なかなか蕎麦屋が見つからなかったら、 母親が次第に不機嫌になってきて愚痴られるのがオチだ。

ここは、「いや、でも蕎麦の産地にあるお店だから」と、我ながら全く信じちゃいねぇ理由で自分自身を納得させ、入店。

どんぐり村店内

「むさし」のお店が民芸調なのは定番。ッてことは、このお店が民家の作りをしているのは、豊平流の演出ではなく、お店側の必然だったわけだ。とたんに「作られたノスタルジー」って感じがしてきて、ドキドキ感がトーンダウン。

母親は、「今だけのチャンス!」と張り紙がしてあった、ざるそばとそばアイスのセット(700円)をオーダー。おかでんは、ざるそばと山賊むすびをオーダー。

ざるそば

出てきました、ざるそば。

・・・あまりおいしそうには見えない。

食べてみる。うん、そばはメロメロ。香りがしないのはまあ織り込み済みとしても、麺に腰がない上に味わいもない。冷凍麺を使っている立ち食いそば屋の方がおいしいんじゃないか。

つゆは、関東風の辛汁だった。関西風の甘めのつゆかと思っていたので、意外だった。味は、標準的。

一緒に頼んだ山賊むすびは、中におかかと鮭が入っていた。デカイのだが、これで500円はちょっと高い印象を受ける。なにしろ、このお店を訪れるつい数日前、広島市内の「野球鳥」というお店で「ふざけたにぎり(100円)」を食べたもんなあ。

そばアイス

母親が頼んでいたそばアイス。

冷たく冷やされたアイスで、そばの風味がでたらそりゃすげぇと思ったが、案の定そばっぽさは全然無かった。「そばで作られたアイス、食べてきたんですよー」という話のネタにはなりますね、という程度の一品。

それにしても、もっと頑張れ豊平。はっきり言って、コレじゃダメダメじゃん。むさしがどうのこうの、という個々の問題じゃない、町がもっと蕎麦を全面的に打ち出さないと。多分、これから先、「豊平は蕎麦の産地らしいよ」と聞きつけた蕎麦好きが、どんどん豊平を訪れるようになるだろう。で、失望して帰っていくことになる。恐らく、やってきた蕎麦ファンは、「あれっ、お蕎麦を食べるお店がない・・・」と途方に暮れ、目に付いた「むさし」に入って蕎麦を頂いて帰ることになろう。ホントにそれで、いいの?良くないよな。

まずは、豊平町=蕎麦の町、というイメージをもっと強化しないといけない。あれもこれもやろう、なんて思っちゃ駄目だぞ。「ウチの町は実は林業も盛んでして」とか、そんな八方美人でこの世の中生きていけると思っちゃいかん。蕎麦一色に染め上げて良し。そうだな、とりあえず道路脇の目立つところの畑は、全て蕎麦畑にしよう。他の作物、植え付け禁止。で、訪問した人が「うわぁ、さすが豊平は蕎麦の産地だ!」と喜ぶようにしよう。

新蕎麦の季節である秋だけが、観光シーズンじゃないぞ。蕎麦の花が咲き乱れている、夏も重要な観光の季節だ。

あとは、水車小屋をあちこちに造ろう。わざとらしいが、それくらいやった方がいい。訪れた人は、深く、静かに旅情を覚えるだろう。あと、意味はあまりないが、風車なんて作ってもいいかもしれない。もう、何でもね、やったもん勝ちですよ。

そして、お次は蕎麦屋さんだな。蕎麦屋の絶対数が少なすぎる。蕎麦屋が増えることで、訪問客も増える。とはいっても山間の町で集客はなかなか難しいだろうから、並行して集客が見込める何かが必要だな。

・・・そうだな、まずは温泉を掘り当てよう。安直すぎるが、これは手堅いぞ。

そして、蕎麦神社の建立だ。「蕎麦の育成」のあらゆるフェーズで、神への奉納だとか豊作祈願とか、イベントと結びつけちゃう。種まきの際には、神社に納めた蕎麦の実を若い男衆が奪い合う、とか。

花が咲く頃には、豊作祈願だ。蕎麦は、風によって受粉する植物なので、「いい風が吹きますように」と風の神様に祈願するために、直径10mくらいの大きなうちわを振り回す「奇祭」を開催する。

蕎麦の収穫期には、もちろんそば祭りだ。豊平町では既に実施されているが、もっと奇抜なアイディアで集客しないといけないだろう。蕎麦打ち職人10名がかりで、「日本一長い蕎麦を打つ」なんて企画をやってみたり、蕎麦のレシピコンテストをやって、来場者に品評してもらうとかあってもいい。そば祭り=メインイベントは蕎麦の早食い、というのはちょっと安直。でも、西日本界隈でそういうそば祭りをやっているところは他にほとんど無いはずだから、客寄せとして早食いは必要かな。

最後に、蕎麦の博物館を作らないとね。全国各地の名物蕎麦を紹介したり、蕎麦打ちの方法や、蕎麦にまつわるいろいろなものの陳列。名物蕎麦コーナーでは、いろいろ試食できると面白いんだが、これはちょっと難しいか。

蕎麦博物館に併設して、蕎麦大学校を作るというのも面白い。蕎麦屋を目指す人は、大抵お店に弟子入りして修行を積むわけだが、そういうルートではなく、授業の形式で教えますよという学校。邪道かもしれないけど、そういう研修施設があっても面白い。ついでに、町営蕎麦研究所なんて作って、蕎麦を本格的に研究するセクションがあると面白い。蕎麦の品種改良からはじまって、蕎麦をよりおいしく食べるための手法や蕎麦文化の調査などを担当。

と、ここまで書き連ねてみたけど、一体どれだけお金がかかるのよ、この企画は。あと、もっと重要なのは、ここまで派手な町おこしを豊平町自らが望んでいるのかどうか、ということだろうな。「いや今のまま、地道にそばを生産しつづけていければそれで十分です」というスタンスだったりするかもしれない。

高橋邦弘氏も、来客の多い山梨の翁では「自分のペースで、一生蕎麦と接し続けることが難しい」ということで、わざわざ豊平への移住を決断したという。あんまり豊平町が栄えちゃうと、高橋さんが困ってしまう。また、高橋さんからすれば、上記のような「マーケティングありきでの作られた蕎麦人気」なんてのはいらないと思っているだろう。毎日美味い蕎麦を打っていれば、自ずと好きな人は増える、というスタンスのはずだ。

ってなわけで、妄想終了。

でもなー、惜しいよなー。豊平、頑張って欲しいんだけどなー。