布恒更科(02)

2000年11月02日
【店舗数:—】【そば食:125】
東京都品川区南大井

そばがき、天もり、ビール、澤ノ井

お久しぶりです、布恒更科。以前訪問してから、さっさと次回訪問するつもりだったのだが場所が悪い。大森に用事はなかなか無いので、行きたくてもそう易々と行けるもんじゃない。そうだ、大森にお客さんを作れば良いんじゃないか。営業ついでに、立ち寄ればいい。なんだ、簡単なことだ。ええと、お客さんいませんかー。

大森駅前で不毛な呼びかけをしたところで、道行く人が「あらおかでんさん、ではお仕事ちょいとお願いしましょうかね」なんて言うわけでも無し。まあ、営業は地道に行きましょう。蕎麦の為に仕事をするにあらず。

さて、午前中は仕事の打ち合わせがあったので、その足で大森に向かう。お店は、12時だというのにまだお客さんはまばらだった。店員さんが暇そうにしている。有名店なのに、これはちょっと意外だった。でも、逆にこれは自分流にくつろいで良し、という合図に他ならない。よーしよーし、あっ、店員さん、とりあえずビール。

平日昼間だというのに、ビールを頼むおかでん。とんでもない輩だ。ほら、ビールがやってきたぞと。もう今日は仕事はないからいいんだもんねーと自分に言い聞かせながらも、スーツにネクタイ姿のままなのでやっぱり居心地が悪い。思わずお尻をモゾモゾさせてしまう。

突き出し

背徳感が漂いつつ、それを自己正当化しつつ、ぐいっとビールをあおる。ううむ、美味いぜ。背徳感は、酒の味を2割方増幅させるな。ただし、いつもよりもほろ苦い感じはするが。

ビールと一緒に、小さなしゃもじの上に盛られたそば味噌が出てきた。おっと危ない、このお店はお酒を頼むと自動的に突き出しが出てくるのか。後もう少しで、「このお店で一番安い酒肴」だったそば味噌を別途注文するところだった。

これは、小さな木のしゃもじの上にそば味噌を薄く伸ばして、下から火であぶったものだ。そば味噌そのものは食べたことがあるが、こういうスタイルのそば味噌は初めてだ。憧れてたんだよね、この「しゃもじ炙り型そば味噌」。dancyuとかの蕎麦屋紹介記事で、よくこのそば味噌を見かけていたので、自分の中では「蕎麦前の象徴」みたいな印象を持っていた。それがようやく初めて自分の目の前に。なんだか神々しく見えるぜ。

味?うん、おいしかったです。でも、蕎麦の実の食感はしたけど、蕎麦の味って特にしなかった。味噌の味。そば味噌って、こんな食べ物なんだろうか。

話が前後するが、ビールを頼んだついでにいろいろ酒肴を注文した。このお店、天ぷら類がたくさんラインナップされていて、まるで天ぷら屋だ。特にはぜや鱚といった、どうやら江戸前らしきお魚の天ぷらが多い。うーん、目移りするぜ。・・・いや、前言撤回。どれも最強に美味そうなのだが、狂おしく高い。どれも1000円以上する。「酒の肴として、蕎麦食らう前に一寸」にしては高すぎた。目線は、天ぷらのお品書きからすすすっと隣の項目へスルー。

その代わり、そばがきを頼むことにした。これも1000円するので、やや動揺してしまったが、まあ良かろう。蕎麦屋で高い天ぷら食うのと、高いそばがき食うのだったら、後者の方が何となくマシな気がするでしょ?・・・誰に同意を求めてるんだ、俺。

で、店員さんに「そばがきお願いします」と注文したら、「どれにしますか?」と問い返された。なんだ?その質問は。そばがきにカレー味とかクリームチーズ味とか、そういういろいろなのがあるというのか?困惑していたら、店員さんが「そばがきには3種類あります」と説明してくれた。なるほど、僕が目にしていたのは「更科」のそばがきだったらしい。蕎麦粉の挽き加減で、種類が違うらしい。凝っているなあ。で、どれにすればいいのか判断つきかねたので、「普通ので」というきわめて中流家庭的なオーダーをしてしまった。後でお品書きを読み返してみたら、これが1500円なり。おい、中流家庭どころか上流家庭な値段じゃないか。やられた。

待つことしばし、出てきたそばがきにびっくりしてしまった。「当店ではマスのでかさにおいては他店に負けません」と宣言してるかのような、見たことがないデカい塗りもののマスにそばがきが「収納」されていた。何で蕎麦屋って、そばがきを提供するときにアホみたいにデカい升を用意するんだろう。何か意味があるんだろうが、実態は不明。それにしても、この店は異様にデカイ。

何事だ、と思っていたら、この升は二段重になっていた。おっと、分解できるからデカかったのか。下の段にそばがきご本尊、上の段には薬味類が納められていた。なるほど、そういう事か。上の段を持ち上げて、下をのぞき込んだ後、「トランスフォーム!」と叫んでまた元の二段重ねに戻した。遊ぶな、さっさと食え。でも、なんだか、巨大合体ロボみたいな感じだったもんで、つい。

薬味は豪華。焼き海苔、わさび、ねぎ、大根おろし、ウズラの卵。そして、なぜかかぼすが用意されていた。かぼす?何に使うんだ?それにしても、こんなにいろいろあったら、どうやって食べればいいのか困ってしまう。組み合わせ方次第では、無限の楽しみ方があるではないか。こういうのを見ると、がぜんガッツが沸いて「ベストな味はどれコンテスト」を始めちゃいそうなので、逆にシンプルに醤油とわさびだけで十分です、ボク。

さてそばがきご本尊だが、これがごろんとでかく、どう考えても一人で食べるサイズではなかった。この半分のサイズでいいから、お値段を2/3くらいに下げてくれんものか、と貧乏人おかでんは涙ながらに後日語ったという。

・・・伝聞調かい。

まあ、作る手間を考えれば、少量だから安くしますよ、とはいいにくい料理なのだろう。せっかくの蕎麦屋なのに、料理の値段が高いだのなんだのいうのも不粋ってもんだ。さっさと食べよう。

ええと、いろいろ食べ方があって、やっぱり想像した通り「どう食べようか?」で困る。ものは試し、とあれこれ試してみた。

そばがきは、蕎麦の香りがしっかりと堪能できて、おいしかった。もう少し水気が少なくてもったりしている方が好みなのだが、これはこれで美味い。ビバそばがき。

で、その美味いそばがきをさらにパワーアップすべく、薬味を活用するわけだが。目に付いたのは、大根おろしの上にうずらの玉子た突き刺さっているという盛りつけ方だった。これは、玉子がグラグラしないように、安定させるために大根おろしを土台にしたのか?それとも、「うずらと大根おろしはセットで食べよ」という店側からの指示だろうか?

ううむ、よくわからないので後者で試してみよう。・・・わあ、なんだか見たことがない光景になってしまった。大根おろし+玉子というのは、案外ありそうでなかった組み合わせ。どうやら間違ったくさい。これ、ひょっとしたら、それぞれつゆの中に投入して頂くものだったのかもしれない。

同様の間違いをやってしまったのが、かぼす。その場で絞って、絞り汁をつゆ代わりにしてそばがきを食べてみたのだが・・・ううむ、はっきり言って、まずくなってしまった。柑橘類独特の酸味が強くて、蕎麦の味も香りも吹っ飛ばされてしまった。後から考えれば、こいつもつゆに少量絞って頂くものだったようだ。考えてみりゃ、当たり前の事なんだけどな。

そばがきをあらかた食べたところで、そば湯が出てきた。お店の人は、てっきりおかでんがそばがきを食べ終わったらそのまま店を後にすると思ったのだろうか。いやいや、まだそばを食べますので、もう少し居させてください。

天かす壷

このころになると、ビールを切り上げて熱燗を頂戴していた。いいねぇ、平日の昼間、堕落しきってるな。そば湯だけでは酒の肴にならんので、机のすみにあった天かすを山盛りそば湯に投入し、つゆを混ぜ、それをつまみに酒を呑んだ。

店は薄暗くて、本を読むにも難儀する。読みかけの本を持ち込んでアンニュイな午後を過ごそう、というのはちょっと難しいかもしれない。大人しく、店の雰囲気を愛でるのが吉か。そういえば、こちらが昼酒飲んでいい気分になっている間に、どんどんお客さんが増えてきてほぼ満席になってしまった。そうだった、世の中はちょうど今、お昼時だ。あまり長居するとお店に迷惑だ、さっさともりそばを注文しよう。

と、いうことで蕎麦を注文するつもりだったのだが、お品書きを眺めている時に店員が目の前を通り過ぎていった。その店員さんは天ざるを注文した人に天ぷらを届けていたのだが、そのあまりのでかさに目が釘付けになってしまった。なにしろ、店員さんの身長が優に2mはあろうかと・・・いや、そっちのデカさじゃなくって。天ぷらがデカイったらありゃしない。かき揚げの高さが、5cmはある。すてき!ママ!ボク、あれ食べたい!

予定を変更して、急きょ天ざるをオーダー。おっと、お値段を見ていなかった。ええと、1,500円か。ううむ。まあいいや、この後平和島競艇か大井競馬で取り返せば大したことはない。

天ざる

さて待つことしばし、でてきた天ざるは、やっぱり見事な高さを誇っていた。何でこんなにそびえ立っているのかと思ったら、上段がごぼうのかき揚げ、下段が芝えびのかき揚げという二段構成になっていたのだった。揚げている途中に、二つのかき揚げをくっつけたと言うことらしい。「なるほど、これもトランスフォームか」と意味不明な感嘆の声が口をついて出た。

ならば、ということで「Aパーツ、Bパーツ分離」といって、シャキーンという効果音とともに二つのかき揚げの分離をこころみた。さすがに、これだけ高さがあるかき揚げを一度にほおばるのは無理だ。1個のかき揚げが2個に増えて、わぁお得。まあ、この内容だったら、1500円してもしゃーないなあという気はする。

天ぷら、おいしいです。サクサク感がたまらんし、ごま油の香りも良い。おい、「後のせサクサク」とかいってるカップ麺よ。こういうのがサクサクって言うんじゃい。お前らのはカリカリじゃないか、と思いながらサクサク。美味い。

蕎麦は、あんまり印象無かったが、これはお酒が入っていたからかもしれん。横長の蒸籠に盛られて来て、ボリュームは結構あった。

料理はおいしいし、くつろげるお店。ただし、お品書きが全て高めの値段設定であること、おかでんの行動範囲からやや外れる立地条件にあることから、なかなかこのお店に来る機会はないだろうな、と思う。惜しい。でも、年に1回くらい、えいやっと訪れるくらいが、おかでんとしてはちょうどいいココロの距離感のお店かな。

ps.
お店を後にしてしばらく経って、職場の課長から業務連絡が入った。こっちはお酒が入って結構いい感じになっているわけであり、うわずってしまいがちな声を何とか電話口で抑えるのに必死だった。いやまあ、もう仕事は終わってるんだから別に開き直ってても構わないんだけど、さすがに「今ですか?飲んでますヒャッホー!」とは言えんだろ。

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