さらし奈乃里(28)

2001年09月02日
【店舗数:—】【そば食:177】
東京都板橋区前野町

穴子天盛り合わせ、つぶ貝のマリネ、もり、ビール、菊正宗、十年古酒

2001年は、2000年に食べた蕎麦屋行脚記が全く未執筆のまま野ざらしにされているのに恐怖し、極端にお蕎麦を食べる機会が減った年だった。まあ、その傾向は2005年に至っているのだが、「蕎麦を食べると、その分『記事執筆待ち行列』が伸びる」というこの自ら首をぎゅうと締める行為は慎んでいた。

その余波で、「毎週末のおかでんの居場所」であったさらし奈乃里に対しても、すっかり疎遠になってしまっていた。振り返ってみれば、9カ月以上訪問していないことになる。

おかでんは蕎麦を食べなかったら死ぬ、という突然変異な生き物でもないので、行きつけの蕎麦屋を疎遠にしていたからといって特に瀕死になるわけではない。しかし、いざ自らの体が衰弱してしまうと、ふとさらし奈乃里が思い出されるわけだ。「ああ、蕎麦食ってないなあ」と。

この時、おかでんは季節の変わり目にまんまとハメられてしまい、風邪をひいてしまった。馬鹿は風邪をひかない、というので、風邪ひいてラッキー、などと思っていたが、別の格言で「冬に風邪をひくやつは普通、夏に風邪をひく奴は馬鹿」という言葉もあると知って愕然。えーと、もう9月だから秋ってことでいいスかね?

寝込んでしまったくらいなので、そこそこの重病。その時の模様は、「思考回路のリボ払い」「風邪をひいたら民間療法」に少し記述がある。

さすがに、天竺ねずみを体にゴシゴシ、とかそういう事はやる気になれず、日本古来から伝承される風邪ひいたときの民間療法に頼る事にした。以前、古典落語で「ご隠居」が「八っつあん」に教えていたっけ、「風邪をひいたら、熱燗をきゅっと飲って、熱い風呂入ってさっさと寝るに限る」って。

熱燗か。ふむ。

そこで、久々にさらし奈乃里に行ってみることにした。一人暮らしの家で、誰も看病してくれるわけでもない狭い部屋で、お燗をつけて、きゅっと飲ってる姿ってのはちょっとわびしすぎる。相当体が重いが、徒歩5分ほどかけてさらし奈へ行こう。

こうなると、さらし奈乃里が「飲み屋」なんだか「蕎麦屋」なんだか「民間療法をやってくれる健康保険対象外医院」なんだかよくわからんが、そんなのはどうでもヨロシイ。

お店は、結構繁盛していた。日曜日の昼下がりに訪れたのだが、ほぼ満席。地元で愛される店に成長してきたようだ。さすがに狭い路地の住宅街の中にあるお店だけあって、遠路はるばるやってきたとおぼしき人は余り居ない。小さな子供がいる家族連れ、老夫婦、そして読みかけの本を持参してきた単独の人。みんな、けっこう長尻だった。くつろぎまくっている証拠だろう。蕎麦をずるずるっとすすってさっさと店を後にする人は、このときは皆無だった。

と、いうことを見守っているって事は、それ以上に自分が長尻だったわけだが。

久しぶりの訪問な上に、熱で頭がぼーっとしていたために、ついついいつもの癖で瓶ビールを頼んでしまった。おい、熱燗きゅーっ、で体温を上げて血流量を増やして、風邪を退治するんじゃなかったのか。体を冷やしてどうする。

いや、熱っぽいので、まずは熱冷まシートならぬ熱冷まビールで。

ううむ、我ながら無理っぽい言い訳。でもこんな状況下でもビールを頼む、そんなお前が好きだー。

って身近で言ってくれる人大募集。

ええと、頭がぼんやりしてるな。この日は、壁に張り出されている「臨時メニュー」が盛りだくさん。ここのご主人の創意工夫と努力には本当に頭が下がる。客を常に飽きさせない。ならば、ということで見慣れない「つぶ貝のマリネ」と「穴子天盛り合わせ」をオーダー。

あれ、オーダーして気づいたが、なんで二品も頼んでるんだ?アンタ体調悪いんじゃ無かったのかい。・・・ついついやってしまった。しかも、「盛り合わせ」って何だよ。

しばらくすると、やってきました穴子天盛り合わせ。ぬおお、なんかにぎり寿司を盛りつける下駄みたいな木の板(名前知らない)をでかくしました、みたいなものに盛られている。たとえがわかりにくいか?でも、そんな器。新しく買いそろえたんだろうか。以前には無かったはず。

「穴子天ぷら」ではなくて、「穴子天『盛り合わせ』」という表現になっていたのが気にはなっていたのだが、いざ実物を見て納得。なるほど、穴子づくしなのではなく、穴子以外にも野菜天ぷらが植物図鑑のごとくあれこれと。こりゃ一人で頂くには量が多いぞ。

というか、病気で伏せっていた人間が、こんな油っぽいものをたくさん食っちゃいけません。母親が近くにいたら、絶対全力で阻止するに違いない。

一方、もう一つのオーダーであるつぶ貝のマリネは、酸っぱいということもあって食欲がそそられた。うん、クエン酸パワーだ、体が癒される気がする。あくまでも今日のさらし奈乃里はおかでんにとってサナトリウム。あんまりむちゃしちゃいかんですよ。体に負担をかけないようにしないと。

と、いいつつ、菊正宗をお燗できゅーっと。うわあ、やっぱり体調が悪いときに熱燗をやると、頭がぐらぐらくる。

ただでさえ頭がぼーっとしているのに、熱燗が入ってしまったので完全に理性が消し飛んでしまった。この日、壁には見慣れないお酒のメニューが張り出されていた。定番以外のお酒がラインナップされていたのはこれまでで初めてだったので、激しく惹かれてしまった。張り紙によると、「十年古酒 6800円 二十年古酒 13,600円」だ、そうで。

なに、古酒だぁ?また面白いものを用意したな、値段も相当面白い。あー、オネーサンすいません、二十年古酒、ください。

全力で、店員さんに窘められた。やめとけ、と。4合瓶だし、高いし、飲むべきではないと。確かにそりゃそうだ。ということで、十年古酒にした。

・・・頭が明らかに働いていない。6,800円のお酒なんで、何で注文してるんだ?でも、このときは「たくさんまだ残っている天盛りを食べるためにも、飲み物がなくちゃ」という一心のみ。あと、「見慣れないメニューがあるぞ、頼まなくちゃ」という気持ち。値段のことはすっかり頭から置き去りになっていた。あと、自分の体調が悪いということも。

店員さんが「ホントに大丈夫かしらん」という顔をしながら持ってきてくれた10年古酒は、とろりとしてなかなか美味。しかし、もちろんこんなお酒をぐいぐい飲めるほど体調が良い訳でもなく、結局いっぱい飲んだだけで後はお持ち帰りになってしまった。アホくせー、店で飲むからこういうお酒って高いわけであって、自宅用に酒屋で同じものを買ったら、恐らくこの半値で仕入れられるものだろうに。残すなら頼むなよなあ。

結局この日、お支払総額は9,800円。すごい金額だ。過去、蕎麦屋で払った自腹金額の中では最高峰。やりすぎだ。久々に訪れたお店に対するご祝儀だよ、ご祝儀・・・と自分自身を納得させた。

でも、この後熱がぶり返してまた寝込んでしまった。何しに行ったんだか。