蕎林

2004年06月26日
【店舗数:168】【そば食:301】
静岡県御殿場市柴怒田

田舎そば

霧の中の看板

「隠れそば処」小羽根山を後にし、本日の宿泊場所に向かう。本当は、御殿場駅の真ん前にある蕎麦屋がおいしいらしいという情報をキャッチしていたので、そちらに向かおうと思っていた。しかし、御殿場の渋滞を先ほど目の当たりにしていたので、面倒なので断念。そのままホテルに車を進めていた。

途中、街道沿いに「手打ちそば 蕎林」という大きな看板を発見した。「ふふ、先ほどの『隠れそば処』とは大違いだな。大宣伝じゃあないか」と笑いながら、その看板を見送った。

霧の森へと続く道

街道からホテルに向かう脇道に入った時、また「蕎林」の看板が目に入った。どうやら、ホテルと同じ方向にあるらしい。しかし、ぎょっとしたのはその直後だった。お店の看板が、雑木林の奥に誘う砂利道の入口にあったからだ。うっそうと繁る木々は深く、蕎麦屋の建物は全く伺う事ができない。こんなところに、本当に蕎麦屋があるのだろうか。いや、あり得るのだろうか。

デカい道ばたの看板と、実際のあまりものギャップに激しく興味をそそられた。こんな林道の奥に、忽然と蕎麦屋が出現したらそりゃ面白い。これぞ、リアル「隠れそば処」と言えるだろう。・・・看板がデカい時点で「隠れ」と言えるのかどうか、怪しいが。しかし、どうしても信じられない。何も、こんな車1台通るのがやっとの砂利道の奥に蕎麦屋を作らなくってもいいじゃないか。看板の地図、読み間違えたんだろうか。

小さなお店の看板

一度、ホテルに向かうために素通りしたのだが、どうしてもあの砂利道の先が気になった。我慢できなくなって、100m過ぎたところでUターンした。やっぱり、ここは探索してみるしかあるまい。あらためて砂利道の入口を見ると、矢印付きの看板が出ていた。ああ、やっぱりこの奥が蕎林なのか。150m先、と書いてある。

森の中100メートル先に蕎麦屋があるらしい

しかし、そのすぐ数メートルとなりの看板には、「100m先」と書いてあって、一体どっちが正解なんだ と、突っ込みを入れたくなる。こういう細かい演出が、ますます怪しさを醸し出していてドキドキしてしまう。

森の未舗装路を走る
50メートル先にお店

車を進めてみる。深い緑に360度包まれながら、ガタガタと車を進める。やや不安になってくるが、途中「←蕎林」という看板が出ていたので、ルートミスをしているわけではなさそうだ。

童話のように森の中にお店

1分ほどガタピシやっていると、急に開けた場所に出た。あ、正面に建物がある!あれが、蕎林なのか。単なる別荘っぽくも見えるが、白い暖簾が遠くからでも識別できる。これは、明らかに蕎麦屋だ。驚いた、本当にこんな林の中に蕎麦屋があったぞ。

おとぎ話の世界みたいだ。この建物、お菓子の家じゃなかろうか。

蕎林

車を停め、どきどきしながらのれんをくぐる。普通の家の玄関みたいなところだった。靴を脱いで、民家の居間にあたるところにある客席に移動。お客はおかでん一人だった。15時という昼下がりの時間帯ということもあるし、すごいマニアックな場所ということもある、お客がいなくて不思議ではない。一人で、解放された窓から庭先を眺めた。

庭を眺める

うーん、何か落ち着かないのである。蕎麦屋に来た、というよりなんか知らない人の家に上げて貰った、ってかんじ。

庭を眺めているおかでんのそばを、「おきゃくさんきーたーよー」とチビっこが走りぬけ、居住スペースのご主人に通告していた。

お手洗いに行ったら、トイレのドアに「絶対にノックをすること」と書かれていたので、誰も居ないのはわかっているにもかかわらず、ついついノックをしてしまった。何か、他人の家なので行儀正しく、粗相しちゃいかんな、という気持ちになってしまうのだった。

店内の様子

民家改造型蕎麦屋で、お客さんが一人も居ないとこうも精神的に疲れるものなのか、というのをまざまざと見せつけられた感じ。どうも、そわそわしてしまう。くつろげないのだな。お客さんが他にも数組いれば、適度にざわついているしお店の人も厨房から出たり入ったりするので気が紛れる。しかし、このお店のように誰もいないと・・・一人、見慣れない部屋で蕎麦ができあがるのを待つ、落ち着かなさ。これで違和感を感じてしまうのだろう。

ま、そんな異次元体験ができるのも、砂利道を突撃したチャレンジングスピリットのたまもの、ということで。田舎そばを注文して、料理ができあがるのを待った。

生粉打ちそば

しばらくして、そばが仕上がってきた。そば粉100%の生粉打ち。ちょっと楽しみなのです。

さて。

・・・ん。よく見ると、蕎麦猪口が、これ、湯飲みですね。普段、お茶を入れるものですぞこれ。よく見ると、薬味を載せている小皿も、漬け物でも盛りつけるようなごく普通の小皿。ますます、「人の家にお呼ばれされて食事をごちそうになった」という感じが濃厚。

ずずず。

うん、おいしいです。そばの香り、まずまず。味もそこそこ。ひねた味でもなく、素直な感じがおいしい。麺の堅さ、コシも良い。

ただ・・・どこかで郷愁を感じる味なんだよな、これ。何だっけ。・・・あ、思い出した、おかでんが毎年年越し蕎麦として手打ちしている蕎麦と、味・食感・色共に似ている気がする。

その類似点に気づいた時点で、なんかがっかりしてしまった。うまいのは事実なのだが、生粉打ち、しかも田舎そばならではの強い香りや味ではない。なめらかさに欠ける部分だけがそれっぽいが、なんか二八の蕎麦を食べているような気になった。

結局、これで1,050円は高いと思う。秘境感高いお店のシチュエーションにもかかわらず、ものすごく庶民的な店構え、そこそこの蕎麦。こちらが妄想たくましくしていた要求水準とのズレは大きい。そして、値段が高めの蕎麦ときたもんだ。

結論として蕎麦は悪くない・・・というよりむしろおいしい部類に入るのだが、勝手に膨らんだ期待値とのギャップから、最終的には「イマイチ」の評価しかあげられない。嗚呼もったいない。

本日の教訓。

秘境ムード漂う蕎麦屋は、お客が勝手に抱く期待に添った蕎麦を出せないと、実体以上に低い評価をつけられてしまうことに気をつけろ。

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