そば処 やぶ 西後町店

2005年02月24日
【店舗数:181】【そば食:335】
長野県長野市西後町

きのこおろし、せいろそば、井筒長(燗)

長野市街蕎麦屋行脚三軒目。権堂の「かんだた」からほど近いところに「やぶ」という老舗の蕎麦屋があるという。創業明治12年だとか。情報源は例の「長野味本」なのだが、失礼ながらあまり美味そうには見えない。この本、長野市内のお蕎麦屋さんを11軒も写真付きで紹介しているのだが、どれも食指が動かない見栄えというのは一体どういうことなのだろう。長野市を担当したカメラマンの腕、と言ってしまうのは無理があるだろう。うーん。

結局、時間も余り無いことだし、「かんだた」から歩いていける距離のこのお店を選んでみた。

蕎麦屋において、「老舗」であることと、「やぶ」という名門の名前は蕎麦の味に全く影響を与えないという事は十分に承知している。逆に、この二つのキーワードが出てくると、おいしくないのではないか、と身構えてしまうくらいだ。さて、今回は吉とでるか凶と出るか。

やぶ

中央通りから一本奥に入った裏道を歩く。学校があるのだが、これが結構古い。補修した方がいいんじゃないのか、と不安になるくらいの古さだ。うん、この辺りは大人の表現に留めておこう、この学校の在校生や卒業生も読んでいるかもしれないから。で、こんなところに蕎麦屋なんてあるのかよ、なんて思っていたら、その学校のすぐ隣がまさに「やぶ」だった。新しめの建築物が、先ほどの学校とのギャップですごく眩しく見える。

それにしても、周囲と比べて浮きまくりな外観。民芸茶屋みたいな作りなわけだが、これだったらどこか古い城下町の目抜き通りで、土産物ショップにしてもよいくらいだ。何やら無意味に重厚な作りが、面白い。

だいたい、門まで構えている。その門には、でっかい「やぶ」とかかれた提灯がぶら下がっていた。

一瞬、「日本秘湯を守る会」と書いてあるかと思ったが、さすがにそんなことはなかった。こんなところに秘湯は存在しない。しかし、これだけでかい提灯が意気揚々とぶら下がっているのを見るのは、まさに「日本秘湯を守る会」の宿以来だ。

蕎麦屋というのは外観において渋み、色気がある店が美味いというのはほぼ間違いなく真実なのだが、このお店は判断に困る。地味なんだけど、結局周囲と調和がとれていない外観。何しろ、隣は古びた学校、反対の隣は古びた模型屋だ。この新しさは目に毒だ。

やぶ店内

中はこんな感じ。あれっ、外観は気合いが入っていたのに、中身はものすごく庶民的な蕎麦屋の風情だ。この店構えは、「お昼時、近所のオッチャンたちがどどーっとやてきて、蕎麦ずずーっとすすってばばーっと素早く帰っていく」というスタイルのお店ではないのか?

いやもう蕎麦が好きでたまらんのです、というご主人が打っている蕎麦を食べるという感じではなさそうだ。いわゆる「趣味蕎麦」のお店ではない。まあ、「老舗」っていうのはそういうもんか。

ちょっと頭の中をギアチェンジする。客はおかでんただ一人。

井筒長

お酒を頼むつもりはなかったのだが、ついつい頼んでしまった。何しろ安い。井筒長、という聞き慣れない銘柄だが、燗酒で350円だという。値段につられて、ついついオーダー。

ちなみに同じ銘柄で冷酒にすると、680円になる。えらく高くなるが、お酒のランクが上がるのだろうか。

お酒が安いだけではない、ここはお蕎麦も安かった。せいろそば、450円。お品書きの隣に「上せいろそば550円」と書かれていて、一瞬混乱する。このお店は、寿司屋みたいに「並」と「上」があるのだろうか。店員さんに聞いてみたら、「上は、海苔がかかっています」とのことだった。ははーん、「もり」と「ざる」の違いみたいなものだな。それにしても450円でせいろそばは安い。老舗の面目躍如だ。最近の新進気鋭のお店で、ここまで安い蕎麦を提供するお店はあるまい。きっと、「いやぁ、厳しいご時世なので値上げはしたいんですけどね、長いお付き合いのお客様もたくさんいらっしゃるので、なかなか値上げはできないんですよハハハ」とかいう背景があるんだろう。老舗の強みというか、頑張りどころだ。

さてお酒だが。 出てきた瓶を見た時点で腰が引けてしまった。うわ、これって・・・お通夜に行った際、「お清めですからぜひどうぞ」とお座敷に通されて、簡単な食事をさせて頂いた時によく見かけるタイプのお酒だ。・・・喩えが変か?・・・でも、そういう印象しかないし、そうやってお酌をされた時でもない限りはあまりお近づきになりたくないお酒といえる。まあ、俗に言う「安酒」ですな。そりゃそうだ、350円だもの。

ぐいっと飲んでみる。あー。こりゃ悪酔いしそうだ。コメントはこれ以上控えます。酔った勢いで営業妨害になりそうな言葉を口走りそうだ。

お酒とセットで、きのこおろしが突き出しで出てきてびっくり。350円の中にこの費用も含まれていやがりましたか。ちなみに単品できのこおろしを頼むと200円。 だったらこのお酒の味でも我慢だな。・・・いや、結構我慢の限界に近いのだが。

きのこおろし、これが案外おいしゅうございました。うれしくなって、卓上にあった七味をかけて味をかえてみた。すると、か、辛い!軽く七味をかけたつもりだったのに、えらく辛くなってしまった。そこでふと思い出した、そうだった、ここは信州善光寺の門前町。当然、七味は八幡屋礒五郎のかっらい唐辛子じゃないか。うわあ、うっかりしていた。

・・・家に帰るとき、長野土産で買って帰ろう。忘れるところだった。

「うっかりしていた」のは、七味をかけすぎたことではなく、土産として買って帰るという事を忘れていたということ。八幡屋礒五郎の七味は、スーパーでも手にはいるのだが「大辛」と言われる一味唐辛子ってなかなか近所じゃ手に入らないんで。

卓上に何かあるぞ

卓上に、何やら小降りの桶と、小さな器があった。何だろう。

桶には、トングのようなものがささっている。牛丼屋における紅ショウガ入れみたいだが・・・?

刻み葱とわさび

フタをあけてみた。

あ、なるほど。刻み葱とわさびでしたか。

こうやって葱が取り放題になっているのは珍しい。立ち食いの「小諸そば」でこういうスタイルなのを見たことがあるが、座って供される蕎麦屋では初めてだ。

温かい蕎麦を食べる機会があったら、この葱全部丼に入れちゃいそうだ。

せいろそば

さて、お蕎麦がやってきましたよと。

薬味入れに大根おろしだけがちょぼんと盛られているのが、何やら寂しげだ。葱、わさびといった青物が無いので、「僕これからどうなるの?天つゆに入るの?」と勘違いしてるっぽい。違うぞ、お前はこれから蕎麦と一緒に食べられるんだからな。

それにしても450円でこのボリュームはなかなかのものだ。ちょっと驚いた。

やぶの蕎麦

麺は、やや平べったい。食べてみる。

んー、水切れが悪すぎだなあ。ビチャビチャ、という言葉が真っ先に頭に浮かぶ。これで「みずみずしい蕎麦」とは言わせないぞ。「水っぽい蕎麦」だ、これだと。

おかげで、何やらすすったときに香りがするのだが・・・蕎麦かなあ・・・?いや、水道水の臭いかもしれん。どっちかよくわからない。

蕎麦をたぐる

扁平な麺である上に水切りが悪いものだから、美味い具合に手繰れない。麺がざるの上で固まり状になってしまっている。何度か箸で麺をつまんではほぐし、つまんではほぐしとやってからようやく手繰る。ああ面倒くさい。お願いですから、水切りやり直してもらえませんかね。蕎麦がうまいかどうかもこれでは判断できぬ。

しかしつゆが予想外に美味かった。渋みをやや感じさせながらも、甘みの奥にうま味が感じられる。あれれ、やるじゃん、という味だった。せっかくだからもうちょっとしっかりした状態での蕎麦ですすりたかった。惜しい。

何だか中途半端な気持ちになって席を立ったが、お会計をしてびっくり。お酒飲んで、蕎麦を手繰って800円。や、やすぅ。あり得ない安さだ。もりそばだけで800円といってもごく普通なのに、お酒も入ってこの値段だ。お得としかいいようがない・・・

ことはないな。やっぱり、値段相応だと思いますよ、ええ。

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