2007年01月27日
【店舗数:219】【そば食:392】
広島県広島市西区井口
板わさ、わさび味噌、ビール、銘柄冷酒(賀茂鶴吟醸)、釜あげそば、もりそば

広島の西、井口に「安庵」という蕎麦屋があることは以前から知っていた。両親からもお薦めされており、いずれは行かなくちゃなと思っていたのだが、何せ「何かの用事のついでに」行く場所でもない。ついつい気にはなりつつも、訪問機会を逃していた。
今回、気力体力時の運全てが偶然そろった状態になったので、お散歩がてら懸案事項だった安庵に行ってみることにした。
もちろん、口ずさむ歌は「あん安庵、とっても大好き、ドラえーもんー♪」だ。
そんな間の抜けた歌を歌っていたせいで、道に迷った。少々わかりにくい、住宅地の路地にあるということは聞いていたし、地図でも事前に確認していたんだが、それでも迷ってしまった。そもそも、迷う以前に川を越えて五日市という全く別の行政区に入りかかってたし。
前回訪問の「みん」「すみれえ」も住宅地の中だったわけで、今回も引き続き「マニアック路線」なお店といえる。「安庵」は比較的広島でも知られたお店なので、もう少し大通りに面した目立つお店だと勝手に思っていた。住宅地の中とは意外なロケーションだったぜ。
探すことしばし、こういうのは住宅にしては不自然に駐車場スペースがある家を探せば良い。その経験則に則って、路地ごとに凝視していたら・・・あった、ホントに民家の中にあるお店、それが安庵。「民家と見まごうばかりの店構え」ではないが、非常にさりげない外観だ。

何しろ周囲はこんな感じですぜ。
新興マンションと、一戸建ての住宅が並ぶ路地に急に出現だ。周辺人口が多いとはいえ、こういうところに蕎麦屋さんがあるというのはちょっと変わっている。
ただ、実際このお店の蕎麦を食べに遠路はるばる車でくるお客さんは多いようで、駐車場に停められていた車のナンバープレートを見るとあちこちのお国柄が伺えた。

入口脇には、食品サンプルが飾ってあった。
自分の経験上、食品サンプルがある蕎麦屋で絶品のお店というのには出会ったことがないので、やや不安になる。

店内の様子。
サラリーマンとおぼしき、スーツ姿の人たちが食事をしていた。
自分は、店の一番奥のテーブル席に陣取って店内を物色。
店入ってすぐのところには電動石臼があり、ごうんごうんと回っていた。外装もインテリアも、庶民的な蕎麦屋さんの風情なのだが、自家製粉しているところからすると結構本格的な趣味蕎麦のお店らしい。油断しちゃいかんということだな。

このお店、お酒と酒肴の種類は多くない。
「しゃけごはん」や「いなり」があるように、あんまり江戸前的に「酒飲んで軽くつまんで、蕎麦を手繰る」というやり方を想定していないのだろう。
酒肴は、そば、天ぷら、板わさ、わさび海苔、葉漬の5種類。「そば」が酒肴として存在しているのが面白い。「わさび付き、だしはついていません」という注意書きがある。蕎麦を一つの肴として酒を呑むのか。一体どうなるのか、想像ができない。試しにチャレンジしてみようかとも思ったが、やっぱり蕎麦は最後のお楽しみに取っておきたいのでやめにした。その代わり、手堅く板わさと瓶ビールを注文。
出てきた板わさのかまぼこは、おや、スーパーでよくお見かけする、紅白のもの。どうしても安っぽいイメージを抱かずにはおれないところが惜しいところ。
でも、すりおろしたばかりの本わさびをちょいと載せて、しょうゆと共に頂くとこれがいいんである。いかんな、ビールよりも清酒にするべきだった。

お酒は、ビール(生、瓶)、銘柄冷酒、そば焼酎のみ。「銘柄冷酒」って一体なんだろう。具体的な銘柄を謳っていないところをみると、時々入荷状況にあわせて変化させているのだろう。
今回出てきたのは、賀茂鶴の吟醸だった。300mlの小瓶とともに、薄べったいお猪口が出てきた。これにゆるゆるとお酒を注いで、一口でくいっとあおると結構幸せな気分。広島のお酒って、甘くてくどい味という印象が強かったのだが、この賀茂鶴吟醸は飲み口さわやか、さらりと飲めて香り豊か、昼間飲むには丁度良かった。

板わさを食べ尽くしてしまったので、追加で葉漬を注文した。しかし、店員さんが残念そうに「切らしてしまってるんですよぉ」と言う。あら、困った。
「そのかわり、メニューには無いんですがわさび味噌ならあります」
ということだったので、メニューにない物は良い物だ、という適当な解釈に基づいてわさび味噌を注文してみた。
最近蕎麦屋で味噌系酒肴をよく頼むなあ。正直、辛い辛いものをアテにして飲むのは苦手なのだが・・・
出てきたわさび味噌は、味噌にわさびをすり下ろしたもの、そしてわさびの葉?茎?が刻まれたものが一緒に練られていた。食べてみると、わさびの味が爽やかでとてもおいしい。しかも、それほど塩味がきつくなく、これくらいの量だったら一人で食べきるのであっても全然問題ない。もてあます事無く、おいしく全部食べてしまった。ゆずが練り込んである味噌は、途中でゆずの風味がくどくなってくるが、このわさび味噌の場合はそれが無し。秀逸でした。

頃合い良し、とお蕎麦を注文する。
通常であれば、初訪問のお店ということでシンプルにもりそばを頼むところなのだが、お品書きを見ていると「もりそば」の下に「釜揚げそば」という文字を発見した。釜揚げうどんなら知っているが、釜揚げ蕎麦というのは食べたことがない。面白そうなので注文してみることにした。蕎麦が温かいことによって、風味をより感じる事ができるかもしれない。
出てきた釜揚げそばは、なにやら居酒屋で氷の上に刺身が盛り込んであるかのような、タライで出てきた。ちょっと蕎麦屋では見たことがないビジュアルだ。

タライの中にはお湯が張られ、その中にはみずみずしい(当たり前だ)蕎麦が気持ちよさそうに泳いでいた。美味そう。
早速、つゆもつけずに食べてみて驚いた。いや、こりゃ美味い。やや粗めに挽いたそば粉のせいでざらつきを感じる食感だが、そのせいで蕎麦の風味が非常に立っている。温かいせいもあって、口の中で大きく、そして力強く蕎麦の味が広がる。これは釜揚げにして大正解だ。
温かいが故に、蕎麦はふんわりしている。蕎麦ってぇもんは喉ごし重視、エッジが立った蕎麦って美味いよねぇ、と信じて疑っていなかったが、こうやってふんわりやさしい口当たりの蕎麦ってのもいいもんだ、とあらためて認識した。
もちろん、温かい蕎麦なんてのはかけそばだの鴨南蛮だの、いろいろ一般的に存在するし、これまでも食べてきた。しかし、つゆの味で蕎麦が圧倒されてしまい、「温かい状態で、純粋に蕎麦の味」を楽しんだことはこれまでに無かった。今回、開眼させられた思いだ。このお品書き、ぜひとも他店でも導入すべきだと思う。
ちなみに、薬味は青ねぎ、白ごま、すり下ろし生姜だった。うどん的な食べ方というのも、面白い。

あまりに感動しちゃったので、もりそばを追加で注文した。こちらの薬味は、青ねぎとわさび。さすがに生姜ではなく、正統にわさびだったか。
そのわさびだが、わざわざ自らおろしたてを食べられるように、鮫皮おろしがついてきていた。おろし金じゃなく、鮫皮というのがこだわりなんだろう。実際わさびをおろしてみたら、非常にやさしくわさびがすりおろせ、風味も豊かで大変に結構でござんした。おろし金よりも全然良い。
蕎麦はこちらも大変に美味かった。いやぁ、安庵恐るべしだ。板わさを食べている時までは正直、やや疑いの目で見ていたのだが、とんでもない間違いだった。恐るべし安庵。また今度機会を見て訪問したいお店が、一つ増えた。
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