そば 岡本

2009年11月06日
【店舗数:245】【そば食:433】
島根県松江市北堀町

釜揚げそば、割子そば

武家屋敷の中

「鴨にやられた」と愚痴りながら、でも満足してニヤニヤしながら、八雲庵を後にした。時刻は11時前、二軒目の岡本はそろそろ開店だ。とっとと岡本に向かってもよいのだが、ちょっと待って欲しい。まだ「武家屋敷」の入場券が手元に残っている。これを先に使ってしまわないと。

というわけで、武家屋敷に入ってみた。

岡本

武家屋敷の後、「岡本」までまた歩く歩く。

一軒目の蕎麦を食べて、ちょっとほっとしたのであまり焦りはなくなった。極端な話、ここで行き倒れても「本場で出雲蕎麦を食べた」という実績はできた、という安心感。まあ、鴨なんばんで納得してちゃ勿体ないので、今ここで行き倒れる気はない。

「岡本」は、地図を見たところ、市中心地から少し外れたところにありそうな気配。発見に手間取るのもまた一興、と慎重に周囲を索敵しながら歩く。

すると、前方に「手打そば」ののぼりを発見。あら、案外あっけなく発見。

とはいえ、外観はどう見ても民家だ。先ほどの「後藤そば店」のような渋さはないものの、これが飲食店とは到底思えない外観だ。煙突が出ていたり、広い窓から店内が見える、といった事もない。ただ、「のぼり」と「暖簾」だけが目印。

のぼりだけだったらもの凄く不安だが、玄関に暖簾があるので安心だ。のぼりだけだったら、誰か悪ガキがどこかから持ってきて放置しただけかもしれないし。

暖簾に「岡本」と書かれているのを確認の上、家に入る。違った、店に入る。

民家のまんまな店内

中にはいると、うお、外観同様民家だぞ。中に入ったら、実は客席が広がる店舗でしたー、という作りなんかではない。シンプルに、そのまんま、民家でやんの。

玄関があって、靴を脱ぐようになっている。正面には二階に上がる階段があって、左右に部屋があるようだ。ええと、どうすれば?

左側の部屋から奥さんが出てきて、どうぞーと言う。右側の部屋が客席になっているようで、そちらに案内された。どうやら、左は厨房のようだ。あぶない、間違って二階に昇るところだったぜ。それは冗談だが、一歩間違えれば「住居不法侵入」と隣り合わせの店だ。

岡本店内1

岡本店内2

客席は広いお座敷。お座敷に机と、座布団が並べられている。スーパー銭湯の休憩室が小さくなったバージョンを連想してしまった。

もともと民家なので、というか、今でも民家なので、当然床の間だってある。仏壇はさすがに無かった。仏前でゴハン食べるのはさすがにあまり楽しいものではない。

据え付けられたテレビでは、国会中継。

お茶はセルフ

家族経営でお店の人は忙しいので、お茶はセルフらしい。
テレビの横にポットと湯飲みがあったので、自分で注ぐ。

時刻は11時12分。既に一名、おっちゃんが先客でいただけで、他に客はなし。

そば岡本メニュー

お品書きがテーブルにあったので、確認する。

こういうお店なので、手書きの紙が壁に貼ってあるだけ、といったものを想像したが、どうしてどうして、カラー印刷、しかもちゃんとワープロで作ったものが奇麗に各テーブルに配置されていた。お見それしました。

割子そばは1人前(割子3枚)660円。それとは別に、1枚単位で220円で注文できる。非常に分かりやすい価格体系だ。シンプルに、1枚220円。麺類を提供する店の大盛りなどはよくわからない価格設定だが、ここまでシンプルなのは初めて見た。割子という食べ方ならではだ。

そしてこのお店でのお目当ては、釜揚げそば!「釜揚げうどん」というのは、讃岐うどんをきっかけに比較的知名度が高い食べ方となったが、「釜揚げそば」なるものはあまり存在しない。蕎麦、ズルズルに延びるじゃないか、と思うが、太麺ごわごわが特徴の出雲蕎麦だからこそできる食べ方なのかもしれない。

以前、広島の「安庵」で同名の料理を食べた事があるが、あれは感動ものだった。温かい蕎麦って、蕎麦の味も香りも非常に引き立っておしっこちびりそうだった。柔らかくはなるが、喉越しを犠牲にしても許す!という美味さだったな。かけそばだと、つゆの味が蕎麦を押しのけてしまうのだが、湯溜めだとそれが無いので、蕎麦の味を存分に楽しめるのだった。

奥さんに、「釜揚げと割子」を注文する。しかし、「どちらを先にしますか?」と問い返されたのでひるんでしまった。ええと、どうすればスマートかな。「一緒に出せこの野郎」というのは野蛮すぎるし、一度に食べるのは無理なので却下。結局、奥さんのお薦めもあって「釜揚げ」を先に出して貰うことにした。

注文が済んで一段落したところで、改めてお品書きを見ると、たまごは1個30円。非常に安いことに気がついた。そうだよな、実際はこんな値段が妥当だと思う。ラーメン店で、単なるゆで玉子が100円なんぞで売られているのを見ると、ありえねぇーと思うのだが、30円という価格で出す店もある事を知って、ますますその気持ちを強くした。

とはいえ、蕎麦業界では「もりそばに刻み海苔をトッピングしただけで100円増し」という、これまたもの凄い事をやっているので、どっちもどっちなのだが。

お酒やビールもとりあえず置いてあった。こういう民家改造型の店は、純粋に蕎麦しか出しません、というスタンスかと思ったが、一応置いてあるのだな。ただ、酒肴になるものがない。せいぜい、山芋をすするか、生玉子をねっとり舐めるか。

昔のおかでんなら、「蕎麦屋で酒飲むのは、人間が空気を吸うのと一緒」とばかりに「すいません、お酒もプリーズ」と言っていたはずだが、さすがに年相応に落ち着いてしまった。酒を頼もうという発想すら完全に欠落していた。

釜揚げそば

釜揚げそばアップ

釜揚げそばがやってきましたよ。

店の外観同様、気取らない丼に盛られてお蕎麦到着。それと一緒に、じょうろ型をした蕎麦徳利もやってきた。

やあ、これはゾクゾクさせられる外観だ。見よ、この丼の中を。蕎麦の黒さと太さが素晴らしい。ざまあみろ東京流蕎麦、と改めて思う。「うおおお」とテンションがあがるのは、やっぱりこういう麺だ。こういう蕎麦に食べ慣れている人が、「東京の蕎麦は気取っている」「たかが蕎麦なのに、何を通ぶって。高級ぶっちゃって」と批判するのは、今となっては大変によく分かる。蕎麦一つとっても、これだけの差がある事が逆にうれしい。今日は出雲蕎麦に勉強させてもらおう。で、またホームグラウンドである東京流蕎麦に戻ろう。

蕎麦もさることながら、蕎麦が浸かっている蕎麦湯も凄い。すっかりトロトロになってしまっているのだった。営業開始直後なのに、一体どうなっているんだ。これ用に蕎麦粉を溶かし込んでいるのだろうか?この蕎麦湯だけでも旨いに決まっているではないか。これは反則だな。いや、反則多いに結構だけど。

薬味とそば湯

釜揚げそばを前に、「おおおお」と一人興奮している間に、奥さんがもう一回こちらにやってきて、お皿を置いた。

見ると、薬味と、蕎麦湯が入った湯飲み。これは割子そば用のものらしい。今、間違えて釜揚げそばの上に載っけたら恥ずかしいので、「ほほぅ」といいながら眺めるだけにしておくべし。

割子そばという食べ方の特性上、「蕎麦猪口に蕎麦湯を入れて飲む」ことができない。そのため、「蕎麦湯が入った湯飲み」が供され、そこにつゆを適量入れていただくという食べ方をこちらでは採る。東京界隈では見かけない食べ方なので、楽しい。越前おろし蕎麦はどうなんだろう?あれも蕎麦猪口がない食べ方なのだが。いずれ福井県には遠征しないといけないな。

蕎麦をたぐる

さあ、早く食べよう。いくら極太の出雲蕎麦とはいえ、湯の中に浸かっていればどんどん延びる。蕎麦切りではなく、蕎麦すいとんになってしまってはちょっと残念だ。

出雲蕎麦における釜揚げそばとは、「蕎麦猪口につゆを入れて、そこにそばを浸けながら食べる」という食べ方ではない(前述の「安庵」はこのスタイル)。丼の、蕎麦湯の中につゆを垂らす。丼いっぱいで食事が完結する、そんな食べ方。これもまた、この地方独特のスタイル。やあ、楽しいなあ。そば祭りで、同じような蕎麦ばっかり食べてきたので、こういう見慣れないスタイルに出会うとうれしくてしょうがない。

まずは、蕎麦だけ食べてみる。

うわ、これは・・・凄いなあ。蕎麦の風味が強烈。埃っぽかったり、泥臭い蕎麦の味かと思ったのだが、そんなことはなかった。しかし、力強さと野太さはさすが出雲蕎麦。蕎麦湯に浸かって温かい事で、その味が存分に引き出されている。

多分、これが水で締められ、ざるに盛られて「田舎そばでございます」と出されたら、ここまで感動はしなかったと思う。太くて、固い麺だなあ、という印象だけだったかもしれない。釜揚げという食べ方、素晴らしい。
蕎麦湯が濃厚なので、蕎麦にからみつくんだわ。エロいっ!なんてことをするんだお前ら、と思ったが、どっちかといえば衆道的であり、男女のエロさではない。

薬味を混ぜてすすろう

しばらく蕎麦だけを楽しんだところで、丼につゆを垂らしてみる。

丼には、蕎麦の他に大根おろしと葱、刻み海苔が入っている。こいつらをまんべんなくかき混ぜつつ食べる。

ううむ、凄いなこれは。混ぜたせいもあって、強引なまでの蕎麦の味は薄れ、何だかわからんが美味い食べ物、になった。主食になるいっぱい。丼いっぱいまるごとがまったりとしていて、体が温まるやら、おなかに溜まるやら。なんて素晴らしいんだ。

はっきり言って、これだけ衝撃を受けた蕎麦というのは最近ではない。凄いや、これ。

これで580円は大満足だ。

割子そば

割子そばアップ

ため息をつきつつ釜揚げそばを食べ終わった頃を見計らって、割子そばがやってきた。

一人前、割子3枚。これだけをお昼ご飯にしようとすると、女性でも物足りなさを感じるかもしれない。男性なら、確実に足りないだろう。そのため、釜揚げ+割子2枚、などと他の料理と組合せるのがよく行われるそうだ。

割子そばも、初めて食べる人にとっては「どうやって食べるの?」と困惑してしまう料理だ。正解は、割子に少量のつゆをたらして食べる、ぶっかけスタイル。で、一枚目を食べ終わったところで、残ったつゆは二段目に移動願う、とやればつゆの再利用ができてエコ(←はやり言葉を無理矢理押し込んでみた)。

食べてみる。先ほど、釜揚げのところで「水でしめて田舎蕎麦として出せばただの固い蕎麦」と書いたが、すいません前言撤回。これ、確かに固めのゆで加減ではあるのだが、噛むことでにじみ出る蕎麦の味たるや素晴らしい。固いからこそ、太いからこそ味わえる美味さよ。これ、細くて喉越しよけりゃ、つるつるっとすすって一気に胃袋にナイスシュートされてしまう。野蛮な蕎麦だからこそ、口の中で格闘し、その結果分かり合える友情ってやつだ。美味いです、大変に美味いのです。

ただ、つゆにはご用心。こいつ、相当に辛い。辛すぎて、酸味すら感じてしまうくらい、辛い。なので、ごくごく少量垂らす程度でないと、うっかりするとつゆが割子内を席巻してしまうのだった。卓上のラー油みたいに、ボタンを押したら数滴出てきます、くらいでもよいのではないかくらい、辛い。ただ、その結果、少量のつゆで蕎麦を食べることができるので、蕎麦の美味さが埋没しなくて済むのがこれまた素晴らしい。

後はお好みに応じて薬味をどうぞ。薬味は、蕎麦の量に対してやたらと多いので、全部使うもよし、残すもよし、箸休めにつまむもよしだ。

お会計時、奥さんと話をする。あの蕎麦湯はわざわざこしらえた物なのか、と聞いたら、単にゆで釜のお湯を入れただけだという。驚いた。それであんな濃厚なのか。「うちは大きな店と違って、ゆで釜が小さいので、すぐに濃くなるんですよ」というが、それにしても濃すぎだ。生の蕎麦、たっぷりと打ち粉が付いているのかもしれない。「小さな釜なので、一人前ゆでるのがやっとで」と笑ってらっしゃったが、その結果こんなにおいしい蕎麦と、蕎麦湯が食べられるんだからありがたい。効率が悪いからこそ、得られた美味さというわけだ。

いやぁ、参りました。大変に満喫しました。脱帽だったが、帽子を着用していなかったのでできなかった。感動しつつもお店を後にした。

それにしても・・・あの釜あげ、いっぱい食べると相当満腹になるぞ。2軒目なのに、どしーんと体が重たくなった。こりゃ、今日の食べ歩きはすいすいとはいかない予感。