出雲そば きがる

2009年11月06日
【店舗数:246】【そば食:434】
島根県松江市石橋町

釜揚げそば、割子そば

きがる

「岡本」を後にし、近くにあるはずの「きがる」へと向かう。「岡本」の時点で既に住宅地っぽくなってきており、さらに松江の中心地から外れたらどうなってしまうの、と心配になる。しかしさすが県庁所在地、急に田んぼが出てくるような事はなく、「高層マンションは無いけど、民家や商店がまんべんなく並ぶ」場所の中に「きがる」を発見。

「岡本」の奥さんと四方山話をしていた際、「この後どこかに行かれるんですか?」と聞かれ、「ええ、この近くの『きさく』に行こうと思ってるんです、きさくに」と答えたが、奥さんが「?」という顔をしていたので「あれれ、知名度が低い店なのかな」と心配だった。しかし、実際にお店の看板を見ると、「きがる」でやんの。お前、あまりにきさくに、かつ気軽に店名を間違えすぎだぞ。

ここも、多くの松江の蕎麦店のご多分に漏れず、間口が狭い。ザ・観光地の「八雲庵」が「御殿」で、ザ・民家の「岡本」が「金持ちの家」だとしたら、この「きがる」は「庶民の家」といった感じ。

看板と暖簾、そして「玄丹そば」ののぼりがあるので、「大体この辺りに店があるはず・・・」程度の目安でもお店は見つけられる。とはいえ、観光客は普通、ここには「ぶらりと立ち寄る」場所ではない。

きがる店内

店内に入る。岡本を見ているので、またああいう「お座敷にどうぞー」スタイルかと思ったが、ここは普通のお店スタイル。間口が狭い分、奥行きがあって厨房は伺い知る事ができない。

客席は結構あり、この後数名の観光客が訪れたりしていて、予想に反して観光客も訪れるお店であることを知った。わざわざ、ここの蕎麦を食べに武家屋敷の方から歩いてきたのだろう。

観光客軍団の話をそれとなく聞いていたら、今回の旅の行程について話題にしていた。「出雲大社」「羽合温泉」「鬼太郎」というキーワードが耳に入る。鬼太郎、とはゲゲゲの鬼太郎を前面に出している境港の事。羽合(はわい)温泉は、名前の勝利だと思う。実際、どれくらいの名湯なのかはよく知らないが、その団体は「羽合温泉って名前がいいわよねえ」「羽合に行ってきたのよ、って言えるしねえ」とはしゃいでいた。

きがるお品書き1
きがるお品書き2

先ほどの「岡本」が家族経営だったのに対し、ここは雇われと思われる従業員さんがいるお店。客席数を見ても、実際それだけお客さんがやってくるのだろう。

きがるのお品書き。見開きで紹介されているが、お酒の扱いが結構大きい。その割には酒肴になる単品が、そばがきと天ぷらしかないのが不思議だ。お通しが付くのだろうか?

そばメニューが多いが、一応うどんも用意されている。蕎麦だけでは来客のニーズを満たしきれないのだろうか。例えば、高松のうどん屋で蕎麦を扱っている店はほとんどないだろうし、信州の蕎麦屋でうどんを扱っている例も少ないだろう。それを考えると、この地方はまだ「蕎麦、全力投球。」と行ききれない食文化の多様性があるようだ。八雲庵もうどんメニューがあったし。

とはいえ、蕎麦には相当拘りがあるようだ。冷たい蕎麦は、二種類の麺から選ぶ事ができるようになっていた。ええと、「挽きぐるみ」と「特選」だって。どっちも食欲をかき立てるナイスな名前なのだが、一応「特選」の方がお値段が高い。どう違うの、これ。

当店のおそばについて

「挽きぐるみ」と「特選」の違いについて、ちゃんとお品書きに解説があったので、読んでみた。

なんでも、「挽きぐるみ」はその名の通り、蕎麦の実を殻付きで挽いているよ、というもので、「特選」は丸抜きから挽いているものだという。また、特選の方は生粉打ちですよ、と。

せっかく松江まで来て、お上品な丸抜きを食べるのは残念だ。早押しクイズ並のスピードで、「挽きぐるみ」で注文することを決定。挽きぐるみで、釜揚げと割子を注文した。

釜揚げと割子、どちらを先にお出ししますか?とここでも聞かれた。釜揚げが先の方がよろしい雰囲気だったので、岡本同様釜揚げを先に頼む。多分これって、東京流の蕎麦屋において、「かけを先に食べて、シメでもりを。」というのと同じだろう。

釜揚げ
麺をつまみ上げる

届けられた釜揚げを見て、「おお?」と目を見張った。岡本の釜揚げと違う。

こちらさん、既に蕎麦湯の中につゆがインしているのだった。ええと、これではかけそばチックであり、見た目のドキドキ成分がやや不足しておるのですが、そうですか。

薬味は海苔、葱、大根おろし、鰹節と定番。麺は中太。

蕎麦湯は白濁していない。ただ、岡本の白濁っぷりが特殊なんであって、あれを基準に考える方が無理がある。現実的な釜揚げって、こういうものなのだろう。

食べてみる。んー、なんだか中途半端な印象がある。どうしても、見た目の印象から「かけそば」を想像してしまうので、味が薄く感じられてしまうのだった。ただ、実際は「蕎麦湯につゆを含ませたもの」であり、かけそばとは全然趣旨が違う食べ物だ。比較する方が間違っている。これはこういう食べ物だ、と思えば、おいしい。やあ、従来の知識や価値観への挑戦状だな、この釜揚げそばは。

単なるお湯だと大変につまらん食べ物と言わざるを得ないが、さすが蕎麦湯を釜からそのままダイブさせました、というだけはある。つゆは若干とろみがつき、また、麺は水で洗っていないので粘りけがあり、麺同士が仲良くいちゃついている。全くもって破廉恥でけしからん。そのねっとり気味が、美味さを引き立てている。ああ、ここに生玉子を落とせばよりねっとりして美味いだろうな、と思った。そうか、かま玉うどんと一緒だ、これは。

割子そば
割子そばアップ

釜揚げを食べた後、割子そばがやってきた。

隣に座った地元のじいさまは、おかでん同様に釜揚げの後に割子3枚を食べていた。このあたりの大人の標準的昼ゴハンの量なのだろうか。だが、お昼に2種類も食べると、1,000円を超えてしまうのだが・・・。

こちらのつゆは、辛さは岡本ほどではない。さっき、辛くてびっくりしたので、劇薬でも入れるかのように恐る恐るつゆを注いだのだが、こちらは比較的安心して注ぐことができる。とはいっても、じゃぶーっとやってしまたら、もう何がなんだか、という味になってしまうのでやっぱり要注意だ。

蕎麦はおいしいねえ。挽きぐるみ、といってもそれほどどす黒くはなく、山賊的な野蛮さはない。コドモの頃食べた出雲蕎麦って、とにかく黒くて、子供のハートには全く届かない、食欲が湧かない代物だったと記憶している。しかし、最近じゃ挽きぐるみであってもそんなに色が凄いことにならないんだな。じゃあ、あの蕎麦殻の黒色はどこへ行ったのだろう?

ただ、食べるとやっぱりザラザラ、ごわごわ、もっさりした食感。それらを歯や喉で屈服させている時、蕎麦は最も輝く。ああ出雲蕎麦。

最近は、メインメニューの「二八そば」の他に「田舎そば」と銘打って挽きぐるみの蕎麦をだすところが珍しくないが、何だかお上品に仕上がっているものが多い。色が黒いですね、太打ちですね、香りも若干強い気がしますね、くらいだ。中には「色以外、あんまり違いがわからんのですが」という代物もある。やっぱりね、挽きぐるみをやるなら徹底的に「食いづらい」くらいにやってくれると、ちょとうれしい。これ、おかでんの個人的趣味だとは思うが。

割子そば薬味のせ

そのままでも十分においしいと思うのだが、せっかく薬味があるので、薬味を載せていただいてみる。

もともと、つゆをかけて食べるスタイルということもあって、薬味が加わってしまうと完全に蕎麦の香りがわからなくなってしまった。でも、これはこういう食べ物、ということで良いのだろう。どうしても、「蕎麦は香りが命」という教育を日教組から教わって育ってきたので・・・いや、うそだけど・・・、香りが埋没するような蕎麦の食べ方には抵抗があるのだった。しかし、蕎麦の多様性を考えればこういう食べ方もありだよな。もっと柔軟な発想に立たないと。

今でこそ、生産農家、製粉所、蕎麦店などが蕎麦の品質・保管方法を向上させて、年中薫り高い蕎麦が食べられるようになりつつある。しかし、つい10年位前までは、新そばの季節以外は香りもへったくれもない蕎麦が一年の大半出回っていたわけであり、それを考えればこの「割子」とか「ぶっかけ」といった食べ方というのは非常に正しい気がする。ずずずっと落語みたいな蕎麦の手繰り方なんて、新蕎麦の季節だけで十分だ(った)。

逆に言えば、香気立ちこめる蕎麦粉をわざわざ割子にする必要もない気もする。じゃあ、割子で一番安くて美味い食べ方・蕎麦のあり方とはなんぞや、というのはおかでんとしてはもっと研究してみたいところだ。

本日のそばの産地

お会計を済ませてお店を出ようとしたら、出入り口脇のボードに使用している蕎麦粉の紹介があった。

特選 島根県日南産 新そば
挽きぐるみ 島根県松江産 玄丹そば 新そば(つなぎ12%使用)
そばがき 岡山県蒜山産

驚いた。それぞれで蕎麦粉の産地を変えていたとは!

失礼ながら、出雲蕎麦ってのはすごく庶民的な世界であり、やれ蕎麦粉がどうだのこうだの、小難しい事ってやっていない素朴な料理だと思いこんでいた。しかし、料理に応じて蕎麦粉を使い分けるとは、お見それいたしました。凄いな。こうやって細分化している蕎麦店って、生産地を明示している蕎麦店の中でも少ないのではないか?

なぜ、そばがきと特選の蕎麦粉を使い分けたのか・使い分けないといけなかったのかなど、食べ比べを通じて検証してみたかったな。

とはいえ!既におなかがいっぱいなのだが。食後、しばらく動けなかった。釜揚げというほっこりする蕎麦料理を二軒続けて食べたせいもあって、もうこのまま昼寝させてください状態。

今までのおかでんの蕎麦食べ歩きって、常に冷たい蕎麦ばかりを食べていた。そのせいで食べ進めても比較的しゃっきりしているのだが、今回は初の「温かい蕎麦3連続。温かい蕎麦率、3軒中3軒で100%」という異例の状態。そりゃ眠たくなるわな。

セルフうどんの店もちゃんと松江にはある

おまけ。

きがるのすぐそばに、セルフうどんの店を発見。おお、松江の地でもうどん店は頑張っているのか。

でも、店頭に張り出してあるメニューがちょっと独特。「きんぴらうどん」とか、「あなごうどん」とか「梅入りうどん」だって。

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