そば さくら(04)

2010年02月13日
【店舗数:—】【そば食:442】
岡山県倉敷市本町

焼きのり、ざるそば、萬年雪極楽とんぼ

倉敷、ちょっと見ない間にやたらと飲食店が増えている。特にカフェ。「とりあえずカフェでもやっとくか」感があって、安直さは否めない。・・・といったら、実際に営業している人から怒られるだろうが、ホンマそんな感じで雨後の竹の子。日本人、メチャコーヒー好きなのか?

ただ、どのお店も倉敷のイメージを壊さないように、できるだけ地味に営業しているのが特徴。だから、「よく見るとカフェだった」という宝探し的要素が強く、「30分間でカフェを何軒探せるか対決」なんて企画をやっても良いくらいだ。

そんな町中を、全然別件で歩いていると、目の前に蕎麦屋「さくら」が見えてきた。過去3回訪れた事がある店で、もう訪れる事はないと思っていたのだが、その外観で「あれっ」と思わず立ち止まってしまった。

ええと、この店、こんなに地味だったっけ。同行者と雑談しながら歩いていたら、確実に見逃すレベル。大きな暖簾が下がっているとはいえ、非常にわかりにくい。

昔はどうだったっけ。記憶を辿る。というか、思い出せなかったので、後で写真で確認した。すると、昔は店頭に店名が書かれた大きな看板が出ていたし、暖簾ももう少し飲食店らしいものだった。しかも、店頭には杉玉がぶら下がっていた。そんな時でさえ、見逃して素通りしてしまうくらいの店だったというのに、このご主人は何を画策しているのか。秘密結社でも作るのか、それとも悪の組織化したか。

とんでもない辺鄙な山奥にある蕎麦店、というのは過去にも経験があるが、観光地という金と人が飛び交う場所の中で、こんなに地味な蕎麦店っていうのは見たことがない。絶対、店の屋根には凄い電波を発信して人心を惑わすアンテナがあるだろうし、地下には折檻部屋があるだろうし、地下トンネルがどこかに繋がっていて、そこでは黒ミサなんかが行われているに違いない。

ここが店である、とわかるのは、軒先にぶら下がった小さな灯籠と、玄関にあるメニューボード、そして営業時間を示した札のみ。店名が書いてあるのは、灯籠だけだ。メニューボードがなかったら、過去3回訪れた事がある僕でさえ、見逃していたかもしれない。そんな雰囲気。

そもそも、営業をやっているのかどうかさえ、大きい暖簾と、格子戸のせいでよくわからない。うっかり扉を開けたら、秘密の儀式をやっている最中で、それを見てしまってからは謎の黒服にずっと見張られる人生を送らないといけなくなりそうだ。

いずれは「会員制」という札だけ出すんじゃないか?という懸念すらしてしまうくらい、ほんま地味っすわ。

さくらお品書き

過去のこのコーナーでの記事を読み返すと、なんだかかわいそうな扱いになっちゃってる店ではある。初訪問は2000年と、コーナー連載が開始した年で歴史が古い。しかし、そのあと、2回目は「記憶にない」と訪問記をパス。3回目は、訪問記があるものの、掲載ミスがあったらしく、店に入る前までしか記事が残っていない。肝心の「蕎麦食べました」記録がばっさり抜け落ちてやんの。

久しぶりに暖簾をくぐってみてもいいかなあ、と、そういう不遇だからこそちょっと気になった。予定変更して、ちと立ち寄ってみっか?

このお店が蕎麦店であることを主張している数少ないアイテム、メニューボードを見る。初回訪問時である2000年からは既に9年以上が経過。そのせいで、価格も当然変わっていた。メニューの写真を残しておくと、そのお店の値段の移ろいが分かって面白い。鉄道マニアが昔の時刻表を愛するのと一緒の心境。

やはり、各料理ともに50円~100円程度、値上がっている。デフレの時代とはいえ、蕎麦の世界にはなかなかそれは適用されない。むしろ、上質な蕎麦粉は各店入り乱れての争奪戦になっていて、値上がりするのが普通。しかし、980円だった十割そばが900円に値下がりしていたり、お店側としてもいろいろ試行錯誤はしているようだ。

それより、メニューボードの脇にあるクレジットカードのシールが大変に目立つんですが、これは何?ここだけ急に俗っぽくなっているぞ。しかもシール多すぎ。一体どれだけ提携しているんだ。店内に入ったら各クレジット会社の入会申込書とパンフが置いてあったりしたらやだなあ。「さくらVISA/Masterカード誕生。さくらで飲食するとポイント2倍」みたいなオリジナルカードがあったりするとむしろ凄いけど。

このお店、「目立たない外観」で俗っぽさを遮断しているのに、何でここだけこんなになっちまったんだ?

冷酒

日曜日とはいえ昼下がり、既に14時を回った時刻だったので客はおかでん一人。このお店はオープンキッチンの形態になっているので、なんだか居心地が悪い。厨房から見られている気がするからだ。一応、厨房から背を向けて着座。いや、やましい事をするわけじゃないんだけど、ふと目をあげたら厨房のご主人と目があってフォーリンラブ、というシチュエーションはどうにも蕎麦が旨くなりそうには思えぬ。

予定外の訪問だったので、あんまり本腰据えて飲み食いする気は無かったが、一応蕎麦前を頼む。すぐご近所の森田酒造が作る「萬年雪」の純米酒、「極楽とんぼ」。

お盆と共に酒器も配膳される。メダカでも入れて飼いたい、と思ってしまった水差し・・・というか、これ、なんて言えばいいんだ?徳利じゃないし、ええと、とにかく酒を入れる器。それに、アテとして蕎麦味噌。

極楽とんぼは、その名前の通り、辛口であはるが気持ちよく飲めるお酒。お手軽で良いお酒でござんす。これなら昼飲んでも大丈夫。車を運転する前に飲んでも大丈・・・なわけ、あるか。それだけはやめとけ。免許更新の際に教習所で見せられるビデオみたいな事になるぞ。

焼き海苔

焼きのりを頼んでみた。既にここに来る前に軽く食事を済ませていたので、渋い一品。以前は「焼きのりなんかで酒飲む奴は老いぼれ」くらいの勢いで天ぷらみたいなボリュームとカロリーのあるものを愛したが、今やこのていたらく。・・・いや違う違う、既に胃袋には食べ物が入っているから。まだ老いぼれてないから。なんだったら、焼きのりを10人前頼んでもいいぜ。かっけーっす、おかでんさん。

さてこの焼きのりだが、木箱に入れられて出てくる本格派。おかでんが初めて蕎麦屋酒をやったときの酒肴がこれだった事を、遠い目で思い出す。この箱の下には小さな炭が仕込んであって、そのおかげでほんのり海苔が温かいのだった。

この海苔を持ってきたご主人は「備長炭が中に入っていますから」と一言添えていたが、高級品である備長炭を使うメリットって何なのだろうか。普通の炭と比べて海苔がイイカンジになっちゃってモウ、という事なのかね?

写真を撮るためにフタを開けていたら、わざわざご主人が厨房から出てきて「蓋は閉めておいてください。下から炭で暖めていて、海苔が湿気ないようにしてありますから」と指導が入った。おおう、蕎麦喰い人種歴10年にして、まだまだ未熟でございました。ご指導、あざーっす。

厨房から、お作法を監視されてるのか?ひょっとして。

確かに、蔵を改築して造ったこの建物、こういう建物は案外湿気が強い。せっかくぱりぱりの海苔を楽しむなら、少々の手間くらい惜しんじゃいかんってことだな。

ただ、人によっては「余計なお世話だ」と思うかもしれないご主人のこだわり。というか、客席に出てきて指導が入るって一体どこの世話好きオバチャンだよ。これは客によっては拒絶反応もあるだろうな。

薄暗い室内、古い建物故の重たい空気、厨房から丸見えの客席、そして拘りのあるご主人。もう、なんだか緊張してしまう少年おかでん(つい先日36歳になりました)であった。

そんなわけでおかでん、一枚海苔を取っては蓋を閉め、酒を飲み、また食べる段になって蓋を開け、海苔を取り、となんともせわしない動作なのだった。

海苔は手でつまんでいたのだが、ふと「ひょっとしたらご主人に『海苔は箸で食べるべきです』と指導が入るかもしれん」とびびり、慌てて箸に持ち替えた。

いや、ご主人がそんな小姑な事をするかどうかはしらないが、なんか意味もなく一人でびびっている状態だった。というより、「ご主人の指導にびびって食事をする自分」というシチュエーションを勝手に妄想し、勝手にゾクゾクしているだけ、であるんだが。

ざるそば

海苔と酒を愉しんでいたら、おかみさんらしき方がやってきて、「お蕎麦はどうしましょうか?」と聞いてきた。ええと、それはどういう意味だろう。一瞬たじろいでしまった。「アルデンテで」と答えるべきか、「ミディアムレアで」と答えようか?

結局、

「じゃあざるそば、1枚で」

と我ながらあまりにつまらない、偏差値50ジャストな回答。自分の才能のなさに後でがっかりする。

「すぐにお持ちしましょうか?それとも・・・」
「あ、もう大丈夫です、お願いします」

こういうやりとりがあったわけだが、ありゃ一体なんだい?蕎麦でしょ?「釜で炊くご飯なので、ご注文から20分ほどかかります」みたいなものではあるまい。食べたい時に、食べたい物を、食べたい量頼むので何ら問題あるまい。トヨタ看板方式だ。なぜわざわざ聞きに来る?何か不安なのかね?

店全体を覆う重たい空気のせいもあって、「チンタラしてないで、さっさと蕎麦食べなさい」と指導が入ったような印象を受けた。もしくは、ネットブックを広げてメールチェックをしながら飲食していたので、「蕎麦店で無粋な事を」という観点でのご指導か?

うおお、マゾにはたまらん店だ。

しばらくして、蕎麦が出てくる。ほら、やっぱり店員さんが蕎麦の注文を心配する程の時間はかからなかったぞ。何だったんだ?あれ。

急かされて注文したため、つゆの選択をうっかり忘れていた。このお店、デフォルトのつゆは砂糖が入っているのだった。だから、お品書きには「辛口のつゆもある」と但し書きが記載されている。辛口にしようと思っていたのだが、うっかりしていた。

その結果、つゆは・・・当然、甘い。過去3回とも、辛口のつゆとやらに出会ったことはないので今回が4回目。しかし、いまだにこのつゆには慣れない。みりんで甘さを出しているのではなく、ダイレクトに砂糖をガツンとかましているので、敢えて形容すると「すき焼きのタレ」系の方向性だ。とても味が重たい。

蕎麦も、重たい。重量が重たいのではなく、固めにゆでられていて、中身がみっちり詰まっている印象。きっちりときれいに切りそろえられた奇麗な麺のせいで、余計重たく感じるのはとんだとばっちりだ。

開放されている厨房では、新入りの従業員さんにご主人の指導が入っていたのだが、あまり客としては聞きたくない事だ。客がいないところでやるか、指導する場合は耳打ち程度でやって欲しい。ますます店内の空気が重くなる。さすがにこれはしんどい。蕎麦食べながらますます緊張してしまった。

食後、ご主人から「お酒どうでしたか?」と聞かれ、「はあ、おいしかったです」と答えた。いろいろお酒についてお話を聞かせてもらったのだが、「へえー、そうなんですかぁ」と身を乗り出して話を聞くよりも、びくびくして聞いていたのが実情。

オープンキッチン、やめた方が良いと思う。あと、このお店、照明をもう少し明るくしないと、空気が重すぎだ。蕎麦って、心地よく手繰って、鼻から蕎麦臭い息をぶはあああ、と吐き出したい。それにはちょっとキツいと感じたお店だった。

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