江戸前手打蕎麦 蕎香(旧名:さらし奈乃里)(33)

2010年10月22日
【店舗数:---】【そば食:457】
東京都板橋区前野町

秋刀魚の南蛮漬け、舞茸の天ぷら、甘海老の炙り、卵焼き、もりそば(大盛)、黒ラベル、菊正宗

蕎香

今年の秋は、例年になく精力的に蕎麦店巡りをしている。夏の間行った「ラーメン二郎遍路」ですっかり食べ歩きの癖がついてしまったのか、蕎麦も同様に食べ歩く日々。おかげで、ただでさえエンゲル係数が高いっつーのに今年はそれに拍車をかけている。食べ歩いた末、自己破産なんてしたら俺カッコイー、と冗談ながら考えてしまう。

とはいえ、最近の出費はなんだか変だ。おかしい。1軒にもかかわらず6,800円とか、4,500円とか。これは、お高い店ばかりチョイスしてうという変な癖がついたのか、それともお店での注文の仕方が乱暴なのか?昔はこんなにお金はかかっていなかったはずなので、不思議でならぬ。

そんなわけで、いったん原点に戻ってみることにした。蕎麦喰い人種おかでんの原点といえば、板橋区にある「さらし奈乃里」。家の近所だったということもあって、毎週土曜日になると、昼酒を飲りに行っていたもんだ。おかでん堕落の張本人・・・というと言い過ぎだが、蕎麦屋で憩うやり方を体得させてくれた店。

このお店はかれこれ6年間、訪問していない。おかでんが引っ越しをしてしまったからだ。随分久方ぶりの訪問。

この6年の間に、お店は屋号をかえていた。「さらし奈乃里」だったお店は、「蕎香」へ。ご主人が修行していた「築地さらしなの里」の名前を受け継いでいたのだが、看板のお世話にならない独自色を出そうと一発奮起したのかもしれない。

久しぶりに、最寄り駅の東武東上線ときわ台駅に降り立つ。数年で随分と変わったもんだ。昔は「東武東上線の田園調布」と言われるような高級住宅地で、駅を中心に放射状に広がる宅地、ロータリーがある道路など目を惹いたものだが、今や「日高屋」や「ぎょうざの満州」があったりする。おっと、ガストもあるぞ。

そんな景色を眺めながらお店まで徒歩15分くらい。この立地条件の悪さこそが、おかでん太鼓判の名店とはいえ再訪を阻んでいた原因。遠回りだけど会社帰りにちょっと、なんて無理だ。車で行こうにも、車一台ようやく通れるくらいの狭い道路が行く手を阻む。ましてや、このお店では酒を飲むことが当然という認識のおかでんにとって、車で来店なんて選択肢はありえん。

6年ぶりに見たお店は、あらためて苦笑してしまうくらいのド住宅街だった。やりすぎだろ、というくらい奥深い。住宅地の密林の奥また奥。こんなところでよく商売やろうと思ったものだ。10年前、初訪問したおかでんが「このお店はなんとか俺が支えなくては」と危機意識を持ったのも、納得だ。僭越な発想ではあったが、そう思わざるを得ない不利な立地。

ただ、あらためて見るとこの店、マンションの一階なんだな。店の作りを見る限り、マンション建設時に蕎麦店を想定してこしらえているようなので、ひょっとしたらこのマンションの大家さんなのかもしれない。節税対策で、赤字上等で趣味の蕎麦を打つ・・・いやいや、節税対策だとしたら、わざわざ築地さらしなの里で修行なんて、しない。ははーん、わかったぞ、きっと奥さんがこのマンションのオーナーの娘さんで・・・

余計な詮索はよせ。ゲスいぞ。

うへえ。

店の外観の写真を撮っていて、しんみりする。ああ、昔はこの外観写真を撮ろうとしても、収まり切らなくて難儀したんだよな、と。今は広角レンズを搭載したデジカメを使っているので、なんら問題なく撮影できる。こういうところにも時代の流れを感じる。

蕎香のれん

暖簾を見ると、確かに「蕎香」となっている。風の噂は本当だったか。

江戸前手打ち蕎麦、とも書いてある。何となくイメージできるが、この「江戸前」の定義はなんだろう。「江戸前の魚」というと、「江戸の前=東京湾」で獲れた魚を意味する。では、「江戸前手打ち蕎麦」とは?・・・わからん。

ビールを頼まなくちゃ

夜の部の早い時間に入店したので、客はおかでん以外だれも居なかった。

昔、いつも座っていた席に陣取る。そうそう、この感じ。白い机は今でも白い。蛍光灯の明かりとあいまって、白さが寒々しいお店。でも、清潔に見えておかでんは結構好きだ。白熱電球+間接照明+木目調の机、というのは時にはあまりきれいに見えない。

奥さんはまだ出てきていなかったので、ご主人が厨房から出てきて接客。おお、懐かしい・・・いや、すまん。全くこのご尊顔は知らない。何しろ、いつも厨房にいるから、顔を知らないのだった。ただこのご主人、お客様が退店する際には必ず作業中の手を止め、厨房の奥から目線をあわせながら「ありがとうございます」とあいさつをするので、目だけは覚えている。むむむ、そうだ、この目だ。この目には覚えがあるぞ。

うそ付け。目だけ覚えているはずがなかろう。ええとすいません、ビールください。中瓶で。

ビールを頼んだら、揚げ蕎麦が付きだしで出てくるのは10年来変わらないスタイル。これがうまいんだな。ビールに大変よくあう。なんならこの揚げ蕎麦、お土産として売ればいいのに。俺なら買う(キリッ

お品書き

さて、堕落しきったおかでんを、このお店で再教育してもらおうじゃないか。

「もらおうじゃないか」って偉そうな言い方だな。訂正。「再教育してくださいお願いします」。でも、再教育ったって、美味いモン食って酒飲むだけなんだけど。

で、飲み食いした結果やっぱりこのお店でも高い値段になったら、明らかに頼み方に問題があるわけで。もっと自省しなさい、ということになる。しかし、このお店だと明らかに安いんですけど、となると、お前高級げな店ばっかり行ってるんちゃうんか疑惑。

というわけで、お品書きを手に。

わっ。なんだ、これ。

すげーな。

そばみそ300円から始まって、400円とか500円とかそういうのばっかり。安ぅ。500円より上の値づけをするのは申し訳ない、とお店が考えているかのようなラインナップ。何コレ。こんなに安かったんだ、このお店。

そういえば、昔「ちょっとしたぜいたく。これが美味いんだよなあ」と頼んでいた「椎茸海老真丈揚げ」が650円。650円でぜいたくと思っていたとは。

壁一面の料理

厨房を遮るついたてには、びっしりとメニュー外の料理が張られている。10年前は、変わり蕎麦の張り紙と、あと1つか2つくらいしか張られていなかった。通っているうちにだんだん数が増えていったが、ここまではいかなかった。時の流れとともに、ご主人のやる気は壁面いっぱいになってしまった。これ以上メニュー増やせないぞ、物理的に。このお店は居酒屋か?

いろいろそそられる料理が並ぶ。しかし、驚きなのはその値段。ここもやっぱり、400円とか350円とか、そんなのばっかり。

板橋区の飲食店は小学生レベルの計算ができない店が多い、と言われるが、ここもまた板橋物価なのか。そばみそのようなちみっとしたものが300円、というのは分かるが、舞茸の天ぷらで300円って計算間違ってるだろ。草津温泉あたりの蕎麦屋で舞茸天頼んだら、下手したら1,000円近くすっぞ。天ぷらなんて、値段をつり上げても客は黙って頼むもんだ。もう少々高くてもいいのに、と客ながら心配になってしまう。

これで分かった。このお店は特別安いのだった。だから、ここで飲み食いしていた感覚でその他の店に行くと、案外高くついてびっくり、というのが事の真相。

この張り紙、全品頼みたい・・・という欲望がムラムラと沸いてきた。全部頼んだって、先日の6,800円という超絶お会計の店よりは安く済むんじゃないか?

秋刀魚の南蛮漬け

まず最初に頼んだのは、秋刀魚の南蛮漬け。これは下ごしらえが済んでいたので、すぐに出てきた。

出てきたお皿を見て、にやりとせずにはいられない。これで400円かよ!

激安居酒屋じゃあるまいし、どうせ量は少ないんだろうと思ったら奥さんこれが大変ですよ。結構量があるんですよ。しかも、きっちり料理をこしらえている。見目鮮やかな一皿ですよ。どうすんのよこれ。まいったなあ。うれしすぎて参ったなあ。

舞茸の天ぷら

時間差で舞茸の天ぷら登場。

300円ということで、さすがにグローブのような舞茸ではなかったが、それでも安い。

しかし、その外見は言われなければ舞茸に見えない。何か不思議な玉だ。舞茸だから当然なのだが、どす黒くて何だか怪しい。

菊正宗

これはもう清酒しかあるまいて。

ええと、菊正宗ください。

えっ、400円!?なんスかそれ、チャリティーか何かすか。

もともと菊正宗は「安いけど美味い酒」として蕎麦屋ではよく置かれているものだ。しかし、だからといって400円というのは破格値だ。

・・・いや、はじめて見たかのようなリアクションしているけど、昔はこれを毎度毎度飲んでいたんだよな。そうかぁ、400円かぁ。そりゃ安いわけだ。ここ最近訪れたお店って、凝ったお酒をチョイスするのはいいんだけど値段がその分高かったからなあ。

ありふれた菊正宗、といっても馬鹿にはできませんぜ。樽生、じゃなかった、辛口樽本醸。お酒にはきっちり樽のかぐわしい臭いが浸みていて、これがたまらんのですよ。しかも、ご丁寧に升まで用意してある。昔からずっと升だったかなあ?覚えていない。

お品書きを見ると、「豊杯(ほうはい)」本醸が500円。例の6,800円したお店でもこの「豊杯」は飲んだが、あっちは多分1,000円くらいしていたはずだ。もちろん、あっちは純米吟醸だと思うので、単純比較はできないが、それにしても安い。これくらいの値段の酒でいいんすよ、ホント。少なくともおかでんにとっては。

そういえば、例の壁に貼りだしてあるお品書きの中で、「大治郎 純米生酒」があったけど、これが1合600円。「とっておきの酒が入荷しました!」風なのに、それでも600円だもの。普通の店なら、清酒はこの値段からスタートするものだ。やっぱりこの店、客単価設定が随分と他店と違う。趣味蕎麦の店なのに、それらしさを感じさせない値付けでやんの。わーい。

干し甘海老

お酒を飲んでいたら随分まったりとしてきた。

一人酒が間延びしないように雑誌を持参していたが、そんなのはどうでも良くなった。一杯飲んでは斜め上を見上げ、ほーぅと一息つく。いい空気だ。

お客さんがぼちぼちやってきた。ちびっ子連れの母親、親子、夫婦・・・。満席とまではいかないが、そこそこ繁盛しているようだ。

厨房が慌ただしくなりそうなので、今のうちに追加注文しておく。今日はとてもうれしい時間を過ごせているので、リミッター解除!胃袋とか、財布を気にせず、欲しいものを食べようじゃないか。

壁面のメニューを全部やっつけよう、といよいよ真剣に考えたのだが、よく見るとその張り紙のうち大半が揚げ物だった。さすがに揚げ物尽くしはバランスが悪いのでやめ。そのかわり、「炙り」というのがあるので、それを頼んでみることにした。

ほたるいか、ほっけ、干し甘海老がある。ほっけを頼んだらものすごく赤提灯チックでイヤンな感じ。そのほかのほたるいか、干し甘海老というのはちょっと想像がつかない。ほたるいかって沖漬けにされているイメージが強いし、甘海老はお刺身だ。

試しに「干し甘海老の炙り」を頼んでみた。

あまり時間をおかずに甘海老ちゃん到着。あ、なるほど、こういうものなのか。これはデパートの物産展とか高速道路のSAで見たことがある。「炙り」というからには、じぅじぅと音を立てて炙られたものかと思ったが、どちらかと言えば「炒った」ものっすな。

これがまずかろうはずがない。食べてみると、かっぱえびせんの味がした。こういう「本物の甘海老」を食べて、「かっぱえびせん」を想像してしまうのだから、つくづくかっぱえびせんは凄いお菓子だ。

玉子焼き

わーい、老若男女みんな大好き、玉子焼きも頼んでみたよー。

これで400円。蕎麦屋で玉子焼きとなれば、700円800円とってもおかしくない一品だが、この板橋価格はうれしい。というか心配になる。どこで利益積んでいるんだよと。

このお店では、玉子焼きは夜のみの限定メニュー。一度作り出すとかかりっきりになってしまう面倒な料理なので、お客さんが多い昼時にはできないのだろう。おかでんがこのお店に訪れるのはほぼ昼だったため、この玉子焼きにはあまり縁がなかった。そんなわけで、積年の思いを晴らすべく、玉子焼きをえいっ。うん、うまし。柏手打っちゃう。砂糖による甘さは控えめ、というか入っていないのかな?という素っ気なさがむしろ素敵。あんまり甘いとお菓子みたいになるからな。シンプルに玉子玉子している玉子焼きが好きだ。大根おろしと醤油がこれまたあうんだなもう。

20101022-015

そろそろ蕎麦にいきますか。お客さんが結構入ってきたし。

もりそば、大盛りでお願いします。

えっ、大盛り?

いやもう、今日は大盛りで行きますよ。それが何か?

それにしても安いよなあ、もりそば600円。これなら安心して大盛りを注文できるってもんだ。

届いた蕎麦は案の定美味なり。よい蕎麦は値段が高くなる、というのはある意味正しくても、かといって値段が高いのを正当化はできないよなー、とつくづく思う。600円でも十分に美味い蕎麦は出せる。ここ最近、そば一枚1,000円近くするようなものばかり食べてきたが、そういうハイスペック蕎麦でなくても僕ぁいいや。見よ、この食べても食べても減らない蕎麦よ!素晴らしい。ええと、大盛りっていくらだったっけ。値段忘れた。

最後、お会計してみたら「4,000円」とのこと。結果的にそれなりのお値段になってしまったが、でもこれは承知の上での飲み食いだ。むしろあれだけ飲み食いして4,000円に収まったというのは素晴らしいとしかいいようがない。このお店に拍手。

お会計時、奥さんに「このお店に来るのは6年ぶりなんですよ」とこの胸の高鳴りを伝えようかとも思ったが、やめた。そういえば、この店の常連だった時も、一切なれ合いはせずに、客も、店もお互いに踏み込まない位置関係だったっけ。今回もそうしよう。

さて・・・帰るか。家まで2時間くらいかかるかもしれないが、徒歩で帰ろう。今日はなんかそんな感じ。

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