蕎麦切り わたなべ

2011年05月15日
【店舗数:272】【そば食:473】
栃木県下都賀郡野木町友沼

揚げだしそばがき、せいろそば

わたなべ

6月に、9年間乗っていた車を手放すことになった。なんとなく新しい生活を送ってみたくなったのがその理由。維持費用が捻出できなくて、というわけではない。なんとなく日常生活に閉塞感を感じてきたので、新しいいことがしてみたかったのだ。その際、敢えて活動範囲を広げる方向ではなく、窮屈な方向を選択してみた。不自由な生活、それもまた楽しかろう。マフラー編みの趣味が芽生えたり、新しい自分が生まれるかもしれん。

しかし、車がなくなるということは、ちょいと遠方の蕎麦屋に一枚手繰りに行く、なんていう機会がぐっと減ってしまう。分かってはいるけど、これはさびしい。まさか蕎麦食べ歩きのためにレンタカー借りる、というのも現実的ではあるまい。一泊二日でレンタカー借りた日にゃ、おかでんの性格だったら「24時間で何軒蕎麦屋を行脚できるか?」とタイムトライアルをおっ始めるにきまってる。やめとけ。

そんなわけで、車とサヨウナラするあと1か月の間に、できるだけ「車でお出かけする蕎麦屋」に行ってみようと思っている。本当は昨年秋、新蕎麦の季節に精力的に食べ歩きをしておくべきだったんだけどね。まあ、尻に火がつかないと動かないのがおかでんの性格なので、ああおかでん相変わらずだな、と微笑ましく見守っていただければ。

尻に火がつかないと動かない、というのは当日になっても見事に徹底。この日(5月14日)は朝から蕎麦食べ歩きに出かけるはずだったのに、朝からベランダでまったり日なたぼっこしちゃった。そのあとご丁寧に昼寝までしたものだから、活動開始したのは15時過ぎ。やべえ、もう日が傾いてきているじゃないか。

蕎麦屋というのは一部のお店を除き、閉店時間がやたらと早いものだ。飲食店だったら21時、22時まで営業していそうなものだが、蕎麦屋に関していうと、20時閉店または19時閉店というのが、ざら。ランチタイムでないと儲からない業種なのだろうか?東京近郊の蕎麦屋だと遅くまでやっているお店もあるけど、それはあくまでもごく一部。

というわけで、15時に家を出てどこに行けるの?となると、行ける場所は限られてくる。結局この日は、栃木県の野木にある「わたなべ」、そして出流(いづる)にある「いづるや」の二軒を訪問することにした。前日までの計画では、この「いづるや」の後に足利に出て、超有名店「一茶庵本店」に行くつもりだったんだけど。

野木といえばひまわりが有名で、夏にはひまわり迷路ができる。ひまわり畑を使って迷路を作り、その中スタンプを探してさまようのだった。以前行ったことがあるが、自分の身長以上もあるひまわりは正直怖い。完全に道に迷ったら、ひまわりをなぎ倒していけば迷路から脱出できるさ、と思っていたけど、いやいや、あれだけ茎が太いひまわりをなぎ倒すなんてのは無理。そんな思い出がある土地柄。

そんな野木の、国道4号線沿いにある蕎麦屋が「わたなべ」。蕎麦屋ゆえに、派手な看板は出ていない。「そろそろお昼ご飯食べたいねー」なんてドライブ最中語らっていた人でも、このお店を見逃してしまいそうだ。「あれっ、今蕎麦屋があったような?」、と。

広い駐車場はロードサイド店として必須アイテム。周囲にあまり民家がない場所なので、来店者は原則車で訪れることになる。

蕎麦打ち場

店に入ってすぐのところに、打ち場があった。到着したのは16時半だったが、蕎麦打ちの真っ最中。ちょうど蕎麦が切れたので追い打ちをしているとのこと。このお店は19時閉店なので、さて残り2時間半にどれだけお客さんが来ることやら。需要予測が大変だ。蕎麦屋の場合、「余ったら明日に回す」というわけにはいかないだろうし。

本日の蕎麦

本日の蕎麦、という札が店の入り口に下がっていた。

はあそうですか、と眺めるしかない。蕎麦喰い人種おかでんでさえそうなのだから、ごく一般の、たまにお蕎麦を食べますという人ならなおさらだろう。

「やっぱり茨城県桜川産常陸秋蕎麦は違うね。甘みが強い」とかなんとか、食べてわかるものなんだろうか?でも、きっと蕎麦打ち職人だとわかるんだろう。蕎麦のソムリエ。すげー。蕎麦みたいに地味な食べ物(良い意味で、だぞ)で味の区別がつく人って本当のグルマンだと思う。

ところで「本日の蕎麦」のところには北海道産のキタワセと茨城県産の常陸秋蕎麦、二つが並んで掲示されているんだけど、これは何?「さあ、今日はどっちでしょう?みんなで考えてみてね」ということか。店主からの挑戦状なのか。

恐らく、このお店には「生粉打ちせいろ」と「せいろ」があるので、それぞれ粉を使い分けているんだろう。どう使い分けているのか、おかでんはさっぱりだ。ならば食べ比べを、と思ったが、生粉打ちせいろは本日売り切れとのこと。やっぱり蕎麦屋は早い時間に訪れないとダメだねぇ。

ひょっとしたら二種類の粉をブレンドした、というのが正解かもしれないが、さあどうだか。

わたなべ店内

店内の様子。

小上がりと土間の席がある。

注文する品をむむむと吟味。生粉打ちせいろがない以上、せいろで決まり。なのだが、何かせっかくだからもう一品欲しい。「せいろ食べました。うまかったです。おしまい」では、このお店のレポートがどうにもつまらん。

「各種天ぷら」というのに惹かれた。野菜天ぷらや舞茸天ぷらが500円から。まあまあ安い。お品書きには「活車海老は、添えてある頭もぜひご賞味ください」と書いてある。ちなみに活車海老(二尾)のお値段は1,300円。なかなかデカい奴なのだろう。それにしても頭を賞味せよとは、よっぽどカリサクに仕上げたな、さては。旨そうだ。でも予算オーバーなので却下だ。

揚げだしそばがき

結局、目に留まった「揚げだしそばがき(950円)」を注文。そばがきを出す店というのは、それなりに蕎麦粉に自信があるという証拠だ。だったらぜひ頼んでおきたい。・・・と思っていたが、案外この法則には例外がある、ということを最近学んだ。それはともかく、そばがきを油で揚げると相当うまいぜ、というのは昨年訪問した蕎麦善の「そばのおに揚げだし」で実証済み。世の蕎麦店よ、そばがきをもっとじゃんじゃん揚げてくれ!と思ってやまない。
そんなおかでんのスピリットに応えるかのような、このお店のメニュー。これを頼まないで何を頼む。値段が安いからって、「そば豆腐(400円)」なんて頼むのはチキンだ!

そば豆腐をチキン呼ばわりしておいて、活車海老は「予算オーバー」と言って回避するのはなんだかずるいが、実際のところは活車海老のお値段を見た直後に揚げだしそばがきを発見したので、「これならOK」って思ったのは事実。実際はメインのせいろそばよりも高い一品であり、やっぱりこれも冷静に考えたら予算オーバーちゃうんか、という気がしなくもない。

まあ、いいや。予算なんて概念は生まれてこのかた、おかでんには存在せぬ。わはは。

で、届けられた揚げだしそばがき。

あれ。蕎麦善のような、「そばがきを小さく団子状にしたものを揚げました」というものじゃないんだな。塊のそばがきをそのまま、まるっと油で揚げて、それを暖かい蕎麦用のつゆに浸したものだ。上には大根おろしと三つ葉。

これは・・・「酒肴」でも「サイドメニュー」でもない、蕎麦のかわりになる主食級のものだな。

そうか、よく考えると「揚げ出し豆腐」の「そばがきバージョン」だと思えば全く納得がいく料理とネーミングだ。そうきたかー。

揚げ蕎麦断面

中はふわふわ。うまいっすよ、これ。一人で一椀ぺろりといけるが、何人かでシェアして食べるのも楽しい。つゆがいい感じでかき揚げに浸みており、三つ葉と一緒に食べるとじんわりうまい。三つ葉がさわやかで、良いアクセントになっている。これをパクチーにしたらより一層良いアクセントになって・・・うーん、それは断言できんな。

蕎麦の風味はわからなかった。つゆと一緒にうまいうまいとぱくぱく食べてしまったので、そばがき単体の味を探るところまでは至らず。

それほど蕎麦の風味が強く感じないのだから、これ、小麦粉でいいんじゃないか?と思ったが、よくよく考えてみるとそれだと「すいとん」だ。すいとんだと、小麦粉がみっちりと固まってしまい硬くなる。こういうふわふわなできにするためには、蕎麦粉で、それをぐりぐりとかき混ぜてこそできるのだと思う。

ちょとお値段高いけど、食べる価値あると思った。

せいろそば

せいろそば650円。

外二で打ってある。外二ということは、蕎麦粉10に対して小麦粉2。二八蕎麦よりも若干蕎麦粉が多く、83%が蕎麦粉ということになる。

もうここまでくれば、これとは別に生粉打ちせいろを用意する必然性があるんか?と思うが、たぶんあるんだろう。生粉打ちせいろを作ると国から奨励金がでるとか、先祖の供養になるとか。それは冗談としても、蕎麦の世界って奥が深いな。

ちなみにこのお店、面白いのは「かけそば」が存在しないことだ。暖かい蕎麦が存在しないのかといえばそうではなく、「鴨南蛮」「天ぷらそば」「玉子とじそば」の3種類は暖かい。なぜ、暖かい蕎麦の基本形である「かけそば」がないのか、これはきっとフリーメーソンの陰謀とかそういう人に言えない何かがあるに違いない。いぶかしんで、うどんについても調べてみた。このお店は蕎麦だけでなくうどんもある。すると、果たしてここも、「もりうどん」はあれど「かけうどん」はなかった!うーん、ますます謎だ。

せいろそばアップ

麺は細く、しっかりとエッジが立ったもの。つるつるっと手繰って喉にすとんと落とすととても心地よい。心地よいだけでなく、さわやかな蕎麦の香りが広がり、ちょうどこの時期・・・朝夕涼しいけど昼間は若干蒸し暑い、という時期にぴったりな雰囲気。

蕎麦を噛むと上品な味がしてこれはこれでよいのだが、細麺ということもあってあまり噛まずに胃袋にダンクシュートした方がうれしい麺という気がした。

後半は、水切りがあまりよくなかったこともあり味がぼやけたのが惜しい。ざるの上に蕎麦を乗せても、水たまりはできてしまう。蕎麦業界は、「リアルに水がよく切れるざる(またはせいろ)を開発すべきだと思う。

ちなみに食べたせいろそばは、さっき店頭で打っている最中だったもの。まさに「打ち立て」を食べることができたのは、良かった。

美味い蕎麦を食べさせてくれるお店だと思う。天せいろなどを頼まず、せいろを食べていれば650円とお安いので、「お高くとまって値段も高い」蕎麦屋ではない。おすすめしたいお店だが、なにせ国道沿い、しかも一桁国道沿いということで場所柄の色気がないのが惜しいところ。運よく立ち寄る機会があればぜひどうぞ。

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