蕎麦善

2010年10月25日
【店舗数:262】【そば食:459】
東京都新宿区四谷

酒の肴三点盛り、そばのおに揚げだし、せいろ、八海山、燗酒

蕎麦善

突然だが、蕎麦は温かい方がおいしいと思う。

人間、温かい方が味覚が鋭敏になるのは誰しも理解しているところ。よって、蕎麦だって当然キリッと冷えたもりそばよりも温かい方が風味が引き立つ・・・はず。でも、実際はかけ汁やら上に載っている種のせいで蕎麦そのものの風味が散漫となる。

だから、おかでんとしてはもっと蕎麦店に「湯だめ蕎麦」ないし「釜揚げそば」、つまり湯のなかをゆらゆらと蕎麦が泳いでいるタイプのメニューが普及して欲しいと思っている。

もちろん、伸びやすいし、熱いからずぞぞぞッと手繰ることも難しい。でも、それを乗り越えるだけのポテンシャルが有ると思うんだが、どうなんだろう。先人はもうその手の実験をやりきって、駄目の烙印を押して撤退したのだろうか。

前回訪問した「吟八亭 やざ和」では、「湯だまり蕎麦」というのがお品書きにあった。さすがに伸びやすさを警戒してか、太打ち麺を使う気配り。これ、絶対美味いと思うんだよな。

そんなことを考えていたら、急にそばがきを揚げた奴を食べたくなったのだった。そばがきはもともと温かい蕎麦湯の中に浸かっているものがおおく、おかでんのニーズと合致する。しかし、暖かくなるのは良いんだけど、水っぽくなるんだよなあ。だったらYou、揚げちゃいなYOと思うわけで。確か昔どこかでその手の揚げそばがきを食べたことがあったと記憶にあるのだが、いつ、どんなものだったかは忘れた。

そんなわけで、そばがきを揚げたものが食べられるお店に行く事にした。場所はJR四谷駅から徒歩5分ほど、白い暖簾が目印の「蕎麦善」。

蕎麦善店内

ごろり、とやや重めの木の引き戸を開けると、そこは蔵の中にいるような感覚。天井は高くないけど、藁が塗り込まれた土壁、間接照明で薄暗い店内が落ち着きを与えてくれる。流れるBGMは、ジャズ。・・・この「とりあえずジャズ流しておけばハズレはないだろ」感、個人的には大嫌いだ。ジャズっていつの間にBGMに成り下がってしまったんだろう。
でも、だからといって「和風のテイストを全面に押し出しました」といって津軽三味線がベンベンなっているのもさえなさすぎる。「民芸調を前面に打ち出した蕎麦店で当たりは少ない」というこれまでのがっかり経験値を踏まえると、そういうBGMは勘弁。

一枚板の大テーブルには6名対6名でお見合いができるようになっている。これに二人がけのテーブルが2つ、四人がけが一つ。

蕎麦食べ歩きで体得したテクニックとして、「空席があるならばできるだけ店の対角線に陣取れ」というのがある。端っこに座った方が、全体を見渡せて良い。って、一体どこの産業スパイなんだお前は。

純芋
お品書き

卓上には「純芋」とか「天山戸隠」と書かれた紙が三角形に折られて自立していた。何か陰陽道に基づく呪文かと思ったが、焼酎のことだった。そして、なにやら丸まった紙が一枚、箸立てに刺さっているので何かと思ったら、これがお品書き。
ペラ一枚、しかも丸められて刺してあるお品書きなんてはじめて見た。巻き癖がついているので、手を離すと卓上でくるくる丸まってしまうのには難儀するが、表に蕎麦と酒肴、裏に酒というシンプルな構成は非常に分かりやすい。

ここ最近のおかでん、お品書きを前に何を選ぼうかと半ばパニック状態になることが多いのだが、このお店は余裕をもって吟味できた。「選ぶ余地がない」のではない。あれこれ選びたいものはあるのだが、そこまで手を出す気にならないのだった。なにせ、「そばがきを揚げたもの」が本日の目的で、最後のシメにはせいろそばを食べる。ほら、もういろいろなものをごてごてと組み入れる余地なんてないでしょ?

酒の肴三点盛り

なにしろ、卓上にこんなものが。

「酒の肴三点盛り~各3点で945円」。

味噌や佃煮といったものだが、こういう憎い酒肴があるなら選ばないわけにはいかぬ。

ああ、本当は蕎麦の刺し身である「板そばのお造り仕立て」を頼みたかったのだけど、今日は無理だ、ごめん。

「蕎麦刺」は先日「沙羅の花」で食べて、そのおいしさに開眼したものだ。熱い「そばがきを揚げたの」と冷たい「蕎麦刺」の共演をしたかったのだが、むんずと割って入ったのがこの酒の肴三点盛りだった。

どのようなものがあるのかというと、

・くるみ味噌 ・ふき佃煮 ・なんば味噌 ・金時草佃煮 ・ぶた味噌 ・ふきのとう佃煮 ・おおば味噌 ・うど味噌

といったもの。想像しただけで口の中が辛くなってくる。酒が進みそうだな。

酒

というわけで、麦酒飲み人種であるおかでんなのだが今日は清酒からいきなりスタート。

清酒欄の先頭をお品書きで飾っていた、「八海山」をチョイス。

木のボードの上にサーファー気取りで載ってやって来た酒器一式がちょっと珍しい。

このお店、全体的に料金は良心的。この八海山は630円、この後追加で頼んだ燗酒は525円だった。店の雰囲気からして、もう100円ないし200円くらい釣り上げてあってもおかしくはないが、酒を飲んでもらおうという意欲の表れなのだろう。ここの店主は夜の客を増やしたいとあれこれ試行錯誤していたというから、その成果の一つがこの酒の品そろえと値段なのだろう。「夜もうけたい=客が少なくても粗利を高く設定しときゃ、そこそこ儲かるだろ」という発想にしなくて正解。そんなことやってたら、この不景気のご時世あっという間にドボンだ。

酒の肴三点盛り

酒の肴三点盛り。左からぶた味噌、金時草佃煮、ふきのとう佃煮。

これは良いアイディアだと思う。保存がきくものだから、ある時に作り置きしておくことができる。そして注文が入ったら盛りつけるだけだから、客に早く提供できて店も客もうれしい。おまけに酒が進む。このアイディア、他の蕎麦店も見習ったら良いと思う。

で、なんだかわくわく感とお得感を感じながら頼んではみたものの、この3点盛りで945円ってよく考えたら高いよな。でも、ぱっと見「高い!」と思わせないのがこの料理のコツ。8点ある中から3つを選んでね、というのに気を取られているうちに、値段の妥当性を忘れてしまう。

高い、とはいったが、じゃあこれよりもっと盛りつけます、というのは正直いらん。量はこれで十分すぎる。さすがに佃煮とか味噌だもの。口の中が塩っ辛くなってしまった。

そんなとき助かったのがぶた味噌。豚の甘みがあったおかげで口の中を若干中和してくれた。

そばのおに揚げだし

これが本日のお目当て。

そばのおに揚げだし 630円。

揚げ出し豆腐風にポン酢と大根おろしで頂きます、という逸品。そばがきを団子状にして、そのまま揚げてある。表面が竜田揚げのようになっているが、そばがきをそのまま揚げたらこうなったのか、それとも打ち粉をまぶしたらこうなったのかまでは判別不能。

ちぎっては油に投げ入れ、またちぎっては投げ入れを繰り返したせいか、形はあまり美しくない。写真写りが悪いのは残念。手元のガイド本には非常にきれいにお皿に盛りつけられていたのだけど。でも根はいいやつなんです、信じてくださいおまわりさん。

信じる信じないなんてどうでもいい。さあ、まだ余熱があるうちに食いさらせ。

これが奥さん、表面はかりっとしているけどすぐにもっちりになって、湯気がふわんとあがると同時に蕎麦の香りが引き立つわけですよ。んで、もぐもぐやると蕎麦の青臭い味がむにむにとわき出てくる。どうですかこれで630円はお安いんじゃございませんか。

やはり温かいと蕎麦の風味が引き立つというのはガチだった。ずるずるっと手繰って手繰って、はかない香りを鼻腔に感じるなんてことをしなくて良いんだもの。ほら、中には冷水で締めすぎてガッチガチに堅くなった蕎麦があるじゃないですか。あれをいかに華麗に手繰ったって、蕎麦が萎縮しちゃって香りも味もへったくれもあるかーって。それと比べりゃ、こっちは超優等生ですよもう。

そばがきを頼むと1,000円以上するような店はざらにある。でも、この630円のそばがきを食べた日にゃ、千円札一枚が消えるようなそばがきって特に無くてもいいんじゃね?と思う。うわあこれは暴言かしらん。

なおこのお店は、兄弟メニューとして「そば団子のいそべ揚げ」というものもある。こちらはさらにお得な525円。素晴らしい。

せいろ

最後にせいろ。

生粉打ちもあったが、十割蕎麦をそれほど崇拝しないようになったおかでんとしては選択対象にならなかった。なんならこのお店は「重ね」という二段重ねの注文ができるので、せいろと生粉打ちの重ね、という頼み方をするもよし。

麺はあまり長く繋がっていない。箸でつまんだ時、それほど美しい見てくれにはならないのだが・・・その見てくれ以上に中身は野蛮だった!表面の水分が乾燥しちまったのか、というくらいぼそぼそした食感。口ですすり上げるのが若干力を要するそのワイルドさは、他店にはない魅力。たとえて言うと、折り込みチラシをくちゃくちゃに丸めたようなガサガサ感を口の中に押し込んでいる感じ。粗挽きの蕎麦粉であるのは歴然としているが、なんでこんなやんちゃな仕上がりになったのか、不思議だ。何度もふるいにかけてサイズ違いの蕎麦粉を混ぜているのだとおもう。

この食感、口の中に入れても続く。喉の奥へ、人間の「触覚」が及ばなくなるところまで飲み込まれるまで、食感が残る。とんでもねぇやんちゃ野郎だ。これ、今回はとてもおいしいから良いけど、季節外れでおいしくない蕎麦と出会ってしまった場合、むしろ腹立たしく思っただろう。しみじみと蕎麦って時期を選ぶと思う。

つゆは甘みを抑えて辛みが強調されたもの。もう少し甘みを加えて丸みのある味にした方が個人的には好みだが、いやはやなにはともあれこの蕎麦の威勢の良さの圧勝だ。二八でこれだと、十割はどんな感じなのだろう。

このお店、酒肴は315円から取りそろえられているし、蕎麦もまだまだ興味が尽きない。ぶっかけの品そろえが妙に良いというのもお店の敷居の低さを感じさせ、なんだかうれしい。また機会があったら訪れたいものだ。今度は必ず「板そばのお造り仕立て」を頼まないといけないし。

コメント

コメントする

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください