上野 藪そば(02)

2012年09月16日
【店舗数:—】【そば食:507】
東京都台東区上野

焼き海苔、せいろう大盛り、菊正みぞれ酒

9月中旬。そろそろ新蕎麦の季節だ。気が早い蕎麦屋は、まだ残暑厳しいこの時期から新蕎麦を提供している。

9月の新蕎麦といえば、なんといっても北海道産だ。そして、新蕎麦の収穫場所は日本列島をそろりそろりと南下し、九州まで行くと12月になってようやく新蕎麦が収穫、という気の長さだ。

蕎麦(及び蕎麦粉)は、生ものだ。丁寧に取り扱わないと風味がすぐに飛ぶ。だから、新蕎麦が出る直前の季節、すなわち今頃が「天国と地獄」の端境期だ。運が良ければ収穫したての蕎麦が食べられるし、運が悪ければ一年で一番風味が落ちる蕎麦が供されることになる。

もっとも、最近は蕎麦粉の品質管理はぐいぐいと良くなっており、向上心がある蕎麦屋は一年を通じて味も良ければ香りも良い、優れた蕎麦を提供する。とはいえ、新蕎麦を使った蕎麦が美味いのは間違いがないわけで、そうなると9月~12月が蕎麦食べ歩きのベストシーズンと言える。

今年は、この4か月の間で10軒以上は蕎麦を食べ歩きたいと思っている。昔はもっと精力的に食べてきたんだけどなあ、今じゃすっかり沈静化してしまった。これではいかん。もっと食え、蕎麦を。

新蕎麦のシーズンインを舌で確認するため、街に出た。最初に目指したのは「池の端藪蕎麦」。

以前から気になっていたお店ではあるが、一度も訪れていない。今回こそ、行こうと思う。

昔、まだおかでんが車を所有していた頃は、「蕎麦を食べに行くぞ」となると長野県とか、遠方をイメージしていた。しかし、車を手放した今、あらためて都心にある蕎麦屋を見直そうと思っている。遠方に行かなくても美味い蕎麦はきっとあるはずだ。

池の端藪蕎麦は、鈴本演芸場の裏手で、商店街の中にある。こんなところに蕎麦の名店があるというのだから、世の中わからないものだ。

この池の端藪蕎麦は、「藪蕎麦御三家」のうちの一角を成すお店。いやまあ、御三家だから何がどうした、という訳ではないのだが、由緒正しいということで。

たとえ由緒正しくても、食べられ無いんじゃ話は始まらない。お店に行ってみると、暖簾が引っ込められているどころか、シャッターがぴっちりと下りていた。張り紙によると、今日は早じまいだったらしい。やられた。「中休み無しの蕎麦屋だから、昼下がりの中途半端に行こう」と敢えて時間を逸らせたのに。それが裏目に出た。

まあ、こういうのも何かのご縁だ。今回は縁が無かったということで、次の機会を待とう。

つるや

池の端藪が閉まっていたので、途方にくれたおかでん。

既に頭の中は蕎麦モードになっていて、今さら別のものを食べる気にはならない。・・・あっ、そうか、「何も食べない」という選択肢があったな。今この文章を書いていて気が付いた。気づくのが遅い。

というわけで、代替となる蕎麦屋さんを探す。スマートフォンで調べてみたところ、駅のガード下に「つるや」という蕎麦屋があることを発見。あんなところに蕎麦屋があったっけ?全く記憶にない。でも、今いる場所から比較的近いので、さっそく行ってみることにした。「うーん?」と首をひねりながら。

行ってみたら、おお、確かに蕎麦屋があったぞ。これは大変失礼いたしました。

見てみると、ちょっと面白い蕎麦屋だ。1階は立ち食い蕎麦屋で、2階は麺と定食を取り扱っているお店になっている。客のニーズにこたえて、「さっと食べてさっと出る」にも「じっくり腰を落ち着けて食べる」にも対応しているというわけだ。1階の蕎麦と2階の蕎麦は同じものを提供しているのだろうか?ちょっと気になるお店。

とはいえ、今日のおかでんはこういうお店を求めている訳ではない。新蕎麦が食べたい、それに尽きる。ここはちょっと違うなぁ。

新規店舗開拓をしたいところだけど、やめにしよう。ここは手堅く、過去に訪問歴のある上野藪そばに行くことにした。

上野駅から御徒町に続く道は人でいっぱい。一体どこからやってきたのだろうか、今日は何があるのだろうかと不思議でならない。でも、その人ごみを構成する一人が自分自身なので、不思議がるのはお門違いなのだが。

時刻は16時50分。昼から夜まで通し営業をしている蕎麦屋でないと、この時間はお店を開いていない。でも、上野藪は通し営業をしているのでありがたい。ほら、のれんが下がっているのが遠くからでもわかるぞ。

よく見ると、入口脇に「新そば」の張り紙がしてあった。良かった!やっぱり9月16日、既に新蕎麦が出回っていたか。ありがてぇありがてぇ。

造り酒屋の場合、新酒ができ上がったら店頭に杉玉(酒林)が軒先にぶら下がるものだが、蕎麦屋の場合はこの「新そば」の札が定番だ。製粉業者が販促ツールとして蕎麦屋に提供しているのだろうか?それとも蕎麦生産者?いずれにせよ、この「新そば」の表示があるだけで、僕らみたいな蕎麦喰い人種は食欲が喚起されるのだった。

中華料理店では「冷やし中華はじめました」という張り紙が定番。それに倣って、蕎麦も「新蕎麦はじまりました」という表示があっても良さそうなものだ。それでも、どこのお店でも「新そば。」と潔い表現一言で客にアピールするところが渋い。渋すぎる。

菊正みぞれ酒

店内はあまり広くないので、結構お客さんがいた。早い夕食だろうか、それとも遅い昼食だろうか。僕?ああ、僕は今日二度目のお昼ごはんですよ。ほっとけ。

※上野藪を訪れる前に、「ナポリピッツァフェスティバル」というイベントに行き、ピザ1枚を一人で食べたばかり。もちろんビールも飲んだったぜ。

どうやら、17時以降は二階席も解放しているらしい。時間により客席の面積を広げたり縮めたりするのはちょっと面白い。

さて、恋い焦がれた新蕎麦を注文しよう。でも、いきなり蕎麦を注文すると、がっついているようでよろしくない。もっと大人の優雅さをだな、ふんわりと漂わせないと。ええと、「菊正みぞれ酒」ください。

このお酒、前回上野藪訪問時にもいただいたお酒。蕎麦屋の定番酒である菊正宗がシャーベット状になっているものだ。今日みたいに蒸す日にはちょうどよい。

それにしてもどうやってこれを作っているのだろう?凍らせすぎるとカチンコチンの氷になってしまうし、それを恐れていたら全く凍らない「よく冷えた菊正宗」だ。微妙な冷蔵庫の温度設定のたまものなのかもしれない。これ、隠れた名品だと思う。

今、ビール業界では「エクストラコールド」や「一番搾りフローズン」などといった「氷点下で冷やしたビール」が流行りだ。この「菊正みぞれ酒」もそれに負けていないできだと思うが、どうか。

おかでんにとってうれしいのは、このお酒はちびりちびりと飲むことが求められるということだ。凍っているので、ぐいっとあおることができない。ビール党のおかでんは、清酒もついついビール感覚でカキーンと飲んでしまう悪い癖があるのだが、このみぞれ酒ならそうはいかない。結果的にアルコール量をセーブし、悪酔いを予防してくれるのだった。

焼き海苔

焼き海苔を頼んでみた。480円。ふたを素早く開け、中の海苔を一枚かすめ取り、それに醤油を少しだけ浸してわさび乗っけて口の中へGO。おっと、ふたを閉めることを忘れずに。この間、所要時間は10秒足らず。

どこのお店だったか、以前、焼き海苔のふたを開け放しにしておいたら店員さんに「食べない時はふたを閉めた方が湿気なくて良いですよ」と言われたことがあったっけ。なんてデリケートな食べ物なんだ、海苔は!と感心したものだ。だから、今でもそれを忠実に守っている。

からりとした仕上がりの焼き海苔を食べると、つくづく美味いと思う。「あなたは焼き海苔派?それとも味付け海苔派?」という対決がテレビ番組の話題に上がることがあるが、今この瞬間なら「焼き海苔に決まってる!」と言い張れる。

しかし、家に帰ったら味付け海苔をバリバリ食べて、「これはこれで(良い)」とご満悦になるのであった。どっちつかずだ。

せいろう

せいろう750円。せっかくの新蕎麦なんだから、腹いっぱい食べたいものだ。300円追加で大盛りを注文してみた。合計で1,050円。ひゃー、夏目漱石さんが一人お亡くなりになる値段じゃないか。うむ、でも今シーズン初の新蕎麦。けち臭いことは言いっこなしで、ガツンと食べようではないか。

届けられた蕎麦を見て、あれッ、と思った。大盛りではなく、ノーマルの蕎麦が届いたんじゃないか、と思ったからだ。まさかこれを食べ終わったら、次のせいろが届けられるという仕組みじゃあるまいか、と本気で思った。しかし、この店ではこれが大盛り。まあ、さっきピザ一枚食べたばっかりだし、これくらいの量がちょうどよさそうだ。

蕎麦はさすが新蕎麦を使っているだけある。新蕎麦ならではの香りが口の中に広がり、そして鼻腔へと伝わっていく。久しぶりだな、この感覚。蕎麦の歯切れも良く、おいしい蕎麦だ。

しかし、数口食べたところで蕎麦の香りは消えてしまった。おかでんの鼻はすぐに香りに慣れてしまうのが残念だ。せっかくの良い香りであっても、あっという間に慣れてしまい、香りを感じにくくなってしまう。逆に言えば、悪臭もすぐになじむのかもしれない。それはそれで良いような、悪いような。

さて、新蕎麦のシーズンがいよいよこれにて開幕。今シーズンは何枚の蕎麦を手繰ることができるのだろうか?

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