手打古式蕎麦

2012年11月28日
【店舗数:318】【そば食:540】
東京都文京区湯島

古式もりそば

手打古式蕎麦
手打古式蕎麦の看板

上野の方に用事があったので、せっかくなので湯島まで足を伸ばしてみることにした。湯島といえば学問の神様、湯島天神が有名だが、蕎麦業界的には「古式蕎麦」というお店があることで有名・・・なのかな。まあ一応個人的には大注目のお店がそこにはある。

何が注目なのかというと、提供される蕎麦の見てくれだ。どす黒い。太い。「ワイルド」という言葉の範疇から飛び越して、「何じゃこりゃ」という蕎麦だ。雑誌で初めて見て以来ずっと気になっていたのだが、今回これを機に実際食べてみることにしよう。

ところで蕎麦屋の店名だが、どこまでが正式名称なのかよく分からないものが多い。このお店の場合、「手打古式蕎麦」が正しいのか、「古式蕎麦」が正しいのか、不明。他にも、「玄蕎麦 野中」は「野中」が正式名称なのか、「玄蕎麦」まで含めて正式名称か、など挙げればきりがない。面倒なので、このコーナーではばっさりと「前口上」の部分は切り捨てている。だから、このお店も「古式蕎麦」と呼ぶことにする。

湯島天神からまっすぐのびた道を進んだところにひっそりとお店はある。

店内

店内は今風の蕎麦屋の作りではなく、レトロ感ある蕎麦屋。それもそのはず、このお店は昭和56年創業ということだから、もう30年以上が経過したお店だ。

さて、何を選ぼう。

一品メニューは「付き出し」と書かれたところに記載されている。しそ巻きらっきょうが210円と非常に廉価。「山揚げ」という山芋をすり下ろしたものを揚げた料理が気になるが(630円)、今日はお酒を飲まないので注文はやめておく。

なお、お酒だが、250mlの缶ビールが置いてあったりしてちょっとお茶目。もちろんそれだけでは物足りないので、ちゃんと瓶ビール(中瓶)も置いてあるのだが。

お酒のメニューにはこんなことが書いてあった。
昼時のアルコールはお出しできない場合があります。
当店はそば屋ですので、そば・うどんを召しあがらない場合、席料をいただきます。御了承ください。

へー。きっと以前、蕎麦頼まないでくだ巻いたお客さんがいたんだろうな。どんなお客さんだよ。居酒屋行けよ。さては夜だけのメニュー「煮こんにゃく」「焼こんにゃく」「さつま揚げ(焼)」(いずれも210円)という廉価メニューで粘ったに違いない。安く飲めるっちゃあその通りだわな。お店の良心価格が仇となったか?

今回目指す蕎麦は、「古式もりそば(990円)」。どす黒い蕎麦を、大根の絞り汁と醤油で食すというものだ。普通のもりそばもあるのだが(890円)、やっぱりここは店名にもなっている「古式」でいってみないと。

でも、「お昼のサービスメニュー」ということで、もりそばは890円→700円と大変にお得になっており、ちょっと気持ちが揺らぐ。いかんいかん、初志貫徹せねば。

古式もりそば
古式もりそばアップ

平日の13時半にもなれば、お客さんはおかでん以外誰も居なくなった。一人だけの店内で蕎麦を食す。ただ、店内にはテレビが設置されており、そのテレビでは昼下がり特有のサスペンスドラマなんぞが放送されていた。手が空いたご主人と奥さん、二人ともテレビを見入っていた。「怖くて今晩眠れなくなっちゃうよ」なんてご主人が言ってる。

さて、届けられた蕎麦だが、これこれ、これが欲しかったんですよというワイルドな見てくれ。ぱっと見た時、これを「蕎麦」と認識できない人は多いんじゃなかろうか。何か別の麺と捉える人がいても不思議じゃない。ありそうなのが、「うどんに炭を練り込んだんですか?」という推測。でも違うんだなこれが。甘皮を一緒に挽き込んだ蕎麦なんだな。

「田舎蕎麦」などと呼ばれる挽きぐるみの蕎麦は決して珍しくない。しかし、ここまで黒い奴は見たことがない。スーパーのチルド麺売り場に、この手の黒っぽい蕎麦が売られている事があるが、それよりも何よりもこいつは黒光りし、怪しい形相をしている。

基本太いのだが、その太さはまちまち。昔は手打蕎麦といえば、太さがバラバラなのが味のうち、という雰囲気があったが、その流れを今に汲む感じ。このワイルドな外観とマッチしていると思う。「太いところと細いところでゆでムラができるから良くない」のは正論だが、この蕎麦の場合「知ったことか!」と言い切ってしまう勢いがある。

まず、蕎麦だけで食べてみる。見た目、相当ぼそぼそしている気配のある蕎麦なのだが、意外なことにつるっと食べることができる。いや、微妙にぼそぼそしかかっているのだが、かろうじてそれを防いで良い食感に仕上げている気配がする、という表現が正しいのかな。なんでも、この技術は特許を取っているそうで、なるほどこういう世界でも特許って取れるんだなと感心してしまった。

これは香りが良い!さすがに甘皮まで含まれているだけあり、香りが強い。それだけでなく、野趣あふれる蕎麦ならではの味が後からしっかりとついてくる。これ、おいしいぞ。

若干ねっとり感を感じる蕎麦を噛んでいると、香りと味が交互に口の中を覆うので、これは癖があるものの良い蕎麦に出会ったと早くも大満足。

そば湯

大根の絞り汁と生醤油が用意されている。これをお好みにあわせて混合して食べよ、という。高遠そばみたいなものだな。昔の蕎麦は、そばつゆではなく大根の絞り汁で食べたという事なので、これも「古式」たるゆえんなのだろう。

さて、大根のしぼり汁と猪口に移し、まずはそれだけで蕎麦をいただいてみる。うん、おいしい。辛さはない。辛さが希望の方は辛味大根Ver.があるので(お値段上がって1,200円)、そちらをどうぞ。とはいえ、蕎麦の味を引き立ててくれてこれは良い組み合わせだと思った。蕎麦の味を殺さないつゆ。とても良いと思った。

おかでんの場合、せっかくの美味い蕎麦でも、つゆにつけて食べた直後に味覚嗅覚がつゆに奪われてしまって蕎麦の風味が分からなくなる、という欠陥がある。その点、大根のしぼり汁の場合はそんな心配がいらないのでうれしい。

ああ、これ、薬味(鰹節とあさつき、わさび)をジャブジャブ入れても大丈夫だ。ストイックにつゆと蕎麦だけでいただく、なんて事をしなくていいぞ。わーい。

ちなみに、鰹節は鉛筆の削りカスみたいなやつだが、これがめっぽう美味かった。薬味としてではなく、酒肴としても通用するぜ、これ。

しばらく大根のしぼり汁だけでいただいた後、生醤油を入れる。すると面白いもので、先ほどまで辛さを感じなかった大根が、きりっと引き締まって辛味を感じるようになった。これで食べる蕎麦もまた美味い。というか、しぼり汁+生醤油だけでもぐいぐい飲める。こりゃいいや。

湯飲みにそば湯

夢中で食べた蕎麦。シメとして蕎麦湯が届けられた。・・・大きな湯飲みで。

今まで何百食と蕎麦を食べてきたが、「湯飲み」で蕎麦湯が出てきたのは初めて見た。何ですか、これは。

うっかり手に持つと、これが激アツ。「あちゃあ!」と思わず湯飲みを落っことしそうになったくらいだ。これ、うかつに触ると危険。

そんな湯飲みをおそるおそる手元に引き寄せ、猪口に蕎麦湯を移す。当然、湯飲みには注ぎ口がないので、蕎麦湯がだらーっと机にこぼれてしまった。ああ。

後になって考えてみれば、猪口で蕎麦湯を飲むのではなく、この湯飲みの中に大根のしぼり汁や生醤油を注ぐのが正解だったっぽい。なるほど。

湯島天神

非常に愛想の良い奥さんに見送られながらお店を後にした。いや、美味かったです。

せっかく湯島に来たので、湯島天神にお詣りすることにした。ここを訪れるのは初めてだ。

鳥居をくぐると非常に臭い。何の臭いかと思ったら、地面いっぱいに落ちている銀杏だった。ああ、もうそういう季節か。

古式蕎麦のお会計が990円だったので、ちょうど残った10円をお賽銭にしてお祈りをした。とりあえず学問には無縁のおかでんなので、「アワレみ隊OnTheWebでもっと上手な文章が書けますように」と祈願しておいた。

男坂

湯島天神といえばこれ、というくらい有名な「男坂」。このあたりは武蔵野台地の末端に位置し、起伏が激しい。上野方面に向かおうとするとこれだけの高低差があるということになる。先ほどのお店でお酒を一献、二献やっていたら、酔っ払ってこの階段を転がり落ちていた可能性あり。飲まなくて正解だったかもしれない。

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