虎ノ門 大阪屋砂場

2012年12月26日
【店舗数:335】【そば食:562】
東京都港区虎ノ門

そばみそ、もり、升酒(米川)

大阪屋砂場

以前から、虎ノ門に古めかしいお店があることは知っていた。そして、それが蕎麦屋であるということも。仕事の取引先が虎ノ門にあったので、自然と目に入っていたのだった。しかし、何の感慨もなく、お店に入ってみようと思うこともなく素通りしてきたのが実体だ。

蕎麦喰い人種を標榜するようになった2000年以降も安心安定のスルー力を発揮し、このお店を全力で無視していた。今でもそうだが、「ガイド本に掲載されているお店以外の店には手を出しづらい」からだ。蕎麦という食べ物は当たり外れがとても大きく、ハズレの店に入ったときのガッカリ感と金返せ感たるや相当なものだ。だから、「老舗のお店っぽいけど、ガイド本に載っていないので行かない。」という判断を下していたのだった。

ガイド本任せ、というのは何とも貧相な蕎麦屋巡りライフだと我ながら思うが、まだ僕は「名店」と呼ばれる蕎麦屋の経験値が少ない。聞いたこともないお店に突撃するより、既に一定の評価があるお店に行くことを優先させたい、そういう気持ちがあった。ってなわけで、このお店・・・「大阪屋虎ノ門砂場」はスルーされ続けてきたのだった。

そんな中、流れが変わったのは今年に入ってから。たまたま手にした本にこのお店の事が掲載されていたからだ。おお、あの古めかしい建物のお店、本に載るほどの有名店だったのか。だったらぜひ一度行ってみなくちゃ。・・・とまあ、手のひら返しとはまさにこのこと、という浅薄さをにじみ出すおかでん。頃合いを見て、訪れてみることにした。

ありがたい事に、このお店は中休みがない。自分の都合の良い時間に訪問できるので、こちらとしても訪問計画が立てやすかった。昼下がり、お店の暖簾をくぐった。

大阪屋砂場店内

店内はこんな感じ。外観同様中身もレトロな感じかと思ったが、比較的新しい感じ。とはいっても、木が多分に使われており味わいがある作り。なんでも、建物は大正12年に建てられたものだが、2007年に改築されているそうだ。せっかくだからニューウェーブ系の店舗みたいに今風の店にしてはどうか、という考えもあっただろうが、古い建物の雰囲気をそのまま残しているのが素敵。二階席もあるが、訪れた時間は解放されていなかった。夜になると宴席なんぞで使うようになるのだろうか。こういう建物なので、芸者さんを呼んでどんちゃん騒ぎするとぴったりくる感じがする。

とはいっても、店内は至って静か。BGMもかかっていないし、店員さんが注文を通すときの声も控えめ。自然と店内のお客さん同士の会話も抑え気味。こんな状況でのどんちゃん騒ぎはえらい迷惑ではある。

BGMがないというのは結構快適だ。おかでんのように蕎麦屋で一人物思いにふけるタイプだと、BGMは無い方がいい。JAZZなんて聞きたくもないし。何かBGMが無いと店内が重苦しい雰囲気になるのではないか?とお店は心配するのかもしれないが、いやいや、案外なにも無くても問題ないものですよ。

時刻は14時半を刻んだところだが、こんな時間なのにひっきりなしにお客さんがやってくるのには驚いた。繁盛してるんだねえ、このお店。本当に数分に一人くらいのペースでお客さんが暖簾をくぐる。それでも店内の雰囲気ががちゃがちゃしないのは、店の雰囲気がそれだけかちっと固まっているからだろう。

来客にはまずお冷やが出てくるところがちょっと変わっている。この時期だったら温かいお茶が妥当だと思うのだが、お冷や。まあ、どうせおかでんは酒を頼むので、水でもお茶でもどっちでも良いけど。

米川

とりあえず、升酒を頼んでみる。燗酒の気分ではなかったので、常温のお酒。

米川(よねかわ)という銘柄だが、初めて聞いた。

お酒はいろいろあり、高級な銘柄も取り扱っているのが気になる。「お薦めの希少商品(120ml)」というコーナーがお品書きの中にあり、120ml(=2/3合)のくせにお値段けっこういってます、というのがずらりと並ぶ。ちなみに一番高いのが「十四代」。さすがだ。上々諸白(純米大吟)でお値段2,500円。ひゃー。ただでさえ手に入りにくい十四代の、しかも純米大吟醸が置いてあるのは凄いな。他には黒龍の純米大吟醸(黒龍二左衛門)とかあれこれ。どんなにおめでたい事があったとしても、2/3合で2,000円オーバーのお酒はおかでんにとっては無理だ。ブルジョアだ、ブルジョアが飲む酒だ!階級社会反対!

とはいっても、平日昼間っから酒頼んでいるおかでんがシュプレヒコールをあげてもまったく説得力がないな。何やってるの、こんな時間に。

でもね、こういう人種は他にもいるようで、少し離れた席に座っているおかでんと同じくらいの年齢の男性一人客が本を読みながら生ビールを飲んでいた。しかも、料理が卓上に届けられる都度写真撮影をしている。おや、おかでんと同じ人種の臭いがするぞ。どうもご苦労様です。その人は結構つまみを頼んでいて、なんだか羽振りが良さそうだ。ええのぅ。

届けられた升酒には、お通しとして昆布を刻んだものと、塩がついてきた。塩を肴に酒飲むのって、高度なテクニックと侘び寂びの精神をわきまえないと無理だと思うんだが、どうだろう。確かに若造おかでんであっても塩で酒は飲めるっちゃあ飲める。しかし、頼めば酒肴はいくらでもあるわけであり、そういうのを拒絶して塩で酒飲むというのはよく分からない心理状態だ。おかでんはもちろんおつまみを頼みますよ。昆布だけでも十分なのだが、一応念のために。・・・何がどう「念のため」なんだかさっぱり分からないけど。

お酒をちびりちびりと飲む。うん、いいねえ。体に染み渡る。この「しみじみ感」は熱燗にはできない芸当だ。冬でも常温の酒を飲む価値は十分にある。

そばみそ

おつまみは、当初「薄焼き」を頼むつもりだった。ガイド本に書いてあったからなのだが、その説明によると

クレープ状にしたソバ粉が香ばしい「薄焼き」700円。ぴりりと辛い赤ダシ味噌をつけ、野菜を巻いていただく

とのこと。クレープ状の蕎麦!これはいいね。しかし、お品書きには一切「薄焼き」の記述が無く、どうやらメニュー落ちしてしまったらしいことが伺えた。残念。えーと、お目当ての品がなくなっちゃったからどうしよう。

「アスパラ豆腐」450円、なんてのは面白そうだ。値段も手頃だし。あと、「しらすのお好み焼き風」780円とか、「鳥皮の三杯酢」650円とかも気になる。んー、どうしよう。

こういうとき、迷ったら一番安い品を選ぶべき、というのが最近悟った事の一つだ。今回は「そばみそ」320円をチョイス。蕎麦味噌はあちこちの蕎麦屋で食べる事ができる「蕎麦屋の酒肴におけるベーシックメニュー」の一つだが、お店ごとに結構味が違っていて案外面白い料理だ。

届けられたそばみそは、しゃもじに載せられてそのまま炙られたものだった。「神田まつや」のように小皿にちみっと盛られているのも悪くはないが、やはり風情という点ではしゃもじの方がイカす。味は、ゆずの香りがしっかりと漂い、味噌をなめているのにとても華やかな気分にさせてくれるものだった。うん、いいね。ところでこの小ぶりなしゃもじ、何回使ったら廃棄になるんだろう?毎度毎度ガスコンロで炙られるのだろうから、しゃもじの首のところが熱でぽっきり折れてしまいそうだ。気になる。

もりそば
もりそばアップ

蕎麦、何を頼もうか。「当店手作りの辛味大根です」と注釈がついている「辛みそば」970円が気になるが、この後にもう一軒蕎麦屋を巡ろうと思っているので(赤坂砂場)、ぜいたくはやめておこう。「もりそば」700円を頼む事にする。

出てきた蕎麦はそこそこのボリューム。食べてみると、こしがあって噛んで楽しい蕎麦だった。風味はそこそこといったところか。つるっとした麺の表面は、砂場系のお店ならではの玉子つなぎのせいだろうか?

目の前に座っているマダムは、「なべ焼きうどん」1,400円を頼んでいた。届けられた鍋は、湯気をもうもうと立てていてとてもおいしそうだ。ああ、羨ましいなあ、と思うが、蕎麦喰い人種のおかでんにとって「蕎麦屋でうどん」というのはまず機会がないだろうな。

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