2012年12月26日
【店舗数:336】【そば食:563】
東京都港区赤坂
梅くらげ、天もり、御酒
世の中、「元祖」だとか「本家」と名乗る店が数多あるが、その発祥はよく分からないことが多い。元祖を名乗る店に問いたい、おたくの店の何がどう元祖なのか、と。
蕎麦業界においては、由来がはっきりしている料理がある。それは、「天もり(天ざる)」だ。これは「室町砂場」が発祥、ということで衆人の意見は一致している。このメニューが発明されたことにより、夏場、暑くて天ぷらの売り上げが落ちていたところが夏でも売れるようになったらしい。蕎麦業界への貢献たるや素晴らしいメニューと言える。
元祖の天もりは、「せいろ」+「天ぷら盛り合わせ」ではない。天ぷらとはかき揚げのことで、それがつゆの上にすでにオンされている状態で提供される。
そんな話を知ってから、ぜひ一度「元祖」の天もりを食べてみたくなった。「元祖」を提供する室町砂場は一度訪れた事があるのだが、その時はこの逸話を知らず、普通の「別製ざるそば」を食べていた。なにせ今から12年も前の話だ、「蕎麦喰い人種」を名乗るようになってすぐの時期だったので、知らないことだらけだった。天もりの存在もしかり。
また室町砂場を訪れても良いのだが、同じ店に行くのも芸がない。調べてみると、室町砂場は赤坂にもお店を出している事がわかった。室町砂場赤坂店(赤坂砂場)というお店なのだが、ここでも当然天もりは提供しているので、今回訪れることにした。
東京メトロ千代田線の赤坂駅から徒歩1分程度の立地にお店はあった。地下鉄の出入り口からは近いが、表通りから一本奥に入った道にそのお店はひっそりとあった。黒塗りの車が店の前に横付けされるような事も結構あるようだ。政財界の大物にも愛されているお店らしい。
そんなお店だけど、店内はざっくばらん。暖簾をくぐると花番さんの「いらっしゃーい」という声で出迎えられる。「いらっしゃいませ」ではなく、「いらっしゃーい」という言い方がほのぼのとさせてくれる。
客席には奥様達数名が談笑中。こういうのも女子会・・・と言うのだろうか。まあ、とりあえず「女子会」ということにしておく。このあたりに住んでいるセレブ奥様なのだろうか?ちなみに会話のテーマは「ぜんざいと、しるこの違いは何か?」というものだった。むむ、言われてみれば何がどう違うのか気になる。しるこは餅が入っているのが条件で、ぜんざいは餅に拘らない・・・というのが正解だろうか?怪しいな。
花番さんが厨房に注文を通すときは、インターフォンを使っていた。一風変わっている。客席と厨房との間に壁があり、インターフォンがないと厨房に伝わらないからだ。
おかでんは小上がりの席に陣取ったのだが、これが狭い狭い。どう見ても二人用の席のところに座布団が4枚敷いてある。このお店においては座布団の幅=人一人の幅、と定義されているらしい。ピーク時の山小屋同様、ぎっちぎちに詰め込まれたら大変な事になりそうだ。そうなることを恐れて、本格的にお客さんがやってくる前にお店を後にしたので「ぎっちぎち蕎麦屋」を体験する機会には恵まれなかった。
お品書きは、卓上カレンダーのように自立式になっていた。ちょっと面白い。
どんなメニューがあるのか、吟味してみる。ううむ、悩ましい。焼鳥があるのが気になる。やっぱり、蕎麦屋の焼鳥ってかえしがとてもおいしいからやみつきになるんだよね。でもちょっと待てよ、あれれ、この焼鳥、「たれ」と「塩」の二種類の味付けが用意されているのだけど、「たれ」だと750円、「塩」だと800円という値付けになっている。たれより塩の方が高いのか!何でだろう。どっか外国の山奥の高級岩塩でも使っているのだろうか?普通に考えれば、たれの方が高そうなんだけどな。
周囲のお客さんのオーダーをそれとはなしに聞いていたら、「焼鳥(たれ)」が非常によく売れていた。あと、玉子焼きも。というか、おかでん滞在中の間、全てのお客さんがこの二つを頼んでおり、一体ここは何屋なんだか分からなかったくらいだ。
おかでんも「乗るしかない、このビッグウェーブに」と思ったのだが、若干あまのじゃくな性格故に注文はしなかった。それよりも珍しい「うめくらげ」なる料理を酒肴として頼むことにした。350円と安いしね。
御酒(ごしゅ)、とこの店では呼ぶお酒が届けられた。中身は菊正宗。お燗にしておいたので、温かい。やっぱり冬場は燗酒がいいね。
お通しとして、あさりがついてきた。
そして時間差で届けられたのが小鉢の「うめくらげ」。その名の通り、くらげに梅干しをあえたもの。くらげ料理って、中華のイメージが強いけど和食でも使われるんだな。
そのうめくらげだが、酸っぱくて、コリコリしていておいしかった。さすが梅干しを使っているだけあり、酸っぱさはなますなんかの比じゃない。ガツンとくる酸味のあとに、「えへへどうもどうも」と弾力のあるくらげの食感。これ、結構いいな。ビールの肴にはならないと思うけど、熱燗には予想以上にあった。
「天もり」1,450円を注文。元祖、とはお品書き上には明記されていない。慎ましやかだ。普通、おかでんは1,500円近い蕎麦など頼みっこないのだが、やっぱりここは元祖に敬意を表して、注文しないわけにはいくまい。
出てきた「天もり」は噂どおり、かき揚げがつゆの中に既に浸っている状態での提供だった。「後のせサクサク」なんていう概念はここの天もりにおいては存在しない!つゆと一体化して初めて成立する料理だ!
さっそく食べてみる。蕎麦は軽く香る程度で、この時期にしては若干物足りない。しかし、歯切れがよく、噛むとぱつんと切れるのが心地よい。
つゆに浸ったかき揚げだが、海老中心で構成されていた。器のサイズもかき揚げのサイズも少なめだけど、これくらいが丁度よいのかもしれない。そういえば蕎麦の量も少なめだったな。かき揚げのおかげで、つゆが油を含んで随分とおいしくなっていた。反則だよ、つゆと油の邂逅は。まずくなろうはずがない。つゆに溶けて崩れかかっているかき揚げをからめつつ蕎麦を浸して食べると、これが美味いんだなもう。「天ぷらはサクサクに限る」という人でなければ、誰しも満足する味。
これだったら、立ち食い蕎麦屋の定番商品「かき揚げそば」みたいに温かい蕎麦にすればいいじゃないか、と思われるが、これが元祖だ、つべこべ文句言うな。
最後、蕎麦湯が出てきた。温かいつゆに蕎麦湯入れるんですかい、と思ったが、せっかくかき揚げの旨味が詰まったつゆだ、有効に活用しなくちゃ。・・・しかし、さすがに蕎麦湯でつゆを割ったら味が薄くなりすぎた。これはちょっと作戦失敗だったかも。
別に「元祖」を食べたからといってどうということはないのだけど、何だか非常に満足してお店を後にした。
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