根津 鷹匠

2013年10月30日
【店舗数:360】【そば食:595】
東京都文京区根津

おろしせいろ

最近、何かと根津とか谷中と呼ばれるエリアをうろつくようになった。

これまで全く足を踏み入れたことがない未開の地だったので、「そういえばこのあたりにナイスな蕎麦屋はあるのだろうか?」と調べてみた。そういう店を1軒2軒知っておくと、今後何かと利用する機会もあるだろう。

すると、「根津鷹匠(たかじょう)」というお店が見つかった。なかなかに口コミ評価が高いお店のようだ。ほう、じゃあいずれ訪れてみるかな。一応店名をメモっておこう。

そこでお店の営業時間に目がいったのだが、驚いた。この店、朝からやってるぞ?

7:30~9:30/12:00~18:00

れっきとした手打ち蕎麦のお店のはずなのに、駅ナカの立ち食いそば屋よろしく朝からやってる。で、9時半まで営業した後、午前中に「中休み」をとった後、お昼から営業を再開してる。何だこの変則プレイは。ちなみに夜は営業をしていない。

面白い!こんな店があるだなんて。通勤途中に蕎麦屋に上がりこんで本格的な蕎麦を手繰る。なかなか痛快なシチュエーションだ。そんなの、想像したことさえない。

「いやあ、仕事の関係でこのお店には行けないなあ。行きたいのになあ」

というお店は結構世の中に存在する。平日昼間のみの営業、というお店がそれだ。しかしこのお店の場合そうは言わせない、仕事に行く前に、行ける。これぞまさに今はやりの「朝活」。

想像するだけでわくわくしてきた。すぐにこのお店に行ってみることにし、スケジュールを調整した。

朝の根津の町

通常よりも30分早起きして身支度。通勤ルートから逸れ、お店を目指す。

東京メトロ千代田線の千駄木駅で下車するが、駅前の喫茶店などはもちろん素通り。喫茶店でモーニングを食べている人たちを尻目に。

「見ろ、僕はこれから蕎麦を食べに行くんだ」

と無言で店内のお客にPRする。

町はまだ朝もやが残る、眠い雰囲気。人気が少ない歩いたこともない道を、てくてくと歩く。

新しい建物

スマホの地図を確認しながら、目的地と思しきところに到着。

すると、目の前に新しい建物があった。それを見た瞬間、「やられた!」と思った。

建物の入り口には、暖簾が吊り下げられるような作りになっているので、お店だと推測できる。で、今は暖簾が下がっていない。

臨時休業か?営業時間変更か?

やっぱり朝早くから蕎麦屋なんて無理だったんや・・・しかもこのあたり、ずっと低層住宅が並ぶ住宅街だし。

朝一でがっかりする。

鷹匠入り口

しかし、がっかりさせられた建物のすぐ横に、暖簾を発見。あ、「鷹匠」って書いてある。ここだ。

細い路地の先にお店があるのだが、通りに面したところに暖簾が出ていた。これが「蕎麦屋ですよ」と外界の人がわかる、唯一の目印。こんなところに蕎麦屋が、こんなところに早朝営業のお店があるだなんてねえ。お店の前で腕を組んで感心して暖簾を眺める。

不思議なお店だ

ちなみにこのお店、昼時の営業ともなればお客さんでいっぱいになるらしい。予約も受け付けているようだが、そうでもしないと蕎麦食うのさえ難儀するくらいの繁盛店だとか。美味い蕎麦屋って、立地条件がマニアックでも客はついてくるんだな。このお店じゃ、「通りすがりに立ち寄りました」は絶対にありえない。

玄関を振り返る

店に入るとすぐ脇が蕎麦を打つ場。ここが手打ち蕎麦の店であるということをあらためて知る。店員さんに聞いてみたら、「朝5時から打っている」んだそうだ。そりゃそうだ、7時半開店だもんな。豆腐屋じゃないぞ、ここは蕎麦屋だぞ?

鷹匠店内

客席はゆったり。6人がけのテーブル席が3つの18名+カウンター席数席。

この日は8時15分ころの訪問だったが、先客が2組4名いた。あ、やっぱりこの時間でも蕎麦ですか。どもども。

お品書き

朝だからといって、モーニングメニューが用意されているわけではない。このお店においては朝もごく普通の営業時間だ。特殊なものではない。だから、お品書きは堂々と酒肴や酒が並んでいる。といっても、多種多様な酒肴がずらり、というわけではなく、ラインナップは比較的シンプルだ。

冷蕎麦5品、温蕎麦5品、酒肴6品、蕎麦がき3品、甘味1品、酒7品。

焙炉
焙炉を開けたところ

面白いのは、各テーブルに小物入れみたいな箱が置いてあるということだ。なにやら、引き出しもついている。

これは「焙炉(ほいろ)」と呼ぶものらしく、この引き出しの中に海苔とかわかめを入れるとほどよく暖められ美味だとか。よく見ると、この箱には電源ケーブルがつながっている。炭ではなく、電熱式らしい。

これは面白い演出だ。せっかくだから試してみたい・・・と思ったが、海苔やわかめってやっぱり酒の肴だ。酒を飲まないのならちょっと頼みづらい。今回は見送ろう。

盛り合わせ

その代わりに頼んだのが、「盛り合わせ」735円。

玉子焼、板わさ、もろきゅう、とお品書きには書かれていたので興味をひかれた。せっかく早起きしてこのお店を訪れたのだ、蕎麦をあっという間にずるずるっと手繰って風のように去る、というのじゃつまらない。少しはゆっくりさせろ。

「お蕎麦は一緒にお出ししますか?」

と店員さんに聞かれたので、一瞬言葉に詰まったのちに

「えと。後で。少し間をおいてからお願いします」

と答えた。でもよくよく考えてみれば、酒を飲んでまったりするわけでもないのだから、蕎麦とつまみが同時に出てきたってなんら問題はないよな。ついつい、酒飲みだった時代の癖が出てしまった。

ちなみにこのお店で扱っている清酒は、鷹勇と四季桜。四季桜って、かなり蕎麦屋で愛されている銘柄だと思うのだが、何でだろうか。

そんなことを考えているうちに、盛り合わせ到着。

玉子焼き、白菜とみょうがの浅漬け、板わさ・・・と見た目が楽しい、食べておいしいちょっとした料理が7品。これはいいねえ。なんだか温泉旅館の朝ごはん、って感じがしてきた。こりゃ蕎麦じゃなくてご飯とお味噌汁持ってきてください。ご飯はおひつで。

深山

ころあいをみて、蕎麦をお願いする。

といっても、何がどう「ころあい」なんだか自分でもよくわかってないのだけど。

深山、945円。

いわゆる田舎蕎麦だ。このお店は二八の「せいろ」とこの「深山」の二種類の麺が存在する。朝なんだからするっと食べられたほうがいいよね、と一瞬思ったのだが、いやいや、あえてここは「朝らしくないことを敢えてやる」方が楽しい。だから、太麺の「深山」を選んでみた。

蕎麦アップ

実際出てきた深山は、太く、短めで、食べ応えのある食感。飲んじゃダメだ、噛め。その一噛みが脳天に響き、眠気を飛ばしてくれる。おはよう、俺。今日もがんばろう。

「なんで朝から営業しているんですか?」

おかでんが退却する時には、既に客席には誰もいなかった。お店を独占している状態。大繁盛しているわけでもないのに、何でこの時間を狙って営業しているのか、とても不思議なので聞いてみた。

「このあたりは自由業の方が多いんですよ。だから、この時間からお酒を飲んで、寝るっていう方がいらっしゃるのでやってるんですよ」

という。へえ!そうなんだ!

「あと、朝の方が蕎麦のゆで湯がだれていないので、お勧めですね」

とおっしゃる。確かに、朝食べる蕎麦はいつもにまして格別な感じを受けた。

蕎麦はもっと進化したっていい。それは最近の「つけ蕎麦」の潮流のように、味の面での進化もさることながら、このお店のように営業形態での進化だっていいと思う。本格的な蕎麦が、朝から。蕎麦食って会社。そういうもの珍しさがとても楽しいひと時だった。今後も機会があれば訪れたいものだ。

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