2018年01月29日
【店舗数:---】【そば食:692】
栃木県那須郡那須町
せいろセット
冬になると気分が冴えなくなるのは、ここ10年の傾向だ。
日照時間が短くなるからだ、とか気温が低いので身体が冷え、体調を崩しやすいんだとかいろいろ説があるけれど自分ではよくわからない。
いずれにせよ、調子を整えないといけない。本当は沖縄みたいな南国に行くのが、身も心もリセットされて良いのかもしれない。しかしそういう計画を練るだけの気力もなければ、意欲も起きない。さすがにそこまでは頭が回らない。
で、思いつくのはひたすら北の方面だ。むしろ寒い方、日照時間が短い方に向かって行ってどうするんだ、と思うが、なんとなくそういう気分だ。
以前、那須湯本温泉で温泉療養をしてとてもイイカンジになったことを思い出した。そこで、今回も那須湯本で、当時(2014年)と全く同じ宿で、同じように時間を過ごしてみた。
結論からいうとこの作戦は失敗で、むしろ温泉で疲弊するだけで終わってしまった。温泉は万能ではない、ということだ。
いずれこの滞在記は「へべれけ紀行」で書くかもしれないけど、今回は滞在2日目の昼に食べた蕎麦の話。
那須湯本のバス停すぐ近くにある蕎麦店、「青木屋」が真っ赤なのれんを掲げていた。
闘牛が赤いマントに引き寄せられる気持ちが今ならわかる。荒涼とした冬の那須湯本はモノトーンで覆われている。そんな中で、この赤いのれんはひときわ目立った。
このお店は過去に訪れたことがある。もう14年も前の話だけど。

せっかくだから一度も訪れたことがない別の店を、とも思ったが、この赤さに吸い寄せられてしまった。というか、外から中をのぞき込もうとしたら、逆に店の中から外を眺めていた婆様に扉を開けて招き入れられた。
「バスはまだかねえ」
なんていいながら、婆様はもう一人の女性店員さんと話をしている。客は僕以外、誰もいない。
婆様いわく、今は日帰り入浴施設「鹿の湯」が休業中のため、お客さんの数が非常に少ないのだという。
だから、数少ないお客さんがやってこないだろうか?と路線バスの到着を待っていたということだ。
「え、でも目の前の駐車場には車が結構停まってますよ?」
と聞くと、
「工事の車よ。ここ最近の寒さで、水道管が凍ったり破裂するところが多いから。そういう人はうちでは食べていかないから」
と教えてくれた。
「このあたりは毎年冬は寒いと思うので水道管の対策はしていると思うんですが、それでも凍っちゃうんですか?」
「一部は対策していても、全部の水道管まではできてないから。だから寒いと、結局どこかが凍っちゃう」
14年前に食べたものと同じ、「せいろセット」を頼む。消費税増税があったにもかかわらず、当時と値段は変わらず1,000円。
せいろと、蕎麦の実ぞうすいの組み合わせ。
「蕎麦、どう?今日打ち立ての蕎麦ですよ」
と婆様に聞かれて、
「歯ごたえがとてもいいですね。弾力がとても気持ちいいです」
と答えたら、ちょっと婆様は残念そうな顔をした。蕎麦の「味」についてコメントをして欲しかったようだ。
でも、蕎麦の風味という点ではあんまり印象がなかった。「香り高くておいしいですね!」と嘘をつくのも良くないので、その点については触れなかった。
それよりも、蕎麦の実ぞうすいがとても美味しい。寒い中、温かい汁物をいただいているからだ、ということもあるけれど、なにかとても深いダシを感じる。なんのダシだろう?と思って聞いてみたら、鴨肉が入っているのだという。ああ、蕎麦の実とは別に、カップヌードルの「謎肉」みたいなものが入っていると思ったら、これは鴨肉だったのか。
婆様が語る話にしばらく聞き入る。
東日本大震災のあと、放射能汚染が那須まで広がり、このあたりの山菜などは被害を受けたということ。昨年2017年の3月に、大田原高校の登山講習中だった生徒8名が雪崩に巻き込まれ死亡する事故が起きたこと。その他、いろいろ。
人間、生きていればいろいろなことがある。自分だけでなく、自分のまわりにもいろいろなことが起きる。喜怒哀楽、自他共にすべてを受け止め、押し流され、押し返し、そうやってもがいて人は時間を重ねていくのだな。
そんなことを考えつつ過ごした那須湯本の昼だった。
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