
11:05
上大井駅から、登山開始。只今の時刻、11時過ぎ。もうお昼が近いのに、これから登山とはびっくりだ。
じゃあお昼ごはんはどうするのよ、というと、曽我丘陵を歩ききって、海岸線近くまでたどり着いたところにある食堂に行こうと思っている。つまり、下山後、というわけだ。これもまたびっくり。
こんなヌルいことをやっていて、来たるべき夏山シーズンへのトレーニングになるのか?と思う。でもそれよりも、まずは「山に登るの、だるいなぁ、面倒だなあ」とグズグズして山に登りそびれるのを避ける習慣づくりが大事だ。「ほら、山に登るのって、案外気楽だよ?」という実績の第一歩が、今日だ。

そんな山歩きではあるが、服装はちゃんとした山用のウェアとシューズを装着している。今日の行程の大半は車道歩きになるっぽいので、もうちょっとナメた格好でも良いはずだ。でも、低山歩きという概念に馴染みがないので、どこまで手加減をしてよいのかが全然わからない。

上大井駅前には、やきとり屋さんがあった。

11:10
ガイド本の指示に従い、狭い路地に入っていく。

「富士見塚ハイキングコース」と書かれた看板に従って歩く。
この富士見塚、というのが何なのかは知らない。たぶんこの道であっていると思うのだが、看板が僕にとっては役に立っていない。
こういう散歩も、楽しいものだ。これまで、いかに登山口から有名な山の山頂までを行って帰ってくるだけのことしかしてこなかったか、がよくわかる。
今回は、登山というよりオリエンテーリングのような気分だ。

広々とした、よく整備された道。
夏だとうっそうと茂った木々、熱気、湿気でげっそりするかもしれない。でも、今は1月なので快適そのもの。
こりゃあいいな、冬に山を登るなんて変態の所業だと思っていたが、大して汗をかかないし快適だ。

ご機嫌に歩く僕。
ハードシェルやダウンジャケットはザックに入れて、このあと出番がなかった。さすが湘南、日が照っている昼時ならそこそこ温かい。
数時間歩く間に退屈しないように、とヘッドフォンを装着してポッドキャストを聞いている。オープンイヤー型のヘッドフォンなのでデカくて目立つ。こんな格好をして山に登っている人は見たことがない。

11:16
意味深な分岐があるのだけど、どうやらそのまま車道を歩くのが正解らしい。
いや、正解ってなんだよ。
丘陵なんだから、どの道を歩こうが、自由だ。尾根筋を歩くなら、尾根のてっぺんを歩き続けるのがなんとなく正解っぽいが、なだらかな丘陵ならどこを歩いたっておかしくない。
どこまで自分の自由に歩くか、それともガイド本の執筆者の例示どおりに歩くか、まださじ加減がわからない。

そんな僕を微笑みながら見つめているポスターがあった。自民党国会議員の牧島かれん氏のものだった。
ああそうか、この人の選挙区なのか、この界隈って。
こういう野立て看板があちこちにあった。
第二代(および第三代)のデジタル大臣だった人で、僕が今歩いている2023年1月時点では河野太郎氏に大臣職をバトンタッチしている。それでも、ポスターには「誰一人取り残さない、人に優しいデジタル化を。」と書いてあった。
へぇ、そんなキャッチフレーズなのか。あんまり気に入らないなあ、と僕は思った。そんなヌルいことを言っているからデジタル化が進まないんだよ。バンバン取り残していけばいいんだよ、デジタル化をグイグイ推進して。それで取り残された人をアナログで救済すればいい。なんで全員が「取り残されそうな人」に歩調を揃えないといけないんだ。

11:19
これから向かうであろう丘陵地帯。のどかだ。
里山、というのはこういうのを言うのだろうか?いや、山と呼ぶには大げさか。こういう光景を見ると、「なるほど、丘だ」と思う。

そんな風景だが、目線を北側に向けるとぎょっとするような建物が目に入る。なんだあれは?
デカい。特に横幅がデカい。
手前左に見えるアパートらしき建物も屏風みたいで相当デカいが、それよりも何よりも、あの奥のオフィスビルはなんなんだ?
あとで地図で調べてみたら、「ビオトピア」という場所らしい。ますますわけがわからない。
さらに調べてみると、もともとは第一生命の本社ビルとして建てられたものだという。え、嘘?それは嘘だろ。だって第一生命って、皇居の近くに本社があるじゃないですか。GHQに摂取されてマッカーサーがいた場所ってことで歴史の教科書に載ってるくらいで。
どうせ、「本社とは名ばかり」「本社が複数あって、ここはなんちゃって本社」といった話なのだと思ったが、Wikipediaで調べてみたら本当にここに本社を移転させていたことがわかった。知らなかった。1968年から2011年の間のことだ。
ということは、43年間もここが本社だったのか。へえー。
東京本社から従業員の半数以上をこちらに引き連れての本社移転だというから、豪快だ。そんな本社大移転、最近ならパソナが淡路島に移転したことを思い出した。でもそういえばあれも、淡路島とは別に南青山の超一等地にまだ本社があるな。元々avexグループが本社を構えていたビルに。
地図を見ると、今僕が歩いている丘あたりは「相互台」という名前がついていた。なるほど、株式会社化する前の第一生命って、「第一生命相互会社」っていう名前だったな。僕、第一生命の保険に入っていたので知ってる。
2023年現在の第一生命は、また日比谷のビルに本社が戻り、一部豊洲にも本社機能があるようだ。「本社」を分散させるのが好きな会社だな。
そして、第一生命のグループ会社はまだ大井にとどまり、さきほど僕が利用した上大井駅の近くに新オフィスビルを構えているという。
細長く続く丘を一つほぼ丸ごと、1企業が陣取って本社と城下町を作っていたというのは知らない世界だ。
ちなみに、先程の写真で写っている白い建物は、地図上では「ブルックスホールディングス相互台寮」と記されている。ブルックスホールディングスはコーヒーの通販などを手掛ける会社で、第一生命がこのエリアから撤退後、あの巨大ビルを買い取った企業だ。あわせて、もともと第一生命の社員寮だった建物も手にしたのだろう。
あんな巨大なビル(地上18階建て)を買うくらいだから、ブルックスホールディングスの本社はここなのだろう、そしてかなり規模の大きな会社なのだろう、と思ったが、本社はたまプラーザだったのでこれまたびっくりだ。こんな巨大な建物を買っておいて、それを1事業所として使うとは。
現在、この丘はかなり広大な面積をブルックスホールディングスが持っており、大井町と提携しながら「未病」をテーマにした「ビオトピア」という施設になっている。
知らなかった。東名高速道路を利用するときは、大抵厚木ICで曲がってしまうため、大井松田ICすぐ近くのこの建物については認識していなかった。それもこれも、厚木ICすぐ脇には、ぎょっとするくらいデカい「厚木アクスト」というビルが建っている。そのインパクトのデカさのせいで、その他のことを忘れてしまうんだろう、きっと。
(つづく)
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