今回の木曽御嶽山登山における行程をここで整理しておく。
健脚なら、御嶽山の最高峰である剣ヶ峰まで、日帰りで往復することができる。
3,000メートルを超える標高の山ではあるものの、登山口が2,180メートル(王滝口田の原登山口)、または2,150メートル(黒沢口飯森高原駅)なので、標高差は900メートル程度しかないからだ。
しかし、地図をグッと眺めていたら、俄然欲がでてきた。
それは、「せっかく標高3,000メートルまで登っちゃうんだから、御嶽山を完全制覇しちゃいたいよね」ということだ。
細長い山容の御嶽山は、剣ヶ峰のすぐ直下にある「一ノ池」を皮切りに、ずらずらとカルデラ湖が並び、五ノ池まで存在する。そして、そのカルデラ湖を護るかのような外輪山がいくつもあり、もちろんそれぞれに登山道がある。
写真を見ると、三ノ池は神秘的でとても美しかった。
また、岐阜県の濁川温泉から上り詰めたところにある「五の池小屋」はおしゃれで、屋外にはビーチにでもおいてあるようなデッキチェアが置いてある。
気になる、行ってみたいところが満載だった。
そして何よりも、摩利支天山2,959メートル、継子(ままこ)岳2,859メートルなど、標高が高い外輪山が連なっているのが気になった。
一度この山を登ると、「はいもう完了!」とばかりに、二度と登ることがないかもしれない。そうしたときに、心残りができてしまうのはイヤだ。もう一度登るのはおっくうだから、今回行くなら全部詰め合わせにしておきたい。
そういうわけで、日帰り登山ではなく、山中1泊の登山に決めた。
思えば、昔はとにかく「ピークハンター」でしかなかったのだけど、最近はこのように「ピークだけでなく、その他も行程に盛り込みたい」と思えるようになってきた。毎月山に登ってきて「登山のしんどさ」に慣れてくると、心に余裕ができるようだ。とても良いことだ。
本当は山中二泊くらいして、山の中でのんびり過ごすと最高だろう。なにせ標高3,000メートルの山だ。しかも、険しい北アルプスの山中などの小屋と違い、周辺をぶらぶら散歩できるような場所だ。
しかし、連泊しなかったのは、弊息子タケを放置するわけにはいかない、と思っていたからだ。
特に子どもが生まれてから3年くらいは、「自分が子どものそばにいないと、子どもが母親(いし)にべったりになって、僕がないがしろにされるのではないか」という危惧感があった。
いしは弊息子タケをとても可愛がる。
それは良いことだし助かっているのだけど、父親としての居場所がないというか、家庭内で「単なるお金を稼いできてくれるマン」になってしまいそうで、それが嫌だった。
だからタケが生まれて以降、一人旅に出ることがあっても、できるだけ最速で帰宅している。前月、北海道の斜里岳にわざわざ行ったのに、一泊ですぐに引き返してきたのもそれが理由だ。
まあ、要するに僕は息子がかわいくてしかたがない、というわけだ。
で、それを踏まえて、公共交通機関を使って山中一泊してお鉢めぐりを全部やろうとすると、なんとかギリギリできる、ということがわかった。ただし、途中の休憩時間を考慮するとけっこうタイトで、二日目朝にどれだけ早く出発できるか、そしてどれだけ標準コースタイムから乖離しないで歩けるかにかかっていた。
なにしろ、登山口も、下山口もバスによるアクセスだ。
ダイヤが薄いバスに乗りそびれると、大変なことになる。
「最悪、下山後のバスに間に合わなかったらタクシーを呼ばないといけないな・・・」と思うが、こういう場所でタクシーを呼んで、果たしてすぐに来てくれるのかどうか、カード払いができるのかそれとも現金払いオンリーなのか、など悩みは尽きない。
そうならないためにも、いくつものチェックポイントを自分の中で設けておいて、決められた時間内にそのチェックポイントを通過できていなかったら、途中で引き返すという決断をしなければならない。
そこで困ったのが、僕がもっぱらメインで使っている登山アプリ「YAMAP」の仕様だった。
このアプリは、登山計画を策定する際に地図をポチポチとクリックしていけばルートを引くことができるのだが、アプリを使っている時点で閉山・通行止めとなっているルートを経由する登山計画を作ることができない。
立入禁止エリアに突撃する人が現れるのを防ぐための親切設計なのだろうが、制限解除されたあとに入山する計画を立てたいのに立てさせてくれないのは困る。だって、登山計画なんてのは随分前から立てるものであって、直前にやることではないのだから。
今回の場合、2014年の噴火災害以来、9年ぶりに規制解除されて開通する予定の、田の原から王滝山頂を経由して剣ヶ峰を目指すルートがYAMAP上では通行禁止になっていて、ルートがひけなかった。
今回の計画は、以下のとおりだ。
例のごとく、わざと「土曜日泊、日曜下山」という山が混雑する王道の日程を微妙にはずしている。
2023年8月6日(日) 1日目
東京からJRで木曽福島駅。木曽福島駅から路線バスで田の原。
大滝口ルートで登山。大滝頂上・八丁ダルミを経由して剣ヶ峰登頂。
その後、二ノ池山荘泊。
2023年8月7日(月) 2日目
二ノ池山荘からサイノ河原を経由して摩利支天山(2,959メートル)
三ノ池、四ノ池を左手に眺めながら反時計回りで外輪山を周り、継子岳(2,859メートル)を経て五の池小屋。ここで休憩。
その後、二の池ヒュッテで名物の担々麺を食べ、黒沢口ルートで下山。
飯森高原駅から御岳ロープウェイに乗り、鹿ノ瀬駅へ。
鹿ノ瀬駅からバスで木曽福島駅、そこからJRで東京に戻る。
僕はできるだけ登山では公共交通機関を使いたいと思っている。
でも、これが登山をやっていない人が想像するよりもはるかに面倒だ。
なにしろ、登山計画を立てるのは冬または春頃なのだが、その時点でまだ登山口・下山口に通じる交通機関の運行計画が発表になっていないことが多いからだ。
登山口に向かってくれるバスなんて、夏のハイシーズンのみの運行であることはザラだ。
なので、なかなか情報がバス会社または自治体から公表されるのが遅い。また、いつ「今年は運休します」と言われてもおかしくないので油断がならない。
せめて、昨年のダイヤが参考情報として残っていればよいのだけど、それは当然公式webサイトからは消されているので、余計困る。
いったい何時から登山が開始できるのかがわからないと、初日はどこまで行けるのか、行けないのかが計画を立てられない。
いろいろ情報収集に時間をかけつつ、ようやく計画を固めることができた。
初日、目指すは二ノ池山荘。
標高は2,905メートル。
富士山を除くと、日本にある山小屋の中でも有数の標高となる。
正確なランキング表を見たことがないのでわからないが、おそらくベスト10前後だと思う。
なお、この御嶽山の山頂直下に2つの山小屋があったが(剣ヶ峰旭館2,980メートル、御岳頂上山荘2,950メートル)、いずれも2014年の噴火が直撃し、廃業となってしまった。
二ノ池山荘は現在、御嶽山の最高峰である剣ヶ峰にもっとも近い山小屋となっている。
この小屋も噴火による被害は甚大だったため、2019年に建て替えられ、小屋名を「二ノ池本館」から「二ノ池山荘」に改められている。
なお、外壁には防弾チョッキにも使われている強靭なアラミド繊維素材が採用されているという。非常にコストがかかった山小屋だが、次にいつ来るかわからない噴火の際、一次避難場所として機能することが期待されているのだろう。
御嶽山に5つある池の二番目、二ノ池の湖畔すぐに建っていて、天気が良ければ標高2,900メートルの火山岩稜帯を眺めながら日没までを過ごすことができそうだ。
ちなみに、二ノ池山荘のサイトを見ると、小屋番さんによる2014年の噴火当日の顛末記録を読むことができる。
豊富な写真と、緊迫感がある文章で、何度読んでもゾッとする。一読をおすすめする。
http://ninoike2905.com/2014.html
(つづく)
