乾杯の発声はしぶちょおが買って出てくれた。ありがたい。
トマトジュースを高らかに掲げ、乾杯を宣言した。
「あれっ、トマトジュースなんてあったんだ?」
「そうなんよ、あるんよ」
油断している間に、ますゐはメニューが増えていっているなあ。
それにしても今回はしぶちょおに随分世話になった。場をいいかんじに仕切ってくれたからだ。呆れるくらい個性的な奴らの集合体がアワレみ隊なので、ほっとくと全然話が前に進まない。しぶちょおがものすごく常識人に見えた。いや実際常識人なわけだけど。それ以外のメンツがもう、動物園状態というかなんというか。
毎回、ますゐ詣でというのは注文するまでに時間がかかる。取り立てて新しいメニューがあるわけじゃないんだけど、みんなウキウキしちゃって、決めきれないからだ。いい年した大人が、10分も15分も唸っているのは滑稽な光景だけど、子どものようで微笑ましい。
お金がないわけじゃないんだ。お金なら、ある。しかし、胃袋のキャパは限られているし、そもそも食べ過ぎると体重に跳ね返ってくる。若い頃にはなかったお金の自由を手にした一方で、失ったものもある。そういう「己の人生」をもしみじみと感じさせてくれるお店がますゐだ。
で、今回は唐突に料理がやってきた。ああそうだ、注文は予め済んでいたんだった。おかでんが正座をして、馴れ初めやらなんやら話をしている最中だったけど、もうそれどころじゃない。
ますゐ厨房の恐るべきところは、僕らみたいにバラバラなオーダーをしても、何食わぬ顔をして次々と料理を仕上げて客席に運んでくるということだ。厨房だけじゃない、客席に料理を運ぶ女性店員さんに至るまで、兵站がしっかりしている。
そんなわけで、「さて、一品目が来たわけですが・・・」などと悠長なことはもう言ってられない。これはマシンガンのように料理が届けられる合図にほかならないからだ。会話はとりあえずおいといて、どんどん食べていかないと。
最初にやってきたのが「手羽先」だった。冒頭はサービストンカツでまずはご機嫌を伺うのかと思ったが、手羽先とは予想外だった。
今回は、僕らの結婚報告会であると同時に、ますゐ初詣となるいしへのますゐレクチャーの場でもある。おかでんのパートナーになる、ということはますゐに帰依しなければならないのだ。この宗派は特にお作法はないものの、「健啖であれ」「貪欲であれ」という2つのルールは守る必要がある。
そのためにも、料理には精通していないと。
なんでって?いくら健啖だからって、そりゃあ人間誰だってお腹いっぱいになりますよ。限界ってものがありますよ。だから、「この後、どんな料理がどの程度のボリュームでやってくるのか」というのを頭の片隅に置きつつ、目の前の料理と対峙しなければならない。
はっきり言おう。手羽先というのはますゐにおいては脇役だ。ここで「手羽先、ウメっ!」と夢中で骨にむしゃぶりついていてはだめだ。食べるなら1本でとどめておかないと。そうでないと、本命である料理群を堪能できなくなる。
いしにおいて、どの程度ますゐが認識されているのかは僕でさえよくわからない。「町の洋食屋さん」だとするとちょっと違うし、かといって居酒屋でもないし。東京にますゐと対比できるお店があるかと言われると、僕は言葉に窮する。
さあ次はなんだ、と思ったら、「モウモウ焼き」がやってきたぞ。
また脇役、と言っては失礼だが、これもますゐのメインストリームではない料理だ。そもそも一昔前は、卓上に置いてあるレギュラーメニューにはこの料理名が書かれていなかった。壁の短冊メニューとして張り出されていた程度だった。しかし今じゃ、すっかり一軍選手の仲間入りだ。
僕自身、モウモウ焼きをしっかりと食べるのは今回が初めてだ。「全メニュー制覇プロジェクト」をやったからといって、僕自身が全メニューを食べたわけではないからだ。「全メニュー制覇オフ会」に参加した人のうち、誰かが食べていればオッケーというカウントになっていたから、モウモウ焼きは食べたことがない。
そうか、改めてこの料理を見ると、牛肉をもやしとキャベツと一緒に炒めたものなのだな。
モウモウ焼きの特徴は、この肉のますゐでは唯一の「定食形式のメニュー」である、ということだ。昔も今も、ずっとそう。この料理を頼むと、ライスと赤だしが付いてくる。
なぜ他の料理も、こういう「定食セット」という概念がないのか不思議だ。もちろん、バラで注文すれば済む話だけど、メニューの中からライスと赤だしを探し出さないといけない。ちょっと手間だ。
おそらく、お店にはれっきとした理由があって「定食形態は用意していない」のだと思う。今度、ますゐの専務にその理由を聞いてみよう。
しぶちょおとばばろあ。
ばばろあの2019年は、半年ほど東京に長期出張していたので何度か僕と会う機会があった。また、アワレみ隊の中で唯一、僕の結婚発表の前にいし本人と会ったことがある人だ。ただ、それはあくまでも「アワレみ隊OnTheWebのオフ会でたまたま参加者同士だった」という扱いであり、僕自身「この人と結婚する予定だ」とは一切説明していなかったけど。
とにかくギリギリまで、アワレみ隊に限らず周囲には一切結婚のことを言わなかった。そもそも付き合い始めてから結婚までが1年足らずというスピードだったから、というのもあるけれど、どういうタイミングで話をすりゃいいのか、僕もいしもさっぱりわからなかったからだ。披露宴をやります、友達を呼びます、というならば事前に状況説明をするけれど、今回はそういうのがまったくない。なので、事後報告でもいいんじゃないか?とさえ思ってしまったくらいだ。
でもさすがにそういうわけにはいかない。職場の上司に説明しなくちゃいけないし、そうなるとあっちに話をし、こっちにも報告をし、と芋づるの連鎖が始まる。これは結婚した人なら誰もが体験したと思うが、誰から順番にどのタイミングで結婚話を切り出すのか、というのはものすごく気を遣うものだ。情報解禁を決めたら、あとは短期間でばばばっと報告・連絡をしていかないといけない。会うべき人には会うし、SNSやメールで済む人はそれで済ませるし。段取りを間違えると、拗ねる人がいるかもしれない。
とはいえ、結婚の段取りというのはカップル間で意見がわかれ、ケンカが起きやすいものだ。ご破談になる事例は枚挙にいとまがない。僕らの場合そんなことはない、という確信があったけれど、それでも結婚報告はギリギリまで伏せておいた。アワレみ隊に対してもそうだった。大切な友達だからこそ、気を遣わせたくなかったからだ。
話がずれた。
そうこうしているうちに、 ロース寿き焼きがやってきた。
本当は、「かきのすき焼きが食べたい」というリクエストが事前にあったのだけど、お店に打診してみたら「年末最終営業日なので、かきの入荷がないんですよ」と言われた。うーんそれだったら、ということで頼んだのがこれ。
おさらいになるけれど、ますゐには何パターンものすき焼きの種類がある。牛肉を使ったものに限った場合、
- 特上ロース寿き焼き 3,250円
- 特ロース寿き焼き 2,600円
- ロース寿き焼き 2,000円
- 並寿き焼き 1,800円
の4種類がある。結構な値段の差だ。その分、肉質が上がる、というわけだ。そして、メニューには乗っていないけど、運が良ければ「上特々寿き焼き」があるはずだ。しかし今じゃそれは一体おいくらするのだろうか。
お祝い事だし、なかなかお店を訪れる機会がないことだし、ここはいっちょ「特上」でもいったるか!という野心があったのは事実。しかしこのお店の場合、そんな気合を入れなくても、安いすき焼きで十分にうまいんだよなぁ。むしろ、「ますゐの普段着」を体験したほうがいい気がする。
というわけで、「並」というのは若干寂しいので「ロース」で。
それで届けられた肉がこれだぜ?下から二番目のランクのすき焼きで、こんなにサシが入った肉が出てくるんだぜ、たまらんだろ。
いしはもうこの時点でうっとりしている。彼女は肉に目がない。いや、魚にも目がない。結局、何でも食べ物が大好きな人だ。
彼女いわく、「おかでんさんに胃袋を掴まれたから今こうして一緒にいる」と。付き合い始めのころから一貫して、僕は自炊して料理をふるまってきた。ときには保存容器に詰めて、お持ち帰りにしてもらったりもした。我ながらマメだと思うが、その結果が今に至る。
ただし「料理を作るのは基本、僕」という立ち位置は完全にフィックスしてしまい、僕が家にいる時間はキッチンで料理を作っている事が多くなった。このサイトの更新頻度が落ちたのは、熱心に料理を作りおきしているからだ。
さあ、料理がどんどんやっってきたぞ。
ちょっとカメラの設定をミスって、色合いが変だけどご容赦。
思い返せば、アワレみ隊はおかでんのカメラの歴史でもある。一番最初のときからずっとカメラとともに歩んできた組織で、そしてそのカメラは富士フイルムであり続けた。神島や佐渡ヶ島といったアワレみ隊黎明期の頃は「写ルンです」というレンズ付きフィルムカメラだったし、それ以降は「1年に1回は壊す」というジンクスに悩まされ続けながらも、ずっと富士フイルム製のデジカメを使い続けてきた。
そして今、この写真もそう。カメラは進化して、今やミラーレス一眼カメラになったけど、相変わらずの富士フイルムだ。壊した・紛失したカメラの台数はもう覚えていないが、15台は超えているはずだ。何しろ、本当に1年に1回は壊していたから。
僕が富士フイルムに感動したのが、佐渡ヶ島のキャンプのときだった。妙に、青空と緑、そして海がくっきりと写る。いわゆる「記憶色」を強く表現するフィルムだったのだと思う。フィルムでいうと、「ベルビア」に相当するのだろうか。
ここでの原体験が今でも引き継がれ、延々と富士フイルム製カメラを使い続けている。一度だけソニーに浮気をしたことがあり、今でもコンデジはソニー製なのだが、こちらは色気のない淡白な色合いになる。素っ気ないとでもいおうか。やっぱり、僕にとってぐっとくる色は富士だ。
・・・今回の撮影は、モード選択を誤って色がなんだか変だけど。
というわけで、これは上タンシチューだ。いよいよ「ますゐソース」の登場だ。いしにはこれを味わってもらわないと。単にすき焼きを食べました、とかトンカツを食べました、だったらわざわざ広島に来た意味がないんだよ。ますゐソースが大事なんだよ。
・・・あ、違った。わざわざ広島に来たのは、結婚報告がメインだった。ますゐはおまけだ。今回ばっかりは。
「タンが柔らかい!」
いしが感嘆の声をあげる。そう、ここのタンシチューは、呆れるくらいに柔らかく煮込まれている。
そして、ご自慢のますゐソース。
しぶちょおだったかばばろあだったか忘れたが、「結局何を食べてもますゐソースの味しかしないんで、あとは食感の違いだけだ」といしに説明していた。元も子もないセリフだが、実際にそのとおりだ。偉大なりますゐソース。
上ハンバーグステーキ。
ノーマルのハンバーグステーキと比べて200円ほど高くなるのだが、それでも880円なのだから嬉しい。もちろんライスと赤だしをつけると1,000円を超えてしまうのだけど、この丸っとした風貌とますゐソースはすべての人をピースフルにしてくれる。あと、目玉焼きがついてくるし。
毎度のことだけど、料理が勢いよく届けられるので、何がなんだかわからなくなるパターン。
ええと、これはたぶん上ビーフカツレツ。
「上と名がつく料理の場合、お皿にこういう特徴がある」「こういう付け合せがつけば、『上』の証」みたいな法則性があればよいのだけど、多分そんなものはない。
昔、同じ料理の並と上を並べて食べ比べる、なんてことをやったことがあったはずだけど、どういう結論になったんだっけ。何しろもう10年以上どころか15年近く前の話だ。全然覚えちゃいねぇ。
いかんな、おさらいを兼ねて、もう一度全メニュー制覇をやる必要があるかもしれん。
(つづく)
コメント
コメント一覧 (2件)
あらためて、おめでとうございます。
やはり、パートナーは いしさん でしたか。
激辛オフの時、自分達に いしさん が遅れてくると言った時の口調になんか「愛(!?)」を感じました。
かめぜろさん>
ありがとうございます。そういえばかめぜろさんがいた2019年夏の激辛グルメ駅伝(第6区間)にも参加していましたね。これからも、ちょくちょくオフ会には顔を出すかもしれませんので、引き続きよろしくお願いします。