08:41
途中で立ち往生して数時間雪隠詰め、なんていう悲劇も起きず、ロープウェイはするりするりと標高2,612メートルの千畳敷へ。
「日本最高所駅」と書かれていてびっくり。おおう、そうなのか?ちょっと待て、立山黒部アルペンルートの「室堂駅」が標高2,400mで最高地点だと僕は教わったぞ。さあ、どっちが正しいんだ。
こうなると、「ロープウェイの乗り場は『駅』と言えるのか?」というのが本日の議題。
室堂の場合、「トロリーバス」という架線付き乗り物の駅なので間違いなく「駅」だ。ではロープウェイは?
うーむ、と考えているうちに後ろからどんどん人が降りてきた。うは、ここで立ち止まっていては邪魔だ。思案するのは後回し。
ちなみに気温は13度。さすが標高2,600メートル。結構低い。体が凍りそうだ。
いや、無理だから。氷点下にならないと凍らないから安心しろ。
08:42
これが千畳敷カール。
千畳敷、というからには相当なスケールの広場が広がっているのかと思ったが、さすがにそういうことはなかった。山だけあって、しっかり斜面。おむすび転がしたらコロコロ転がって、どじょうがでてきてコンニチハするぞ。
カールの中にいると、ここがスプーンでごっそり削り取られたかのような形になっているとは思えない。ただ単に周囲に高い山々がそびえてますなあ、というくらい。
後で思い直してみると暢気なもんだ。その「そびえてますなあ」にこれから登るんだっつーの。
08:46
しばらく千畳敷駅がある建物からカールの別世界を楽しみたいところだったが、何せ今回は「キャンプを控えて、時間調整のための登山」。中央高速の大渋滞を回避した結果できた「おまけイベント」だ。悠長にしていられない。
この日キャンプに同行するアワレみ隊メンバーには、今回の登山の話は一切していない。「やめとけ」とか「キャンプ場にINできる時間に遅刻したら本末転倒だぞ」などと言われるに決まっているからだ。
だからこそ、きっちり予定通りキャンプ場には到着しておきたい。すなわち、チンタラ時間を過ごしているわけにはいかんのだった。
相変わらずだなあ、と思う。おかでんの行動は常にこういうことだ。デフラグ人生。空いた隙間があるとそこに詰め込みたくて仕方が無い。その結果、すべての行動が慌ただしいのだった。PCのデフラグだけでなく、人生もデフラグ大好きとは。
そんなわけで、千畳敷カール前で記念撮影をした後はすぐに出陣。
やあ、ナナカマドが真っ赤に色づいているね。
08:46
カールの真ん中を突っ切るように歩道が延びている。
空はあくまでも青く、緑はどこまでも緑。まだ紅葉には早いようだが、あと半月もすれば随分と色づくことだろう。そうすると違った絶景が見られるのだろう。
・・・ただし、往復数時間待ちのロープウェイを覚悟の上で、となるけど。
08:51
カールを横切ったところから、道は本格的な登りを開始する。ああそうか、やっぱり登るんですかそりゃそうですよね、と。
とはいえ、標高差300mちょっとで3,000m近い山に登れてしまうのだからお得としかいいようがない。あっ、「お得」なんて言い方すると下品だな。こういうのを「百名山ピークハンター」と言い、山ヤから蔑まれるのだった。
登り始めのところに、真っ赤な文字で「警告 軽装登山危険!」と記された看板が出ていた。
この先登山道です。登山に適した装備・技術・経験等無い方の登山は非常に危険です。(山岳遭難事故多発)
「~の無い方の登山はおやめください」と中止勧告しないで、「非常に危険です」で表現を止めているのが日本人的「行間を読め」スピリット炸裂。
で、案の定行間が読めない人は一定数いるわけで、軽装、というか身一つでふうふう言いながら登っているちびっ子なんぞもいた。
「あの山のところまで行けばきっと眺めがいいよ!」なんて軽い気持ちで登っているのだろう。きっと眺めはいいけど、危険だよ!ってば。
08:56
このあたりの坂は「八丁坂」というそうだ。「胸突き八丁」の八丁なんだろう。その名の通り、ジグザグにひたすら登る。とはいえ、眺めは良いし、涼しいし空気は澄んでいるのでわりあい簡単に登ることができる。むしろ、どこで一息つけばいいんだというくらいすいすい登れる。
これが樹林帯の中だと、相当憂鬱になる。どこまで登ればええんや、ワシは、となるからだ。
気温は13度くらいだけど、遮るものがない直射日光は結構強い。薄着していいのか、上着羽織った方がいいのか微妙なところ。
おかでんは男らしくタンクトップでGOだ。もちろんユニクロの服だ。異論は認めない。
09:05
八丁坂の途中から千畳敷カールを振り返ったところ。
ガスが下界から登ってきている。あれに巻き込まれたら視界が失われる。山は早朝に登れ、というのはホントしみじみ正しい言葉だと思う。あと1時間、2時間遅いとあのガスの中で散策だ。やーい。
ガスの片隅にロープウェイ駅でもあるホテル千畳敷が見える。
春になると、このカールが春スキー場になるんだという。標高2,600メートルオーバーの雪質で滑る事ができるというのはスキーヤーにはたまらんご馳走だな。ただし、勢いつけて滑りすぎるとそのまましらび平の方まで転がり落ちるけど。
登山ガイドには、「振り返ると、ホテル千畳敷が箱船のように見えます」と書いてある。すまん、箱船ってのを実際に見たことはないんだ。「ノアの箱船」の話以外で「箱船」って単語は出番無いだろ、普通。
揚げ足取りはともかく、確かに振り返ると人造建造物はこのホテル千畳敷しかないので、なんだか不思議な光景だ。周りは森林限界を超えた場所にあるカールならではの景色が広がる。そして、八丁坂にへばりつく人達。確かに、「ノアの箱船が陸地に到着して、ぞろぞろと箱船から出てくる動物たち」に見える。
ところでこの時間にして八丁坂は人が鈴なり。お昼頃になると相当混むんじゃないか。富士山や立山登山のように渋滞したりするかもしれない。とても標高3,000メートルクラスの山の登山道とは思えない。
09:08
八丁坂、途中から足場が組まれるようになった。
それほど厳しい登りではないと思うのだが、なにせ千畳敷カール見物にきた人が「ついでにパパ頑張っちゃおうかな」てなノリで押し寄せてくる可能性がある。そんな奴は来るな、と言っても来ちゃうんだから仕方が無い。足場を作ったりして難易度を意図的に下げているんだろう。
うっかりここを鎖場になんかしたら、鎖から滑り落ちる人続出と思われ。
09:10
丁寧なまでの作業が施されている登山道でございまする。
工事現場にありがちな金属の足場に加え、滑り止めとして木のパネルが互い違いにはめ込まれている。
これでずっこけて怪我したら、もうお前登山すんな、と言わざるを得まい。
ただ、油断していると崖の上から落石が降ってくる可能性もあるので、下だけでなく頭上も注意が必要。
ヘビーな山とは違うが故に、登っている人の技術がまちまち。だからこそ、危ないのだった。
09:13
八丁坂の終点、「乗越浄土」に到着。
歩き始めて30分程度だから、近い近い。ただ、八丁坂はひたすら続く登りなので、しんどい人はしんどいと思う。
09:14
乗越浄土は非常に開けている。山の世界において大抵「ナントカ浄土」と名がつくところは大抵が開けていて、眺めが良い。ここもまた同じ。ひたすら坂を登ってきて、ここでぐん!と眺めが良くなると、小躍りしたくなる。
ここで小躍りしたくはなるおかでんだが、さすがに「小槍の上でアルペン踊り」を踊ろうとするあの歌詞の神経は理解できん。
うれしかったので、360度パノラマで撮影してみたよっと。
ただし、いざ撮影してみると「だからどうした」という写真に仕上がってしまった。あらら。
中央右側にに見える岩山が、宝剣岳2,931メートル。中央が八丁坂。
09:15
やーい。木曽駒ヶ岳が見えてきたよー。天気が素晴らしいし、こりゃ「デフラグ企画」の登山とは思えないラッキー感漂っております。良かった、ここまでやってきて良かった。キャンプ?ああ、そんなイベントもあったっけねえ。
山小屋が見える、というのも登山者にとってはテンションがあがるきっかけになる。マラソンの給水ポイントみたいなものだ。別にその山小屋で飲み物買ったりするわけではないけど、そこに山小屋があるだけでほっと一息つける。
山小屋の名前は宝剣山荘。
09:16
木曽駒ヶ岳山頂を前に記念撮影。
あともう少しで山頂だ、標高差はあまりない。ゆるやかな登りがあるだけ。こういう光景を見ると、脳内に興奮物質がでるんだよなあ。きっつい登りを登り詰めたらぽこんと山頂が現れるより、遠巻きに山頂を眺めつつそこに向かっていく、ゆるやかな山肌。
09:17
登山道は宝剣山荘の方に向かっている。
青屋根の宝剣山荘の傍らに、赤屋根の山小屋も見える。あちらは天狗荘。
09:18
久々の登山、久々の山小屋遭遇ということもあって、なんだかうれしくなってしまった。
用事は無いのだが、宝剣山荘にお邪魔してみることにする。
09:19
中に入ると、テーブルが並ぶ広間と売店。
どうやら、広間兼お休み処兼朝夕は食堂、という位置づけらしい。ということは、売店はフロントも兼かな?
北アルプスの巨大山小屋と違い、中央アルプスの山小屋はこぢんまりと機能的にできているようだ。北アルプスの山小屋の方が異常で、この宝剣山荘でも豪華なくらいだ。もっと地味な山小屋はいくらでもある。
調べてみると、この山小屋は一階が売店と食堂、二階が客間になっていて、収容数250。
えっ、250名。
久々に「山小屋定員の常識」を目の当たりにして面食らってしまった。そうだった、山小屋ってのは「快適に寝泊まりできる空間で定員を算出する」なんて器用なことはしないんだっけ。「床が見えなくなるまで人を押し込んで、さらにだめ押しで詰め込んだのが『定員』」なのだった。
09:19
さあ、定番のビール価格チェックですよと。
さすがに生ビール売ってます、なんてことは無かったが、ちゃんと缶ビール売ってました。ここだったら、千畳敷から人力で運ぶこともできるし、ヘリでもいける。
気になるお値段は・・・350mlで500円、500mlで700円。うん、まあこんなところだろう。高すぎず、安すぎず。東京ドームで、生ビールの売り子さんからビール買ったら800円だ。それを考えると安すぎて涙が出てくる。あの東京ドームの値段は酷いよな。もうけすぎだろ。しかも、「売り子代」で値段がつり上がっているのかと思い、わざわざ売店まで買い出しにいってみたけど値段一緒だったし。
ただ、さすがにトイレは東京ドームの勝ち。山でトイレは有料コンテンツ。一回につき200円だそうだ。
宝剣山荘をざっと見たので、そのまま隣の天狗荘に行ってみる。ビール?いや、買ってないですよ。だって車運転してますもの、わたくし。あと数時間後には運転が控えているんで、ビールなんて飲めない。ちくしょう。
あれれ。天狗荘はぴったりと扉が閉ざされておりました。
調べてみたら、この天狗荘は7月~8月の2カ月だけの営業らしい。要するに、宝剣山荘では人が捌ききれないピーク時用の山小屋というわけだ。
09:29
最後の登り。
ハイマツが景気悪そうに茂り、大きな岩がゴロゴロした山。標高3,000メートルクラスの山だと、山頂が近くなるとこういう光景になる。それ、後もう少しだ。
09:31
わおう。
普通、登り切る寸前には山頂標識が見えたり、山頂周辺で大休止している人がいたりというサインがあるものだ。しかしそれが見当たらないなー、と思ったら!
山、間違えてた。
これ、中岳という一つ手前の山で、木曽駒ヶ岳2,956.3メートルはまだ先だった!
うっかりしてたー。
さっき、「木曽駒ヶ岳山頂を臨む」と題して記念撮影やっちゃったよ、中岳バックで。うわあ、恥ずかしい。山があったら登りたい。じゃなかった、穴があったら入りたい。
幸い、ここからきつい登りはないものの、なんだかスゲー損した気分。あーあ。
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