
13:43
「五国峠農道記念碑」と書かれた石碑。
こんなものを撮影しても、何の記念にもならないし記録にもならない。しかし、なにせ今回の散歩は山頂とか崖とか、そういうアウトドア感満載な景色が皆無だ。なので、ついついこういう石碑も撮影してしまう。
近現代研究家の辻田真佐憲氏が、「歴史を残すためには石碑が一番良い。銅像だと、戦争が始まると徴収されてしまうし、政権が変わると倒される」という趣旨のことを言っていて「なるほど!」と思ったことがある。
たしかに、石というのは安上がりだし、風雪に耐えられるし、有事の際にわざわざ壊したり別の場所に持っていく労力が惜しい。エジプトのヒエログリフみたいな大袈裟なものでなくても、石に歴史を刻むのは有効だ。
で、ついつい農道記念碑を撮影しちゃった。

13:43
こういう分岐があるたびに、「どっちに行けばよいのだろう?」と一瞬考えてしまう。
でも、本当はどっちでもいいんだよな。
登山道のつもりで誤って獣道に迷い込んでしまい遭難、というシビアな山登りじゃないんだから。
僕は単に、手にした本に載っているモデルコースをトレースしているだけだ。トレースの練習をしているわけじゃないんだから、好きに歩けばいい。でも、これまでの山登りのクセがあって、どうしても地図に記されたルートを通りに歩かないときもちがわるい。

13:47
前方はもう相模湾。
最初っから空が広い、すごく開放感があるウォーキングだが、ここにきてますます開放感を覚えている。
単に眼下の景色を見下ろせる場所が「開放感」なんじゃない。歩きながら空を見上げ、「ああ、空が広くて気持ちがいいな」と感じる開放感を今回、とてもエンジョイしている。
道路左側に、廃墟となった倉庫が見える。

ちょっと風変りな形をした、倉庫。テラスのようなものがせり出している。
どうやら、収穫したミカンなどをここに集積し、みかん畑用モノレール(モノラック、という)に積み込む「貨物駅」の用途として使われていたようだ。この倉庫の脇に、モノラックの線路があった。

13:51
ガイド本では「トイレのところを曲がる」と書いてあるのだが、トイレが見当たらない。
周囲をキョロキョロしてみると、崖の法面下に簡易トイレがちょこんとあった。これは気づきにくい。
ただ、僕はここでガイド本の指示を破り、ここからは独自のルートを進むことにする。
国府津駅に向かうのではなく、まっすぐ海を目指す。

改めて、海が見えてきた。

丘の上から見える海は、それはそれは嬉しいものだった。
1月ということもあり、汗をまったくかかない気候だけど寒すぎないというのもいい。
ここには掲載していないが、このあたりで自撮り写真の枚数が増えている。よっぽど嬉しかった、というわけだ。

13:58
「もう丘陵歩きは終わりだよ」と明確に告げる、下り坂。
まっすぐ海に向かって下っていく道が気持ちいい。

吾妻神社、というのがこの先にあるようだ。ここからは神社の祠も鳥居も見えなかった。
コンクリートの狭い道。その先に茂み。みかん畑の中にある神社らしい。

14:03
眼下にJR東海道本線の線路が見えてきた。そして海岸線、西湘バイパスも。
眺めている方向は、国府津駅とは逆だ。横浜方面の隣駅、二宮駅まではかなり距離があるのだけど、町が海沿いにずーっと伸びていることがわかる。さすが東海道だ。駅前だけ栄えているわけでない。
それにしても、1棟だけ大きなマンションが建ってるのが気になる。黄色いし、とても目立つ。
マンションというのは駅から近いなど、土地の利便性を買うものだ。駅やなんらかの施設から遠いのに区分所有、というのはわけがわからない(ときどき、そういうマンションが存在するが)。
目の前のマンションも、なぜこんな駅から遠いところに、しかも急に1棟だけ?と謎だ。
調べてみたら、「ダイヤモンドライフ湘南」という建物で、「中高齢者専用マンション」という位置づけなんだそうだ。へえ、そういう概念の建物ってあるのか。老人ホームの一歩手前。
50歳から入居できる、ということなので、「子どもが巣立ったし、今の家を売り払って別の家に住んでもいいな」と思っている50歳代の人には良いのかも知れない。いよいよ足腰が動かなくなってきたぞ、となってから終の棲家を探すよりも、新天地に馴染むことができるし。
で、このダイヤモンドライフ湘南、目玉は最上階に展望大浴場があることだった。オーシャンビューで風呂!それはいいな。しかも温泉。ダイニングがあって、お金を払えば1日3食提供してもらえる。
ただ、最寄りの国府津駅までカタログスペックで徒歩15分。事実上、車を持っている&運転できる認知能力を備えていないとなにかと不便だ。老いてきておっくうになると、この建物に閉じこもってしまいそうだ。
僕はここに住みたいとは思わないが、こういう余生というのもありえるな、とやたらと感心した。
僕の場合、パートナーと年齢差が12歳ある。なので、僕が仕事を引退しても、まだパートナーはバリバリの現役で働いている。なので、「仕事引退とともに隠居」というのはできない。更にいうと、僕が47歳のときに子どもが生まれているので、子どもは子どもでバリバリの学生なのだった。
あまり一般的ではない家族年齢構成なので、わが家は汎用的な人生設計が通用しない。刺激的で面白い人生だと思うが、大変でもある。「老後に向けた資産形成」なんて、わが家では意味不明すぎる。だって、僕の老後はパートナーが現役だし、子どもはまだ扶養家族だし。
(つづく)
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