御嶽山、そこは「また訪れたい」と強く願う、祈りの山【御嶽山】(その3)

2023年08月06日(日) 1日目

2023年8月6日。

自分にとって日本百名山第62座、御嶽山を目指す。

2014年に未曾有の大噴火を起こした活火山であるこの山に挑むにあたり、まずは事前のリスクアセスメントが欠かせない。

山の天気予報を提供してくれる「てんきとくらす(通称「てんくら」)の予報によれば、両日ともに御嶽山の午前中は登山指数A。気温11℃という、下界の酷暑を忘れさせてくれる冷気だ。

てんくらにおける登山指数は天気そのものを意味しているわけではなく、「登山に適しているかどうか」をAからCのランクで評価する。なので、「A」だからといって快晴で360度の見晴らし!ヤッホーヤッホーというわけではない、ということを覚えておかないといけない。

どちらかというとこのサイトで役に経つのは風速で、「そうか、11度で風速6メートルということは体感気温が5度くらいには下がるんだな」ということを理解しておくのに役立つ。

王滝村のピンポイント予報。下界は28℃の夏日だが、夕方に微量の降水確率あり。

一方、御嶽山の登山口がある王滝村のピンポイント予報を確認すると、8月6日の夕方から少々雨が降るようだった。また、下山予定の7日は15時に雨予報。麓でこの予報なら、山の上ではもっと降ってもおかしくない。どうやら、雨の覚悟はしておく必要がありそうだ。

しかも、週間天気予報はこのあとずっと雨マークが記されている。山の天気は麓の天気を先取りする傾向があるので、やっぱり雨なのだろう。

パッキング重量測定。1泊2日の装備重量は10.6kg。

06:07
出発前の儀式、パッキング重量測定。1泊2日の装備で10.6kg。笑っちゃうくらい重い。

最近、トレイルラニングをやっている人に限らず、山装備の軽量小型化が盛んだ。そのせいで、若いやつほど軽装備で、昔ながらのおじさんおばさんのほうが経験豊富で荷物を厳選できるノウハウをもっているはずなのに荷物がデカい、という逆転現象が起きている。

ただ、僕の場合は単に荷物が多い。軽量化にコストをかけていないというだけでなく、「不便がないように」ということであれこれザックの中に詰め込んでしまう。その結果、山の中を歩くのに不便が生じている、というのは皮肉な話だ。パソコンのデフラグが大好きだった性分が、ここで仇となる。

だって、よせばいいのに、「行き帰りの電車の中で暇にならないように」とかいって読みかけの本とか雑誌をザックに入れてしまう。そりゃあ、重くなるわけだ。
登山の行き帰りなんて、せいぜいスマホを眺める程度で我慢してりゃいいのに、「せっかくだから読書をしよう」なんて欲がでてしまう。

なんなら、「山の中で撮った写真を帰りの電車の中で整理したいので、ノートPCを持参しようか」なんて真剣に考えている有様だ。よせ、とんでもなく重たくなるし、濡れたりぶつけたりして壊れるリスクがある。文明の利器を担いで遭難しにいくようなものだ。

なお、水は自宅を出発する時点で汲んでおくのが僕の流儀だ。
「登山口で、清涼な湧き水が出る場所がある」ということが仮にあっても、信用しない。東京の水道水で十分だ。
現地に行って万が一水が汲めないことが怖いので、自宅から担いでいく。

ドイターのザックに登山用ヘルメットを外付け。御嶽山特有の火山対策仕様。

06:30
ドイターのザックに、今回の山行における最重要デバイス「登山用ヘルメット」を外付けする。2014年の惨禍を思えば、これは単なる装備ではなく「生きて帰るための必需品」だ。

ヘルメットをザックの外側にくくりつけるためのカバーをわざわざ買ってあるのだが、ほぼ使い道はなかった。というのも、ザックに詰め込んだ荷物の一番上に被せる形で配置し、雨蓋を被せれば、パッキングに何ら支障がなかったからだ。無駄な買い物をしちまった。

あと、二ノ池山荘に宿泊するためにインナーシーツと呼ばれるものをあらたに調達した。

この登山が行われる2023年は、新型コロナウイルスが5類感染症に格下げ(季節性インフルエンザと同等)になり、「人を見たらバイキンと思え」という時代が徐々に元の生活に戻りつつあった。
しかし山の上ではまだ警戒感は強く、二ノ池山荘においては「布団は提供するが、そのかわりにインナーシーツを各自持参するように」というルールになっていた。

インナーシーツという言葉に馴染みがないが、要するに寝袋の中に装着するシーツだ。ダウンシュラフなど、あんまり皮脂や汗で汚したくないなぁ、という寝袋を使う際に一枚このシーツを入れておき、使用後はシーツだけを洗うという運用だ。

そのインナーシーツを、山小屋備え付けの布団においても使ってほしい、というわけだ。

なるほどご時世柄それは納得だし、むしろ僕自身快適に過ごせそうなので賛成だ。
なにしろ、山小屋の布団というのは「汗まみれだった人が、風呂に入らずにそのまま寝る」場所だ。
宿によりけりだが、ベタベタする布団の小屋というのはザラにある。

インナーシーツがあれば、それは解消できるので、利用者としても良い話だ。

ただし、たかがシーツとはいえ、決して軽くはない。なにしろ全身をすっぽり覆うようなサイズの布だから。
だから、確実に装備が重くなるのは悩ましい。快適さと引き換えに、僕の足取りが重たくなる。

新宿駅7時発、特急あずさ1号白馬行き。登山口へのアプローチ開始。

06:57
新宿駅から特急あずさ1号に乗り込む。

ラグジュアリーな雰囲気から登山が始まるのは、やや気合いが入らない。とはいえ、満員電車とか夜行バスに乗ったら良いというわけでもないので、まずはここで気持ちを落ち着かせる。

特急あずさが発着するホームでは、朝7時前だというのに駅弁屋さんが営業をしているので驚かされる。

この駅弁はいつ、どこで作られたものなんだろう。
真夜中に工場で職人さんたちがせっせと米を詰め、深夜トラックに揺られてここに並んだのだろうか。そんなことを考えると、ありがたみが増すというものだ。

07:07
朝食は近くのコンビニや立食い蕎麦屋で安く済ませても良かったし、そもそも家で食べてから出発でも良かった。でも、なぜか駅弁を買って、ノンアルコールビールも調達している。

言うまでもなく駅弁なんて金持ちの食べ物であり、今どき1,000円を遥かに超えてくる高級料理だ。なんで朝からこんな贅沢をしたのか、今となってはよく覚えていないが、きっと盛り上がっていたのだろう。
でないと、わざわざノンアルコールビールを500mlにしないって。

普通のサラリーマンなら躊躇するレベルの出費を、旅の勢いでチャリンと決済してしまった。

電車の中では寝て体力を温存しておけばよいのだけど、ついウキウキしちゃって、本を持ってきちゃった。

「デス・ゾーン 栗城史多のエベレスト劇場」。

エベレスト登頂の瞬間をネット配信する、といって何度もエベレスト登頂を試みるも、無謀な計画から敗退を繰り返した登山家、栗城史多が遭難死するまでの実話。自己顕示欲とネット煽りの相乗効果で引くに引けなくなり、どんどん高難度なルートからの登頂に挑んでいき死という結果に至った、という話だ。

これから山に行くというのに、山で死ぬ人の話を読むというのは我ながら不思議だ。何で気分が落ちるものを読んでいるんだ。まるで自分のフラグをせっせと建築しているような気分になってくる。いかんいかん、僕は生きて帰るぞ。

生き抜くために深川めしをいただく。

生きたあさりを大量に煮たんだな、と思うと、人間が生きるということはほんとうに業が深い。

09:32
塩尻駅に到着。

ここで下車したことは多分ないので、見る景色が新鮮だ。

ここを境に中央本線は「中央東線」と「中央西線」と名前を変える。また、松本方面に向かう路線は「篠ノ井線」という名前になる。交通の要衝だ。

ここで特急あずさを降り、中央西線の特急しなの名古屋行きに乗り換え、御嶽山最寄り駅である木曽福島駅を目指す。

塩尻駅ホーム売店「あずさ」の臨時休業。登山前の補給に暗雲が立ち込める。

09:33
この駅には駅弁屋さんがある、と聞いていた。

今日のお昼ごはんは塩尻駅で駅弁を調達する予定だったのだが、「ただいま休業中です」という張り紙が貼ってあって、営業していなかった。やられた。僕の「お昼ごはん駅弁計画」が、あっけなく霧散した。

登山口がある田の原にはビジターセンターがあるものの、売店はない。また、木曽福島駅にはコンビニが併設されておらず、駅からちょっと歩いたところにある。

特急しなのと田の原行きのバスの接続はとてもスムーズで、スムーズであるがゆえにコンビニまで歩いて行く時間の余裕がない。つまり、塩尻駅でお昼ご飯を買っておかないと、エネルギー補給に支障がでることになる。登山中にシャリバテを起こすわけにはいかない。

幸い、この駅にはコンビニのNewDaysがある。そこで何かを買おう。高級駅弁から一転、コンビニ飯へのグレードダウンだが、背に腹は変えられん。

(つづく)