2005年秋 居ながらにして世界旅行

半径50mの世界食べ歩き(その1)

東京外国語大学

東京外国語大学。

東京都府中市にある外国語を勉強するための単科大学だ。学部は「外国語学部」しかない潔さで、しかし取り扱っている言語は多岐を極め、日本語を含めると26言語をこのキャンパスで学ぶことができる。大学名に恥じない、言語のデパートだ。

「一体こんな言語を学んで、将来何に活用するんだ?」と首をひねってしまうような、日本とは縁遠い国の言葉も中には含まれていてとても興味深い。

ここの大学祭は面白いぞ、という事は一年前から耳にしていた。いろいろな国の文化を楽しむことができるからだ。中でも、各国の料理を食べる事ができるというのが僕にとっては魅力だった。馴染みの無い国の、聞いたこともないような料理を食べるわくわく感は他には代え難い楽しさがある。外語祭では、各言語ごとに分かれている学科単位で、それぞれの国の料理を販売する模擬店が出店されるという。ということは、単純に考えて26カ国の料理を食べることができるということだ。これは凄い。ぜひ、行かなくては。

2005年11月23日勤労感謝の日、僕は単身東京外国語大学に乗り込んだ。・・・まあ、単身といっても、外大には僕の友人が在籍しているので、後で合流するわけだが。

外語祭の立て看板

外語大は、JR中央線武蔵境駅から分岐している西武多摩川線で2駅、多磨駅が最寄りとなる。そこから歩いてすぐのところに、広大なキャンパスを構えている。まだ新しい建物で、古い大学独特の胡散臭さが全くない。外国語を学ぶ、ということで女学生の方が比率として多いと思われるので、その関係でキャンパスが汚れていないというのもあるのかもしれない。

語劇タイムテーブル

入り口すぐのところに「語劇タイムテーブル」と書かれた看板が掲げられていた。これは、各学科の学生さんが、学んでいる言語で劇をするという外語祭の核を成すイベントらしい。

この日は6カ国の劇が行われる事になっているようだ。

ポーランド語で、日本の昔話である「絵姿女房」を演じるなんてなかなか味のある組み合わせだ。それにしてもポーランド語なんて聞いたことすらないぞ。一体どんな言語なのか。

学祭期間全体の語劇タイムスケジュールを確認してみると、さすがに26言語も扱っている学校。一カ国あたり、上演する機会は1回のみとなっていた。ということは、そのたった1回の上演のために、学生は何カ月も前から準備を進めるというわけだ。失敗はできないので、これはなかなか大変なことだ。

他には、この日上演する言語はペルシャ語、アラビア語、フランス語、ラオス語(!)、ポーランド語、ドイツ語だった。ラオス語学科ってのもあるのか。ラオス語というのも全く想像できないな。

キャンパス中央の円形広場

キャンパスの中央には、円形の広場が広がっている。半径にして50mくらいだろうか。その広場を取り囲むように、屋根付きの廊下が円形に形成されている。講義棟から学食や図書館がある建物に移動するとき、この渡り廊下を歩いていけばぬれずに済む。

この円形渡り廊下の柱と柱の間が、学科単位で設営されている各国料理のブースとなっていた。校門方面から侵入すると、まずはドイツ語学科が主催するお店がお出迎え。おお、ヴルスト(ウィンナーのこと)が香ばしく焼けているぞ。視線をざーっと左右に振ってみると、見事なまでにいろいろな国の国旗をイメージした店の装飾が見渡せる。これは食べるのが好きな人ならば、誰でもわくわくする瞬間だ。限られた胃袋、さてどこの国の料理で胃袋を満たそうか?

かなりな人出

結構な人手だ。在校生の親と思われる中年夫婦と学生が多いが、それ以外にも子供からお年寄りまでよりどりみどりだ。僕のように、異国料理を楽しむためだけにわざわざ訪れたとおぼしき人も少なくない。これほどまでに、外部の人に訴求力がある大学祭は珍しいのではないか。

モンゴル語学科の屋台

ぐるぐると、円形の中を回る。まず栄えある一食目をどこにしようか、ということで悩む。お昼時ということもあって、ほとんどのお店では行列ができていた。さて、どうしたものか。なかなか決められず、何周もぐるぐる回ってしまった。

それにしてもモンゴル語学科!お店の名前を「蒙古飯(もうこはん)」とするのは一体どういうセンスだ。最高に面白いじゃないかこの野郎。

・・・この学科、絶対に男性が多いな。女性だったら、こんな名前は嫌がるはずだ。でも、すごくナイスなネーミングだと思う。

ゲルもある

そんなモンゴル語学科は、飲食店舗「蒙古飯」の近くの広場にゲルをおったてていた。やるなあ。

やるなあ、といえば蒙古飯の隣に店を構えていたポーランド学科。なんとこのお店、飲み物としてスピリタスを置いていた。おい、いくら何でも冗談きついぜそれは。スピリタスといえば、アルコール度数96度の世界で一番キツいお酒。一滴飲んだだけで酔っぱらう。いや、一滴だったら「飲む」ことはできない。口に入れた直後に蒸発する。それでも、酔う。そんなお酒だ。こんなお酒を扱っていたら、そこら中に泥酔者が続出するではないか。学生、むちゃするからなあ。ま、そうはいっても96度のお酒はあんまりだ。まあギャグのつもりで置いてあるのだろう。

・・・と思って、昼下がりに再度このお店の前を通った時に値札を確認してみたら、「売り切れ」になっていた。誰だ、飲んだやつは!

ほぼ全てのお店でお酒を販売しており、それがまた異国ならではのお酒で面白い。ロシア語学科のお店は、当然といえば当然だがウォッカが売られていた。おい、これもお昼に野外で飲むようなお酒じゃないぞ。

アラビア語学科の屋台

やっぱりこういうのは、目の前で火と煙をまき散らしながら調理しているお店に目を奪われてしまう。ぐぐぐっ、と引きつけられたのは・・・ええと、何語だ、ここは?アラビア語?すまん、料理に目を奪われっぱなしで、どこの学科だか忘れた。

料金支払い&テイクアウト料理引き渡しカウンターの横で、なにやら美味そうな香りを漂わせているぞ。

焼かれるケバブ

近づいてみると、おや、ケバブじゃないですかこれは。

金串に刺した、羊肉ハンバーグみたいなものだ。「スイーフ カバーブ」というらしい。ああ、これを日本語っぽく読み替えると「シシカバブ」になるわけだな。なるほど、一つ勉強になった。

ご丁寧にこの焼き台には材料名が書かれていた。書き写すと、マトン肉、タマネギ、青唐辛子、ししとう、しょうが、にんにく、塩、ブラックペッパー、チリペッパー、クミン、ターメリック、ナツメグだそうな。結構いろいろ入ってるな、おい。

ただ気を付けなければならんのは、調理しているのはあくまでも「その国の言葉を習っている日本人学生」であるということ。ネイティブな料理ではないので、どこまで「本場の味」になっているのかはさっぱりわからない。

スイーフケバーブ製造中

スイーフカバーブはこのお店一番人気で、焼き台はフル稼働。串をくるくる回しながら焼く人、焼き上がったカバーブを串から外して盛りつける人、そして金串にマトン肉をなすりつける人。見ていると、俄然欲しくなった。僕も行列に並ぶ。

これがスイーフケバーブ

待つこと5分ほど、焼きたてのスイーフカバーブが紙コップに入れられて渡された。一本まるごとで200円。ハーフだと半値の100円。外食であることを考えれば非常に安い。

合流した、在校生の友達は「いろいろ食べ歩きたいけど、お金がかかるからねえ」とちょっと残念そうにしていた。なるほど、学生からすると1軒あたり300円、400円程度の食事とはいえ、3軒4軒とハシゴするのは金銭的負担が大きいのか。僕みたいな社会人の場合、「えっ、いくつも料理を食べても、せいぜいその値段なの?」なんてうれしくて仕方がないシチュエーションだ。そもそも、エスニック料理屋というのは結構いいお値段する事が多い。「えー、たったこれだけしか食べていないのに?」とお会計時に残念に思うことはとても多い。そんな中、この学祭は楽園と言っても過言ではない。・・・まあ、味のクオリティについては値段相応、ということなんだろうけど。でも許す!大絶賛とともに、味については許す!

でもちなみにこのカバーブおいしかったですよ。誤解の無いように言っておきます。

インドネシア料理の看板

カバーブを食べていたら、俄然ビールが飲みたくなってきた。回りを見渡すと、老いも若きも、どこぞの国のビール瓶手にラッパ飲みしながら歩き回っている。秋晴れの空の下ということもあって、とても気持ちの良い空間だった。若い女の子も、うれしそうな顔をしてビールを瓶ごとあおっている。あー、いいなあこういうのって。「昼酒推進拡大協議会」というオフ会を開こうかと真剣に考えている僕からすると、この地は何とも理想型なのだった。

そんなわけで、二軒目はちょっとビールを飲みたいし、とりあえず空腹である胃袋を軽く落ち着かせたい。行列の長さも加味しつつ場所を吟味した結果(この結果がでるまでまた5分くらいあたりをウロウロすることになったわけだが)、インドネシア料理を食べることにした。

インドネシア料理とくれば、有名なのがミゴレン、ナシゴレン。ミゴレンが焼きそばで、ナシゴレンが目玉焼き載せチャーハン、という認識で良かったっけ?あと、インドネシア風焼き鳥のサテ。このあたりは定番ですな。もちろん、このお店もそのあたりの定番品はきっちりと押さえてあり、他にもソトアヤムなる謎のスープなど数種類おいてあった。

かわいい食券2枚

じゃ、僕はビールとミゴレンを。

なにやら可愛い絵柄の手作り食券を渡され、待ち行列に加わる。ビールは、インドネシアのものらしく、聞いたことがない「ビンタンビール」というものだった。400円。あと、ミゴレンは250円。料理はやっぱり安い。原価率30%を原則に運営されている店舗経営型飲食店とは価格レンジが違う。

後で、ビンタンビール+サテアヤームのセットで480円というお得なセットがあったことに気が付いたが、後の祭り。

ビンタンビール

渡された瓶、それがインドネシアのビンタンビール。

恐らく、バリなどのインドネシアリゾート旅行を満喫した人は、ビーチやホテルなんぞで一度は口にしたのではないか。・・・僕はインドネシアに行ったことがないので、初めて知った銘柄なのだが。インドネシアを代表するビールなんだそうな。

この量で400円。日本で外国産のビールをデパートなどで購入しようとすると非常に価格が高いので嫌気がさす。それを考えれば、400円で外国ビールを飲むことができるというのは非常にお得感が高いと思う。それにしても、こんなビールを一体どこから仕入れてきたんだ?今回のためにわざわざ直輸入か?とも思ったが、ラベルにはちゃんと日本語で「ビール」と書かれていた。日本の輸入業者が張ったものとみられ、恐らくちゃんとそういう輸入ルートが存在するのだろう。種類豊富な酒屋さんに行けば売られているのかもしれない。

ちなみにこのビンタンビール、度数は4.8%のピルスナー。暑い南国だから、さっぱりとしたクリアなビールかと思ったのだが、なかなか飲み応えのあるビールだった。へぇー。

ミゴレン

待ち行列で5分以上時間を要してしまったのだが、その正体はミゴレンがなかなか仕上がらなかったからだ。家庭用フライパンで麺を炒めていたので、一度に3人前作るのが精いっぱい。ひっきりなしに訪れるお客さんのニーズに応え切れていない大忙し状態だった。

しばらく、厨房の様子を眺めていたのだが・・・おっと、ミゴレン用の麺を取り出したぞ。うーん、遠くから見るとあれはよくスーパーで特売になっているマルチャンの焼きそば(3袋入り)のような気がするのだが。まあ、インドネシア風焼きそばであることを考えれば、マルチャンでも問題ないのかもしれない。本場の味を実際に体験したことがないので、何が正しくて何が間違っているのかがさっぱりわからない。

で、炒めた焼きそばの上からオイスターソースだかナンプラーだかをかけて味付けして、できあがり。ほい、これがミゴレン250円なり。

野菜が少ないのはご愛敬。では早速、ビンタンビールをぐいっとあおってから、ミゴレンをぱくり。

ぬぅ、甘い。何だか、人工甘味料が入っているかのような独特の甘さだ。へぇ、ミゴレンってこんな味だったんだ(自信なし)。勉強になるなあ。この甘さはオイスターソースからくる甘さだろうか?普段僕ら日本人は、醤油もしくはソースで味付けした「塩辛い」焼きそばに慣れ親しんでいる。そんな味覚のまま、見た目は日本風焼きそばと同一のミゴレンを食べると、想定していた味と舌で感じる味のギャップが素晴らしく、頭が混乱してしまう。こういうのを「カルチャーショック」というのかもしれない。

居合わせた台湾人留学生の友達二人にも食べて貰ったが、二人で顔を見合わせて「どこかで食べたことあるような味・・・」「あっ、そうだ、タピオカの味だ!」「それだ、それだ」と言っていた。タピオカの味??これまた、僕にはよく理解できない形容表現だ。面白いなあ。

ラオス語学科の屋台

用事がある友達とここで分かれ、単独であちこち探索してみることにした。

次のターゲットは、ラオス。えっと、ラオスってどこだっけ。タイとベトナムの間に挟まれている国だよな。なかなか観光でも訪れない国だと思う。こういう国の料理にふれることができるのは数少ないいい機会だ。

お店の名前は「コイスーラオス」というらしい。横断幕には、「コイスーラオス/恋するラオス」と書いてある。コイスーとは一体何か。「凄い」をマスコミ業界っぽくひっくりかえしてみたのかと思ったがさにあらず。ラオス語で「コイ」は「私」、「スー」は「名前」という意味だ。すなわち、「私の名前はラオスです」ということになる。

うわ、家に帰ってからラオス語調べちゃったよ。こうやって知的好奇心がかき立てられるのが、外語祭の特徴だ。

ラオス料理のメニュー

さて、ラオス料理とは一体どんなのがあるのだろう。タイといえばトムヤムクン、ベトナムといえば生春巻き。ではその間にあるラオスでは?

・・・

ヨーチュン(1個80円) ラオス風揚げ春巻き
ラープ丼(350円) ラオスの代表的な挽き肉料理
カオプン(350円) ココナッツミルクたっぷりのラオス風にゅうめん
レッドカレー(350円) 野菜とココナッツミルクのピリ辛カレー

などなど。うわ、レッドカレー以外はあまり想像できない。

メニューに追加されたPOPによると、「リピーター率No.1」がカオプンで、2位レッドカレー、3位ヨーチュンなんだそうな。そもそもリピーターってそんなに居るのか、このお店。身内による評価のような気がするが、まあいいか。あと、「売り上げNo.1」がヨーチュンというのもちょっと不思議。リピーター率第三位じゃなかったんか。ああそうか、リピーターの数は全体の客数のうち僅かなので、売り上げランキングには影響を与えていないということか。

ヨーチュン

いろいろメニューに突っ込みをいれつつ、売り上げNo.1兼リピーター率No.3のヨーチュンを購入してみた。3本で220円。

出てきたヨーチュンは、一口サイズ・・・いや、それはちょっと難しそうなので、二口サイズほどの小さな揚げ春巻きだった。

ヨーチュンの中身

中の具は特に普通の春巻きと変わらないような気がしたが、厳密に味わっていないのでよくわからない。ひょっとしたら独特の具が入っていたかもしれない。

手軽な大きさなので、ビールのおつまみには最適だ。中国の春巻きはもっと大きくて、一つ食べればそこそこの満腹感になってしまう。それはそれで良いのだが、酒肴としてはこれくらいのサイズの方が楽しめる。

ビアラオ

さて、お楽しみ、ラオスのビールですよー。

国の数だけビールがあるのですね、世界には。

ラオスのビールは、「ビア・ラオ」と言うらしい。これも初めて聞く銘柄だ。まあ、普通そうだよな、ラオス料理自体全然知名度ない中、ラオスビールだって知られていなくて当然。

330mlのボトルで、お値段は300円。お、安いじゃないですか。ちなみに同量の缶を選択すると280円だったのだが、やっぱりここはぐいっと瓶をラッパ飲みしたいところ。20円高くても、ボトルを選んだ。

ビアラオを飲むよ

太めのボトルを手に、ヨーチュンを食べつつぐいっと。

このビール、webで通販してくれるお店を調べてみたのだけど、24本セットで9,120円だった。すなわち1本あたり380円。この「コイスーラオス」で300円で飲めるということは実は相当安いことになる。素晴らしい。お店としても利益をある程度見込んでいるだろうから、一体いくらで、どういうルートで仕入れてきたんだろう?ラベルを見ると、ちゃんと日本の輸入代理店経由で仕入れているようだが。

おっと、ラベルを見て気が付いた。製造年月日が060924になっている!未来からの贈り物、ですか?