スパイシーな夜を、貴方に。(中国東北料理/故郷味)

第06夜:中国東北料理/故郷味@東京都台東区
[2010年05月07日]

故郷味

このサイトのBBSで、しばらくの間オフ会スレで話題に上がった店。それが御徒町にある「故郷味」というお店だった。中国東北料理を出すのだという。店内は中国語が飛び交い、まさに中国東北地方(吉林省など。要するに旧満州地区)の人たちの「故郷の味」を提供している店なのだろう。

「母国の人比率が多い店」というのは、日本人にとってはディープだ。餃子の王将やバーミヤンといったジャパニーズ中華に慣れ親しんだ僕らにとって、ディープなお店というのはある意味ご馳走。「日本人向けの味つけ?知らん、そんなの」と切り捨てるくらいの潔い外国料理店大歓迎。だから、その話を聞いた時には「ぜひ行きたい」と即座に思った。

しかし、中国東北料理といえば、池袋北口あたりにもその手のディープ店が何軒かある。というか本店支店と他店舗展開してたりして、ディープな割には目立つ。だから、何も上野まで行かなくても・・・と思ったのは正直なところ(おかでんにとっては、池袋の方が自宅・職場からのアクセスが良い)。

そんな気分の中、自分の認識を180度変え、「これはぜひ行こう。行くしか」と思わせたメニューが、ここにはあった。

狗肉。

要するに、おイヌ様の肉を食らおうぜ、というわけだ。それはすごい。日本で犬肉が食べられる店なんてそれほど多くないはずであり、おかでんは当然一度たりとも食べたことがない。それ以前に肉を見たことすらない。まったく未知の食材。この店を見つけたが食日和、食べないわけにはいくまい。

オフ会の日程や企画を議論する掲示板スレッドでこの話を提起したところ、「犬肉はちょっと・・・」と遠慮する人数名。やはり、ワンちゃんを食べる事に抵抗感を感じる人は結構いるようだ。でも、隣の家の庭先にいる犬を闇夜に乗じて捕獲し、食肉加工しているわけではない。われわれが当然のように牛豚鶏を食べるように、犬を食べても全然問題ないと思うんだが、どうか。

いや、「どうか。」と問題提起したって、抵抗感がある人は歴然としているし、実際世界の大半じゃ犬肉を食べる文化は野蛮と思っている。台湾なんて犬肉を売るだけでも逮捕だ。「珍しい!その話、乗った!」という人の方が珍しい輩んだろう。おかでん含めて。

イスラム教徒なんて、犬食べたらダメだし。豚肉だけがダメなんじゃないぞ。犬もだぞ。

店のサイトによると、犬肉はちゃんと専用の牧場で飼育された犬を使っているとのこと。だから安心せよ、と。どういう餌が与えられているのかとか、気になりだしたらキリがないのだが、まあ、どうせ日常的に食べるものではない。物は試しと食べてみようじゃないか。

参加者を募ったら、おかでんの他に2名、わたし。さんとろどりげすさんが参加表明をしてくれた。感謝。

金曜日の19時前、御徒町駅に集合。そこから歩いてすぐのところが東北料理の店、「故郷味」。隣がゴーゴーカレーというなんだかカオスな空間だ。

メニュー豊富で目移り

この手の「本格」中国料理の店のご多分に漏れず、メニュー数がやたらとある。

しかも、馴染みのない料理だらけなので、一体何を頼んで良いのかピンと来ない。とりあえず今日は犬肉と、東北料理の定番である羊串を食べるという目標しか立てていないのでなおさらだ。

「まあとりあえず、この分厚いメニューをですね、後ろからめくってみるわけです。すると、最後のページにはさりげなく狗肉料理のメニューが・・・」

おかでん、最後のページからめくる。

あれ。普通のメニューだ。

「最後は当然ドリンクだよな。その前のページには、ほら・・・」

まだ普通のメニューだ。あれれ、あれれとページをめくっていったら、最初のページをめくった直後(3ページ目)に堂々と狗肉料理が1ページにわたって紹介されていた。うわ、この店やる気満々だぞオイ。てっきり、ひっそり、こっそり狗肉メニュー「も」あります、という感じでやっているのかと思ったのに。「串焼きメニュー」→「コース料理メニュー」ときて、その次がもう「狗肉メニュー」だもの。前菜とかそんなのすっ飛ばして、威風堂々としとる。

激しく動揺。

とりあえず、生。

とりあえず生ビール飲んで、時間稼ぎをする。

メニューを前にうんうん唸っていたら、いつまで経っても飲み食いが開始できない気がしたので。

ホント、こういうときに「とりあえず生!」って言っちゃうね。「とりあえず」という言葉は生ビールさんに対して失礼である、と思っていたが、でも便利な言葉だわ。仲間内にも、「とりあえず生でいいね?」「うん、いいよ」という会話ができるし、店員さんに「とりあえず生!」と言えば「後からいろいろ注文する意志はあるからね、もうちょっと待っててね」という意味が行間から読み取れる。

お通し三品

お酒を頼むと、自動的にアテがつくようだ。三皿。

ピーナッツ、茎わかめ、大根。大根は細切りで、キムチ風味になっている。

一人一皿のアテという訳ではなく、一人でこの店にやってきても三皿はつくようだ。前菜をあれこれ小皿で並べるあたりは、朝鮮料理を思い出させる。うっかりすると、このアテだけでお酒飲んで終わりになってしまいそうだ。それは今回の趣旨とは違うのでやめとけ。

ピーナツの皮は剥いた方が美味いか、それとも皮付きの方が美味いかというどうでもいい議論に一同花を咲かす。待て、それよりも早く注文しなさい。

犬肉料理のメニュー

われわれが注文を躊躇してしまったのが、本日のメインイベント、狗肉料理を決めかねていたからだ。1ページを丸々割いてメニュー紹介があるのだが、一体何を言っているのかわからぬ。
狗肉火鍋(4-5人前)、狗肉火鍋(2-3人前)
というのは理解できる。しかし、どうも火鍋の注文に対してはいまいち積極的な賛同者がいなかったので、このメニューはスルー。
メニュー一番下の、「狗肉湯飯」はご飯小椀と狗肉スープのセットらしいのだが、麦酒を飲んでいるわれわれにはご飯は無用。さようなら。狗肉のメニューとしては一番安い1,000円だったのだが。

そう、狗肉料理は総じて値段が馬鹿高なのだった。流通量が少ないため、どうしても値段が上がってしまうのだろう。それが、われわれが品定めに躊躇する理由の一つでもあった。「まずはコレ頼んでみて、よかったらこっちも頼んでみよう」なんて、到底できない。

選択肢として残っているメニューは、

・炒帯皮狗肉 2,300円
・炒狗肉 2,200円
・狗肉拼盤 1,800円
・帯皮狗肉 1,900円

の4つ。しかし、なんのこっちゃわからん。店員さんを呼んで事情聴取をする。

聞くと、どうやら「帯皮」というのは皮付き肉のことで、その文字が無いものは皮を剥いだ肉のことらしい。それ以外はよくわからなかった。店員さんも中国出身の方で、微妙な意志疎通状態だったため。

よくわからんので、「お奨めはどれですか?」と聞いたら、「狗肉拼盤(gǒu ròu pīn xuán)」だという。一番値段が安かったし、じゃあそれで、とお願いした。注文したはいいけど、「拼盤」ってなんだよ。中国語のアルファベット表音記号「ピンイン(拼音)」の「拼」なのはわかったが、じゃあそのピンって字にはなんの意味があるのかさっぱりわからない。

「ああ、ピン盤ね」「ピン盤ですね」

とろどりげすさんとわたし。さんはなんか納得しているっぽいので、おかでんも(「ピン」という漢字が読める、というだけの意味で)「ピン盤ですねえ」と曖昧に分かった振りをしておいた。

狗肉拼盤

しばらくしたら、その「狗肉拼盤」なる料理がやってきた。

「おおおー、これが狗肉かー」

一同感慨に浸る。今まで見たことがない光景だからだ。多分、今後も一生のうちに何度もお目にかかるものじゃないと思う。今この瞬間に感謝。

とはいえ、先入観というか、見た目から判断しちゃイカンのだがどうにも美味そうに見えない。ええと、ビーフジャーキー?

値段が高いにはそれなりの理由があって、それだけの量がある。さすが中国、こういう料理でもしっかり盛るんだな。3名で来店したとはいえ、これは量が多い。

「んー、これでワンちゃんの後ろ足2本分くらい?」

いやな事を考える。牛のような、「牧場にいて当然」な生き物とは違い、愛玩動物としてもっぱら飼育されている生き物なので、想像がやけにリアルにできてしまう。

「そもそも、犬で食べられるところこってどこだろう?後ろ足の腿と、前足の肩・・・くらいかな?バラ肉、なんて無いでしょ」

あれこれ想像してみる。待て、お前今具体的になんの犬で想像してる?いや、それは内緒だ。

実際に食用として使われる犬は、チャウチャウだったりするわけであり、ああやっぱり、愛玩犬としても飼われている奴ではないか。

「ヒレ肉とかあるのかな?」

わたし。さんはまだ「食肉」的観点で想像を膨らませている。

「いやー、どうだろう?牛や豚と比べて体が小さいからなあ。あったとしても小さいだろうし、内臓から近いだろうし、処理をきちんとしないと相当レバー臭くなりそうな気がする」

想像ここまで。

「脂肪分がついているとは思えないから、ほとんど赤身肉なんだろうとは思ったけど」といいながら、箸を伸ばしてみる。まずは、肉だけ。

「うーん、味がしない」

これ、ゆでただけです。下味はまったくついていない。上にたっぷり乗っかっている、豆板醤だかなんだかの辛味噌をつけて食べよ、ということらしい。

何かに似てるな、という話をしていたら、ろどりげすさんが

「すじ肉かな」

と助け船を出してくれた。ああなるほど、そうだそうだ、すじ肉に似ている。ぷるぷるしていない方のすじ肉。しかしあっちは、肉に旨みがあるのに対し、狗肉に関しては皆無だ。そして、若干ながら臭みがある。何の臭みかまでは形容できない程度だが、癖がある。

そして、一番気になるのが食感がバサバサしているということ。ビーフジャーキー的外観というのはあながち間違っていない。これを噛んでいると、口の中が乾燥しそうだ。では、ということで辛味噌をつけて食べてみる。

「辛い!塩辛いよ、これ」

唐辛子と空豆か何かを塩漬けしたもんだろうから、当然なんだが、だとしてもちょっと強引すぎる辛さ。肉の味がないので辛味噌つけたら塩辛すぎる。かといって辛味噌をつけないと味がしない。何だこの「中間地点」の無い味は。両極端すぎる。平均値とったらちょうど真ん中に着地しました、なんて言うんじゃあるまいな。これを美味く食べるには相当コツがいりそうだ。

「これは・・・犬を食べるのが残酷かどうかは置いといて、そもそも美味いもんじゃないな。少なくとも日本人にとっては」

それがなんとなくその場の結論。いちおうおかでんとしては

「火鍋にしたら美味かったかもしれないね、スープの中に入るとイメージが変わるかも」

とフォローをしておいた。

なお、「拼盤」だが、後で意味を調べてみたら、「(お皿に奇麗に盛りつけられた)冷菜」を指す言葉らしい。ほら、鶏胸肉やきゅうり、にんじんなどを使ってお皿に鳳凰を描いた冷菜なんてあるじゃないですか。ああいうのを「拼盤」というそうだ。そういえば、今回われわれが食べた料理は冷菜の部類だったな。

炒め物だったらまた印象が違ったのだろう。味つけも一緒にされているはずだから。なんかあの中国人店員さん、日本人の口に一番あわない奴持って来ちゃったよオイ。でも、それくらいがいいや。「なるほどこんな食文化があるのか」って面白いから。

とはいえ、さすがにこの塩辛さと食感に辟易してしまい、全員の箸がなかなか進まないやら、ビールが減らないやら。

老虎菜

狗肉の他に串焼きを何品か頼んでいたら、なんだか肉だらけの予感。そこで急きょ野菜を選んだのが、きゅうりとパクチーの和え物である「老虎菜(lǎo hǔ cài=ラオフーツァイ)」。

中国料理店だったら、火山のような強力な火力でじゃっと炒める野菜炒めは随分なご馳走。青菜炒め、というシンプルなものでも何でこんなに美味いんかと思う。まあ、化学調味料がたくさん入っているからということもあるんだが。

ただ、それ以上のご馳走がある。香菜(シャンツァイ=パクチー=コリアンダー)最高。これを全面に打ち出した料理があると、無条件で注文の対象となるのだった。香菜嫌いの人が比較的多い日本の、日本人向け料理店ではなかなかお目にかかれない。今回は、幸い狗肉をも食べるような人たちがそろっていたので、香菜に抵抗がある人はいない。これはまたとない好機。

届けられた老虎菜を狗肉の箸休めで頂く。ただ、両方とも冷たい料理であるため、体が冷えそうだ。狗肉って、体を温める効果があるはずなのだが。即効性はないらしい。

なんで「老虎菜」と名前がついているのかというのは知らなかったのだが、実はこの料理、激辛唐辛子が潜んでいて、その辛さのせいで「虎に睨まれたがごとく恐れおののく」んだという。気がつかなかった。誰もこの料理で「辛い!」と言っている人はいなかったので、唐辛子ではなくパプリカが入っていたのか?それとも辛味噌のせいで味覚が既に狂っていたか?

写真を見ると、確かに赤い「何か」はちらっと料理内に見えるんだが、おかでんはそれを食べていない。

串焼き

この店は串焼きの種類は豊富。串焼きがメインメニュー、という位置づけなのだろう。実際、周囲のお客さんは皆、山盛りで串焼きを注文しているし、テーブル上には「食べ終わった串を入れる筒」が置いてある。焼鳥屋のようだ。

一本当たりの値段は安く、羊肉などが150円で、高いものでも400円(ホタテ貝柱)程度だ。賢い注文方法としては、羊肉串をメインにして、酒をぐいぐい飲むっていうパターンなのだろう。

羊肉は当然注文するとして、それ以外も珍しいものがいくつもある。だから、「1本ずつバラで、いろいろな種類を頼もう」という事にした。気に入ったものがあれば、別途その串を追加発注すればよろしい。

「ええと、すいません、注文を。串で・・・このひつじ肉串を、1本」
「1本!?」

店員さん、のけぞりそうになるほどびっくりしていた。よっぽどありえない注文だったらしい。

「あ、いや、他にもいろいろ頼みますんで。ひつじのすじ串も、1本で」

あわてて次の注文をする。

なるほど、多分、日本人は「焼き鳥盛り合わせを、数名で注文→料理が届いたら、若手が主体となって串から肉をせっせと外す→小分けにされた肉をみんなで食べる」という文化があるので、一串をシェアすることに何の抵抗もない。しかし、中国東北人にとっては「いっぱいのかけそば」のように、美談・・・というより貧相な奴らに見えたに違いない。

結局、頼んだのは6串。

「ひつじ肉串」「ひつじのすじ串」「牛のシン」「牛のおに筋」「牛の血管」「牛の小腸」

ひつじ肉の2種類以外は、どれもよくわからない。ホルモン系なのは分かるが、味の保証は正直いってない。まあいいでしょう、たまにはこういうのも。

「シンって何だろう?」
「心臓の事だと思う」

わたし。さんからの質問に、自信満々に答えるおかでん。しかし待て、後になって気がついたが、心臓の肉は「ハツ」だろ。「シン」ではないぞ。

最初に届いた2串。なにか、香辛料が振りかけてある見たこともない外見の肉。説明がなくテーブル上に置かれたので、一同困惑。ええと?この紙切れみたいな奴、そもそもお前は何だ。

「牛の小腸を広げて伸ばしたものではないか?」

という意見があったが、後になって届いた皿に「牛の小腸」があったのでこれは違った。正解は、手前の四角いのが「牛のおに筋」、奥が「牛のシン」だったようだ。

ちなみに、もう一つの皿に乗っていた「牛の血管」「牛の小腸」は写真を撮りそびれた。

名前が判明したところで、何のこっちゃわからん料理であることには変わりない。まあ、食べ物であることには間違いないので、おいしく頂くことにする。

・・・が。これも塩辛い!しかも食感が固いので、噛み噛みしている間にどんどん塩味が口の中に充満してくれる。これはキツい。香辛料の味もするんだが、何の香辛料だかはわからない。

「インドっぽいね」
「インド人が聞いたら怒るだろうなあ、何でも香辛料が入ってたらインドっぽいって言われるんだから」

なんてコメントをするのがやっと。いやホント、香辛料はいろいろ勉強したいんだけどねえ。

いずれにしても、この味つけは、血管ブチ切れで即身成仏になれそうなくらいに感じる。あわてて生ビールをもういっぱい、全員で追加オーダーする。薄めないと。

「日本の東北地方と一緒で、塩辛いものが好きなんかね?」
「ご飯好きならご飯が進んでしょうがないです、って言うのかなこの料理で」

疑問は尽きない。3人とも酒のみなので、これでご飯を食べたらどうなるか、ということまで思いが至らない。清酒飲みだったら「こういう塩辛い料理少々で酒が何合でも飲める」というのかもしれないが。

スパイスが気候風土的にとれないので、味つけは基本塩味・・・というならまだわかるのだが、この後出てくるひつじ肉なんてクミンが使われていたりして、一体この味つけの根拠となる食文化はどうなってるんだ、と不思議になる。

「ああ、そもそも中国東北地方って米がとれないから小麦粉文化だ。水餃子とか饅頭でこの塩辛い料理、食うんか?」

ますます不思議。

ところで、不思議の根源である「シン」とか「おに筋」って何だよ。帰宅後、ネットで調べてみたが、そんな日本語はない(見つからない)という事が分かった。一体どこで見つけた言葉だ?ますます怪しい。

「おに筋」と言っている料理の中国語名は「板筋肉」と書いてあった。なんとこれ、すじ肉なのだった。アキレス腱。牛すじは煮込みなんぞでよくお見かけする居酒屋定番メニュー。でも、この紙みたいな四角い奴がすじ肉だったとは、食べてから数日後になるまでまったく気付かなかったぞ。

さらに「牛のシン」。漢字は「牛鞭」と書いてある。ムチ?尻尾のことだろうか。・・・あれこれ調べてみたら、驚愕の事実が。どうやらこれ、ペニスのことらしい。なんか、中国製の精力剤なんぞの成分に含まれているではないか。そんなものを食べているとはまったく気がつかなかった。

われわれが使っている箸が、先端に「滑り止め用のねじ穴風ギザギザ」がついているのを見て、「虎のチンチンみたい」なんて発言をしていたというのに、その傍らで牛のチンチンを食べていたとは。

それにしても、体が温まる狗肉、精力剤にも使われる「牛のシン」。何で僕ら、精力増強しちゃってるんですか。この後何が始まるっていうんですか。

ひつじ肉の串焼き

このお店の看板メニュー中の看板であろうひつじ肉の串焼き2種類。

食べてみて、

「ああ、我が家に帰ってきた感じ」

と思わずにっこり。クミンが効いたひつじ挽き肉の串焼きなんて日本ではまだまだあまり食べられないが、それでも「我が家」という形容をしてしまった。

それくらい、他の料理がキツかったということだ。塩味が。
「ほっとするなあ」

なんて話が他の二人からも出てくるくらいで。「こういうのをメインに食べつつ、狗肉なんぞに時々箸を伸ばすと・・・おお、ちょうどいい感じ」

さっきは、ひたすら狗肉だったのでうんざりしてしまったのだが、あれこれお皿がテーブルに並んでいると、ようやくバランスがとれてきた。やっぱり、料理で冒険するのはいいけど、「安全牌」も用意しておかないとあぶねー、というのが今回よく分かった。ここはリアル「日本人に妥協しない店」だわ。

マッコリ

ビールの次に何を頼もうか、という話になった時、ろどりげすさんはメニューを見ながら韓国焼酎に目が行っていた。そこに、わたし。さんが「私マッコリ飲んだことないんですよ」と言うので、ならばマッコリにするべえ、とマッコリを頼んでみることにした。

中国東北地方は朝鮮族が住んでいる事もあって、韓国系の料理や飲み物もいろいろあるようだ。マッコリが中国料理屋のメニューとして当然のようにニーハオしている。

出てきたのは、湯飲み茶碗のような杯と、茶道で使うような土器・・・じゃなかった、バケツ・・・でもないな、ええと、とにかくマッコリがなみなみと入った器。面白い。これを、ひょうたん型ひしゃくですくって注ぐ。

甘く、飲み口が柔らかいので塩っ辛い料理にはよくあう。1リットル2,000円はビールと同等のアルコール度数の分際で結構よいお値段だが、美味いから許す。追加注文したら、豆乳が入っているような角パックを持ってきて、目の前で器にじゃーっと注いでいた。このあたりのざっくばらんさが日本的でなく、エギゾチックでむしろ楽しい。

拌干豆腐

われわれが頼んだ料理の最後に出てきたのが、「拌干豆腐(bàn gān dòu fǔ) 」。

「当店お奨め」みたいな表記がメニューに書かれていたので、つい頼んでしまった。右も左もわからない料理が多い中、「おすすめ」と言われたら頼まないわけにはいくまい。

以前のスパイシーナイツで「知音食堂」@池袋に行った際、頼んだ「豆腐麺」(←ネーミングは適当)とは違う。上海土産でこの手の豆腐は買っていたので事前に分かっていたが、ここで言う「豆腐」とは高野豆腐のようなものだ。ざらざらした、猫の舌のような固い豆腐。それがイタリアのパスタ・タリアテッレのような幅広麺になっている。

これをきゅうりや唐辛子と和えた料理。

しまったぁぁぁ、これも冷菜の部類じゃないか。気がついたら、僕ら串焼き以外は「メインディッシュ前の前菜」でお食事がストップしていた。多分、中国人店員からしたら相当奇異に映ったことだろう。「この人達、この後どうする気だ?」と。

そもそも中国人は、前菜(冷菜)-メイン-スープ-麺・飯類、と全体のバランスがとれた注文をするのが普通。中国料理店において、スープを頼まない日本人に対しては違和感を覚えるらしい。

ましてやわれわれの注文ときたら、もう。

そのツケは見事跳ね返ってきて、われわれは辛いやら塩辛いやら体が冷えるやら、なんだかもう散々。「マッコリでまったりだねえ」と言いながら酸っぱ甘い乳酸菌酒のおかげで若干建て直したが、それでもどうにもならない作戦失敗。

これ以上ここで何か追加注文する気もなれず、「今日はこの辺にしておいてやらぁ!」とお店を後にした。それでも一応2時間ちょっとの滞在だったので、満喫したといえば満喫したんだろう。

このお店はランチ営業から通しで夜までやっている。だから、休日の昼下がり、午前中上野の美術館なんぞを観覧した後にここにやってきて、羊串山盛りでお酒飲んだらさぞや気持ちよかろう。今度はそれをやってみたいところだ。

蒼龍唐玉堂

料理は味見程度しかせず、もっぱら飲んでばっかりいたおかでん。そのせいでちと酔っ払ったらしく、「この近くに、『台湾客家料理 新竹』というお奨めのお店がある」と言い出した。リアル客家料理を食べさせてくれる店ってほとんどないので、貴重な店だ。客家料理とはなんぞや、ということについては「へべれけ紀行」の「台灣編(2)」に詳しい。

この「故郷味」の塩辛さに相当やられていたわれわれは、新天地を求めてそちらに移動することにした。

「そういえばそのお店の近くに、『日本一辛い担々麺』の店があるんですよね?」

とわたし。さんがワクワクした顔で聞いてくる。確かにそうだ。その担々麺の店に行き当たったのは、「新竹」が臨時休業していたから代替として訪れたのだったっけ。よく覚えているな。ひょっとしてその担々麺、食べたいんですかアナタは。

・・・で、「新竹」に行ってみたのだが、シャッターが閉まっておりました。あらー。今日も閉店だったらしい。

「ということは・・・」
「担々麺!」

まさかこういう展開になるとは思っていなかったのだが、本日二軒目は「日本一辛い担々麺」というメニューがあるお店、「蒼龍唐玉堂」となった。一体今日は何のオフなんだ?中国東北地方から、四川省(?)に大幅サイドチェンジ。もっとも、「新竹」が開いてたら台灣海峡を渡って台湾に上陸していた事になるわけだが。

予定外の二軒目

一階カウンター席はほぼ満席だったので、二階席に案内された。そこはお座敷席になっているのだが、お客さんはわれわれだけ。

靴を脱いで座ると、妙にくつろいでしまう。

「珍しいですねおかでんさん、一軒目で完全燃焼して帰ってしまう人なのに今日は二軒目ですよ」

わたし。さんから指摘を受ける。確かに言われてみればそうだ。おかでんはビール飲みとして、「一杯目からカーン、カーンと勢いよく飲む」のが常。その結果、第一ラウンドでもう満腹&満足してしまい、おうちに帰りたくなってしまうのだった。

過去、宴席で何十回となく「二次会会場に向かう途中で姿をくらます」事をやってきている。で、「おかでんがいないぞ。探せ!捕まえろ!」と捜索の手が及び、おかでんは駅近くの吉野家で牛丼食ってるところを確保、なんて事も。飲んでいる間はあまり料理を口にしない性分故、解散後は急におなかが空く。その行動パターンが完全に仲間内で読まれており、おかでんが逃亡しても大抵は捕まるという有り体だったっけ。

今回は、何だかわからんが気がついたら二軒目。こんなの、まったく当初シナリオにはない展開だった。

さて何を飲もう?

わたし。さんが「ホッピー、飲んだことないんですよ」と言う。じゃあホッピーでいこう。

さっきは「マッコリ飲んだことない」でマッコリ、そして「担々麺・・・」というリクエスト、そして今回は「ホッピー飲んだことない」。今回はわたし。さんにどんどん魔界に誘われている気が。

ホッピーを飲む。途中、ろどりげすさんが「ホッピー中身、おかわり。」と注文したら、わたし。さんは「通な人っぽいですねえ」とやたらと感心していた。たしかにホッピーの注文って、何だかラーメン二郎の「呪文オーダー」を彷彿とさせるちょっと独特感がある。

ゆでキャベツとピータン豆腐

「日本一辛い担々麺」だけ食べて帰るんじゃなくて、気がついたら宴会第二部の様相。さすがに料理注文数は多くなかったものの、さっきまで飲み食いしていたとは思えない注文をしちまった。このお店、つまみが安いからなあ。

まずはゆでキャベツとピータン豆腐。ピータン豆腐はろどりげすさんが食べたがっていた料理だったのだが、先ほどの「故郷味」で「ちょっと注文数が多いのでいったん様子見」として保留されていたものだった。結局保留されたまま登場機会を逸したわけだが、まさかこのお店で復活当選するとは。

「こっちの店の方がはるかに安い!」

日本一辛い担々麺
慎重に取り分ける

こちらが、いつの間にか狗肉以上に「本日のメインイベント」化しつつある、本末転倒な「日本一辛い担々麺」。卓上に届けられた直後、わたし。さんが「これは担々麺じゃないでしょー」と言う。確かに、芝麻醤ベースの担々麺とも、花椒入りラー油中心の担々麺とも違う。言われてみりゃ、担々麺の定義ってなんだ?これって担々麺ってことで良いのだろうか。
前回おかでんが一人で食べたときは、「日本一辛い」という事ばかり気にしていたので、「担々麺とはなんぞや」についてはまったく考えていなかった。なるほど、だからこそ何人かでこうやって食べ歩きすると良いことがいろいろあるんだよな。自分では気がつかない発見が他人からもたらされる。

というわけで、三人寄れば文殊の知恵、三人寄れば取り皿三つで担々麺シェア、と。一人でこの担々麺を丼いっぱい食べよ、といわれるとさすがにおかでんでも身震いするが、三人力をあわせればハードルは若干低くなる。いや、料理に対して「力をあわせる」ってなんだか変な表現ですけど。

「このスープのとろみは何ー!?担々麺っぽくないー」

と、ヒャーとかいいながらわたし。さんが取り分けてくれた担々麺を、3人それぞれいただく。

「こういう激辛料理って、最初の一口二口はあんまり辛く感じないんですよね。でも食べ進むにつれて激痛が」

なんてエラそうに解説するおかでん。一応経験者なんで。・・・だが、取り分けをしているため、肝心の「激辛ゾーン」に突入する前に食べ終わっちゃった。あれれ。あともう二口程度あれば、ガツーンと来ていたはずなのだが。

おかでんに限らず、残りのお二方も「なるほどなるほど」と言いつつそのまま食べ終わっちゃった。うわあ、至って普通。

このサイトでわざわざ「激辛!」と1ページを割いて紹介していた自分が恥ずかしくなるくらいだ。そんな自分の恥ずかしさを忘れるために、ホッピーをぐいっとあおる。うむ。

麻婆豆腐

どさくさに紛れておかでんの好物である「麻婆豆腐」も忍び込ませてみた。

挽き肉たっぷりのなかなか良き麻婆豆腐であったよ。しかし、さすがに「日本一辛い担々麺」を食べた後だと、あんまり味がよく分からなかった。

あ、味がよく分からなかったのはホッピーをぐいぐい飲んでいたせいかも。

でもおいしかったですよ。これでご飯と一緒に食べればもうアンタ、極楽ですよ。

気がついたら「ラストオーダーでーす」と店員さん登場。はっとする。時刻は既に23時過ぎ。あららー。

「なんかね、やたらくつろいじゃって。こういう弛んだオフって初めてだからさぁ、なんか和むねえ」

しみじみとおかでんが語る。

「普段、何か一つの目的・・・例えば『スパイシー』だとか、『麦酒をぐいぐい飲む』といったオフの趣旨ってのがあるんだよね。その目的が達せられたら、満足感があるのでオフはそこでお開きになるのが普通。しかし、今日はもう、早々に『狗肉を食べる』をやっちゃったので、このだらけっぷりは初めてだわ。これはこれで良いもんだ」

特にこのお店、他に客も店員もいない二階席だし(店員はブザーを押して呼ぶ)、お座敷だし、妙にくつろいでしまっているのだった。

「マッコリでまったり、かと思ったらホッピーでもまったりだねえ」

そのホッピーだが、ラストオーダーだということなので

「じゃあ中身とりあえず5杯。注文だけシメてもらって、品物は後で段階的に持ってきてもらっていい?」

なんて、ちと中国人店員さんにはややこしいオーダーをろどりげすさんがする。これにて、われわれは一丸となって「お店の完全閉店時間まで粘る」事確定。

ムホホ、お店を出たのは23時40分やんけ。ここでおかでん、終電最前線から早くも脱落。おかでんが住んでいる路線は終電がやたらと早い。

和のテイスト

さあどうしたものかと。多分、残りのお二方は終電がまだぎりぎり間に合う時間のはずだし、わたし。さんは「終電無くなったらタクシーがある」とか言ってる。

しかし、酔っているけど妙にしれっと平静っぽいおかでんは見つけてしまった。今出たばかりのお店のすぐ近くにある、24時間営業の食堂を。

そのお店は「御徒町小町食堂」という。「まいどおおきに食堂」や「めしの半田屋」同様、カフェテリア方式で好きなおかずをお盆に載せていき、最後にお会計、というタイプのお店だ。

これ、食事にとても最適。なぜなら、和食小鉢類が充実しており、ひじきとか納豆とか、一皿100円程度の野菜小鉢をたくさん並べると大層幸せな気分になれるから。日頃の栄養バランスの悪さを帳消しにしてくれる錯覚すら覚える。近所にあると大変にありがたいスタイルの店だ。

それと同時に、この手の店は酒を飲むにも最適だ。小鉢が多いということは、それをつまみに飲める、ということだ。焼き魚で飲んだっていいし、カツで飲んでもいい。酒肴には困らない。さすがに昼間から団体で酒飲んだらお店に迷惑だけど。

そんな話をおかでんが蕩々と語っているうちに、「とりあえずまあ、行ってみましょうか」なんて流れになってしまった。「なってしまった」というか、多分おかでんが一人で勝手に盛り上がって、勝手に二人を連行してしまったのが正解だと思う。このあたりの経緯はあんまり覚えてない。まさに「道連れ」。終電逃しても全員ならば怖くない。

既に3軒目ということもあって、各位それぞれ、そんなに飲み食いしたいわけではない。ただ、自分たちのテンションに比例してうまいことお酒を飲んでいれば、本来自分がもっているHPとMPを大幅に上回るポテンシャルを発揮することができる。これは良い戦友(とも)と、良いシチュエーションで、良い会話をしつつ飲み食いしていないと無理であり、なかなかこの「無敵状態」にはならないものだ。それが今日は実現。ありがたいことです。

24時回っているのに、3人であれこれ言いながらいんげんとか玉子焼きとか載せちゃった。わたし。さんは「玉子焼きに大根おろしがついていない!」とご不満だったので、ろどりげすさんが「ならこれでどうでしょう」としらすおろしを追加。ますます皿数が増える。

いいぞアンタら。学生でもないのに、そして面識がほとんどない面子同士なのに、この格好いいまでの飲み食いっぷり。最高じゃないか。オレはこういうのが好きなんだぁぁぁ。

24時過ぎ、まだ飲み食い続行中

料理を選ぶ事で満足しちゃってて、お酒はすっかり忘れていた。

しかし、ろどりげすさんが「ここはサワーで行きますか」と、サワーをオーダー。

ならば、ということで全員サワーを飲み始めた。

ホント、飲みっぱなしだ。普通、ある段階まで飲んだらぴたりとストップするものだが、今日に関してはまったく誰も止めない止まらない。

気がつくと、周囲のお客さんもみんな居酒屋状態で飲み食いしていた。始発まで飲み続けて時間を潰すのだろうか?

カラオケ開始
何か一杯のんでくれ

一応お盆の上にあるものはあらかた食べたところで、またおかでんが悪い気を起こす。
「まだ始発まで時間がありますねえ。3人そろってネットカフェのペアシートで川の字になるっていうのはあまりにさえないし、カラオケにでも行きますか」

そのまま、御徒町駅方面に向かって歩いていく。するとまるで予定調和のように駅前にカラオケボックス発見。深夜2時、突撃。

「おかでんさんがこんなにハシゴしてるなんて、珍しい!」

またわたし。さんが驚いている。しかも、歌いながら

「アワレみ隊のオフ会でカラオケって初めてじゃないですか?今回すごいですねえ」

なんて言ってる。そういわれてみればそうだ。カラオケ、最近やってないなあ。

「ワンドリンク制、っていう事なので何かを頼まなくちゃ」

ということで、この日4軒目となるここではハイボールを注文。

ビール→マッコリ→ホッピー→サワー→ハイボール

ちゃんぽんし過ぎだ。それより呆れたのは、おかでんはすんなりハイボールを選んだのに、残りの二人はビールを選択したことだ。これだけ飲み食いしても、まだビールが入る余地があったのか!四次元ポケットかよ。その二人も、遅れてハイボール陣営に合流し、3者そろって「5種のお酒チャンポン同盟」結成。

カラオケのテレビ画面には、「何かいっぱいのんでくれ」という歌詞が表示されている。誰だこんな曲を入れたのは。・・・と思ったら、ろどりげすさんとわたし。さんが二人でこの曲をデュエットしとるー。いい歳した大人が、朝3時とか4時でここまで飲み続けている事にちょっと感動した。まだまだわれわれは戦える!老いぼれてはいない!とポンコツおかでんは思った。

徹夜明けでよれよれになっている二人

朝5時、カラオケボックスが閉店だということでお会計。ストップがかからなかったら、そのまま6時でも7時でも歌い続けていたかもしれない。あぶねー。

この頃になるとろどりげすさんはソファに横になってうたた寝中。起こしてみたら、顔がぱんぱんにむくんでいた。そりゃそうだわなぁ。

建物から出ると、外は既に明るくなっていた。ああ、もう夜明けだ。なんだか、急に老けたような気がする。

最後、カラオケボックスの前で写真を撮って解散。ちなみにこの写真、わたし。さんは記憶にないそうだ。カラオケボックスを出た瞬間に記憶が途切れたとのこと。力を出し切った、ということなのだろう。マラソンランナーみたいだな。

朝8時から所用があるらしいので、彼女のランニングはまだまだこの後も続く。

おかでんはこの後上野まで歩き、自宅最寄り駅の隣駅で下車し、松屋で朝定食食べて、歩いて自宅まで帰った。最後まで体力が余りまくっていたが、帰宅後そこで力尽きたでござるの巻。

なお、朝定食を食べる際、七味をガッツリ入れて自らの体にカツを入れようとしたら、本当にガッツリと入ってしまった。おみそ汁の汁気を唐辛子の粉が全部吸っちゃって、ゲル状になったくらい。狗肉よりも、「日本一辛い担々麺」よりも、これが一番辛かったというなんだかしょうもないオチがついた。

さらにオチが一つ。

何でこんなに朝までヒャッホーだったのかと訝しんでいたのだが、この記事を執筆するに当たって「牛のシン」が精力剤であったということ、そして狗肉もまた精を付けるための食べ物であることが分かった。道理で・・・朝まで年甲斐もなくはしゃいでいたわけだ。

(2010.05.07-08)

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