その1:発心の6月
今までさんざんこのサイトで書いてきたことだが、おかでんは「ラーメン二郎」が大好きだ。
そのラーメン(および店舗)の特殊性について、以前は長々と解説しないと人様に理解してもらえなかったが、最近はようやく認知度が高まってきた。お蔭で、概要説明をばっさり省略できるようになり、web文章執筆者としては楽な時代になった。
ただし、「ラーメン二郎」が一般的な口コミやマスコミで紹介されるのは、大抵「家畜のエサみたいな盛り付けと量」「キモいラーメンオタクが行列を作ってハァハァしている」といった誇張された内容であり、これはこれで面倒。まあ、あながち間違ってはいないのだが。
ラーメン二郎という名を名乗るお店は首都圏に限定して展開されており、2010年09月末時点で35店舗。三日の修行でも暖簾分けを許しちゃっていた「大勝軒」ほどではないが、店主の自主性に任された緩やかな暖簾分けによってお店は展開されている。
セントラルキッチンからスープや麺が届けられるようなチェーン店舗ではない。どの店も自家製麺、自家製スープ。そのため、それぞれのお店で味や盛り付け、注文の仕方などに相当なばらつきがある。これがまさにラーメン二郎の最大の魅力といえる。
どこかの二郎店舗で二郎好きになった人は、大抵別の二郎店に足を向けるようになる。すると、今まで通っていたお店とは全く違った「お作法」に戸惑ったり、味付けの違いに新鮮な驚きを覚えるようになる。そうなると、さらに他の店舗が気になってきて、知的食欲的好奇心はますます膨らんでくる。
そんなわけで、「頻繁に二郎に通う」という人は、大抵「ホーム」と呼ぶ自分のお気に入り店があり、ときどき別の店に遠征する。一つのお店だけに没頭する人はむしろ少ないのではないか。気が付いたら全店制覇を目指していた、という猛者も決して少なくはない。
二郎の特徴としては原則、店主が調理全般を行い、補助として助手が1名ないし2名程度厨房に入るというスタイルが挙げられる。その特徴は前述の「お作法」や「味つけ」に現れるのだが、それだけではなく、営業時間にも色濃く表れる。定休日は各店バラバラだし、サラリーマンには敷居が高い「昼営業のみ」の店も何店舗かある。さらには、「肉屋に発注を忘れた」とか「通勤用の自転車が盗まれた」と怪しい理由で臨時休業を連発する店主がトラップとして存在するのでややこしい。だからこそ、全店制覇を志す人は燃える。マゾ気質がないと、とてもじゃないが無理な荒行だ。
そんな荒行に挑もう、とおかでんが発心したのは6月中旬。 平日に休みが取れたので、昼間しか営業していない「三田本店」を久しぶりに訪問できたのがそもそものきっかけ。ここは、昼時になると数十人はざらの行列店であり、「出先の仕事ついでに立ち寄る」とか「昼休みの一時間で訪問」なんてのは無理な店。そこで、よせばいいのに「このハードルが高い店に行けた、ということは全店舗めぐりも無理じゃないかもしれない」と誇大妄想してしまったというわけだ。
この時点で訪問済みの二郎は既に15店舗くらいあったが、お店とラーメンの写真を「訪れた証跡」として残すため、イチからカウントしなおすことにした。ゼロからのスタート。あれ?ゼロかイチかどっちだ? ラーメン二郎遍路。巡り巡った先には一体どんな涅槃の境地が待っているというのか。たぶん何もないと思う。・・・いや、むしろ、血糖値とかプリン体とか悪玉コレステロールが増加して体をパンクさせかねない。でもこれぞ荒行。全店舗、回って見せようじゃないか。 ラーメン二郎遍路の掟として、以下の通り設定した。
- 対象は、ラーメン二郎直系35店舗+富士丸(旧:二郎赤羽店)5店舗+富士丸亜流店2店舗=42店舗
- あとあと気まずいことにならないように、業務時間には一切問題ないよう仕事の調整をする。
- 新蕎麦のシーズンが始まる10月までに結願(終了)させる。
まずは全店舗の住所、定休日をまとめたエクセルシートを作成してみた。どの日にどこにいくか、計画が重要。業務の状況も踏まえてパズルゲームのように当てはめる必要がある。また、毎日通い詰めるわけにもいかないので、適度に間隔を空けないと体がもたない。そういうのも加味しないといけない。さらに、行列がしゃれにならんほど長い店の場合、開店前には並んでおきたい、などと考慮すべき対象を増やしていくとどんどんややこしくなる。つくづくおかでん、こういうパズルを勝手にでっちあげてうんうんうなるのが好きだ。 さあここからラーメン二郎遍路の開始。 一店舗ごとにくどくど説明することはしないので、ざーっとめくるめく二郎遍路の旅を追体験してみてください。慣れない方だと、きっと胸焼けしますけど。
【01軒目】 ラーメン二郎高田馬場店(東京都豊島区高田) 2010年06月25日
最初のお店は高田馬場店。
新目白通り沿い。以前は高田馬場の別の場所にあったのだが、現在の地に移転。繁盛につき店舗規模拡大、というわけではない。行列店故の悩みか、並び客のマナーなどで周辺に迷惑をかけることがあったようだ。二郎でお店を移転したのはここの他にも何軒か存在する。
ドカ盛り豚ラーメン ヤサイニンニク唐辛子 880円。
唐辛子がトッピングコールに含まれているのは、ここと鶴見店だけだと思う。普通は卓上に置いてある。 この店はデフォルトメニューが「ドカ盛り」を名乗っている。二郎を知らない人が、おもしろ半分で注文し大量に残す事を懸念しての警告だろう。なお、ドカ盛りの麺増し(100円)があるので、それを追加してようやくいわゆる「二郎における大盛り」になるようだ。 昼営業しかしていないので、行ける時に行っておかないといけない店。 土曜日も営業しているが、そういう日はおかでんと同じような求道者が各地から集まってくるので混む。昼営業のみの店は、逆説的ではあるが「できるだけ平日に行く」のが良い。
【番外】 奥州麺処 秘伝 戸田店(埼玉県戸田市下前) 2010年07月04日
二郎には「直系」と呼ばれる35店舗の他に、直系の系譜を持っている「亜流」と、二郎人気にあやかって見よう見まねの「インスパイア」が存在する。ここ数年は「インスパイア店」が雨後の竹の子のように出現しており、二郎的なラーメンが「東京ラーメン」と呼んでもおかしくなくなりつつある様相。
この「奥州麺処 秘伝」もそのインスパイア系店舗の一つ。豚骨醤油スープ、太麺、キャベツとモヤシを主としたトッピングがあればとりあえずはインスパイア認定は可能。 今は変わったようだが、以前は午前3時過ぎまで営業していたので、夜食に適していた。二郎遍路のカウントには入らないが、一応掲載しとく。 「日本三大喜多方」というのがまず意味不明。次に続く「奥州麺処」というのもさらに意味不明。そして、どう考えても「代々伝わる秘伝の味」ではないのにそう名乗る力強さ。
二郎と言えば「ニンニクいれますか?」というトッピングコールが独特の文化だが、この店では無料トッピングを食券にマジックで書き込むスタイル。
ニンニク増しをするときは、ニンニクの数を1個から5個まで数字で記入。そのほか、野菜多めだと「や」、野菜普通だと「ふ」などと暗号を書く。 今回は「3や」と記入。
秘伝そば大盛り にんにく3野菜多め 820円
もやし何袋分使ったんだ?というものすごいもやしの塊登場。物価の優等生もやしだからこそできる盛りつけ。キャベツはほとんど無し。全く無かったかもしれない。見た目ポンキッキのムックのようで少々気味悪い。
二郎=むちゃくちゃな盛りをする店、という印象が定着してしまったが、今現在ではありえない盛りつけをする店はほとんど存在しない。えてしてそういうトッピングは度胸試し的な使われ方でオーダーされてしまい、残飯処理で店主がうんざりしてしまったようだ。
今では「インスパイア系」の方がむしろ盛りがすごい。この店のように。 二郎という看板があるだけで客は集まるが、インスパイア系はそうはいかない。そのため、盛りのすごさを看板塔としているのだった。 ちなみに言うまでもないがここまでもやしが盛りつけられると、スープは薄まる、もやし臭くなるで全くおいしい食べ物ではない。はじめて頼んだが、次はもう頼まない。
【02軒目】 ラーメン二郎西台駅前店(東京都板橋区蓮根) 2010年07月05日
2010年06月27日に開店したばかりの最新店舗、西台駅前店。
二郎の新店はだいたい年に2軒ほどのペースだが、開店当日はお祭り騒ぎになる。本店の店主をはじめ、各店舗の店主が自分の店を臨時休業にしてでも新店の応援にかけつける「オールスター戦」となるからだ。
そんなわけで、年々開店当日の行列が長くなり、最近では禁止されているとはいえ徹夜で並ぶ人まで現れている。 異常すぎる光景だが、二郎という食べ物がいかにマニア層に受け入れられ愛されているかを物語っている。
二郎マニアにとっては、店主はアイドルと大して違いはない。 この西台駅前店は開店告知のポスターに「地図不要」「雨でもぬれません」と高らかに謳う。確かに、都営三田線西台駅の改札を出て、そのまま高架に沿って歩けばすぐに到着する。
高架下なので行列中でも雨にぬれない。これはほぼどの店でも行列必至であるラーメン二郎の中では貴重なことだ。ただし、都営三田線のどん詰まり近くにある店であり、ちょっと立ち寄って食べていこう、とはなりにくい立地条件。
また、ここも昼営業限定。10:30-15:30の営業で、朝メシ兼昼メシが食べられる面白い営業時間。 まだ開店一週間ということもあって、通りすがりの住民が「一体何事か」と立ち止まって行列を凝視したり、「何に並んでるのか」と質問したりしていた。 また、二郎を知らないけどとりあえず行列ができる店だから美味いんだろう、という論法で並ぶ無謀なご高齢者も。
小豚 ヤサイニンニク 750円
大豚を頼んだのだが、まだ慣れていない店主のミスで小豚に。返金があった。
先ほどの高齢者さんは席に座ったまま白い灰になって燃え尽きていた。濃厚な二郎の味は、ご高齢者には受け入れられないだろう。
店内にはサントリーの自販機があるのだが、黒烏龍茶は完売御礼。二郎各店にはサントリーの自販機設置率が非常に高い。黒烏龍茶様々だ。 黒烏龍茶で摂取した膨大なカロリーがプラマイゼロにはなるとは誰も思ってはいないが、気休めというか、お守りみたいなものだ。
【03軒目】 ラーメン二郎茨城守谷店(茨城県守谷市美園) 2010年07月06日
茨城唯一の二郎。
そのため、茨城界隈の二郎好きを一手に引き受けているので結構な繁盛店。客層はさすがに都心の二郎と違い、家族連れや女性コンビ、ヤンキーっぽい人などが混じる。二郎求道者っぽい人は少ない。
二郎においては、「ロット」という考え方が重視される。ロットとは一度に作られるラーメンの杯数のことで、たとえば1回の調理でまとめて5杯分作る場合、「1ロット5杯」と言われる。 客席が10席で1ロット5杯の場合、2ロットで店内の全員にラーメンが行き渡る。この2ロットの間に食べ終わって店を後にするのが「二郎の美学」とする向きがある。そうすれば、店主は常にまだ行列中の客の分を見込み生産しながら作り続ける事ができ、お店の売り上げが最大化される。
ただこの概念は二郎好きな人たちが提唱するものであり、店側から「2ロット以内に食べてくれ」と客に要望することは(まず)ない。とはいえ二郎はもともと量が多いラーメン。身の丈にあわない量を注文して、脂汗をかきながら延々居座って食べているのは店としても困るので、そのような時は「教育的指導」が入る事はある。
このお店の場合、郊外店ということもあって客席がとても広い。3ロット分は余裕であるので、一部の客がゆっくり食べたからといって厨房でロット詰まりを起こすことがないキャパシティ。お子様でも安心。 店内待ち席は11もあり、店の外の行列が短いので油断して並んでみたら案外待つ事になる。
大ラーメン ヤサイニンニク 750円
二郎の場合、麺切れで予想よりも早く閉店することはざらにある。しかしその前段階として、仕込んでおいた豚(いわゆるチャーシュー)が切れる事もあり、営業はしていても「豚が多く入っているラーメン」は売り切れ表示になっている場合があるので注意。 この日はまさにそれ。豚、豚Wの食券が売り切れていたので普通の「大ラーメン」。
【04軒目】ラーメン二郎武蔵小杉店(神奈川県川崎市中原区上丸子山王町) 2010年0月07日
二郎遍路の際には極力歩くようにしている。
この日は自由が丘から等々力、田園調布経由で二郎武蔵小杉店へ。 「二郎」という看板がなければ近所に住んでいてもなかなかお店に入ろうと思わない、そんな風体のお店。
店頭に、アサヒビールの看板。ちゃんとラーメン二郎、と書かれている。誰か酔っ払いに蹴られたのか、盤面が割れているけど。
確かにこの店、ビールの取り扱いがあった。しかし、二郎でそれほどビールが売れるとも思えず、なぜわざわざアサヒビールは看板を進呈したのか謎だ。販路をわずかでも拡大したかった現地営業マンの努力だろうか。
豚入り ヤサイニンニク 750円
このお店は「ラーメン大」を頼むと、「ラーメン小」と比べてリアルに量が倍増するといううわさがあったので小にとどめる。 小、というと「ミニ」なイメージがあるがとんでもない。小でもスープが丼から決壊しまくっているんですけどー。
【05軒目】ラーメン二郎京急川崎店(神奈川県川崎市川崎区本町) 2010年07月07日
武蔵小杉からさらに歩いて川崎へ。一日二店舗。
京急の踏切すぐ脇にたたずむお店。
小ラーメン ヤサイニンニク 700円
二軒目だったので小に抑制。豚は既に売り切れ。ただ、豚入りと明示されたラーメンを頼まなくても、写真のような豚の塊はもともと入っている。 以前、「美貌の盛り」でも紹介した店。当時は「男盛り」という超絶トッピングコールが通ったのだが、今ではやめてしまったらしい。度胸試しで頼む身の程知らずが多かったのだろう。
でも、マシマシコールはいまだ通用する。 二郎といえば、「ヤサイニンニクマシマシ」のようなトッピングコールが有名。ボリューム序列としては、
コール無し<ヤサイやニンニクなどの名前を告げる≦マシ<マシマシ
というのが一般的だが、実はマシマシそのものを受け付けている店はごくわずか。 せっかく覚えた呪文だから、とはじめての店で得意満面に「マシマシ!」と叫ぶと、店内にいる常連から冷笑され、店主からは「ああ、この人一見だ」と見破られ、むしろ量を減らされるという仕打ちにあうので注意。なんて排他的な店なんだ、とこの文章を読んで思った方。そうです、二郎とはそういう排他的な世界。
【06軒目】ラーメン二郎八王子野猿街道店2(東京都八王子市堀之内) 2010年07月09日
熱烈なファンを擁する「八王子野猿街道店2」。近くに帝京大学や中央大学といったキャンパスが多数あるので、学生も多い。
「2」を名乗っているのは、以前は別のところにあったのだがこの地に移転したため。よって「1」という店は現在存在しない。昔の店舗は車でないとたどり着くのが難しい場所だったため路駐が横行。移転したのはその路駐対策という面もあるだろう。
巨大な二郎看板。
ただし明かりが消えており、あまり意味をなしていない。ちなみにこのお店は夜のみの営業。 台風になったら倒れてしまいそうな危うさを感じるが、「二郎の看板になら下敷きにされて命を失っても良い」と考えている人は確実にいると思う。
店頭。行列を仕切るためのカラーコーンとトラ柄のバーが迷路を形作っている。
移転後もやや駅から離れた場所であり、場所柄グループで訪れている人が多い。グループが列に並ぶと、人間の性なのかほぼ確実に列が膨らみ、ぐちゃぐちゃになる。それを予防する作戦。あと、割り込み防止の観点もあるようだ。 店の中に10席も待ち席がある。店内に入ったからといって油断禁物。
店頭に学習塾よろしくホワイトボード。定休日や営業時間、その他初心者への指導などいろいろな情報が掲載されている。待っている間に読む事ができるし、店側は状況に応じてホワイトボード情報を修正可能。これは便利。
大ラーメン ヤサイニンニク 800円
豚入りはすべて売り切れだったので、ノーマルの大ラーメン。 ヤサイの量がとても多い。この店はマシマシが通用するので、マシマシを頼んでいた人はさらに壮観な事になっていた。 豚はヤサイに立てかけられていたので、ヤサイをたべているうちにぺたん、とカウンターに落ちた。ああ。 夏限定の「波乗り」(塩つけめん)を頼んでいる人多し。この店は独創性のあるメニューをときどき投入する。こういう自由度の高さが二郎各店舗のおもしろさだ。本店の模倣ではない、オリジナル性。
(つづく)
(2010.10.01)
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