静岡を代表する銘菓といえば、何といっても「うなぎパイ」は外せないだろう。そのサクサクした食感がたまらん、というのが日本全国一致した意見で異存がある人は少ないはず。浜松をはじめとする静岡県がうなぎの産地として名高いのは、「うなぎパイ」という銘菓が存在するからだ、と逆説的なことも言える。本当はうなぎが有名だからこそのうなぎパイなんだけど、この際逆もまた可。
ちなみにうなぎ生産量日本一は鹿児島県で、二位が愛知県。静岡県は宮崎県よりも下の四位という位置づけだ(2013年、農林水産省調べ)。
で、このうなぎパイを不動の銘菓にしたのは、「夜のお菓子」という怪しいキャッチコピーがついていることも大きい。うなぎ、というヌメヌメしてにょろりと細長い形状も相まって、精力剤的な期待感がこのお菓子に寄せられているのは事実だ。もちろん、ウナギの風味なんて無いに等しいこのうなぎパイ。100枚食べたって、男性諸君のウナギが元気旺盛になったりはしない。それよりも、血糖値が上がりすぎて、糖尿病からくるインポテンツを気にした方がいいくらいだ。
そうだとわかっていても、「夜のお菓子」という言葉は一人歩きし、この銘菓が贈答されるたびに「夜のお菓子、なんだよね?」と贈る側受け取る側共にニヤニヤする、という定番ムーブメントが日々展開されているのだった。
そんなうなぎパイだが、浜名湖の近くに工場併設の「うなぎパイファクトリー」がある。工場見学と喫茶、そしてお土産が買える施設だ。これができて早10年、これまでの10年のご愛顧に感謝を込めて・・・ってことで、東京は神宮前にUNAGI PIE CAFEなるものを期間限定で作っちゃった。なんだそれ。うなぎパイのアンテナショップか?面白そうなので、行ってみることにした。
場所は、「BAKERYCAFE426 表参道」という。それが訪れてみると、巨大うなぎパイがお出迎え。外壁には、「UNAGI PIE CAFE TOKYO」の店名も掲げられている。すげー、本当にうなぎパイのお店を作っちゃったんだ。このすぐ近くに避妊具専門店「コンドマニア」があるから・・・いや、なんでもないです。
ベーカリーカフェ426を丸ごと乗っ取っての営業なのだから、すごいことだ。ひょっとしたら、こういう企業タイアップを受け付けているお店なのかもしれない。企業からの依頼があれば、一定期間だけはその企業の商品/サービスを全面に出したお店に鞍替えする、という。ほら、いつぞや、銀座に「ぺんてる らくがきcafe」ってのが期間限定で存在したけど、あれと同じ理屈。
あれえ?なんだこれ。店頭のメニューボードを見て見たら、目玉焼きが載ったトーストの写真。何がしたいんだろう、このお店は。とりあえずまあいいや、雨が降ってるし、お店の中に入ってから考えよう。
お店の一階は、完全にうなぎパイのお土産屋と化していた。定番のうなぎパイだけでなく、愛知・静岡県でしか手に入らないという「うなぎパイVSOP」なども売っている。うなぎパイはもともとそのフランクそうな見てくれとは裏腹に、結構お値段が高いお菓子だ。買うかどうかはちょっと後回しにしよう。とりあえず、二階のカフェに向かってお茶しばかせてくれや。
二階のカフェスペースは、天井部分がガラス張りになっていて解放感、明るさが素晴らしい。席の間隔も適切で、隣の会話が筒抜けで気になってしょうがない、ということもない。彼女彼氏と修羅場の会話をするときは、ぜひここでうなぎパイを食べつつどうぞ。
僕の場合、うなぎパイといえば新幹線というイメージが付きまとう。どうしても、愛知静岡というのは「帰省の際などに新幹線で通過する場所」だからだ。だから、新幹線でおなじみの青いシートでないと、なんだかソワソワする。
うなぎパイを使ったスイーツメニューが、数は少ないながらもいくつかある。もちろん、このカフェでないと食べられないものなので、今回は是非それをお召し上がりたいところだ。
ドリンクとセットになっている「うなぎパイ&デザートドリンク」が700円~800円とお手頃。「うなぎパイナッツ入り&オレンジショコラ」とかいって、シャンパンでも入れるかのような細長いおしゃれグラスの中に、三層からなるふしぎなドリンクが注がれている。「家族で、旅行土産のうなぎパイをコタツでバリバリ食べる」という世界とは全く違う。
んー、これも悪くないんだけど、食べ物としてはおなじみの、普通のうなぎパイなんだよね。せっかくだから、うなぎパイをこねくり回したオリジナルスイーツを食べてみたいところ。
メニューを裏返してみたら、裏にもメニューが続いていた。あ、こっちにドリンクメニューがあるんだ。飲み物がなかったら困るなあ、と表メニューだけ見て途方にくれていたんだが。
こちらには、店頭にあった「トーストに目玉焼き」のメニューが掲載されていた。よく読んでみると、うなぎパイで使用している小麦粉を使ってトーストを焼いているぜ!ということと、添えられているサラダにはうなぎパイを砕いて上から降りかけて食べるとうまいぜ!ということらしい。なるほど、そういうことか。面白いと思うが、さすがにトーストを食べるほどの時間帯ではなかったので、パス。
店内には、「うなぎパイは1枚1枚、職人が手作りしています」という大きなパネルが貼ってあった。
そのパネルの中には、「夜のお菓子」と呼ばれるようになった由来も書かれてあった。そうそう、これが知りたかったんだよ。
それによると、「一家団欒のひとときをうなぎパイで過ごして欲しい」という願いからつけたキャッチフレーズだ、と書いてあった。要するに、夕食後のデザートだとかお夜食に食べてくれ、ということだったらしい。3時のおやつだったら、お父さんはまだ仕事から帰ってきていないから、ということなんだろうな。
狙ったのか狙ってないのかわからないけど、結果的にこのキャッチコピーこそがうなぎパイの大躍進につながったのだから、広告宣伝ってのは本当に大事だ。
頼んだのは、「うなぎパイと夜を超えてスフレグラス」と「お茶スカッシュ」。やっぱり、うなぎパイを語る上で「夜」というキーワードは外せない。だから、「夜」が料理名につけられているものを敢えて選んでみた。
静岡ということで、お茶を頼んでみたのだけどこれが正解。グラスに入った炭酸水と、薫り高い抹茶?、そしてシロップが別々に出てきた。炭酸水に、少しずつ抹茶を注ぎ、好みにあわせてシロップを入れる。そうすると、お茶の苦みとほのかな甘みがしっかりと立つ、美味しいお茶清涼飲料水の出来上がりだ。お茶は、途中で濃度を調整して、後半は濃いめで飲んでみたけどこれもまたよし。
笑っちゃうよな、自宅では絶対にうなぎパイをこんな食べ方にはしない。お店ならでは、だ。というか、「UNAGI PIE CAFE」でもない限り、こんな料理は作らないよ。スフレグラスの上に、うなぎパイが堂々と墓標のように突き刺さっている。豪快すぎる。野蛮と綺麗のごちゃまぜ。
スフレグラス、とはいうものの、実質カチカチのアイスクリームだった。ふわふわ感は皆無。スプーンで食べようとしても、えぐることができず、上滑りして下の皿に何度もカツーン!と大きな音を立ててぶつかった。結局、フォークとスプーンを使って、両手でこのスフレグラスを分解しながら食べることになった。
うなぎパイとの相性?・・・いや、それは言いっこなしで。
やっぱりうなぎパイは家で食べるのが一番うまいのではないか、という結論に達したので、帰り際に1階のお店でうなぎパイを買って帰った。
愛知・静岡限定販売だといううなぎパイVSOPを買い、10袋入りのうなぎパイミニも買った。うなぎパイは相当お高いので、いずれも小さなものばっかりの購入だ。さすがに大きな箱を買うほど僕には財力はない。
さて、あらためて家でこのうなぎパイを楽しもう。牛乳でも脇に添えておこうかな。
(2015.04.13)
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