明月庵 田中屋(01)

2000年03月05日
【店舗数:035】【そば食:066】
東京都練馬区豊玉

伊勢穴子の八幡巻、生湯葉、御膳せいろ、熱燗

甲子で深く、静かにリラクゼーション。
その後、まっすぐ帰宅すれば「ああ今日は心地よい一日を過ごすことができたな。楽しかった」で終わり。当然、そうすべきだ。

ん?ちょっと待てよ、「終わり」?もうこれで今日一日が終わってしまうのか?

確かに、ちょっとお酒が入っているし、家に帰るとお昼寝したい気分。でも、それをしてしまうと本当に一日が終わってしまう。それはあまりに悲しい。それはあまりに残念だ。

・・・だからって、何でもう一軒そば屋に行くかなあ?・・・

江古田の甲子からさほど遠くないところに、「名月庵田中屋」というそばの名店があるという。ならば、行くしかあるまいと酔っぱらった頭の中で冷静(なつもりで)判断を下し、いざ突撃。

到着してみて驚いた。名店もなにも、アンタここって環状7号線の街道筋じゃございませんか。環7といえば、一時「ラーメン激戦区」と言われたほどのラーメン密集ゾーン。まさかこんなところに「蕎麦の名店」があるなんて。

いや、この時点ですでに「蕎麦の名店」という肩書きについては相当胡散臭いまなざしを向けている自分がいた。何しろ、店の前には広大な駐車場。10台以上車が駐車できるようになっている。ドライブインか、ここは。しかも、街道筋には大きな店の看板がでている。うどんチェーン店の「味の民芸」みたいだ。

田中屋外観

しかも、店の作りが怪しい。ビルの1階に店舗があるのだが、1階部分だけ木造っぽい造りになっていて、2階以上はどこかのウィークリーマンションみたいな造りだ。この1階と2階のギャップがあまりに奇妙で、わざとらしく、入る前から不安になってしまう。

また、しばらく外から建物を見ていると2階が1階を押しつぶしそうな感じを受ける。蕎麦を食べている最中に天井がどんどんずり落ちてきたらどうしよう。「ずずずっ」という音は蕎麦をすすっている音かと思ったら、実は天井が落ちてくる音だったりして。・・・なんて妄想たくましくしてしまう。

昔、ガイジンさんが蕎麦をすすっている日本人の音を聞いて「天井が落ちてくる!」とびっくりしたっていう話を聞いたことがある。これは笑い話なんだけど、本当にそば屋の天井が落ちてきたとしたら笑うに笑えない。

とまあ、店の外観で相当楽しませてもらった。名店かどうかはよく分からないけど、そば屋の外観でここまで楽しませてもらったのも久しぶりだ。これで蕎麦がウマけりゃラッキーだし、マズかったらマズいで「やっぱりあの外観じゃあねぇ」って事になるし。どっちに転んでも、まあネタとして許せる状態。

さて、入店してみよう。

店内は予想以上に広かった。入ってみて「あれれ、案外広々してるな」と感じたのは、「かんだやぶそば」以来だ。

通された席に座ると、おしぼりが出てきた。ここでさりげなくびっくり。ええと。過去30店舗以上そば屋には行って来たけど、おしぼりが出てきたお店ってあったっけ?無かったような気がする。味付けノリみたいに袋を破って取り出す、最近多い紙製のおしぼりは何軒かあったような気がするが、この店の場合はタオルのやつだ。すごい。さすが名店だ。

・・・待て。おしぼりで名店か否かを判断してはいかん。落ち着け!落ち着け!どう!どう!

注文は、しばらく悩んだ結果、名前からどんな料理か類推できなかった「伊勢穴子の八幡巻」と、つまみの王様だとおかでんが信じて疑わない「生湯葉」で勝負。おっと、忘れちゃいけない、燗酒も頼んでおかなくちゃ。

さて、注文も済ませた事だし、まずはゆっくりと周りを見渡して・・・

「お待たせしました、穴子の八幡巻です」

あれれっ、もう来た!早いよ!

まだ座席が暖まりきっていない状態だというのに、注文の品が到着。目を白黒させているうちに湯葉、お酒まで出てきてしまった。わわ、もう全部そろっちゃったよ。

生湯葉刺身、伊勢穴子

こっちが頭で思い描いていたのは、「お酒をちびりちびり飲んでいるうちに料理が一品出てくる。その料理をつつきつまたちびりちびり飲んでいたら、しばらくしてもう一品の料理がでてくる」というスローな時間の流れだった。しかし、ここは定食屋かファストフードの店か、というくらいのスピードで出てきたのだからたまげた。

そういえば、先ほど厨房の中をのぞいてみたら、調理人さんがいっぱい厨房の中にいたっけ。個人経営でご主人一人でやっているような店とは時間の流れが違うのだな。

さすがだ。それくらいキビキビ動くからこそ、環7沿いという過酷な環境でそば屋をやっていけるのだろう。何となく納得。

しっかし・・・それはともかく、だな。

なんか大袈裟なんだよな、何がだろう?・・・えっと、大袈裟、というか落ち着かない、というか。

ああ、わかった。お皿だ。何か、小料理屋っぽいんだよな。そば屋にしてはお皿が主張しすぎている。大体、箸置きからして気合いが入りまくり。その気合いに圧倒されてしまい、こっちはおそるおそる箸を取り出す始末。

机の片隅に、お皿の解説がされた紙が置いてあった。いわく、「当店ではマイセンの皿を使っています」だと。ま、マイセンっすか。そりゃあ肩に力が入りますわな。

皿に料理が負けちゃあ話にならないわけだが、これがおいしいおいしい。湯葉もきっちりとおいしいやつで、ついついニコニコしてしまう。おいしい湯葉は、口の中に含んだ後しばらく無言になる。口、鼻に抜ける風味を楽しむために。

食べた後、思わず「湯葉様!」と快哉を叫んでしまった。決して、「風の谷のナウシカ」を意識したわけではない。

伊勢穴子の八幡巻という謎の料理は、穴子を蒸し焼きにしてたれをつけたもので、ゴボウをくるんだものだった。ゴボウのシャッキリ感と、外の穴子のほっくり感が相まってまたまた酒が進む進む。

いかん、さっき甲子でお酒を飲んだじゃあないか。もういい加減にやめとけ。

しかし、ふと思ったのだが、この料理の器ってマイセンじゃないぞ。マイセンって陶磁器じゃなかったっけ。ま、いっか。

さて。

そば屋に来て蕎麦を食べなくちゃ始まらない。

いくら酒肴が旨くても、肝心の蕎麦がまずかったら「名店」の誉れは与えられないと言っていいだろう。さて、御前せいろを頼んでみるかね。

せいろを注文したら、しばらくするとなにやらいろいろと僕の机に並べ始めた。

蕎麦徳利と猪口はともかくとして、わさび、大根おろし、薬味の「せいろのお友達3兄弟」がそろい踏み。それにしても大袈裟だ、わざわざ桶みたいな入れ物に盛りつけられているではないか。しかも、わさびは「自分ですり下ろしてください」とおろし金とわさび1本付きときたもんだ。いやー、大袈裟なのはいいんですけどね、僕は薬味ってあんまり使わないんですよねえ・・・。これいらないから100円値下げして、とかいうのはケチな発想ですかねぇ?

せいろ

御前せいろがやってきた。せいろが大きい。一辺20センチ近くはあろうか。しかし、せいろを大きくしたせいで、そばの盛りつけが大変になっていた。ほら、よくあるじゃないですか、ハゲのオッチャンが一生懸命地肌を隠そうとしているやつ。それと一緒で、せいろの上にうすーく蕎麦を敷き詰めているありさま。しかし、やっぱり隠しきることができず、所々下のせいろが見え隠れしているのが薄ら寂しい。それだったら最初から小さめのせいろにすればいいのに。

麺は、やや黄色がかっていてあんまりおいしそうにはみえない・・・ずずずっ・・・あれ、おいしいや。コシがしっかりしていて、咬んでみると風味がしっかりとしていて、香りも強くはないけどゆるやかに・・・ずずずっ・・・あっ。

蕎麦、食べきってしまいました。ショボーン

箸で、せいろの上にある蕎麦をかき集めつつ食べてみたらせいぜい3口、4口程度だった。しまった、ペース配分をミスった。これは、1本2本の蕎麦をしみじみと味わう、という食べ方でないといけなかったらしい。

愕然としつつ、かといってお代わりをするほどの気力と胃袋の空き容量もなく、仕方が無くそば湯を痛飲して席を立った。

お会計時、酔った勢いで「お持ち帰り生そば」を購入しちまった。

結局、このお店は名店だったのか、そうでなかったのか?

うーんとね、恐らくいいお店なんだと思うよ。・・・としか言えないよ、これだと。