安曇野 翁(01)

2000年11月03日
【店舗数:057】【そば食:127】
長野県北安曇郡池田町

もりそば、大雪渓

新宿駅で、「キムチそば」なる強烈なお仕置きをくらったわけだが、特急スーパーあずさが松本に到着する頃には胃袋もこなれてきた。のど元過ぎれば満腹忘れる。って格言を今思いついた。どうだ。熱さを忘れるんじゃなくて、おなかいっぱいであることを忘れる。

「おじいちゃん、さっきご飯食べたばっかりでしょォ?もぅ、ボケちゃって」

・・・やめよう、あまり印象のよくない格言だ。取り消し。

松本駅で、アワレみ隊メンバーが集結した。今回の旅は、初日に安曇野の蕎麦屋、二日目に戸隠の蕎麦屋を行脚する予定になっている。なぜ「安曇野」をターゲットにしたのかというと、たまたまおかでんが目にしたサイト「KOKOTON WONDER FAMIRY」がとても魅力的だったからだ。

このサイトには安曇野の蕎麦屋ガイドマップ的なコーナーがあって、多数の蕎麦屋が紹介されている。よくもまあこれだけ食べ歩いたものだ、と尊敬してしまうが、それ以上に驚いたのは安曇野の蕎麦屋の数だ。あの辺りは、あまり住民の数が多くないはずであり、その割には店の数が多すぎる。

「大王わさび園があるのは知ってたけど、蕎麦の栽培もやってたのか」

あらためて自分の無知を知る。これだけ蕎麦屋があるということは、当然お店同士で熾烈な技術競争が行われているはずであり、まずかろうはずがない。そんなわけで、安曇野の蕎麦屋に興味を持ったわけだ。

最初の一発目をどこにするか、上記サイトでさんざん調べた挙げ句、「翁」と記されたお店を選択した。このサイトは、蕎麦屋を紹介する際に「地元系」「有名観光系」「こだわり系」と3種類に分類しているのだが、やはりここは「こだわり系」のお店を選びたい。そうすると、安曇野の蕎麦屋の中でも数が少なく、必然的にこのお店が選ばれたわけだ。

安曇野翁

カーナビでも住所がいまいち特定できなかったのだが、「池田美術館の横」というキーワードをもとに車を走らせた。案内の看板に従って車をぐいんと山に向ける。開放的な丘を駆け上がり、池田美術館を横目に進んでいくと・・・あった。丘の開けた部分の端に、端正なたたずまいでそのお店は存在した。きりっと引き締まった感じで、男前な印象を受ける店構えだ。

「まるで・・・山梨のみたいだな」

誰かが指摘する。確かに、ちょっと辺鄙なところにあるという立地条件、建物の色気が似ている。おっと、そういえばこのお店の名前自体が翁だったっけ。

看板によると、正式名称は「安曇野翁」と呼ぶことがわかった。おや、ということは「安曇野」ではない「翁」があるということか。やはり山梨の翁と関係があるのだろうか?

店頭で記念撮影

店の入り口で記念撮影。店内は禁煙になっているので、たばこを吸いたい人はここで肺いっぱいに紫煙をため込まなくてはならない。

安曇野を見下ろす絶景

客席数が少ないため、少し玄関先で待つことになった。ほどなくして客席に通されて、一同思わず「わぁ」と声をあげてしまった。

大胆に大きく切り取られた窓からは、安曇野の平野が一面に広がって見えた。そして、真正面には北アルプスの山々が。上の方は雲っていて見えなかったが、晴れている時はどかーんと常念岳がそびえているのだろう。

なんたる絶景。

そして、その絶景を余すところ無く伝えようと言うこの店の作りも素晴らしい。窓ガラスがでかいでかい。ただ、冬になると相当冷気が外から侵入してきそうな予感がする。考えただけで寒そうだ。

お品書き

お品書き。これを見た瞬間、推測から確信に変わった。

「こりゃ間違いなく山梨の翁と関係があるわ」

シンプルなメニュー構成は、まさに高橋名人ゆずりだ。きっと、お弟子さんが許されてのれん分けしてもらったお店に間違いない。

ただ、師匠のもとを離れてちょっと色気が出てしまったのか、本店にはない「おろしそば」と「鴨せいろ」がお品書きに加えられていた。そば一本で勝負、というわけにはいかなかったか。

このあたり、どうして本店の流儀をあえて踏襲しなかったのか、非常に興味深い。鴨せいろなんて、わざわざ鴨を仕入れてこないといけないわけで、面倒だ。ただ、客単価が上がるのは事実で、ちょっと外れの地にある蕎麦屋からすれば、こういう売上向上策は必要なのかも知れない。そうではないのかもしれない。単にご主人が鴨が好きなのかもしれない。

飲み物は、ビールが2種類、清酒が6種類用意されていた。清酒の銘柄は「大雪渓」「四季桜」「豊の秋」「岩の井」「菊姫」。結構メジャーどころのお酒を押さえている。店構えとか立地条件からして、もっとマニアックな拘りを見せるかと思ったが、意外だった。とりあえず、この後まだ何軒か蕎麦屋さんを巡る予定になっているので、一軒目から突っ走るわけにはいかない。ここはぐっとこらえておかなければ。

いかにも翁、な酒器

これは、何ですか?

中学校一年生の英語授業でまっさきに習うような言葉でツッコミを入れてやる。

いや、ぐっと堪えましたよ、ええ。これはもう、胸を張って答えられます。大雪渓、上撰。600円。

ぐっとこらえたのは「値段の安い銘柄をセレクト」したことであって、全然ダメじゃん。お酒こらえてないじゃん。

まあ、それはともかくとして、山梨翁でおなじみのフラスコ型徳利にお酒が入って出てきた。とても涼しげで良い。無機質だ、という人も居るかも知れないが、こういうデザインは小しゃれていてすてきだと思う。

・・・いや、アンタがすてきだと思ってるのは、その中に透けて見える透明の液体では?

いや、まったくごもっともで。

酒を飲むおかでん

というわけで、同行したアワレみ隊メンバーが「よーやるよ」という顔をしている中、ちびりと頂く。うむ、おいしい。

酒肴として蕎麦味噌がついてきたが、それよりも何よりも、目の前に展開されている絶景こそが格好の肴になる。

面白いのは、「いやあ、いい酒のつまみだなあハハハ」と言いながらくいくいとお酒をあおる、という形にはならなかったことだ。人間、絶景を前にしてしまうと、お酒の量は少なくてもいいらしい。感動とは、脳内においてアルコールを摂取した際に感じる幸せ感よりも勝るということだろう。

みるからに旨そうな蕎麦

のんびりとお酒を楽しんでいたら、お蕎麦が到着してしまった。こりゃいかん、とあわててお酒を飲み干す。

出てきたお盆を見て一同、また笑う。まんま翁じゃん。

そして、蕎麦の見た目も、非常に美味そうだ。「見た目で美味そうだと分かる蕎麦」というのも、本店譲りだ。

一心不乱に蕎麦を食べる

さっきまで外の風景に体を向けていた連中が、一斉に窓に背を向け、一心不乱にずるずるやり始めた。

おっと、呑気に他人が食べているのを写真撮影している場合ではない。あわてて自分も、ずぞぞぞぞと盛大にすすりあげた。

あっ、こりゃ美味いわ。

何ていうかなあ、高校球児が金属バットで豪快なヒットを打った時の音、というかね、そんな感じ。カキーン、って美味いんだわ。今年に入ってあれこれお蕎麦を頂いてきたけど、そのほとんどは「麺としておいしい」ものだった。しかし、ここの蕎麦は確実に「蕎麦としておいしい」と断言できる。今だから言える、お前が好きだー。

さすがにここで絶叫しても、山びこで北アルプスから反射してくるとは思えないが、とりあえず叫びたい気持ち。いや、違うな、鼻息を荒くしたい気持ち。ふがふがやると、蕎麦の香りがすーっと鼻腔を流れていく。鼻毛がやさしくたなびく感じ。

「翁という名前を冠しているだけあって、美味いよなあ」
「どうしてこんなに美味くできるんだ?いや、逆に、どうして他の店はイマイチなんだ?」

食後、あれこれ議論が始まってしまうくらい、なかなか衝撃的な一枚だった。そば湯を残さずおいしく頂き、店を後にしたが、余韻はしばらく引きずった。

いや、安曇野蕎麦行脚、一軒目にして結構強烈なお店と出会ってしまった。これは今後「ますます楽しみ」なのか、一軒目のインパクトで二軒目以降が霞んでしまうのか、楽しみになってきたぞ。