そば屋 志な乃(01)

2003年08月29日
【店舗数:147】【そば食:261】
長野県北佐久郡軽井沢町

相盛りそば

志な乃

かぎもとやそば店が予想以上においしかったため、体内に埋め込まれた「蕎麦エンジン」が が然、高回転高出力型でパワーを発揮しだした。

こ、これはもう一軒蕎麦屋に行って、燃料を補給しなければ。

喘ぎながら、かぎもとやの駐車場でグルメガイドブックを調査。常にわれわれは、「長野味本」という長野限定のグルメ本と、金子万平氏著の長野の蕎麦の本を参照していたのだが、今回しぶちょおは新手の信州そばの本を用意してきていた。

「長野味本」以下に紹介されている店で、「これは!」と目を引くお店はある程度訪れていたので、ニューカマーの本を参照してみることにする。

できるだけ近場がいいなあ、早いところ買い出ししてキャンプ場に向かわなければいけないもんなあ・・・と中軽井沢周辺の蕎麦屋を探索していたら。

あった。「十割さらしな蕎麦 志な乃」。ええと・・・あれ?上田の「おお西」で修行を積んできた人が開店したお店、だって?そ、それはいかん、ぜひここを訪れなければ。

以前、「アワレみ隊信州新蕎麦ツアー3:めぐりあい蕎麦」を開催した時は上田-軽井沢の蕎麦屋巡りをしたのだが、その中で一番の評価をわれわれがしたのが上田の「おお西」だった。逆に、下から数えた方が早いくらいの評価しか得られなかったのが、「かぎもとや」だったりする。 その「かぎもとや」が今回あれだけ奮闘したのだ、「おお西」に起源がある蕎麦屋ならばよりおいしいに違ぇねぇだ。早速、行ってみることにした。

グルメロード

店の外観は小きれいで、外観からして「あ、これは悪くない蕎麦屋だ」という事がわかる。美味い蕎麦屋は店構えからしてオーラが違う。

しかし・・・駐車場に入ろうとしたところで、変な看板を発見した。
ええと、何ですか、これは。「グルメロード」?
一気に、オーラが発散してしまった。不安になってきたぞ、おい。どこかのスーパーのフードコートじゃないんだから。
さっきまで、目の前には青々として瑞々しい蕎麦が頭の中でいっぱいだったのだが、この「グルメロード」の字を見た瞬間に「プラスチックのせいろ、どす黒い蕎麦、コシがないし味も香りもないへろへろの麺」を想像してしまった。

「A棟」から「C棟」まで

看板には、「A棟」から「C棟」までそれぞれの「グルメなお店」が紹介されていた。「棟」なんて大げさな事を言っているが、それぞれのお店ごとで1棟になっていて、ここには3店舗あるということになる。一つの建物に複数のお店が入っているということではない。

これから目指す蕎麦屋の「志な乃」はA棟で、その他のお店は創作料理のお店と居酒屋のようなお店だった。

気になるのは、「企画 三洋電機(株)」と書いてある事で、一体何で電機屋がこんなフードコートみたいなのを作ったのか、謎だ。幹線沿いの立地条件とはいえ、ドライブインのように広い駐車場が用意されているわけでもない。空いた土地の有効活用、なのだろうか。

本日のおすすめ

店の入口には、黒板が立てかけてあって「本日のおすすめ」が書かれていた。蕎麦屋でこういうメニュー紹介というのは、ありそうで案外無いものだ。けっこう頻繁におすすめが変わっているということなのだろうか。

ちなみにこの日は、石臼挽きそばと新じゃがの天ぷらがおすすめに指定されていた。

石臼挽きそば!美味そうじゃないですか。しかも、「7月に採れた新そば」と注釈がつけられている。この時期に新蕎麦を頂けるとは非常に結構なこってす。

また、新じゃがの天ぷらというのも非常に食欲をそそられる。蕎麦屋の範疇からちょっと逸脱している気もするが、うまけりゃそれでいい。

しかし、惜しむらくは、今日はおかでんは車を運転しているので、お酒が飲めないということ。お酒が飲めないので、酒の肴になるものもあまり食べる気が起きない・・・。ああ、やっぱ蕎麦屋巡りをするときは、誰か他人に運転を任せておかなくては、と嘆くことしきり。

プチトマト

ぎゃあ。

席について、しばらく物珍しげに店内をきょろきょろしていたおかでんがあるモノを発見して悲鳴を上げた。

同行していたしぶちょおが「何だ?」と怪訝そうな顔をして、おかでんが凝視している方向に目線をやる・・・

「生ビール大大ジョッキ 800円」

何なんだ、この「大大ジョッキ」というのはっ。大ジョッキでは飽きたらず、大大ジョッキを用意してあるというのかっ。一体どんなビールなんだ、とりあえず飲ませろっ。

とまあ、興奮のあまり語尾が全て「っ」で終わってしまうようなありさまになったおかでんであったが、しぶちょおが一言

「でも車あるもんな、今日は」

とのたまったので、一気にがっくりきてしまった。そうなんだよな、ビールなんて飲めるわけがないんだよな。でも飲んでみたかったなぁ・・・大大ジョッキ。大ジョッキだったら十分我慢できるんだけど、「大大」って言われちゃうとなあ。

このお店は、さすが「おお西」の流れを汲んでいるだけあって、一番粉そばから三番粉そばまで、そば粉の種類によって異なる蕎麦を注文する事ができる。一番粉が通称「さらしなそば」と呼ばれるものだ。

面白いモノで、粉によって蕎麦の値段も違ってきている。一番粉さらしな蕎麦が1000円、二番粉志な乃蕎麦が900円、三番粉田舎蕎麦が800円。百円刻みで安くなっている。いずれも値段はちょっと高めの設定になっているが、特に驚きなのが「大盛りは700円増し」だということだ。おかでん馴染みの「さらし奈乃里」は大盛り100円増しだぞ?えっらく高い。恐らく、「大盛り」というよりも「おかわり」に近い量なのだろう。

全体的に物価が高いお店なのかと思ったが、つまみ類は500円前後であり決してそういうわけではない。単にいい蕎麦粉を使っているので、高くついてしまったということなのだろう。ますます期待がもてる。

しぶちょおが、早い者勝ちで石臼挽きそばを選んでしまったので、おかでんとしては同じモノを頼むわけにいかず、一番粉蕎麦と二番粉蕎麦の相盛りそばを注文した。やはり、店名にも「さらしな蕎麦」を謳っている以上、さらしな蕎麦を食べておかないわけにはいかないだろう。

お店の人に注文をした後、しばらくしたら突きだしが出てきた。

あれ?プチトマトだ。

珍しい。というか、蕎麦屋っぽくない。お酒を飲むわけでもないのに突きだしが出る文化は、信濃地方北部独特のものだと思われるけど、大抵は野沢菜に代表される漬け物だ。まさかトマトが出てくるとは思わなかった。蕎麦屋に似つかわしくない、真っ赤な色が「驚きました?」とこちらの顔色を伺っている。

ありがたく頂戴したが、一人一個というのはどうも口寂しいものだ。漬け物だったら、蕎麦ができるまでの間しばらくはぽりぽりとやってられるので、時間つぶしになる。しかし、プチトマトだったらぽいと口に放りこんでおしまい。ええと、間が持たないんですけど。

間が持たないのであたりをきょろきょろしていると、またもや目に入ってくるのは「大大ジョッキ」の張り紙。ああ、新じゃがの天ぷらでぐびりとやったら・・・いかんいかん。余計な事を考えるな。今は蕎麦の事だけ考えていろ。

相盛り蕎麦

しばらくして、おかでんが注文していた相盛り蕎麦がやってきた。おっ、これは美味そうだぞ。写真写りはイマイチだが、実際は蕎麦の色あいを見ただけで「あっ、これはアタリだ。まずいワケがない」と確信できる蕎麦だ。

そわそわしながら一口、蕎麦だけすする。

がつーん。

うわー、これは凄い。蕎麦の香り、味ともに強烈。半端でなく美味い。蕎麦の指向性はかぎもとやと同様、やや泥臭い印象があるものだったが、それがまた旨さに拍車をかけている。今までは、ふじおかなどの洗練されたすがすがしい蕎麦の味が ベストと思っていたのだが、こんな蕎麦を食べてしまうと、認識を改めざるをえない。いや、それくらい美味いんですよ、これが。

久々に、蕎麦を食べながら「うひひひ」と口の脇から笑い声が出てしまった。

ちなみに、さらしな蕎麦の方はおかでん、経験値が低いので他と比べて美味い・まずいという判定はできない。しかし、密やかにして上品な甘みが口の中に広がって、これはこれで非常においしく頂きました。ただ、二番粉のインパクトに圧倒されてしまい、「ええいこんなさらしな蕎麦を食べるカネと胃袋があるんだったら、もっと二番粉蕎麦を!」と思ってしまった。さらしな蕎麦、受難。

石臼挽き蕎麦

相盛り蕎麦から遅れることしばし。しぶちょお注文の「本日のおすすめ」、石臼挽き蕎麦がやってきた。

ごとり、とテーブルに置かれた瞬間、二人とも「ああっ」と声をあげてしまった。しぶちょおは、両手を高々と掲げて力強いガッツポーズ。

先ほどの相盛りそばも、見た目だけで美味さは保証されるスバラシさだった。しかし、この石臼挽き蕎麦はそんなものの比じゃなかった。もう、完膚無きまでに美味いに違いない、 見ただけで断言できてしまうそんな蕎麦だったのだ。

新鮮で良いそば粉で打った蕎麦は緑がかった色をしているものだが、この蕎麦はその緑を通り越して青みがかったように見える。しぶちょお、ガッツポーズ。おかでん、ショボーン。急に自分の食べている蕎麦が物足りなくなってしまった。・・・何というぜいたく!

蕎麦をがっつくしぶちょお。彼も、やっぱり「うひひひひ」と気味の悪い笑い声をあげて、自分が今置かれている至福の瞬間を表現していた。おかでんもつまみ食いさせてもらったのだが、相盛りの二番粉蕎麦よりもさらに上を行く美味さでやんの。おい、一体蕎麦の美味さの限界ってどこにあるんだ?っていうくらいだ。

「いやぁ、この石臼挽きそば、問答無用で美味いんだけど・・・相盛りの蕎麦でも十分に美味いんだよな」

はっきり言って、相盛り蕎麦レベルの蕎麦が食べられれば、一週間は幸せでいられる。それよりも上の石臼挽き蕎麦が、なんだか禁断の味のような気がしてきて、逆に気が引ける。食べてはいけないものを食べてしまったような、そんな感じだ。

「これ・・・相当美味いよな。恐らく、今まで食べてきた蕎麦の中で、3本の指に入るぜ?」

これまでの蕎麦屋行脚の中で、最大級の評価をしているのは「ふじおか」「水車屋」「浅田」「誇宇耶」あたりだが、これらのお店と十分にタイマンを張ることができると思った。いや、この味が偶然の産物でなければ、恐らく過去食べてきた中では一番の蕎麦じゃないだろうか。

驚いた。おいしい蕎麦は軽井沢にあった。もちろん、単に経験値不足で、美味い蕎麦屋を他に知らないだけなのかもしれないが、とにかく美味い蕎麦であることには間違いがない。

「いやぁ、いい蕎麦屋に巡り会ったなあ」「まだまだ知らないお店がいっぱいあるよなあ」と、食後二人で陶然としながら語っていたら、隣の席にサークル合宿中とおぼしき学生たちがどやどやとやってきた。

「おい、本日のおすすめで石臼挽きそばってのがあったぞ。それにしたらどうだ?」
「えー?それっておいしいの?普通のとどう違うのォ?」
「でもよ、なんかうまそうじゃん、石臼挽きって響きがさ」
「腹減ったー。大盛りにしよっかなあマジで」

なんて会話がやりとりされていた。

さて、彼らはこの石臼挽きそばの美味さに気づくことができたのだろうか?ちょっとハラハラしながら、店を後にした。

この蕎麦屋は、また訪れないといけないだろうな。一回食べただけでおしまいにするには勿体なさ過ぎるお店だ。