木挽町 湯津上屋

2005年08月10日
【店舗数:195】【そば食:354】
東京都中央区銀座

かき揚げ、もりそば

最近は内勤が多く、お昼ご飯は社員食堂漬けだった。社員食堂では野菜小鉢を数品並べて、健康に留意した食事を心がけているのでこれはこれで多いに結構。しかし、刺激が時には欲しい。外食したいのぅ、と思う近況だった。そんな中、久々に外勤があったたので、ふと思い立ち蕎麦屋開拓をしてみることにした。

とはいっても、蕎麦屋に行こうと思い立ったのがその日の朝、外出先での事だったので何一つ準備をしていなかった。お店の候補も、住所も何もわからない。しょうがないので、何となく住所を覚えているけどまだ未訪問の、銀座一丁目にある「流石」という蕎麦屋を目指すことにした。

以前mapionで住所を調べたこともあり、「だいたいこの辺」というのは把握しているつもりだった。もともと、地理感はいい方だ。ぼんやりとした記憶でも何とかなるだろう。・・・しかし、あらら困ったな、お店が見つからない。「元祖鴨せいろのお店」を名乗るお蕎麦屋さんはあったが、非常に大衆的なお店っぽかったのでスルー。おや、スルーしすぎて新富町にまで来てしまった。いかん、行き過ぎた。折り返さないと。

意味深な路地裏

近道をしよう、と新富町からの折り返しに裏道を使ってみた。建物の隙間にある道だ。猫が昼寝していると非常に絵になる、そんな裏道。車の通過は無理だ。

その裏道を数歩歩いて、思わず立ちつくしてしまった。雑然とした、無防備な裏道の中程に、なにやらぴりりと空気が引き締まっている建物があったからだ。

・・・もともとは古い建物なのかもしれない。しかし、表面を新しい木で覆っていて、一軒だけ回りから浮き上がった印象を受ける。これは、何だ。

湯津上屋

いや、何だ、なんて表現は不要だ、軒先には明かりが灯され、なにやら白い暖簾がかかっている。おい、あれは蕎麦屋じゃないのか?

んな馬鹿な、こんな裏道に蕎麦屋ってあり得ないだろ?「通りすがりで蕎麦屋を発見しました」なんてシチュエーションはまずあり得ない、そんな裏道だぞ。

ドキドキしながら、一度店の前を通過してみる。白い暖簾には、小さく「湯津上屋」と書かれていた。店の名前だけでは、何屋だかさっぱりわからない。しかし、窓からちらりと店内が見え、そこには朱色のこね鉢が確認されたもんだからたまらない。おい、本当にここ、蕎麦屋じゃないか。ありえねー、絶対に、ありえなーい。

長野の山奥に蕎麦屋があって、「何でこんな辺鄙なところに蕎麦屋が?お客を試しているのか?オリエンテーリングか?」と思うことがあるが、これはその都会版だ。都会の片隅に、気づかれないようにこんなお店があったなんて。

いやぁ、もうこのお店を発見した時点で勝利を確信ですよホント。こんなところでお店を開いているって事は、店主やる気だぞこいつぁ。大衆向けの普通の蕎麦を出そうとしたら、もっと立地条件の良いところを探すもんだ。こんな裏道に店を出すからには、腕一つで客を集めようという覚悟があるんだろうし、自信もあるのだろう。蕎麦がまずかろうはずがない。・・・多分。ガーターがないボーリングをやるようなものだ。ハズレっこない。

小さなほこら

とはいってもこんな裏道にこんな蕎麦屋とは非常に怪しいので、何往復か店の前、周囲をウロウロしてみた。おや、この裏道が一般道(これも大して広くない、裏道の部類)に面しているところに、なにやら小さなほこらのようなものが置いてあるぞ。かがんでのぞき込んでみると、「手打ちそば 湯津上屋」と書かれていた。あ、とりあえず道路脇に看板を出すというコマーシャリズムはやるのね。とはいっても、なんて地味なんだ。これだと、間違えて蹴飛ばしてしまいそうだ。子供が悪戯して家に持ち帰ってしまいそうだ。PRしたいんだか、したくないんだかどっちなんだ一体。

おしぼりとお茶

店内に入る。外観どおり、店は狭い。店に入って正面に厨房があり、ラーメン屋のようにカウンター席が数席用意されていた。それと別に、テーブル席が少々。全部で15人も入れないようなお店だ。来店したのは12時40分だったが、客は自分一人だった。さすがにこの立地条件だと、お昼時でもお客さんは少ないだろうな・・・と思っていたら、後になって三々五々お客さんがやってきて、全てのテーブルと机がいっぱいになってしまった。このお店のキャパにぴったりな混みっぷりだった。

カウンター席に座ろうとするお客さんに対し、おかみさんが「カウンター席は暑いですがよろしいでしょうか?」と聞いていたのが微笑ましかった。なるほど、確かに大きなゆで釜があるし、揚げ油があるので熱いのだろう。でも、蕎麦職人のオペレーションをがぶりつきで見ることができるのだから、特等席とも言える。今度はあそこに座りたいぞ。

自分は、入口入ってすぐの二人がけの席に通された。ここは、蕎麦打ち用の小部屋があることもあって、向かいの壁まで2mちょっとしかない、こじんまりした空間となっていた。案外これが、心地良い。「甲子」「ぐらの」で感じた、高い天井をぽけーっと眺める開放感も捨てがたいが、この狭い感じも妙に落ち着いて良い。ああ、ここは昼酒をたしなむには良いお店ですよ。

お品書きは、ごわごわした和紙にしたためられた、手書きのものだった。料理はシンプルだったけど、必要十分な品そろえだった。温かいそば、冷たいそばそれぞれ6種類前後用意されていたと記憶している。あと、酒肴も7品くらいあったかな?お酒は、ビール、焼酎そば湯割り、清酒と用意されているようで、わざわざ注釈で「五合瓶もあります」としたためられていた。一合ずつなんて生っちょろいぜ、瓶ごと持ってきてくれ!という飲兵衛さん大歓迎のお店なのだろうか、ここは?

ちょっとうれしくもあったが、この狭いお店、お酒をぐいぐい飲んでお客さんが長居しちゃったら迷惑じゃないのかな、と気になる。むむ、ここはぜひ夜に訪れてこの目で確認しなくちゃ。いや、五合瓶は確認するつもりないですけど。

かき揚げ

お店に入る前から既に気持ちができあがっていたので、もりそば(700円)だけではなくてかき揚げ(500円)も注文してみた。まずは、かき揚げが到着。おや、このかき揚げはなにやら見栄えがとてもいいぞ。なんて言うか・・・ボインですな。いや、ボインというと下品なので、おっぱい。うーん、これもいまいち、ならば乳房とでも形容しようか。結局、表現を変えているだけで言わんとしていることは一緒だが。見てくれが似ているから、というだけではない。縁がふんわりとしていて、なんともやわらかそうな、やさしいラインが乳房を連想させたのだ。なんだか、和菓子を見ている気持ちだ。・・・なんだ、和菓子と形容できるんだったら、無理に乳房とかなんとか、エッチくさい形容しなくても良かったんじゃないのか。

この緑色の乳首部分(しつこく表現にはこだわる)、何だろうと思って真っ先に食べてみたらこれはゆずの皮だった。なるほど、ゆずの皮をこういう使い方にするか。かわいらしくて何だかうれしい。

かき揚げは、えびがいっぱい入っていて相当にハフハフで幸せな一品でござんした。ジューシーなえびなため、かぶりついたら中から熱い汁がほとばしって口の中がさあ大変。やけどに気をつけろ!

こういうおいしいかき揚げを食べていてつくづく思うのは、ああ清酒飲みたい、と。いや、こう書くと単なるアルコール依存な人の戯言に感じられるが、言いたいのはそういうことじゃない。お蕎麦屋さんでおいしいかき揚げを食べると清酒が欲しくなるけど、スーパーのお総菜で買ってきたかき揚げだとどうしてビールが欲しくなるんだろうな、という問題提起です、純然たる。そんなのどうでもいいですか、そうですか。

もりそば

かき揚げを半分ほど食べたところでもりそばが到着した。絶妙なタイミングだ。出てきた蕎麦は、やや小振りなせいろに盛られていたので「おや、量が少ないかな?」と思ったが、なかなかどうしてこれがみっちりと盛りつけられていて、ざる上での蕎麦密度高し。十分に満足のいくボリュームでござんした。加えて、蕎麦がいい。時期が悪いので香り立つ蕎麦というのは望めないが、食感とても良し。固茹だったら「コシがある」と勘違いしちゃう事もままあるが、ここの蕎麦はちゃんとゆでてるんだけどがっしりとした食感。蕎麦成分が麺の中に詰まってます、という感じだ。

麺アップ

麺の表面に、ところどころ浮かぶそば殻の黒いつぶつぶも見ていて楽しい。好きな女の子のチャームポイントのほくろ、みたいなもんだ。夏でこの味だったら、秋になったらすげぇ蕎麦が出てくるんじゃないかと期待させられる。

そば湯もとてもおいしかった。ただ、徳利に入っている辛汁の量が少な目なので、辛汁をどの程度そば湯をミックスするか、配分にはちょっと気を遣ったが。

うん、今回は「こんなところに蕎麦屋が!」という驚きで、蕎麦そのものを満喫するというよりも興奮しっぱなしで終わってしまった。今回のこの蕎麦喰い人種記事は、その熱狂に基づいて書かれているので、相当なバイアスがかかっているかもしれない。今後、このお店には二回、三回と通ってみて、心を落ち着かせていきたい。きっと、驚きと興奮が静まったら、さらにこの路地裏のお店に魅力を感じることだろう。銀座の裏道にひっそりとある蕎麦屋。そこには興奮という感情は似合わない。お客である自分も、ひっそり、こっそりと楽しむようになりたいものだ。

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